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彩宮ゼルグラム、炎雷の業と闇の城編
なにがどうしてこうなった 2
しおりを挟むいや、深い事は考えまい。忘れよう。何もかもがスッキリ終わったら、さっさと旅に出ればそんな邪な事は忘れるよな!
二人の発言は聞かなかった事にして、俺達はまだ到着していないシアンさんの事を待ちながら、俺はブラックが会いに来た後の諸々を聞く事にした。
クロウが気を効かせて寝ているロクを連れて来てくれたので、ロクを膝に乗せて優しく撫でながらな!
「……と言う訳で、僕達はその謎の子供の情報を集めてたんだけど……」
「ブラック達もそこまで辿り着いてたのか……」
「まあ、僕らの情報はロサードの不確定な記憶でしかなかったけど……ツカサ君が早い所あの面倒臭い場所から帰ってこれるようになるならと思ってね」
そう言いながら茶を啜るブラックに、もうちょっとオブラートに包んだ言い方が出来ない物かと思ったが、まあそこを指摘しても仕方がない。
それよりもロサードがソーニャさんから直接子供の話をされていたなんて知らなかった。もしかしたら、あの部屋にあった玩具は御用聞きの商人達に頼んで持って来て貰ったものだったんだろうか。
しかし……そこまで外部に話す事が出来たって事は、リュビー財団とかの皇帝領以外の人間は危険じゃ無かったって事かな?
やっぱり敵……というかアレクを連れて失踪した原因は、彩宮の中にあるって事か……。しかし、ある程度育つまでは危険はなかったみたいなのに、どうして急に逃げ出さなきゃ行けなくなったんだろう?
「あのさ……ロサードにそこまで話してたって事は、リュビー財団に失踪について何か知ってる人っていないモンかな?」
「その事なんだが……俺と同じく御用聞きになってた奴に訊いてみたんだがよぉ、どうも覚えがねえらしいんだ。子供の話を聞いたのも俺だけみたいだしな」
「そっか……」
と言う事は、子供の存在を明かした商人相手にも話せなかったのか。
いや、もしかしたら、話そうとしたけどロサードと会えなかったのかも。せめて逃げ出した理由が判れば、一気にこの状態が解決してアレクをヨアニスの所に連れていく事が出来るんだけどな……。
理由、理由か……。後知ってそうな人って言ったら……ソーニャさんの父親だと言うガーリン・なんとか・スヴャトラフってお父さんくらいだろうか。
でもあんな部屋で育てていたくらいだから、父親と何か協力してやっていたって言うのも疑問ではあるんだけどなあ。
直接聞いてみるのが一番なんだろうけど、もしガーリンさんがソーニャさんの死を知らなかったら凄くショックだろうし、色々と未確定な今は余計な情報を与えたくないよな……。
「ところで、ツカサ君も子供の事を知ってるって事は……彩宮の中で、何か情報を掴んだんだろう? どんなものだったんだい」
「ああ、それは……」
と、説明しようとしたところに、扉が開いた。
「待って頂戴、その話は私も聞かせて貰わなくては」
入って来たのは、お待ちかねのシアンさんだ。
相変わらずお美しい老女エルフだ。ああ、最近男ばっかり見てたから、殊更その魅力に飲まれそうになってしまう、落ちつけ落ち着くんだ俺。
「ずいぶん遅かったね」
「情報を整理していたら少し遅くなってね」
そっか、シアンさんも色々と調べてくれたんだ……。ああ、本当にありがたい、お忙しい立場なのに俺達に協力してくれるなんて本当申し訳ない。
ようやく人が揃った所で、俺達は改めて自分達が持っている情報を出し合った。
まずは、子供の事は一旦おいて置いて、アドニスの事だ。
ブラックにも話したけど、アドニスの目的はこの常冬の国に耐えうる植物を作り出し、緑の国にすることだ。その為に俺の能力を利用しようとして拉致をした。
俺の“黒曜の使者”の力の部分はロサードにはボカしたが、依然として俺の立場が危うい事には変わりない。ロサードが言うには「あいつは目的を果たすまで、絶対に実験材料を手放さない」らしいし、シアンさんの情報でもアドニスの薬師としての能力は本当に凄いが、反面、自分の処方を認めない奴は徹底的に排除するという変人っぷりも有名らしいので、どうにか実験を切り上げてトンズラというワケにもいかないらしい。
……となると、皇帝の寝かしつけ係の円満終了が最優先事項になる訳だが。
「ツカサ君との話を総合すると……こちらの方も、厄介な事になってるのよねえ」
シアンさんが溜息を吐きながら、額に指を当てる。
