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聖都バルバラ、祝福を囲うは妖精の輪編
7.驚き驚きまた驚き
しおりを挟む俺はもしかしたら呪いを掛けられているのかも知れない。
ブラックが発情したのはまあ仕方ない事かも知れないが、クロウにあれだけ絞り取られるなんて呪いが掛かっているとしか思えない。
でもさ、良く考えたら俺、悪くないよね。何も悪くないよね!?
なのにどうしてこんな性的に搾取されてばっかりなんだ……うう……こんな事ばっかりしてたら、本当にちんこもげちゃいそうだよ。ポロッと。
馬鹿野郎俺がもげてどうすんだよ、オッサンどもがちんこもげろよもう。
クロウのせいで夕方まで気絶しちゃてたし、今朝以上にうまく動けずクロウに肩を借りて帰って来てブラックに訝しげな眼で見られるし、マジで厄日だよ厄日。
だって、ブラックがヨレヨレの俺を抱き抱えてベッドに連れていく時に、ボソッと「明日からの事も有るし、今日は何もしないけど……。次、ベッドのある場所に着いたら……覚悟しておいてね」とか言われるしぃいいい!!
ああ゛あ゛ああ絶対にバレてる、クロウにフェラされた事バレてるうううう。
何も聞かないのが怖い、ニコニコしてるのが怖い、もうなんか全部怖いぃいい!
「うっうっう……俺何もしてないのにオッサン達がいぢめるうぅ……」
スヤスヤしている籠の中のロクに頬を摺り寄せつつ泣く俺に、ブラックとクロウはアッハッハと笑いながら甘麦茶を飲んでいる。
ちくしょう、俺の様子が解ってるだろうにこいつら楽しんでやがる。
仲良いんだか悪いんだか解んねーよくそぉおお。
「まあまあツカサ君、そんなにいじけないで」
「今日はあの変な臭いの眼鏡が来るんだろう、いつまでもベッドの上に居ても仕方ないぞツカサ」
「うぐううう……って、変な臭い? なにそれ。薬草とかの匂い?」
初耳なんですけど、と二人が居る方を向くと、クロウは首を傾げつつ頷く。
「草じゃない……と思う。何と言うか、ツカサ達とは違う独特な臭いというか……何にせよ、美味そうな匂いはしなかった」
クロウの言う美味そうな匂いと言うのは、捕食できる対象から香って来るらしい獣人族だけが嗅ぎ分けられるものであって、実際の体臭と言う訳ではない。
俺も原理は良く解らんが、クロウが俺に対して美味そう美味そうとのたまうのは、獣人の鼻の能力によるものだ。
クロウはよく美味そう不味そうとは言うけれども、独特なにおいと言う事は無かった。だから、クロウがそう言うならよっぽどって事なんだろうけど……。
独特なにおいってなんだろう……。
あれか? パクチーとか?
