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神滅塔ホロロゲイオン、緑土成すは迷い子の慟哭編
4.シリアスってなんでしたっけ
しおりを挟む「変質させた寄生木の効果なのか、それとも君自身の衝動なのか……。ふむ、実に興味深いですね……思った以上の生成量で驚きましたが、まずまずの結果だ」
そんな事を満足げに呟きながら、アドニスは装置を何やら確かめている。
俺は意識が朦朧としながらもやっと息が整ってきて、俺は自分の体を飲み込んでいる謎の液体にもう一度目をやった。
……これが……大地の気の濃縮された液体……?
なんかシュワシュワしてるし、パッと見はどこぞの炭酸飲料みたいだな本当。
いつの間にか腰の所まで浸っていたけど、一体どうやってここまで湧きあがって来たんだろうか……。アドニスが言うには俺の首に付いている【寄生木】から出た大地の気がこの装置で濃縮されて出来た物らしいけど……そんな感覚がまったくなかった身としては、それも俄かには信じられない。
まあでも、大地の気が放出されたって事には間違いないよな。
本当に神泉郷由来の気なのかは個人的には怪しい所だが……アドニスが満足しているんなら、もう今日は終わりかな? 終わりだよな?
お願いします終わりだと言って。
「ツカサ君、この調子で二回目……」
「無理れすっ、も、もう本当に勘弁して……!!」
なんか一回イッただけでいつも以上に死ぬほど疲れたし、本当にダメです。
真剣な表情で首を振ると、さすがにアドニスも俺の本気が解ったらしく、素直に「では今日はこのくらいにしましょう」と言ってくれた。
よ、良かった……これで今日は解放されるらしい……。
しかし、変だなあ……いつもなら一度くらいじゃこんなに疲れないのに……。
濃縮液がガコンガコンという音と共にどこかへ排出されるのをじっと見ながら首を傾げていると、アドニスはまたガラス瓶を横に倒し始めた。
そうして腕の鎖を緩めて、俺に器具を外すように言う。
何故こんなSMプレイのような真似をと思ったけど、まあ、利には適ってたな。
ただし俺にとってはプレイにしか思えなかったが。
まだガクガクする体を引き摺って蓋を開けて外に転がり出ると、アドニスがタオルを掛けてくれた。くそう、アフターケアバッチリか。
「液体の量が少なければ今日は丸一日絞らせて貰うつもりでしたが……このくらい濃縮出来たのなら、明日明後日で準備は整いそうですね。明日もお願いします」
「う、うう……またやるの……?」
「君が交尾に反応する以外で大地の気を放出してくれれば、いくらでもやりようはあるんですけどねえ。……ま、その辺りは何とかしましょう」
そう言いながら俺の自由にならない腰から下を拭いてくれるアドニスに、妙に毒気を抜かれてしまって相手を見上げた。
「急ぐくらいの計画なのに……そんなんでいいのか?」
俺を強引に攫おうとする程度には切羽詰まってたのに、今更こんな長い目で見るような態度になるなんてちょっと変だ。
どういう風の吹き回しだと顔を歪めると、アドニスは少し驚いたような顔をしたが……ふっと綺麗な顔で微笑み、俺の頭をポンと叩いた。
「君が協力的なら、全てが上手くいくんですよ」
……なんだかよく解らないが、上機嫌だ。
思ったより上手く行ったからなのかな。どちらにせよ、これほどアドニスの機嫌が良いのなら、ちょっとしたおねだりも上手く行くかも知れない。
アドニスには悪いが、ここでじっとしている訳にも行かないもんな……。
でも、何をねだろう。
脱出は不可能だしブラックの拘束を緩める願いも恐らく却下だろう。
そもそも、俺達がやらねばならない事はウィリー爺ちゃん達の解凍で、アドニスの計画を停止させる事ではない。まあ計画自体も色々と不穏だし止めておいた方が良いとは思うけど……俺達にどうこう出来る問題じゃないしなあ。
アドニスの言う事が本当の言葉ばかりなら、きっとこの国の皇帝であるヨアニスの解凍も進んでいて、今頃はちゃんと生き返ってくれているはずだ。
だとすれば、ヨアニスに頼んでアドニスの計画の合否を判断して貰うしかない。
俺的には、緑化計画自体は良いと思う派だけど……それが本当にこの国のためになるのかと考えたら難しいしな……。
仮に緑が溢れる国になったとしても、急激に変化した周囲に戸惑う人や、驚いて変なことになる人達も沢山いるかもしれない。周囲の環境を丸ごと入れ替えるってレベルの改変は、やっぱり慎重になるべきだと思うんだよなあ……。
アドニスもそこら辺の事くらいは予想がついてるとは思うんだけど、でもそれなら今すぐ緑化計画をやろうって急ぐ理由が解らない。
相手のしたい事が見えないと、対策の立てようもないよな。
でも、アドニスは自分の考えを易々と話したりはしない奴だし……うーむ、どうしたものか……。
とにかく、情報を集めた方が良いかな……?
