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彩宮ゼルグラム、炎雷の業と闇の城編
31.決壊までの 1
しおりを挟む※すんませんイチャイチャさせてたら長くなったです…分ける…_(:3 」∠)_
なんだかいつもより寝起きの時の機嫌が悪かったブラックを説き伏せて、諸々の事柄を説明した俺は、なんとか全てに納得をして貰う事に成功した。
――とまあ一言で言えば簡単だが、この途中で散々愚痴られたり体中をスケベな手つきで触られまくったり、調子に乗って来たのでチョップして制裁したり色々とあったのだが、それは取り立てて話すほどの事でもないので割愛するとして。
……まあ割愛したところで、あの面倒臭い事この上なかった交渉を無かった事に出来る訳がないのだが、疲労するような事は早く忘れた方が良い。
とにかく、ブラックにはアドニスの研究に協力する旨と、その他の今日仕入れた情報を話して一人で出歩いた事をチャラにして貰ったのだ。
ここまででもうかなり疲れたのだが、俺にはまだやる事が有った。
夕食を再び気まずい雰囲気で終えた後は、気まずい話し合いが待っているのだ。
それに加えて、アドニスの所に行かねばならない。もちろんオッサン同伴で。
良く考えてみれば、一日の間にこんなに色んな人と会うのは久しぶりだが、それほど自分が長く捕らわれの身だったなんて今更驚きである。
だって、わりと自由に行動出来てるんだもんな……心配していたブラック達にも会えるようになったし、正直捕らわれている感覚がしなくてなあ……。
この国って見た目はハイテクな悪の帝国っぽいけど、内情はほんと実力至上主義なだけで人自体はわりとあったかい国だよな……。そうじゃなけりゃ、ヨアニスが俺を一度街に返すなんて絶対にありえない展開だっただろう。
ちょっと予想外だったけど、良かったっちゃあ良かったよな。
考えてみればこの世界は数百年前から平和だってんだし、なら悪い国なんてあるはずがないもんな。まあ、小競り合いはあるだろうけど。
そこの所を考えたら何故だか少し気が楽になって、俺は今夜もヨアニスの寝屋に参上し、昨日の事を彼と話し合った。
だいぶん湿っぽい話だったのでこれも割愛するが、パーヴェル卿が教えてくれたようにヨアニスに「俺はアンタのことが大事だが、そういう目では見ていない」と言う意思をはっきりと示し、ヨアニスに詫びを入れた。
昨日は拒否してしまってゴメン、と。
俺のそんな態度に、相手は逆に恐縮したようにベッドの上で肩を竦めていたが、俺の真摯な態度に理解を示してくれたのか詫びを受け入れてくれた。
ヨアニス自身も「あの時はどうかしていた」と言っていたし、あの時はやっぱり魔が差したんだろう。……まあ、ソーニャさんとして接していたら情が移ったって事もあるだろうし、ヨアニスは今心が弱ってるからな。
多分、ヨアニスは俺の事が好きだから襲ったんじゃなくて、俺が離れていくんじゃないかって心配したから、つい凶行に及んでしまったって所なんだろう。
まあどっちにしろ、俺に対して純粋な恋愛感情を持っているって訳でもなさそうだし……それがなんとなく理解出来て、ちょっとホッとした。
だって、ヨアニスが俺自身を好きになったなんて、なんか信じられないし。
この世界の男女が「両刀使いの上に受けも攻めもオッケーよ」ってのは解ってるが、やっぱこう、凄い皇帝が俺みたいなもてない男を好きってのはどうもなあ。
そんな少女漫画じゃあるまいし……現実的にナシだろナシ。
ブラックは、その……あいつ最初から頭おかしいオッサンだったし、最初から俺の事をスキスキ言ってたから、そういう好みなんだろうし、まあ……。
ってそれはどうでも良い。とにかく仲直りしたのだ俺達は。
すんなり仲直りしてくれたのは嬉しかったんだけど……何故かやっぱり夜伽(と言う名の寝かしつけ)は取りやめになる事はなく、今日も結局やってしまった。
そして今も、俺はヨアニスが眠るまで相手の頭を撫でてやっている。
……まさしく、どうしてこうなった的な謎の状況だった。
えーと……普通、仲直りしたもののやっぱ気まずくて、今日は解散しようかって感じにならないかな……? わりと信頼度が高いとこうなるのかな?