珍味的なにおいがしたのかな? あいつマッドサイエンティストだしなあ……。
「流石にオレもただの同行者にそんな事を言うのは失礼だと思ったから、今までは言わなかった。植物園では色んなにおいがしたから、気付かなかったしな」
「そっか……まあでも何にせよ良い判断だクロウ」
気心の知れた相手ならまだしも、相手はブラックとクロウ以上に付き合うのが難しい相手だ。そんな奴に「貴方独特なにおいがしますね」とか言えば、絶対零度の視線を向けられるごと山の如しである。
あれだな、こういう時はやっぱりクロウの方が常識人だな。
……常識人のハードルがやけに低い気がするのは気のせいだろう。たぶん。
「にしても……あのクソ眼鏡いつ来るのかな。氷漬け陛下を丸一日待たせるくらいなんだから、何か重要な用事があるんだろうけど」
カップを傾けながら言うブラックに、俺も眉根を寄せる。
確かに変だよな。アドニスはああ言う奴だけど、皇帝であるヨアニスに対しては忠誠心っぽい物を見せていたはずだ。だったら、すぐにでもバルバラ神殿とやらに行きたいだろうに、どうしてここで丸一日滞在したのか。
そう考えていると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
もしかして噂していた人物が来たのだろうか。俺達は顔を見合わせたが、この場で一番ドアに近かったクロウがドアを開けに行った。
「遅くなってすみませんね」
扉が開く音がしてクロウの後から入って来た相手は、紛れもなくアドニスの声をしている。だけど……アドニスはローブを羽織っていて、鼻から下の部分をわずかに覗かせるだけで、あとはすっぽりと姿を隠してしまっていた。
「あ、アドニス? なにその格好」
以前の俺ならそれくらいやるべきだっただろうが、しかし今となってはもう帽子すら要らない。つーかアドニスは姿を隠す必要なんてないはずだ。
どうしてそんな格好をしているのかと頭に疑問符を浮かべる俺達に、アドニスは一つ息を吐くとローブに手を掛けた。
そうして、フードを降ろす。
次に見たアドニスの姿に……俺達は、思わず驚きの声を漏らしていた。
「あ……あん、た……その髪…………!!」
目を見開いて指さす相手の髪色は、黒に近い程の深い緑色だった。
だった、はずなのに……
今のアドニスの髪は――――銀色に輝いていた。
「どういうことだ……お前まさか、髪を染めていたのか?」
怪訝そうな顔で問うブラックに、アドニスはいつもの嫌味な笑みを浮かべる。
「確かに銀髪は長い間髪色を染める事が出来る稀有な髪ですが、私は染めてはいませんよ。……まあ、これが私の本来の髪色ではありますが」
「染めていないならなんなんだ? その色にする理由はなんだ」
ブラックの問いに答えたと思ったら、クロウが眉根を寄せて質問をしてくる。
しかしアドニスは珍しく煩わしそうな顔もせず、すんなり質問に答えた。
「バルバラに向かうのに必要だからです。……この髪に戻るのは私も不本意ですが、陛下の為ですから仕方ありません。まあ、一日を要したのは別にも理由が有りますが。とにかく出発しましょう。登山用の馬車は手配してあります」
そう言ってまたローブを被って顔を隠すアドニスに、俺達はまだ驚きの余韻が残っていたが素早く旅の支度を整えた。
なんだかよく解らないけど……まあ、アドニスの性格上無駄な事なんてしそうにないしな。きっと銀髪に染めた……いや、戻した? のは意味が有るんだろう。
しかし……銀色の長い髪に金色の目って、本当に凄い色味だな。
これで服装が貴族風で眼鏡をかけていなければ、どこぞの国を治める麗しの王様と言われても違和感がないくらいだ。
ただし、あの性格では嫁なんてきそうにないけどな、マジで。
……今更だけど、本当俺が出会う美形ってことごとく性格悪いよなあ……。
無精髭で中ボス貴族っぽさが満載なブラックですらかなりの渋いハンサム顔だし、クロウも黙ってさえいれば、格好いい顔をしている美形なんだけどなあ……。
まあそこら辺はラスターやマグナも一緒か……。
俺が出会う奴が性格に難ありなだけで、他のイケメンな人達は真っ当な性格だと信じたい。そんな事を思いながら、俺達は宿屋の親父さんに「世話になった」と挨拶をし、村を出て駐車場へと向かった。
これからまた緑の無い場所へ向かうのだと思うと、村の風景が少し名残惜しい。
後ろを振り返りながらまばらな緑を見つめて歩いていると、アドニスが俺を振り返ってどこか面白そうな声を掛けて来た。
「ツカサ君、植物が恋しいですか」
「え? あ、まあな……。だって、久しぶりの緑だったし」
そう言うと、アドニスはクスリと笑ってまた俺に背を向けた。
「植物ならこれから見る事が出来ますから、安心して下さい」
「……ん? これから?」
これからってどういう事だろう。
ドラグ山は岩肌の山だし、その遥か上は雪に包まれている豪雪地帯だ。
そんな場所に植物が有ると言うのだろうか。いやまあ、高山植物みたいなものが有るって可能性はあるけど……アドニスが自信満々にそう言うって事は、何か俺が大いに満足出来るような植物が今から見られるって事なんだろうか?
