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彩宮ゼルグラム、炎雷の業と闇の城編
17.彼もまた誰かの愛する人 1
しおりを挟む※すみませんちょっと今日は体調がアレで変な部分があるかもです…
明日の更新前までには加筆修正しているので本当すみません……
非常にマズい。
そう、今日の俺の立場はまさにそれだ。非常にまずい状態にあった。
ソーニャさんの護衛の人を迎える為に、ヨアニスとアドニスと一緒にサロンに座っていたのは良い。だが、昨日から俺の事を訝しげな眼で見て来るアドニスが隣に座っているのは非っ常にヤバい。
この国の植物は貴重だし、こんな過酷な環境で生きていたのに枯れるなんてと思って、つい植物を生き返らせるなんて事をやっちゃったけど、考えてみればそりゃあ頭の良いアドニスさんに目を付けられますよね。怪しまれますよね。
でも今の所は、俺が黒曜の使者との力を使ったという事にまでは気付いていないみたいだし、訊いて来た事は「木の曜気だけでどうやって蘇らせた」と言う少し的外れな事だったので、しらばっくれてやり過ごしている。
だが、今俺がヤバいと感じているのはその事じゃない。
俺が今出迎えようとしている人達の中に、どうにも既知感のある姿を見つけてしまった。それが、ヤバいのだ。
精悍で厳つい体型の元護衛さんはいいとして、背後。背後ですよ!
俺達に近付いて来る三人のうち二人、護衛さんの背後!
「おや、随分と場違いな客人が付いて来ましたね」
「そ、そうだね……つーか……なんで兵士さんもご一緒なのカナ……」
ビクビクする俺と意外そうに眉を上げるアドニスに構わず、我らが皇帝陛下は実に嬉しそうな表情で、自分から護衛の人へと近付いて行った。
「おお、ボリスラフ! 久しいな、元気だったか!」
張った声で言うヨアニスに、ボリスラフと言われた人が慌てて床に膝を付く。
そうして、頭を垂れながらサロンの中に響き渡る声でヨアニスに挨拶をした。
「私のような者には勿体なきお言葉にございます……っ。恥ずかしながら、不肖ボリスラフ・サルタチノフ……陛下の命により馳せ参じました……!」
この声、聴いた事が有る。
勿論彩宮の中じゃなくて、街で……って、もしかして……。
再会を喜び合うヨアニスとボリスラフさんに、背後からそっと近づいて相手の顔を確認して――俺は思わずあっと声を出した。
「ぼ……ボーレニカさん……!?」
そう。ソーニャさんの護衛だったという人は、まさかの退役軍人。
街の地下酒場で厳ついおじさん達に酒を提供していた、厳ついマッチョなヒゲのおじさんである、ボーレニカさんだったのだ。
……いや待て、さっきヨアニスはボリスラフって言ってたよね。名前ボしか合ってないじゃん。偽名? 偽名だったのか?
