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彩宮ゼルグラム、炎雷の業と闇の城編
14.なにがどうしてこうなった 1
しおりを挟む言うが早いか、俺はアドニスにロサードと連絡を取って貰い、一日だけ彩宮の外……いや、皇帝領の外に出ることになった。
一日だけと約束したのは、俺達の動きが他の人に知られるのを防ぐ為でもあったけど、一番の理由はヨアニスやアレクの安全の為だ。
もし“誰か”にヨアニスが子供の生存を知った事を気付かれてしまえば、アレクや教会の子供達に危害が及ぶかもしれない。それに、ヨアニスにも何者かの魔の手が及ぶ可能性が在った。
だって、俺が見たヨアニスが本当の彼であるなら、ソーニャさんがアレクの事を隠し子として育てていた理由は、外部の敵から守る為というものしか考えられないからな……。あの部屋にあった様々な絵本や玩具、それに綺麗なベッドは、ソーニャさんのアレクへの愛情を強く表しているし、アレクもお母さんの事が大好きだったという事を考えても、そこを疑う余地はないだろう。
何より、皇帝相手に小言を言うくらいの相手なのだ。下らない理由なら、むしろ面と向かってヨアニスにガンガンぶつかって行っただろうしな。
それを考えると、やっぱりこの事件はヨアニスとソーニャさん、そしてアレクに対する何らかの悪意が有って、それに因って失踪などの悲劇が起こってしまったって事になるワケだし……皇帝一家にそんな不届きな事をやってのける相手ならば、ヨアニスの身だって危ない。念には念を入れなきゃな。
一応、成り行きで事情を知ってしまったアドニスに護衛を頼んで「陛下の体調がすぐれないので、今日一日傍で様子を見ます」と言う名目で待機して貰っているので、心配はないと思いたいが……なんにせよ、用事を済ませたら早く帰ってこねばなるまい。気を引き締めなきゃな。
嬉しくないぞ、俺は一旦戻ってこれたなんて事ではしゃいじゃいられないのだ。
ロサードに用意して貰ったリュビー財団専用の馬車の中で一人揺られながら、俺は自分に気合を入れるように頬をパンパンと叩く。
な、なーに、ブラックには数日前に会ってんだ。今更嬉しいもないわ。クロウやロクだって、絶対に元気にしてるって思ってたから心配してないし。
……ニヤニヤしてないし!
「……ええと、それにしても遅いな。早く着かないかな」
ロサードが言うには「ウチの財団の専用の馬車なんで、他に付けるとマズいんだよ。だから、リュビー財団本部に集合って事にしとくぜ」との事で、俺はまさかのリュビー財団の本部でブラック達やシアンさんと会う事になったんだが……しかし、避けてた所に出向く事になるとは思わなかったなあ。
てか、ロサードがリュビー財団の番頭役筆頭って物凄く偉い立場だったのにもびっくりだよ。番頭って言えば、店主の次に偉い立場だろ? その番頭役の中でも筆頭って事は、財団で実質的に下を取り締まってる奴らのリーダーって事になるって事で……なんでそんな人が行商の旅に出てるんだ。
いや、そういう立場の人間だから、お偉いさんとの交渉のために色々と動き回ってるとかなんだろうか。古代技術で作られたライターとか持ってるって事は、相当凄い人に気に入られてるって事だし……。
「まあいいか。人の役職とか俺には関係ないしな」
流石に王族とかには遜るべきだろうけど、ロサードは気の良い兄ちゃんだし、相手もこっちが畏まるのは嫌いみたいだから気にしないでおこう。
リュビー財団と言えば、内部が腐ってて大変な団体だと思ってたけど、よく考えたらシアンさんに内部調査を依頼する人もいるんだし、ロサードみたいな情に厚い奴もいるんだから、悪い奴ばっかりじゃないんだよなあホント。
偏見はイカンね、うん。
そんな事を思いながら周囲を見ていたら、いつのまにか窓の外は妙に小奇麗な街並みに代わっていて、ここが貴族が住んでいると言う区域の近くである事に俺は気付いた。お貴族様の住む町はお洒落なフェンスの向こう側なので、俺達のような下々のモノは貴族エリアには入れないのだが、しかし街と言う者は隣接するモノによって随分と姿が変わるらしい。
考えてみれば、下民街の近くのエリアは大体ちょっと荒々しい感じだったな。
