異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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彩宮ゼルグラム、炎雷の業と闇の城編

  決壊までの 2

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「こんばんみ……」
「おうツカサとブラックの旦那……ってどうした、バカにげっそりしてんな」
「聞かないでくだしあ……」

 今から面倒臭い大人に挟まれると思ったら気力が尽きただけです。とは言えず、俺は肩を落としつつアドニスとロサードが待っていた部屋へと入った。
 俺はぐったりでブラックは上機嫌でニコニコしているという構図は、どう考えても変だと思われるだろうが、もう隠す元気も起きない。

 だけど聞く事は聞いておかねばと思って、俺はロサードにシアンさんとクロウが今どうなっているか聞いていないかを問いかけてみた。
 ロサードの話ではアレクを保護したという情報は届いたものの、日数的にはもう数日前のことらしく、今はどこにいるか良く解らないらしい。

 世界協定に保護されているので安心だろうとは言っていたが……うーん、別行動してると動きが解らなくてやっぱ不安だな。シアンさんはもう俺が心配するような存在ではないので大いに安心していられるけど、クロウは何かの拍子に暴走しちゃうような奴だから、変な事になって無きゃいいけど……。

 ……ん? クロウ?

「あっ……そう言えば忘れてた……」
「忘れてたって、何が?」

 不思議そうに聞いて来るブラックに、俺は一瞬ずっこけそうになる。
 忘れてた俺が言えた義理じゃないが、アンタも忘れてどうすんだよ。仕方なく、俺は改めてブラックにも気付いた事を言ってやった。

「クロウの父親の行方だよ!! あーちくしょ、色々有って忘れてたっ、せっかく彩宮にいるってのに無駄に何日も何日もぉおお」
「あー……そう言えばそんな話してたなあ」
「え? なんすか? 熊のダンナの父親?」
「どうでもいいけど早く実験を始めさせてくれませんかね」

 ええい待てアドニス、まずは説明させろ。
 ロサードはクロウの父親の事は知っていても、俺達が何を求めているのかまでは知らないだろう。つーかそう言えば俺達ってば下民街で父親の情報探しすらも忘れてたじゃねーか。ストリップとその後のごたごたのせいで、クロウも含めて全員が頭からすっぽ抜けてたなんて……ああもう恥ずかしい。
 そんなこんなで話して聞かせると、ロサードとアドニスはなるほどと言ったように軽く頷いていた。

「なるほど、じゃあその熊の旦那のお父上が、この彩宮に来ていたかもしれないと……。でも、俺は全く覚えがねえから……会っていたとしたら、やっぱり先代の皇帝陛下の時の話か……じゃなかったら、俺が御用聞きになる前の話かねえ」
「前も言いましたけど、私もその熊の獣人とやらは存じ上げませんねえ」
「だよなあ。だから……知ってるとしたら、やっぱヨアニスか先代の皇帝陛下しかない訳だし、世界協定経由で訊こうとしてた所だったんだけど」
「そんな大事な事よく今まで忘れてたな」
おっしゃる通りです……」

 本末転倒ほんまつてんとうってこの事だよね……でもまあ、怪我の功名こうみょうとも言えるのか?
 ヨアニスに直接打診すればどうにかなる可能性が高くなるし、それに今の彩宮には下民街の事も知っているボーレニカさんがいるんだ。いま色々と聞かないでどうするってんだよ。せっかくのチャンスを棒に振る訳には行かない。
 ……が。アドニスとロサードはと言うと。

「でもまあ、俺達には関係のないことだな」
「そりゃそうですね。さあ、そっちの問題はそっちで解決して頂くとして、さっさと実験しましょうかツカサ君」
「今物凄い自己中心さを垣間見た気がする」

 そりゃまあ、アドニスにとっては俺達の事情なんて「知ったこっちゃない」って感じなんだろうけどさ。でもせめて興味なさげな顔ででも良いから「大変ですねえ」とかおざなりな言葉を掛けて欲し……いや待てよ、それも嫌だな。

 心底どうでも良い顔でねぎらわれるよりかは、もういっそ「私関係ないんで」とか言ってくれた方が心が休まるような気も……って言ってる間にアドニスに持ち上げられて移動させられてるしいいいい。

 ちょっとあの、本当なんでブラックもアドニスも俺のわきに手を入れて持ち上げるの。ここにきて俺高い高いされ過ぎじゃね!?
 あのね、これ何度もやられてると段々と脇が痛くなってくるんですけど! 俺の成長期の全体重が毛細血管が詰まっている脇に掛かってヤバいんですけど!!

「おいコラ眼鏡、勝手になにやってんだ!」

 いいぞブラック、言ってやってくれ! あと持ち上げるのやめさせてくれ!