いやでも考えてみると色々と辻褄が合う部分はあるぞ。
まず、俺はアレクに「困った時は酒場に居る『ボリスラフ』という奴に会え」と言われていたが、それはまさしくソーニャさんの護衛である人の名前だ。
と言う事は、ボリスラフ……ボーレニカさんは、アレクの指輪の事も知っているし、ソーニャさんの事も知っている。とすれば、ソーニャさんが誰にも知られず失踪できたのは彼のお蔭かもしれない。
指輪を見せれば協力してくれるって事は、少なくともボリスラフさんんはアレクと面識が有って、それがどんな合図かも知ってるはずだろうしな。
て事は……もしかして、ボーレニカさんがソーニャさんの護衛だって知っていれば、俺は最初から全部知る事が出来たんじゃ……いや、今更そんな事を考えてもどうにもならないか。
とにかく、知り合いだったのなら話しやすい。
ヨアニスの横からひょいと顔を出した俺に、ボーレニカ……じゃなかった、ボリスラフさんは申し訳なさそう表情で笑うと、俺に向かって軽く手を挙げた。
「よお、坊主。まさかこんな所で出会うとはなあ」
「ボーレ……えっと、ボリスラフさん。俺だってビックリだよ。つーか、その感じだと俺が今どういう状態なのかもう知ってるんですね」
「ボーレニカでいいさ。まあ、今どうなってるかはこいつらに聞いたからな」
そう言って指さすのは、後ろに居る暗黒騎士のような兵士と……ロサードだ。
……話を振りたくなかったなあ。振りたくなかったんだけどなあ。
「よおツカサ。陛下に手紙を渡すのを頼まれてな、その時に色々聞いたんだよ」
「だから一緒に付いて来たんだな」
「俺達だってもう充分関わってるんだからいいだろ?」
そりゃそうだけどさー、だけど後ろの兵士の中の人まで連れて来なくて良かったんじゃないんですかあ。何かもうさっきから仮面の奥から鋭い視線を感じて背筋が凍ってるんですけど。中の人がすぐ自分のえげつない恋人だって解るんですけど!! なんて目で見てるんだよ、俺何もしてねえじゃねーか!
「とにかく……座って話そう。ボリスラフ、お前には沢山聞きたい事が有る。私にはまだ知らない事が沢山あるのだ。それを探ろうにも、今の私には一人で何かを成す力はない……。ソーニャが何に耐えていたのかも、私の愛すべき息子がどうして隠され、野に放たれねばならなかったのか……」
「陛下……」
「お前にとっては話しにくい事かも知れない。だが、私はむしろお前に感謝しているのだ。ソーニャの為を思って辞した後も、ソーニャの事を守ろうとしてくれていた……感謝しこそすれ、お前を責めるなんてバカげたことだ」
そう言いながら、躊躇いも無くボーレニカさんの手を握る皇帝に、ボーレニカさんは目を見開いて、鼻の頭を真っ赤にしながら目を潤ませていた。
自責の念に駆られて自ら身を引いたのは、ボーレニカさんがそれだけヨアニスやソーニャさんを敬愛していたと言う証だ。きっと許されないと思って生きて来た彼には、ヨアニスの言葉はこれ以上ない程の救いだったのだろう。
ソーニャさんを守れなかった事も、ヨアニスにソーニャさんの事を隠していた事も、ヨアニスは全てをひっくるめて許してくれた。
許しを請いたい相手に笑顔を向けられて、嬉しくない人なんていないだろう。
そうだよな、ボーレニカさんは今までずっと懺悔しながら生きて来たんだもんな。
俺にはその苦しみを測る事なんて到底できないけど、でも、少しでも救われたのなら本当に良かったと思う。
彼がソーニャさんの護衛と知らなかった頃だって、俺は良くして貰ってたんだし、気の良い知り合いはやっぱり幸せに暮らしていてほしい訳だし。
男らしく涙をぐいっと拭いながら鼻を啜ったボーレニカさんは、もう泣きませんと言うように顔を引き締めると、改めてヨアニスの前に跪いた。
「失礼しました、陛下」
「いや、構わない。それより、その構えはやめてくれないか。普通に座って話しをしようではないか。……長くなりそうだしな」
微苦笑を浮かべるヨアニスは、ボーレニカさんとその後ろに居るロサード達を見て肩を竦める。ボーレニカさんはそんなヨアニスにハッとして、またもや申し訳なさそうに顔を歪めたが、素直に従ってテーブルへと移動した。
俺達もそれに続き、それぞれに座る。
……暗黒騎士ことブラックは何故か俺の背後の柱に凭れかかっていますけど、もう気にしないようにしよう。背中が寒いけど、今はスルーだ。
気を引き締めてテーブルの向かい側のボーレニカさんを見ると、相手は深く息を吐いて、それからゆっくりと話し始めた。
「それでは、お話しします……私が知っている事の全てを」
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