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彩宮ゼルグラム、炎雷の業と闇の城編
暗雲の国の罪業 2
しおりを挟む※す、すんません気合入れ過ぎて移動だけになってもうた…(;´Д`)
次回はちゃんと話進みます…!!
「ここ……どこだ……?」
「あの黒い建物の中の内部だよ。ゴタゴタに紛れてうまいこと潜り込んだのさ」
楽しそうな声で言いながら、ブラックは俺を地面に降ろす。
しかし俺はまだ状況が呑み込めず、きょろきょろと周囲を見回した。
どうやら、俺達が居る場所は大きな木箱が積み上がった山の影らしい。木箱の山の間の狭い隙間の先には、広い通路が見える。あの短時間でどうやってここに入り込んだのか謎だが、まあブラックの事だから凄い技でも出したんだろうなあ……。さっきの照明弾とかみたいに。
でも、照明弾とかどうやって出したんだろう。
アレも曜術だったのかな?
「なあブラック、さっきの光ってなんだったんだ?」
ヒソヒソ声で問いかけると、目の前の暗黒騎士はわざとらしく肩を上げる。
「さっきのは、ツカサ君に貰った気を一気に放出してみたんだ。良い目晦ましになっただろう?」
「……前にもこんなことやった事有るのか?」
「いいや。ツカサ君から貰った力が体中に溢れている時に、ふっと『あ、この力はきっとこういう事が出来るぞ』って思ったんだよ。だから、さっきが初めて」
……って事は、ブラックはこの状況で新たな術を発案したって事か?
おいおいお前そんな漫画の主人公みたいな……つーか俺じゃなくてアンタが開眼してどうすんだよ、この場合俺が開眼するのがセオリーだろ。アレか、もしかしてお姫様抱っことかされてたから、俺は主人公度が下がってしまったのか。
バカな……この世界にそんなパラメーターが存在するなんて……。
「ツカサ君?」
「い、いや、何でもない。とりあえず潜入出来たはいいけど……これからどうするんだ? パーヴェル卿は多分先に行っちゃっただろうし……」
「うーん……とりあえず、この木箱の隙間を縫って奥まで移動してみよう」
「行き当たりばったりだなあ……まあ、それ以外ないか」
この建物の全体図がどういう物なのかは解らないが、パーヴェル卿を追う為には何としてでも隠れて尾行しなければなるまい。
俺達は音を立てないように木箱の隙間を慎重に移動すると、奥の方の壁へと到達した。上空から確認した限りではこの建物は正方形に近かったし、木箱の隙間から見える向こう側の風景も木箱が積まれたものだったので、この建物自体は倉庫か何かだと思うんだが……しかし、ここに馬車ごと入るってどういう事だ。
突き当りまで来てしまってどうするかと悩んだが、木箱によじ登って周囲を見渡せばパーヴェル卿の行方も分かるかも知れないと思い、俺達は苦心して木箱の山を登り始めた。
……いや、うん、苦心したのは俺だけだけどね……本当筋肉ないな俺……。
「ほら、ツカサ君僕の手を掴んで」
「クーゥッ! クーゥッ!」
ペコリアは、ブラックの手に捕まって必死によじ登る俺を手伝おうとしてくれているのか、俺の服の袖を口で掴んで一生懸命引き上げようとしている。
ううっ、ごめんなペコリア……! 俺にも筋肉が有れば!