俺が話した情報とシアンさん達が調べてくれた情報を総合すると、こういう事になった。
ソーニャさんが妊娠したと言う事実は、彼女のごく身近な存在しか知らず彩宮の中でもパーヴェル卿などの側近しか知らなかった。
勿論、お腹が大きくなった姿も、ごく限られた者だけが見た姿だったと言う。
しかし、彼女はヨアニスが国を離れていた時に不運にも階段から転げ落ち、そのまま皇帝領の病院に入院。以後半月ほど姿を見せなかった。
だがそれは真っ赤なウソ……いや、意図的に事実を隠蔽したものであり、実は、この時点でソーニャさんはアレクを生んでいた。そうして彼女は人知れず行動し、彩宮の『裏』の部屋にアレクを隠したのである。
そこで数年間アレクを育てていた訳だが……有る時、已むに已まれぬ事情によって失踪せざるを得なくなり、アレクを残して死んでしまった。
「だけど、変なのよね。調査した結果によると、皇后陛下が彩宮に戻られた形跡は無いのよ。どうやって脱出したかはまあ……置いておくとして、彼女が死んでいたとしたら廟らしき物が有ってもいいはずなのに、それも見当たらないの。そもそも彩宮で半旗が掲げられた様子もないのよ。もしパーヴェル卿が本当に死を確信したと言うのなら、皇帝陛下が病に臥せっていたとしても、臣下であるならそれくらいは行うはずよね。それも無いって言うのは……ちょっとね」
「確かに……側近達はソーニャ様の死を知っているってのに、何もしていないのはヘンっすね」
ロサードの言葉に、シアンさんは眉根を寄せて目線で少し空を探る。
「そう。そうなのよねえ……。その辺りが謎なんだけど……」
言われてみればそうだよな。
パーヴェル卿の言葉が本当なら、ヨアニスの機嫌が良くなって喜んでいたメイドさんや給仕の人が、俺に対してそんな事を言ってくれてもいいはずだよな。
本当に亡くなっているのなら、俺に「陛下に言ってはいけない事」とかを色々と注意して来ただろうし……何より、俺の代わりにソーニャさんの仮面を被る他の人達を連れて来たりするはずがない。
全快を願っている人達が、もう戻ってこない相手の幻影を引き摺らせるような事なんてする訳がないんだからな。
……となると、本当にソーニャさんの死を知っている人は限られる訳で。
やっぱこの辺が判らないと、推測も出来ないよな。
少なくとも、ソーニャさんの死因や看取った時の状況などが判れば、彼女が何に怯えて何から逃げようとしていたのかの推測は立てられる。
パーヴェル卿だって何か気付いたかもしれないしな。
うーむ、ここは当たって砕けてみるしかないか。
「じゃあ、俺その辺りも聞いてみます。時間はまだあるんだし、結果はブラックに伝えますから」
「そうしてくれるのはありがたいけど……大丈夫かしら。今までの話から考えるとどうやら彩宮の中に問題が有るみたいだし……虎の尾を踏むなんて事になったら、それこそ私達も死んでも死にきれないわ」
そ、それは確かに……。
迂闊に質問するのは得策とは言えないだろう。でも、シアンさんの調査で分からない以上、ここは彩宮での情報に頼るしかないんだもんな……。
まあ、ヨアニスも協力してくれるし、彼が命令すればアドニスも動かざるを得ないだろうから、滅多な事にはならないとは思うけど。
「大丈夫です。皇帝陛下も協力してくれるんで」
「陛下が……? そう……」
俺の言葉に何かを感じ取ったのか、シアンさんは少し目を見張ったようだったが、ブラック達が気付いていないのを見て、顔を戻した。
「そうね、皇帝陛下が協力してくれるのであれば、少しは安心かも」
「僕は大いに心配だけど」
「同意」
こらこらお前らは何を心配してるんだ。
あの人は絶対俺なんか襲わないから大丈夫だってば。まあ、出会ってすぐの時だったら解らなかったけど、少なくとも今のヨアニスは違うもんな。
変に勘繰るんじゃないとオッサン二人を宥めつつ、俺は話を変えようとシアンさんに話を振った。
「でも……こんな情報、どっから手に入れたんですか?」
俺も……多分、皇帝領の人ですらほとんど知らないような情報ですら掴んで来るだなんて、シアンさんの調査能力って一体どうなってるんだろうか。
目を丸くしながらシアンさんを見る俺に、彼女は口に手を添えながら笑った。
「ホホホ……まあ、世界協定の裁定員ですから……多少はねぇ。あと、ツカサ君がブラックに渡してくれていたアレク君の指輪も役に立ったわ。この指輪のおかげで、内部に詳しい人に話を聞く事が出来たの」
「なるほど……」
本当に物事って何がどうつながるか解んないもんだな。