「どこかへ連れて行こうなんて思ってませんよ。うるさい中年がいるので、耳を壊さないように遠ざけただけです」
「煩くさせてるのはどこのどいつかなあ!」
「だーもー旦那もアドニスもやめろってばよ! 別に取って食う訳じゃねーんだし旦那も落ち着きましょうよ、変な事したら俺が止めますからっ!」

 言いながらブラックをなだめるロサードに、俺は心底感謝した。
 ああ、まともな人がもう一人いるだけで、こんなにも俺の負担が減るものなのか。ロサードにとっては大変だろうけど、ブラックの暴走を抑えてくれる存在が居るってのは本当にありがたい。それにロサードはこのマッドサイエンティストを叱ってくれる存在でもあるからな……すまない、そしてありがとうロサードよ。
 全部終わったらなんか買うからここは頑張ってくれ。

「まったく……器具も研究室も無いこの場所で出来る事などたかが知れていると言うのに、無知な人間ほど過激な妄想をしてぴいぴい騒ぐ。こういう人間がいるから、研究が進まないんですよねえ」
「お前も余計な事言うなよ、陛下に言って研究費抑えて貰うぞコラ」
「…………さて、まずは確認をしましょうか」

 スルーした。スルーしたぞこの眼鏡。
 さすがはロサード、伊達に金にがめつい上にアドニスの親友してないな!

「……で、何するんだ?」

 こうなりゃ早く終わらせたいと抵抗を止めた俺に、アドニスは眉を上げると、俺をベッド近くの少し広いスペースへと降ろした。
 ぐう、やっぱり脇がちょっと痛い。両手を脇の間に挟みながら相手を見上げると、アドニスはちょこっと眼鏡を上げ直してからゴホンとせきを零した。

「どうやら君の周りにはまだ気が散っているようなので……それを少し弄ります。その最中に、少し体調の変化が有るかも知れません。なので、少しでも体に異変が起きたり不快だと思ったら、すぐに言って下さい」
「……? 良く解んないけど、変だと思ったら教えればいいんだな?」
「そう言う事です。……体に触れますが、研究の為なので黙っていて下さいよ」

 最後の少し声量が増した一言は、ソファに座って恨めしそうにアドニスを睨んでいるブラックに向けての言葉だ。
 その言葉に大人の低いうなり声が聞えたが、俺は聞かなかった事にしてアドニスを見上げた。いじるってのが良く解らないが、もし本当に俺の周囲に見えないが散っているとしたら、それの有無を知るいい機会だよな。

 これで何かを感じる事が出来たら、本当に気が俺の周りに存在するってことで、それらは俺に関係が有るってことにもなり得る。

 俺自身、自分の力の根源は知りたい訳だし、このくらいはアドニスに確かめて貰ったっていいよな。結局アタラクシアの図書遺跡では黒曜の使者のことしか解らなかったんだから、科学的(なのかな?)な方面から探ったってバチは当たらないはずだ。チートな能力だって、説明が付けば安心して使えるしな。
 用法容量ってのはやっぱり知っておいた方がいいよ、うん。

 そう思って気合を入れるように息を吸い込む俺に、アドニスは目をすっと細めてから俺の肩に手を置いた。
 そうして、うっすらと口を開く。

 何か言い忘れた事があったのかと見つめたその口から……
 思って見ない音が聞こえた。

「――――――」
「……え?」

 解らない。……と言うか……アドニスの口から洩れた小さな声は、まるで早回しの時の音声のようで、相手が何を言っているのか全然聞き取る事が出来なかった。
 しかも、さっきのは俺達が使っている言葉じゃない。
 なにか……そう、何ていうか、聞いた事のない別の音階の言語というか……。

 そう思って瞠目したと同時、耳の奥で――
 何かが引きずり出されるような音が響いた。

「ッ!?」

 なんだ、これ。
 体の中の形容しがたい何かが、引き摺られているような感覚がする。
 吐き気をもよおすような、頭の中を掻き回されて船酔いしているような、凄く不快な感覚が襲ってきて、俺は思わずアドニスの服を掴んだ。

「だっ、め……っ。なに゛っ、こぇ゛……」
「苦しい、ですか」
「っ……ぅっ……!」

 頷く事すら気分が悪くなりそうで、目をぎゅっと閉じながら俺は肯定する意味で相手の服をぐいぐいと引っ張る。
 すると、アドニスはゆっくりと俺の肩から手を離した。

「……では、今は?」

 今は、って…………あれ?