よし、その線で行こう。とりあえずはこの塔についての情報収集だと思い、俺はアドニスに一つおねだりをしてみる事にした。
「あの……アドニス」
「はい? なんでしょうか」
やっと体が思い通りに動くようになってきたので急いで服を身に纏いつつ、横で機械を操作している相手におずおずと問いかけてみる。
「ここ、図書室とかないかな? ただ待ってるのもヒマだし、どうせ逃げられないんなら何か暇つぶしが欲しいんだけど……」
「あの中年と何十回も交尾してればいいじゃないですか」
「お前俺が鉄人か何かだとでも思ってます!? 死ぬよ!?」
「そんなものですか? 人族も普通の動物と変わらないんですねえ……。解りました。宿舎が有る場所に似たような部屋が有るので案内しますよ」
よっしゃ! 図書室にこの塔に関する情報が有れば逃げるのに有利だし、もしかしたらこの【寄生木】を解除する方法も見つかるかもしれない。
直接関係ない情報でも、ピンときてアイディアを思いつくかも知れないもんな。
コートの前を閉じてばっちり服を着た俺は、お願いしますとばかりにアドニスに何度か頷いて見せた。
俺が素直な態度でいればわりと柔和になるらしく、アドニスはくすくすと笑う。
「本当に君はタダでは起きませんね」
「あんな恥ずかしい事されて転んだままとかスゲー悔しいじゃんか」
「まあ、誘拐犯相手にこんな会話してる時点で、君の胆力の凄さは認めるべきなんでしょうねえ」
「自覚してるなら反省してほしいんだけどね」
雰囲気で流されちゃうけど、俺はブラックを雪崩に巻き込んだ事をまだ許してねーからな。ドタバタして色々すっ飛んじゃって普通に話しかけてるけど、俺まだ怒ってるし絶対にブラックが満足する謝り方しないと許さないんだからな。
……まあ、今はそう言う事を言ったら酷い事されそうだから抑えてるけども。
だってそれでまた触手でアンアン言わされるのは今日はもうキツい……。
とにかく、アドニスの用事が済んだのならまずはブラックの事だ。
俺は自分が歩ける事を確認すると、アドニスに再度話かけた。
「あと、ブラックの足の拘束を早く解除してくれよ」
「ああそうでしたね。部屋を用意しますから、彼はそこに寝せておくといい。……ただし、君達は別々の部屋で寝て貰いますよ。無駄打ちされたら困りますから」
「………………」
いや、まあ、別に一緒の部屋が良いとは言いませんけどね?
やっぱり油断とかはしない訳ね……。
抜け目ない奴だと思いながら、俺はあまり近付きたくないがブラックに近付いて、相手の状態を確認した。
「つ……ツカサ君…………」
「…………言うな、何か言ったらぶっとばす……」
やめて。物凄い切なそうな顔でこっち見んといて。
股間が物凄い主張してるの見るの辛いから早く冷静になって。
「では、足枷を外しますね」
「お、おう!」
しかし流石にこの状態をアドニスに見せてからかわれるのも可哀想なので、俺はブラックを背中に隠して酷い事になってる股間は死守してやった。
武士の情けだ、もうこれ以上恥をかく事もあるまい。
アドニスにつつがなく足に絡みついた根っこを消去して貰った俺達は、再び昇降機に乗って寝部屋が在ると言う階へと向かった。
……勿論、ブラックの収まらない股間を俺の背中でガードしながら。
「うう……ご、ごめんツカサ君…………なんか調子よくて……」
「そんな所が調子よくなっても仕方ないでしょ! ばか!」
ひそひそ声で話してるので罵倒も控えめである。
いやまあ生殖機能がお元気ってのは体が健康な証拠なんだろうから、雪崩に巻き込まれてすぐに回復したブラックとしては喜ばしい事なんだろうけど、だからって、あの俺の悲惨な状態を見て勃起しますかね普通。
まともな恋人はああいう屈辱的な所を見て、アドニスに「貴様……俺の○○に何しやがる!!」って怒る場面じゃないんだろうか……。
いやブラックがまともだなんて思ってませんけどね、うん。
俺も強姦されかかったヒロインな美少女じゃないし。
……何か自分で考えて悲しくなってきた。
アドニスが昇降機のレバーをなにやら操作すると、ややあってすぐに目的地へと到着した。……ってことは、寝るための部屋はあの部屋の二三階上って事か。
覚えておこうと思いつつフロアへ降りると、そこは少し手狭な休憩室のようになっており、ラフな格好をした人達が本を読んだり葉巻をふかしたりして、のんびり椅子に座っていた。……この男の人達、兵士かな……?
