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彩宮ゼルグラム、炎雷の業と闇の城編
21.曜術師同士は基本的に物凄く仲が悪い
しおりを挟む先程の色んな意味で衝撃的な光景をまだ忘れられなかった俺達は、他に行く宛ても無かったので仕方なくアドニスとロサードの居る部屋へと行くことにした。
あのまま暖炉のある客間の近くに居ても仕方ないし、第一ボーレニカさん達と鉢合わせしたら物凄く気まずいからな。
もうだいぶ時間も経っているし、ボーレニカさんもヨアニスと離れたんだから、話は終わってるだろう。恐らくあの二人が俺達を探していたんだろうけど……あの状態だと「ここでーす」って言えないしなあ……。
てなわけで、俺達はアドニスが詰めている部屋にやって来たのだが。
「あれっ。旦那、兜外してどうしたんスか」
「お前らこそ何してるのかな」
硬直する俺の隣でヒクヒクと口の端を引き攣らせるブラックに、アドニスが何でもないかのような表情で机に広げていた設計図をペンで叩く。
「え? ああ、これは独身者用の性欲処理人形を計画してまして」
「男型と女型の二種類用意しようと思ってんだけど、試作用の女型の形がなかなか決まんなくてですねー」
「そうじゃなくて! なんで男の方の設計図がっツカサ君になってんだ!!」
頭に角を生やさんばかりに怒って設計図をビリビリ破くブラックに、二人は然程がっかりした様子もなく「あー」と残念そうな声を出した。
おい、その程度の商品なんだったら開発すんのやめろ。
「いいじゃないっすか旦那ー。ウチの開発部の連中もイイって言ってましたよ? 少年が好みの奴って結構あぶれてますし、大人の男が好きな奴はだいたいもう恋人いるんでこういう人形なんて必要ないですしー」
「父親としては複雑でしょうけど、息子さんもう貫通済みだし良いじゃないですか。彼が人形の元になってくれれば、あぶれた男を慰める英雄になれるんですよ。偉大な男としてモテナイ男達に崇められるなんて素晴らしいじゃないですか」
素晴らしいと思っているなら何故虚無みたいな顔してるんだアドニス。
さてはお前もてない童貞男を蔑んでいるな。ふざけるなお前がモデルにしようとしている俺も童貞非モテ男なんだぞ。童貞が童貞を救うってどんな地獄だ。
っていうか何で前提が「女性用」じゃないんだよなんで男専用なんだよ!
お前らは人形の俺すらも童貞にするつもりかああああ。
「だーかーらぁッ!! 僕は父親じゃなくてツカサ君の恋人だっつってんだろこのクソボケ眼鏡があああああ!!」
「アーッ!! 抑えてっ、旦那抑えて! 体と顔は殴って良いけど、手と頭だけは勘弁してやってください!!」
ロサード、アンタなんて正直な……。
おっと待てよ。一瞬感心してしまったが、良く考えたらアンタも同罪だろう。
一緒に殴られてしまえと思ったが、ここでブラックを止めないのも俺が狂犬をけしかけてるみたいで外聞が悪い。
俺は自分に大人になれと言い聞かせながら、断腸の思いでブラックとアドニスの間に入ってブラックを宥めた。
「ブラック、コイツは俺達をからかってるだけなんだから怒るだけ損だぞ。アンタも一々怒るような事をわざとやらないでくれるかなあ、アドニス!」
腰に手を当てて相手を睨むと、アドニスは先程の虚無顔はどこへやらでニタァと俺に笑いやがる。チクショウやっぱりからかってやがったのか。
その表情を見て、ブラックも怒るのは分が悪いと思ったのか、思いっきり舌打ちをしてロサードを乱暴に振り落した。
「いでで、すんませんねえ旦那……一応説明してるんスけど、コイツホントに人の話聞かないし人を小ばかにするような事ばっかり言うんで……ホントあの、時々でいいんで半殺ししてくれても構わないので……」
「本音が出てますよロサード。……まあ、冗談はこのくらいにして……随分と遅い合流でしたけど、どこかで交尾でもしてたんですか? もしそうなら後でツカサ君の身体測定をさせて下さいね。交尾前後の変化が知りた」
「わーっ! わーっ、わーーー!! バカ!! 違うっつうの!!」
もーっこいつは次から次へと!