おかしいな、俺のやった恋愛ゲームではこういう時は好感度低いと部屋から追い出されるんだが……やっぱアレフラグが足りてなかったんだろうか。
……じゃなくて。なんでこうなってんの。
なんで「頭も撫でて」なんていう要望が更に追加されてんの。
ヨアニスもだんだん元気になって来ている訳だし、ここらへんで「陛下は静養の効果も有ってついに全快なさったのだ!」みたいに区切りをつけても良いと思うんだが……ヨアニスは頑なに夜の寝かしつけをやめようとしないんだよな。
俺も一応今さっきの話で辞めた方が良いかな的な事は言ったんだけど、でも相手は強く首を振って「私にはまだ君が必要なんだ……!」って熱く押し切られちゃったし。……ヨアニス、アンタ本当は人恋しいだけなのでは……。
いやでも、ソーニャさんはもう居ないんだもんな……やっぱ寂しいんだろうか。なら、早急にアレクと会わせて、親子仲良く寂しくないようにしてやらねば。
でも、アレクの気持ちも大事だよなあ。アレクの保護はシアンさんとクロウがやってくれてるだろうけど……今どうなってるんだろう。
確か今日ロサードが外に出ていたので、その辺の事も調べてくれている筈だが、この世界の情報伝達って物凄く遅いしなあ。
世界協定の情報伝達速度がどれほどの物なのか俺には良く解らないが、この世界でなら三日四日のタイムラグがあってもおかしくない。だから期待は禁物だと思うのだが……もしかしたら、もう何かロサードが聞いて来ているかも。
どうせアドニスの所に行く予定だったし、アドニスの部屋にはロサードもいるんだろうから、そこで聞いてみるのも良いかも知れない。
それにしてもロサードってばよくあんなドS眼鏡と一緒に居られるな。
親友って凄いわほんと。
色々と考えつつ、俺はやっとヨアニスを寝かしつけてベッドから抜け出ると、そっとドアを開けて抜け出そうとした。と、目の前に人影が有る事に気付く。
……ああ、ブラックだ。普段着で立ってるから一瞬びっくりしてしまった。
廊下は薄暗いからお化けかと思ってビクッとしたじゃねーかちくしょう。
音を殺しつつ部屋から抜け出し扉をしめると、すぐにブラックは近付いてきた。
「ご苦労さま」
「そ、そう思うんならもうちょっと明るい場所に居てくれよ」
「えー。そしたらツカサ君を待ってる意味がないじゃないか」
そう言いながら抱き着いて来るブラックに、俺はなんだか振り払う事も出来ずになすがままになってしまう。
だけどこんな場所でいちゃついている訳にもいかないので、俺はブラックをひっつけながらも歩き出した。
「ね~、ツカサくーん、立ち止まっていちゃいちゃしようよう」
「人が通るかも知れない所でンな事してられっか!!」
「でも僕が抱き着いてるのはいいの?」
「そっ、それは……引き剥がしたらお前怒るじゃねーか」
痛い所を突かれて肩に乗っかった頭をぺしっと叩くと、ブラックは何がそんなに嬉しいのか「えへへ~」とかいう気の抜けた気持ち悪い声で笑いながら、背中に体を密着させると更に深く抱き着いてきた。
だあもう鬱陶しい。
「ツカサ君のそう言うところ、ほんと好きだよっ」
「どういう所だよもう」
「えー? 本当は僕に対してものすっごく甘いと・こ・ろ」
語尾にハートマークを付けつつふざけた事を言ってすり寄って来る相手に、俺はいっぺん殴ったろかと思ったが、そんな事をしてもこのオッサンは喜ぶだけなので、溜息を吐いて俺はただただ抱き着かれているのを許容するしかなかった。
はあ、ヨアニスはそれなりに分別のある大人なのに、どうしてブラックはこうも大人とは思えない事ばっかりするんだか……。
それがブラックらしい所ではあるんだけど、周囲にまともな大人が多い場所だと、やっぱりブラックのダメ人間っぽさが目立ってなあ。
「はー……。お願いだからもうちょっと大人らしくしてくんないかなー?」
「何それ。……ツカサ君もしかしてまたあの能無し皇帝の事考えてるの……? 僕といるのにまた別のおと」
「だーもー違うってば! こういう場所だときちんとした人が多いから、アンタにも大人っぽい事してほしいって言いたかったの!」
大人らしい大人なら、こんな誰と会うか解らないような場所で、未成年の男相手に抱き着いたり懐いたりなんてしないと思うんですよね俺は!