アレクから指輪を預かって無かったら、シアンさんはその情報を貰えなかったんだろうし……何よりラフターシュカでアレクに出会わなかったら、俺はヨアニスの子供が生きているか死んでいるかすらわからなかったのだ。
縁は異なもの味なものっては言うが、基本的な人との繋がりに対しても言える事だよなあ。ツァーリ様式の事だって、教えて貰ってなけりゃ永遠に気付かなかったかもしれないわけだし。
そっか、実際に説明されなければ気付かない事ってあるんだよな。
少し考えて、俺はブラックに掌を出した。
「ブラック、その指輪もう必要がないなら返してくれよ」
「え!? 何で!?」
「ヨア……皇帝に指輪を見せたら、なにか分かるかも知れないだろ? つーか何でアンタが驚いてんだよ。預かってただけだろ?」
「で、でも……まだ、なんていうか……」
ええいうじうじと良く解らないな。
シアンさんは何だかニヤニヤしてるし、なんなんだろうか。
「仕方ないなあ……まあ、粗方形は……」
「は?」
「いや、な、何でもない。返すよ、はい」
何だか誤魔化している気もしたが、素直に返したので許してあげよう。
俺は自分の手に戻ってきた子供用の指輪をじっと見ると、大事にポケットにしまい込んだ。役に立つかどうか不明だけど、やって見なきゃ解らないもんな。
「で、まあ、一通り話し合ったわけだけど……これからどうしようかしら」
大きく溜息を吐いて両手を組むシアンさんに、ロサードが手を上げる。
「まずは件のアレク坊ちゃまの保護が最重要っすね。それはコッチが手配しますが……念のため、世界協定から応援を呼んで貰えますか。ウチの財団も一枚岩って訳じゃないんで」
「そうね、信頼できる者を後で寄越すわ。クロウクルワッハ様も加わって下さるかしら。ブラックとロサードには伝達係をして貰わなきゃいけないし……アレク君の顔を知っているのは、貴方しかいないので」
「解った。ブラックを妬んで待っているよりかは動いていた方がマシだからな」
「一々うるさいなこの駄熊は」
あーもーお前ら小競り合いするなっちゅうに。
本日何度目かと考える間もなく二人の間に入って落ち着かせながら、俺達は今後の役割を話しあい、今日はそのまま解散した。
ブラックとクロウは玄関まで付いて行くと言い張ったが、また喧嘩されたら注目されてしまうだろうし、それはやめて欲しかったので断固として拒否した。
……そ、それを拒否する代わりに、二人にほっぺにキスをする羽目になったが、なんかもう、その、忘れる。それは置いておこう!
帰りはロサードが一緒に付いて来てくれる事になっていたので、俺はロサードと一緒に玄関へと向かった。
「にしてもツカサ、お前凄いモノ頼んだな」
「凄いモノって、なにが?」
俺の前を歩きながら言うロサードに首を傾げると、相手は口笛を吹く。
「何って、召喚珠だよ。まさかお前がモンスターを従えられる凄い奴だなんて、思ってもみなかったぜ」
「それよく言われるけど、俺はモンスターと友達になって召喚珠を貰ってるだけだから、そう言うんじゃないぞ?」
「それでも凄いよ。普通、二つも召喚珠なんて持てないからな」
そう言うもんなんだろうか。
でもクラーケンの召喚珠を二つ持っていた奴も居た訳だし、レベルが高ければ何十個も召喚珠を持ってるんじゃないのかな。
戦いに勝って召喚珠を勝ち取るってのが、未だに俺には良く解らないが。
そんな事を考えながら、丁字路に差し掛かる、と。
「うわっ!?」
「ぐっ!」
いきなり横っ腹に強い衝撃が走って、俺はそのまま床に転げる。
何が起こったのか良く解らなくて目を白黒させていると、俺の対面から唸るような声が聞こえた。あ、あら、もしかして俺って誰かとぶつかっちゃった?
「おい大丈夫かツカサ!」
「だ、大丈夫……あの、ごめんなさい、俺よそ見してて……っ」
そう言いながら相手の方を向くと、そこには……銀髪で耳が長く尖った、綺麗な青年が尻餅をついていた。
「あれ……」
「――っ!」
自分の姿を見られた事に気付いたのか、彼は驚いたかのような顔をすると、そのままそこらへんに転がっていた帽子を目深にかぶり、逃げるようにその場から去ってしまった。
「……今のって…………エルフ?」
「えるふ? なんだそりゃ。さ、早く行くぞ」
「う、うん……」
……今の人、どこかで見た事が有るような気がするんだけどな。
どこで、会ったんだっけ……?
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