だとしたら、少しは緊張感が薄れてありがたいけど……。
「さあ、あの馬車です。荷物と陛下はもう積み替えてあるので、貴方達もそのまま乗って下さい」
駐車場に近付くなり、アドニスが指をさす。
三人揃って指の先の方向を見ると、茶色の車体を持つ少しスリムな馬車がそこに停車していた。形態としてはよくある幌馬車のガワをとっかえたって感じかな。
何にしろ、一昨日まで俺達が乗っていた豪華な馬車ではない事は確かだ。
つうか、俺達が普段乗るような馬車だよな、アレ。
登山用とかアドニスが言ってたけど、何か違いが有るんだろうか。
馬車に近付いてみると、なるほど、茶色い車体は岩肌を真似たのか擬態しやすくなっており、車輪は木製のものに鉄板などを付けて強化してあるようだ。
車体の下にはサスペンションのような物が付いているのか、車体が車輪より少し浮きあがっている。……荒れた道も走り易く改造されてるって事なのかな?
しかし、こんな馬車が有るなんて驚きだな。
「登山用とはまた珍しいね」
「初めて見たぞ」
ブラック達も特殊な形態の馬車に興味津々で車体を見回している。
だよなあ、やっぱ冒険者的には気になるよなあ。
俺達の静かな興奮を見ながら、アドニスは気を効かせたのか説明してくれた。
「この馬車は、最新式の馬車でしてね。山道などの荒れた道を走るために、車体を支える骨に衝撃を吸収する素材を取り付けたり、車輪には耐久性を高める為の金属を取り付けてあります。その代わりに手狭ですが、ディオメデで早く走るのに最も適した馬車ですよ」
「はぁ……色々な馬車が出てくるもんだな……」
そっか、ブラックは数年間引き籠っていたから、その辺の最新事情はあまり判らないんだっけ。クロウも、そもそも自前の足が有るから、ベーマスでは馬車なんてほとんど必要ないだろうし……そりゃ驚くわな。
うーむ、さすがは高度な技術力を持つオーデル皇国……精巧なミニチュアを作る職人さんとかが沢山居る国だからこそ、こういう特殊な馬車を開発する職人さんも居るって事なんだろうな……。
「さあ、乗って下さい。ツカサ君からどうぞ」
感心する俺達を余所に、アドニスが馬車の扉を開けて俺を誘ってくる。
何故俺から先なんだと思ったが、まあ後方支援の奴が奥に詰めるのは当然か。特に気にする所も無かろう。
そう思って、俺は高い車体の馬車にえっちらおっちら乗り込んだ。
「よい、しょ……っと!」
うわあ、これマジで面倒臭いな。
飛び降りるのは簡単だけど、俺は足の幅が足りないわ。クソ、こんな所で自分の足の短さをまた再確認してしまうとは。
乗って早々陰鬱な気分になりつつも、ふと顔を上げると。
「おお、ツカサさん! 久しぶりですな!」
……なにか、聞き覚えのある声と。
「ムゥウ~~~!」
聞き覚えのある鳴き声が聞こえてきた。
「えっ!?」
思わず顔を上げた俺の胸に、また柔らかくて軽い何かが飛び込んでくる。
しっかりとその謎の物体をキャッチした俺に、ソレは嬉しそうに声を出した。
「ムゥー!」
これ、これって……ピクシーマシルム!?
ちょっ、ちょっとまって、何でここに!
つーかチェチェノさん達、どうしてここに!?
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その問いに、チェチェノさんは笑ったまま髭をふわりと浮かせた。
「それはもう、私達の力が必要だからです」
「ムゥー!」
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