別に嫌って訳じゃないけどさ、もうちょっとこう……節度って言うか……。
「大人っぽい事、ねえ」
「そうだよ。そしたら俺だってこんなにキイキイ言ったりしないんだぞ」
肝心な時はちゃんとオトナしてるんだから、ブラックだってどんな行動が大人としての在り方かってのは解ってると思うんだけどな。
そう思いつつ肩に乗っている呆けた顔を見やると、ブラックは少し考えるような素振りを見せたが……何を思ったのか、少し俺から離れると、俺の体を反転させて向き合うような形にした。
何のつもりなのかと背の高い相手を見上げると、ブラックは目を細めて何かを楽しむように笑う。意味が解らなくて眉を顰める俺に、相手は口角を上げた。
「大人っぽいって、こういう事?」
大きな手が、俺の視界を覆う。
暖かくて少しカサついた手の感触を薄い目蓋にじかに感じて、反射的に肩を震わせる俺に、ブラックは小さく笑った。
「何しようとしてんだよ」
ブラックに目隠しをされても怖くもなんともない。
まさかこうやって俺を翻弄するのが「大人っぽい」とでも言いたいのだろうか。
お前はキザな貴族か。女の子ならまだしも俺にやってもどうしようもないわい。
馬鹿な事をしてないで、さっさと外せ……と言おうとしたと同時。
「んっ……!」
少し開きかけていた口に、なにか……柔らかくて暖かい感触が触れた。
こ、こ、これって。まさか、き……キス……。
「んんん~~~っ!?」
突然の事に思わず体中が発火したように熱くなって、俺は逃げようとする。
だけど、ブラックはいつの間にか俺の腰を捕えており、完全に退路を塞がれてしまっていた。やばい、これじゃどうしようもないじゃないか。
こ、こんな、人様の家の誰が通るか解らない廊下で、こんな事……っ。
カッカして熱くなる頬の感覚に、自分が赤面している事が嫌と言うほど解る。
それが余計に羞恥を強めて、俺は逃れようと手探りで相手の服を掴んだ。
しかし、その間にもブラックは俺の唇を貪りながら、思わず閉じた歯の壁を確認するかのように舌でなぞってくる。
愛撫と言う訳でもないのに、俺の口を覆うように合わさった相手の唇や、敏感に感じてしまうその舌の動きに、段々と耐えられなくなってきて。
歯の合わせ目などをなぞられているだけなのに、相手の唇が動くと、ちゅくっという水音が聞こえると、それと相まってぞわぞわと体に覚えのある甘い感覚が襲ってくる。それが何なのかなんてもう解り切っていて、俺は必死に相手に抵抗すべく手でどこかしらを叩いた。
「んっ、ぅ……んぅうっ……ふっ……ぅ……っ!」
「っ、は……ぁは……可愛い……可愛いね、ツカサ君……こんな所でキスするの、恥ずかしかった……? 薄暗い中でも判っちゃうくらい顔を真っ赤にして……本当にたまらないなあ、もう……」
音を立てて名残惜しそうに離れていく唇に、俺はやっと大きく息を吸う。
そんな俺に笑いながら、ブラックはやっと目を覆い隠した手を取り去った。
「んぐっ……はっ、はぁ……っ、ば、ばかっ……! な、んで、いきなり……こんなとこで、こんなの……っ」
久しぶりに息が切れちまったじゃねーか、じゃなくて、こんな場所で何をしようとしてんだよもう! ふざけんな!!
してやられたのが悔しくて、睨みつけながら口を袖で拭うと、相手は眉をハの字に情けなく歪めながら口を尖らせた。
「えー、だってツカサ君が『大人らしい事』って言ったんじゃないか」
「だっ……バカ! そういう嫌らしい事を言ってんじゃなんだよ俺はっ!!」
「ええ……セックス以外に大人らしい事ってあるの……?!」
「真剣な表情で言うなバカー!!」
ああもう話が通じないこのオッサン!!
コイツの頭の中では「大人らしい事」ってのはセックスやこういう事しかないのかよ! 本当にもう物知りなくせに一般常識の欠片も無い奴だなあもう!!
「だから、俺が言ってるのはシアンさんとかみたいに、相手の前でこう……何だろ、立派な御仁として振る舞うと言うか、紳士として振る舞うと言うか……!」
「ああなんだ、そう言う事」
「理解が遅せえ!」
こいつの中では大人と紳士は結びつかないのかよ。
いやもうそうですけど。この人最初っからそうでしたけど!
「でもさ、そう言うのって欺瞞じゃない? 紳士らしくって、要するに『やりたい事を抑えて誰にでも好かれるように優雅に振る舞え』って事だろう? 結局みんな好きな相手とセックスしたいだけなのに、そんなの騙してるのと同じじゃない?」
「お、お前なあ……」
「僕は嫌だよ、ツカサ君に嘘つくの。だって、ツカサ君は僕がそんな事しなくたって受け入れてくれたじゃないか。今更紳士になったって、意味ないだろう?」
「…………まあ、そりゃそうだが」
確かに言われてみればそうだけど、そうじゃないというか……。
ああもうなんか丸め込まれているような気がする。
「それに、僕に紳士になれっていうのなら、あのクソ眼鏡や駄熊にも言ってくれよ。僕だけ欲望を押さえつけたんじゃ、ワリにあわないよ」
「…………」
そうだね、アドニスもクロウも、もっと言えばシアンさんも、だいたいは自分のやりたいように行動してたよね……それを考えると、ブラックにだけ紳士を強いるってのも不公平な事なのかもしれない……。
俺だって人の事言えない程度には好き勝手行動してるんだから、強要しちゃだめだよな。普通は「お願い」程度の意味の言葉でも、ブラックにとっては「紳士になって」ってのは強要になっちゃうんだ。
皇帝領で数週間過ごしていたせいか、どうやら俺は肝心な事をすっかり忘れてしまっていたらしい。
俺の仲間の理不尽さと、ブラックの普通じゃ無さっぷりを……。
……って言うか、俺の周囲って、どうしてこんな大人しかいないんだろう。
一瞬気が遠くなったが、考えない事にして俺は第二の「変人」の所に向かった。
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