アドニスの口を塞ごうとすると、それをさせまいと背後からブラックが俺を抱え上げる。違うってばこれは相手の口を塞ごうとしただけなんだってば。
ああもう前も後ろも面倒くさい……。
「あのさあ、ロサードから聞いたけど……僕のツカサ君を、勝手に脱がすのやめてくれる? 研究材料ってだけでも不快なのに、なんでお前のために僕のツカサ君の体を一々お前に見せなきゃ行けないんだよ」
「それは必要な記録だから……とロサードに言ったはずなんですがねえ。私は別に彼に欲情している訳でもありませんし、彼も協力してくれていましたよ? ねえ、ツカサ君」
「ひぇっ」
こ、こっちに話し振らないでくだしあ……。
脳内でも口が回らなくなっているくらいに冷や汗を垂らす俺に、アドニスはまた余裕ぶった表情で微笑む。ブラックはそれが気に入らないようで、額に青筋を立てながら俺を抱え直した。
「記録とか知るか。緑化計画なんて僕達には関係ないよ下らない。だからさあ、お前の身勝手な計画に、無理矢理ツカサ君を参加させるのはやめてくれないかなあ。後先考えずにツカサ君を拉致する短慮な思考回路の上に、偶然にツカサ君の事を知ったおかげで研究が進んだ程度の知能のくせに、いっぱしの研究者気取りとか笑わせるよ。お前の研究なんて協力するだけ無駄だ」
「……ほう…………? 貴方は中々面白い事を仰いますねえ」
あ……あ……アドニスの微笑み顔に思いっきり影が掛かっていく……。
ロサードも青ざめてアドニスの事を見ているし、これ絶対地雷踏みましたよね。これもう決定的な地雷をブラックがぶちぬいちゃったんですよね……。
やだもうなんでこうなっちゃうの、どうしてこのオッサンはこういう時だけピンポイントで人の言って欲しくない事を言っちゃうのかなあもう!
「童貞の為の道具なんて考えている暇が有ったら、ここの面倒臭い問題もさっさと解決してくれないかな。さっきの言葉に激昂するくらいには自尊心があるんなら、頭の良い案とやらの一つや二つ思いつけるだろう?」
「別の分野の事を持ち出して詰るなんて、浅慮な人間の典型過ぎて困りますねえ。貴方こそ、色欲塗れの脳内を一度浄化なさってはいかがですか? 年端もいかない少年相手に汚らしい男根を出し入れして悦に浸ってる暇があるなら、恋人の体を私のような存在から守るべきだと思うのですがねえ」
「ほーう……知能ゼロの誘拐犯がよくそこまで言えるな」
「生憎と、私は貴方よりは頭が良いので」
やめて二人とも背後に邪悪なオーラを背負いながらにっこり笑わないで。
どうにかしてくれロサード……と泣きそうな顔で蚊帳の外のロサードを見たが、相手も首を振って頭の上で手でバッテンを作っている。
おいおいリタイアとか冗談でしょ。ブラックに抱えられて、至近距離でこの怖い貶し合いを見ている俺を見殺しにする気か。
どうしよう、なんでブラックってば毎度毎度相手に喧嘩を売っちゃうの。
あれなのか、曜術師同士って死ぬほど仲が悪いって言う奴なの。それとも、単に二人の性格が死ぬほど合わないだけなの。
でもこのまま行ったら変態大決戦みたいな事になって、最悪彩宮が滅茶苦茶になりかねないし……ううう……が、頑張れ、頑張れ俺……!
俺は必死の思いで自分を奮い立たせ、意を決してブラックの腕から抜け出すと、メンチを切り合っている二人の間に入って両方の胸を手でぐいっと押した。
なんとか引き剥がそうとしたんだけど、でも、俺の腕力じゃほんの少ししか隙間を作れなくて、俺は不覚にも二人に挟まれるような形に成ってしまう。
し、しかしここで引き下がるわけには行かない。
今にも滝のような涙が噴き出しそうになるのを堪えて、俺は二人を交互に見上げながら、厳しい顔で子供に言い聞かせるように出来るだけ低い声を出した。
「も、もうそれくらいにしろよ! いがみ合ってても何も進まないだろ!」
「でも、ツカサ君……」
「手を出してきたのは君の恋人ですよ」
「それでもだよ! 二人とも良い大人だろ! ……それにさ、アンタ達がいがみ合ってたら、俺もロサードもどうしたらいいのか解らなくなっちまうよ。俺達は、ブラックの事もアドニスの事も頼りにしてんのに……」
「ツカサ君……」
二人同時に俺の名前を呼んでくる大人達に、俺は不公平にならないように必死に気を使いながら、二人を交互に見て緩く笑って見せる。
「ブラックは俺達が知らない知識や情報を沢山知っているし、アドニスは研究者としての経験や知恵が豊富にあるだろう? 二人とも分野は違うけどすっごい奴なんだから、頼むから協力してくれよ。俺バカだし、そういうの苦手だから……頭の良いアンタらがいないと、今回の件は絶対に解決できないよ」
だから仲良くしてくれよ、と二人の肩を優しく叩くと……ブラックとアドニスは俺をじっと見てから、バツが悪そうに頭を掻いて視線を逃した。
「……まあ、ツカサ君がそう言うのなら…………」
「…………仕方ありませんねえ。早く解決しないと、君に協力して貰う時間がどんどん減って行きますし……」
そう言いながら退く二人に、俺はちょっと拍子抜けしてしまった。
ブラックはまだしも、まさかアドニスまでもが俺の言う事を聞いてくれるとは。