「よっ……と……。さて、全景はどうなってるのかな」
天井スレスレまで積み上げられた木箱にやっと登り切り、俺とブラックは今まで見えなかった向こう側を見やる。
やはり対面にはこちらと同じように木箱が沢山積まれており、人の気配はない。
天井には木箱を釣り上げるための大きなフックが垂れ下がっているが、当然監視カメラなどの設備はない。……もし有ったら一発アウトだったな。この世界がファンタジー世界で本当に良かった。
しかし、この木箱は一体どういう物なのだろうか。
これほど沢山積まれていると言う事は、それだけ需要がある物が中に入っているのだろうが……食べ物とかそういう感じはしないんだよな。
色々と気になるけど、今はそれを考えている場合じゃないか。
俺達の目的はパーヴェル卿だ。
彼はどこに居るのかと木箱の山に挟まれた通路を見やると、ちょうど馬車が停車しているのが目に入った。どうやら馬車も通路の突き当りまで移動していたらしい。しかし、妙な事にその停車している所には、妙な切れ目が有った。
馬車を丸ごと囲うほどに大きい“真四角の切れ目”の周囲には、危険である事を知らせる黄色の枠線が引かれており、その周囲は木箱がきっちりと除けられていた。黄色の枠線で囲われたエリアと言えば、エスカレーターだとか電車のホームだとかを連想するが、もしかして。
「……あれもエレベーターだったりして」
「えれべーたー?」
「えーっと……アレだよアレ、トルベールん所にあった昇降機……だっけ?」
「ああ、なるほど……。でも巨大すぎないかい? あんなに大きな昇降機なんて、作れる物なのかな?」
「うーむ……皇国の技術力を使えば可能なのかも……?」
そんな事を言っていると、何処かからサイレンが鳴り始めた。
いきなりの大音量に馬がびくりと驚いたが、御者が首を軽く叩いて宥める。一体何が始まるのかと思った瞬間、ガタンと大きな音が聞こえて、馬車が停まっている場所がいきなり地面へと沈み始めた。
「うわっ、やっぱエレベーターだ!」
「まさかあんな……っ。いや、とにかく追いかけよう。ツカサ君、ラピッドの効果がまだ残ってるから、このまま降りて馬車の屋根に飛び移るよ」
「お、おう! おいでペコリア」
「クゥッ」
ブラックが俺をひょいと軽く抱え上げると同時に、ペコリアが胸に飛び込んでくる。それを合図にして、ブラックは勢いよく空を飛んだ。
「――――ッ!」
ゆっくりと地面へ沈んでいく馬車の屋根に、視界が近付く。
いつもなら着地の衝撃に慌てる所だったが、ラピッドの効果が続いているお蔭で、俺とブラックは無音で馬車の屋根へと着地した。そりゃもう、見事に。
周囲には人影も無かったので、俺達の動きを見つけられた者は居るまい。
パーヴェル卿達もまるで気付いていなかった。
「…………」
お互いに指を立てて「静かに」と伝えあい、無言で馬車が地面に呑みこまれるのを待つ。ゆっくりと下降しているように見えた昇降機だったが、動き始めると速度が増すタイプだったらしく、存外早く倉庫の地面よりも下へ潜ってしまった。
倉庫の天井はもうかなり遠い。
四方は黒い壁に閉ざされて何も見えず、一体地面の何メートル下へ下がるのかと思っていると、下方から薄らと光が漏れて来た。
「……?」
ブラックに下を指さすジェスチャーを送ると、相手も軽く頷く。
一体何が有るのだろうかと目を見張ったと同時――唐突に視界が開けた。
「――――!!」
思わず、口が開く。
俺達の目の前に広がっていた光景は、想像を絶する物だった。
「パーヴェル卿、このまま馬車で移動なされますか」
「いや、歩いて行こう。今日は急ぐ必要はないからな」
屋内の話であるのにそんな会話が聞こえるが、そう言うのも無理はないと俺は思った。だって、俺達が居る地下の世界は……あまりにも、広大だったから。
――確実に球場ほどの広さは有るだろう、広大な敷地。
天井も壁も鉄で覆われた地下の世界は、いたる所で白煙を巻き上げながら、煩いくらいに様々な音が溢れている。
その白煙を湧きあがらせているのは、忙しなく動く何かの機械と兵士達だ。
ベルトコンベアのようなものが幾重にも走り蛇行している様は、なにかの工場にも似ていて、どうかしたら俺の世界に戻って来たのではないかと錯覚するほど近代的な光景に見えた。
だけど、それらの機械は赤銅色をしていて造形は拙く、スチームパンクの世界の機械のようにどこかレトロな感じがした。
それでも、この世界では驚異的な科学力だけども。
……オーデル皇国は近代的だとは思っていたが、まさかこんな所までとは。
だけど、何を作っているんだろう。ここは何の工場なんだ?