「……変な、の……治った…………」

 そんなバカな。
 さっきまでゲロ吐きそうなほど気持ちが悪かったのに……アドニスの手が俺の肩から離れた瞬間に全部治ってしまうなんて。
 ……って事は、やっぱ、俺って……。

「アドニス……」
「やはり、その大地の気は君と密接な関係があるようですね」
「大地の気……?」

 いぶかしげな口調で問いかけるブラックに、アドニスはちらりと一瞥いちべつしたが……それから俺とブラックを交互に見やって、ふむと顎に手をやった。
 何か考えているのだろうか。また何か新しい事を思いついたのかな?
 その案を知りたくて見上げる俺に、アドニスは少し瞬きをするとふっと笑った。

「もう、気分は平気ですか」
「あ、ああ……それより、今度は何を思いついたんだ?」

 教えてくれ、とせかす俺に、アドニスは嬉しそうな笑みを深めると、何を思ったのか俺の肩を掴んでブラックの方へと向けた。

「なら、今度は……物凄く申し訳ないのですが、あの薄汚い中年と今すぐ口付けをして下さい。ああ、もちろん私に見えるような場所でね」
「えっ」
「えっ!?」

 その場の全員が驚いた……っていうか俺は絶句してしまったんだが、アドニスは俺の驚きなど意にも介さず背中を押してブラックの方へとどんどん歩かせ始める。
 いや、ちょ、ちょっと待ってよ。口付けって、キスってどういうこと!?

「な、何で俺がお前らの前でんな事しなきゃいけないんだよ!!」
「これも私の仮説の裏付けを取るためです。実験に犠牲はつきものなのですよ」
「だあああもう色々ツッコミたいけど間に合わねええええ」

 何なんだお前はもう何がしたいのか良く解んねえ……いや、待てよ。
 俺とブラックに、キスをさせるって……それ、今日やった事とまったく一緒だよな……? 俺がブラックに大地の気を与えるためにキスをした事と……。

 ――――ってことは……もしかして、アドニスは俺が相手に曜気を与えることが出来るって気付いているんじゃ……いや待て、そこまでは行ってないはずだ。
 あくまでも、俺の周囲に散った気の発生条件が「ブラックといちゃつく事」なんじゃないのかと勘繰かんぐっている程度のはずだ。

 だって、アドニスは俺とブラックが何をしたのかって執拗しつように聞いてきたもんな。俺とブラックが出会ってから、アドニスは異変を感じた。俺はそれを否定しなかった。と言う事は、直接的な原因ではないにしろ、少なくともブラックが何かのかぎになっているのではと考えるのは当たり前の事だろう。
 確信する所までは行かないが、試す価値は有ると思っているに違いない。だから、ここで俺がとかを渡すような行為をしなければ、それが鍵だとは気付かれないはずだが……万が一って事も有るよな。
 でも、拒否したらそれはそれで更に疑われるし……。

 そう思って困り顔でブラックを見ると、相手もすぐ同じ事に気付いたのか、いつもなら素直に喜ぶはずのキスに対して戸惑ったような顔をしていた。
 ブラックも俺達の行為がバレるのではないかと思っているのだ。

 だけど、いつまでもウジウジしていたらアドニスに気付かれてしまう。
 俺の力の根源が何かって事は知りたいけど……他人に曜気を渡す事が出来るって言う事を知られるわけには行かない。
 まあでも、意識して渡そうとしなければ……気なんて相手に行ってないはずだと思うんだけど……うーん……。

「どうしました? やはり、人前では恥ずかしいですか」
「そ、そりゃまあ……」
「交尾を見せて下さいというよりマシでしょう。ほら、すぐ終わるんですから」

 そう言いながら俺を押してブラックの方へと向かわせるアドニス。
 押された勢いに負けて俺はつんのめってしまい、ブラックは慌てて立ち上がると俺を咄嗟とっさに抱き留めた。

「ツカサ君……」

 心配そうに俺を見ながら呟く相手に、俺はどうすべきかと迷ったが……。

「……ほっぺ。…………何もしないんだ、キスするだけ。なら、大丈夫だろ」
「…………うん。そうだね」

 そう言うと、ブラックは俺を抱いたままアドニス達に背を向ける。

「ツカサ君は恥ずかしがりだから、せめてこうさせてくれよ」
「ああ、構いませんよ。別に口付けが見たい訳ではないので」

 そりゃありがたいけど、でもアドニスが見たいのはもっと別の事なんだよな。
 考えるとうすら寒くなったけど……俺は怖気おぞけを振り払って、かかとを上げた。

「ブラック、顔……」
「ん、解った」

 こんちくしょう、こんな時だってのにまた嬉しそうな声出しやがって。
 さっきの困り顔は何だったんだよ、シリアスぶるならもう少し持続させんかい。
 ツッコミたかったが、今はそんな場合ではない。さっさとやってしまわねば。

 そう思って、俺はまたもや熱が上がる顔にさいなまれながら……無精髭だらけでちくちくして痛い頬に、本当にちょっとだけ、軽くキスをした。
 ……ああもう、ホントなんで俺もこのくらいで恥ずかしくなるかなあ。

 恥ずかしがってる場合じゃないのに。今は何気にピンチな時なのに!

 そう思いながらも熱い頬は戻らなくて、軽く叩きながら体勢を戻すと――
 ブラックの体の向こう側から、声が聞こえた。

「……ふうん。なるほどね」

 アドニスの、何の感情も無さそうな静かな呟き。
 その言葉が何を見て吐き出されたものだったのかは、解らない。

 だけど……何故か、俺は強烈な寒気を覚えずにはいられなかった。









 
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