目を丸くして二人を見比べていると、背後からロサードがやって来て俺にコソコソと耳打ちをして来た。
「お前凄いな、旦那はまだしもアドニスまで黙らせるとは……」
「え、いや……あの、今ので良かったの?」
「おうさ。アイツはな、ああみえて自尊心の塊だからな……自分が誰かに認められてるってのが重要らしいが……しかし、お前意外とアドニスに好かれてんだなあ。あんな素直なアイツ初めてみたぜ」
「えぇ……どこら辺が好かれてるのか全く分からないんですけど……」
本当に謎過ぎて良く解らないんだけど、まあ、そこを突いても仕方ないか。
よく解らんが、気に入られているのならそれはきっと良い事なのだろう。
深く考えない事にして、俺は落ち着いた二人を椅子に座らせると、本来話したかった事をロサードとアドニスに聞く事にした。
「で、ちょっと聞きたい事があるんだけど……ボーレニカ……じゃなくて、ボリスラフさんって、どんな人だったか知らない?」
「え……ボリスラフの事ですか?」
「うん……何でも良いから全部教えてくれないかな」
ブラックの隣に座って聞く俺に、真向かいにいるアドニスとロサードは同じように首を傾げながら空を見る。
「俺は、ソーニャ様の後ろに常に控えていたって事しか覚えてないなあ。……ああでも、ソーニャ様はいつもあのオッサンに話しかけてたぜ」
「彼はソーニャ様のお父上であるガーリン様の下で訓練を受けていた、近衛兵志望の兵士でしたからね。ソーニャ様とも昔から交流が有ったようですし、兄のような存在だったのでしょう」
「ナニソレ初耳なんだが」
驚くロサードに、アドニスは何でもないような事を話すように、すました顔をしながらカップに入った飲み物に口を付ける。
確かに知っている人間には面白みのない情報だけど、先程の光景を見た俺達にとっては、なんだか妙な気分になる情報だった。
だって……パーヴェル卿は、ボーレニカさんとソーニャさんの事を許さないって言ってたんだから……。
「……まあ、別段人に話す事でもないですからねえ。ガーリン様が彼をソーニャ様の護衛に付けたのは、気心の知れた相手だったからなのでしょう。いくら炎雷帝の支配する彩宮と言えども、いつどこで命を落とすか解りませんから……まあ結局、それでもどうにもなりませんでしたが」
「……なあ、アドニス。ボリスラフさんって結婚とかしてた?」
「さあ……。結局の所、私は部外者ですのでねえ……。そういう話題は皇帝陛下に直接聞いた方が良いかも知れません。陛下はボリスラフの事も気に入っていましたし、少なくとも彩宮の中の誰よりも詳しいはずですよ」
「そっか……」
アドニスの言う事は信じて良いだろう。
って事は……やっぱそう言う所もヨアニスに聞かないとダメって事か。
「何か気になる事があるんですか?」
アドニスの言葉に、以外にもブラックが答える。
「それが……ちょっと変な所を見ちゃってね。パーヴェル卿とその兵士が、熱烈に口付けしてる所とかを……」
「えっ、あ、あの二人って付き合ってたんスか!? パーヴェル卿って、皇帝陛下一筋の仕事に生きる人だと思ってたのに……」
「人は見かけによりませんねえ……でも、それ本当に恋人なんですか? 口寂しいから兵士を誘ったと言うだけでなく?」
「話も聞いたから間違いないよ」
そう言うと、アドニスとロサードは目を瞬かせて顔を見合わせる。
どうやら、パーヴェル卿に恋人がいたと言うのも二人には驚きの事実だったらしい。……考えてみれば、俺ってパーヴェル卿の事も何も知らないな……。
これもヨアニスに聞いたら教えてくれるかな。
「ヨアニスって、今どこにいるの?」
「陛下は隣国の特使と会談で外に。聞くなら夜に聞くしかありませんね」
アドニスがそう言うと、俺の横に居たブラックが途端に機嫌が悪くなった。
さもありなん。「夜に聞く」ってのは、俺がヨアニスを寝かせる為に彼の部屋に行くって事だもんな。
でも、こればっかりはヨアニスにお願いされてるので、やらなきゃいけない。
俺の事情を分かってくれているロサードは、ブラックの様子を見て「ヤバい」と悟ったのか、宥めるかのようにフォローしてくれた。
「まあまあ旦那。今日は俺達もこの彩宮に泊まれるように、陛下が取り計らって下さったし、夜まではツカサとずっと一緒に居ればいいじゃないッスか」
「…………」
ああ、怒ってる……。
でも仕方ないんだよ。ここが皇帝の住まいである以上、皇帝の命令は絶対なんだから、逆らうわけには行かないんだし。
ブラックもそれは解っているのか、怒ってはいるけど文句は言わなかった。
「…………ブラック、役目が終わったら部屋に行くから」
そう言ってブラックを見上げると、相手は不満げに口を尖らせていたが不承不承と言った様子でぎこちなく頷いてくれた。
「……どっちが年上か解らなくなりますね」
「シッ、ばかっ」
真向かいでなにか聞こえたけど、咄嗟にブラックの耳を塞いだからセーフ!!
ああもう本当気が抜けないなあもう!
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