眉根を顰めながら近付く地上を眺めていると、ブラックが俺の肩を叩いた。
どうやら、パーヴェル卿が気付く前に馬車を降りようと言っているらしい。
そうだな……流石にここは兵士がいるだろうし、隠れながら進まなければ。
「再び輸送頼む」と言わんばかりにペコリアを抱えてブラックの首に手を回す俺に、ブラックは「んぐふっ」と変な声を出したが、俺をしっかりと抱きとめて周囲を確認した。
昇降機の周囲には、この装置を安定させるためか四つの大きな柱が建てられており、その間をバツ印に掛けられた鉄骨が走っている。ブラックはその鉄骨を囲うように作られている点検用の通路に目を付けたのか、足をぐっと踏み込んだ。
しかし、下がり続ける昇降機から飛び込むのは少し難しい。
ブラックは数秒タイミングを計っていたが、勢いよく馬車の屋根を蹴った。
「っ…………!」
高くジャンプしたブラックは、飛んでいる途中に着地位置を見定めると、少し体を捻って軽く鉄板の床に着地する。
今度もラピッドの効果で無傷かと思われたが……少し振動が来た。
やばい。術の効果が切れたらしい。
「は……はは……ラピッドの効果、ギリギリだったみたいだね」
「あっぶな……あの勢いだったら絶対内臓ひっくりかえってたぞ……」
「うーん……今度からは時間を測りながら使った方が良いかもね……とりあえず今は先に進もう。早く降りないと見失っちゃう」
「そうだな……」
強化版ラピッドはかなり有用な術だけど、時間制限があるのか……。
俺も何度力を与えられるか解らないし、気を付けておかなきゃな。
とにかく、パーヴェル卿を追おう。うかうかしてたら見失ってしまう。
俺達は通路を走り階段を何度か降りて、必死に昇降機の跡を追った。
しかし、本当こういう所は俺の世界とあまり変わらないな。こういう通路って、タワーとか大きな鉄骨の橋とかによくあるけど、こうなると本当にファンタジーじゃなくてナントカパンクの世界だ。
でも……どうしてこの国だけこんな風なんだろう。
もしかしたらここに答えが有るのかな。
息を切らせながらやっと地面まで辿り着き、俺達は深呼吸してなるべく音を立てないようにしながら鉄骨の影に隠れた。
馬車は俺達よりも少し前に到着していたが、まだ馬車の前にはパーヴェル卿が居る。周囲の音がうるさいので何を言っているのかは解らないが、どうやら御者と何か話しているようだ。
やがて御者は軽く頷くと、また馬車に乗った。
すると、パーヴェル卿は近くに在った細長い長方形のオブジェに近付き、何やら指を動かす。何をしているのかと思ったら、また昇降機が動き出した。
そうか、あれは昇降機を動かす機械なんだな。
ってことは、俺達が帰る時はあのオブジェを調べればいいわけだ。
よし、覚えておこう。
「ツカサ君、パーヴェル卿が動き出したよ」
馬車を地上へと帰したパーヴェル卿は、踵を返して不可思議な工場へと歩き始める。俺達は周囲の兵士に見つからないように隠れながら、必死に痕を追った。幸いここも煙や機械だらけだから、隠れるのに苦労はない。
最悪の場合、見つかったら即気絶させればいいしな!
「しかし……なんなんだろうね、この工場みたいな所は」
パーヴェル卿を追いかけながら、ブラックは訝しげな顔でガシャガシャと流れるベルトコンベアを見やる。
その上には何も乗ってはいないが、確かに機械は動いており兵士達はその機械が不具合を起こさないようにじっと観察していた。
なんだか、俺達には見えない製品を見ているようにも見えるが……。
「……バカには見えないモノを作ってる……とか……」
「そんな笑い話みたいな事を、こんな大きな工場でやるかな……?」
「うーん……じゃなかったら、作られるべきものがまだ出てこないとか」
「そっちの方がまだ納得出来るかなあ。でも、それだと機械を動かす必要は全く無いよね。こんなの燃料の無駄遣いだよ」
確かにそうだよなあ……。
この皇帝領で使われているエネルギーは、門外不出の凄いエネルギーだ。
と言う事はとても貴重なんだろうし、ただ機械を動かす為だけに消費しているだなんて勿体なさすぎるよな。一体どうしてこんな事をしているのか。
この国の重鎮であるパーヴェル卿が今の状況を良しとしているんだから、多分これは必要な事なんだろうけど、俺達には意味が解らない。
彼を追っかけて行けば、この広い工場を無理矢理動かしている理由も解るんだろうか。いや、工場なのかはまだ解らないけど。
「……ん? 先に扉が見えるね」
ブラックの声に前方を見ると、煙の奥の方に鉄の扉が見えた。
パーヴェル卿はどうやらあそこを目指しているらしい。
「こんな謎の施設にある部屋って……」
「どう考えても、ロクな所じゃなさそうだねえ」
「クゥ~」
この場所がもう既にロクでもない臭いがするんですけど!
とは思ったけど、ぐっと堪えて俺はパーヴェル卿の行方を見守った。
さて、鬼が出るか蛇が出るか。
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