ブラックを隠しつつずりずり移動していると、兵士(仮)達はようやく先頭に立っていたアドニスに気付いたのか、一斉に立ち上がって敬礼を披露した。
「あああアドニス様ッ! ご帰還なさっていたのですか、出迎えもせず失礼いたしました!!」
「薬師卿、こ、今回はどのようなご用件でこのような場所へ……!?」
「そちらの方々は、確か……」
それぞれに焦りながら俺達を見ている兵士達(確定)に、アドニスはいつもの内面が見えないニッコリ笑顔を見せると人差し指を立てた。
「緑化計画にご協力下さる方々です。丁重に扱うように。……ああ、こちらの中年は少年の護衛奴隷みたいなものなので、適当に扱って下さい」
「なっ……」
「とりあえず、こっちの奴隷は適当な部屋に放り込んで置いて下さい。そうだ、外から厳重に鍵がかけられるような部屋がありましたよね? あそこにしましょう」
「こ、このクソ眼鏡……ッ」
ブラック抑えて抑えて! ここで面倒を起こしたらとんでもないことになる!
怒ってると言うのに一向に萎えない謎の強度を持つ股間を隠しつつ必死に宥めていると、兵士達が俺をじろじろ見つめて来た。
うん、いや、不審者に見えますでしょうね。
こんな場所に招かれてくるような凄い人っぽくないし、奴隷と称されたオッサンをオトモに連れてるのも変だろうし、そもそも俺はこんな最重要施設っぽい所に来るような年齢に見えませんもんねえ……。
「あの……このお方が緑化計画にご協力を?」
「ええ、彼は最重要人物ですよ。まあ気軽に接してあげて下さい。……さて、行きましょうか」
ブラックの醜態を見せない為に兵士達の目の前を変な格好で通過して、休憩室を抜ける。その先はまた長い廊下になっていて、左右の壁に在るドアはどれも兵士達の部屋になっているようだ。
名札がかかってるし、ぱっと見SFな病院か何かに見えるな……。
そんな事を考えながら移動していると、アドニスは並ぶ扉の一つに入った。
入った先にはまた通路が有り、真正面に厳重な扉が見えるが……。
「さ、ブラックさんどうぞ」
厳重な扉がガションガチャプシューとかエグい作動音を立てながら自動で開く。
おい、これどう考えても金庫室並みの厳重な牢屋じゃねーか。
「待て待て待て! お前、この部屋牢屋だろ!?」
「とんでもない、厳重保管庫という大事な物品を保管する為の部屋ですよ。まあ、最近はもっぱら規律違反を犯した塔の騎士を反省させ……とにかくどうぞ。中にはベッドもトイレもありますので」
「おおおおおい!」
ブラックが叫んだが、そんな叫び声など知るかとばかりにアドニスは必死に抵抗する背中に蹴りをいれた。お前こう言う事だけノリノリだなおい!
しかし、目の前のマッド眼鏡が生き生きと人を虐げている光景を見ても、人質と自分の命を握られている俺には何も出来ない。ごめんよブラック、後でどうにかして面会しに来るから……。
またもやプシュガシャーと音を立てて締まる扉の奥でこっちを見ているブラックに「必ず会いに来るぞ」と頷きを返し、俺はせめてもと思いアドニスに保管庫の隣にあった部屋の扉を指さした。
「なあアドニス。俺の部屋はここにしてくれないか? ブラックはまだ本調子じゃないし、容体が急に悪化したりしたら心配なんだよ」
保管庫の隣の部屋は見張りの部屋らしく、今は使われていない。
助ける事は出来ないかも知れないけど、会話が交わせる位置に居るんならなんとかなるかもしれないしな。それに心配なのは本当だし……。
頼むよ、と両手を合わせて見上げると、アドニスは先程の生き生きフェイスとはまるで正反対の不機嫌そうな顔をしたが、俺のオネガイを一応考えてくれたのか、保管庫の隣の部屋に居る事を許してくれた。
……ただし、見張りの兵士と一緒にいる事と言う条件付きで。
「さて。君は図書保管室に行きたかったんでしたね。案内しますよ」
「う……うん……」
ブラックと一緒に移動できる物と思ってたけど、こうなっては仕方ない。
俺一人だけでも図書室で脱出の手がかりを見つけなきゃな。
……あ、そうだ。ブラックも腹が減ったよな。
雪崩から助けてまだそんなに時間が経っていないはずだし、今日はロクな食事もしてないんだから、せめてそのくらいはやってやりたい。
食べ慣れた味付けならブラックだってホッとするよな?
よし、図書保管庫に行った後は厨房でメシを作らせて貰おう。
こうなったらまずは栄養と睡眠だ。俺もブラックもまず気力を充実させてから、どうすべきかを考えよう。
→
※次は別視点です。おいてけぼりの方の話。
今回踏んだり蹴ったりですがこのあとツカサがモテたり
ブラックも良い思いをするので許して下さい(´・ω・`)<敵の本拠地だから…
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