俺は小奇麗な街より荒々しい街のが好きだけど、街ってほんと住んでる人に影響されやすいんだな。まあ、汚いオフィス街とか嫌だし別に不満はないが。
でもやっぱ貴族の街っていけすかねえ……。何で位がお高い人々の家って、おガーデンやらおカフェみたいなキラキラ真っ白西洋風な建物ばっかなの。
品位を高める為っていう理由は解ってるけど、やっぱ相容れねえわ。
男は黙って日本家屋。とか何とか思っていると、前方に何やら一際大きくて豪華な邸宅のような物が見えてきた。
「おっ、あれかな……?」
建物の真っ正面には独特な紋章が描かれた看板が掲げられており、その横に【リュビー財団本部】と格好いい感じの字体が刻まれていた。
玄関前のロータリーには出待ちをしているのだろう厳つい馬車や、綺麗な身形をした人達がたむろしていて、それだけでここが大会社なのだと理解出来る。
俺も一応は綺麗な服を着せて貰ったけど……服に着せられてる状態で、何かもう今から降りるのが怖くなってきた。
普通のシャツにスラックスみたいなズボンにベストとか、俺の世界だと事務のオッサンが普段着にしてる感じのアレなんだけど大丈夫かな。
ロサードが持って来てくれただけあってすげー高級品なのは解るけど……。
いやこれ汚せないな、ぜったい弁償するのに金掛かるわ。
「坊ちゃん、到着しましたよ」
「えっ!? あ、はい! ありがとうございました!」
色々と考えている間に御者台のお爺さんにそう言われて、俺は慌てて馬車から降りる。すると、そこにはもうロサードが待ち受けていた。
「よっ、釈放おめでとさん」
「違うってば! ……それで、ブラック達は?」
「会議室の方で待ってるよ。旦那達も玄関の前で待ち受けたかったみたいだが……それは流石にウチの品位にも関わるんで……な」
「あぁ……お察しします……っていうか本当ウチのオッサンどもがすみません」
そうだね、あの人達絶対何かしら騒ぐもんね……。
なんかもう本当すみませんと頭を下げつつ、俺はロサードと一緒にリュビー財団本部へと足を踏み入れた。
「うーん……やっぱ大企業って感じだな」
「まあな。とはいえ、幹部連中以外の奴らは殆ど各地に散ってるんで……本音を言えば、こんなに豪華にする必要は無いんだがな」
要するに、内装に過度に金を掛けるのが勿体ないってことか。
まあ確かに、どこそこの大豪邸といった感じの内装は、商人の会社にしては金を掛け過ぎと言えなくもないが、そこそこ見栄えのする建物でなければ相手に足元を見られるって事もあるしなあ。
ラッタディアの裏世界であるジャハナムでもそうだったけど、それなりの地位の人を招く場合は、やっぱりそれなりの場を用意せねばならないのだろう。
その辺りのマナーはよくわからんが、大人の世界って大変だ。
クラシックホテルと言った感じの洒落た内装を観察しつつ、ロサードの後に続いて階段を上り、人気の少ない場所まで来ると、ロサードはある扉の前で止まった。
「旦那方ー、お待ちかねのお姫様っすよー」
「ちょっ……!」
何を言っとるんだこいつは!
思わず手で口を抑えようとしたが、しかし相手も素早いもので、俺を軽く躱すと扉を開けて中に入ってしまった。空振りになった俺は、つんのめって変な歩き方になりつつ、つられて部屋に突入する。
「おっとっとっと……っ」
ぐう、無様すぎる。
再会して早々こんなへっぽこな姿を見られてしまうとは、と、すぐに体勢を立て直して顔を上げると。
「あ……」
長い机に手を突いて立ち上がっている、背の高い二人。
見間違えようはずもない、ブラックとクロウの二人が、机の向こうで嬉しそうな泣きそうな良く解らない表情で、俺を見つめていた。
「つ、ツカサ……」
「ツカサ君、おかえりぃいい」
そう叫びながら二人は机を軽々と飛び越えて、一瞬で俺に接近すると左右から逞しい体で俺を圧縮、いや圧死、いやえっと、あれだ。抱き締めて来た。
何でも良いけど苦しい! 苦しいってば!!
両方から筋肉で俺を挟むな!!
「ぐええええしぬううううう」
「ああああツカサ君ツカサ君ツカサ君んんん」
「ツカサっ、ツカサ、会いたかったぞ……っ!!」
解ってます解ってますけどとにかく離して死んでしまいます。
特にクロウお前力入れ過ぎ内臓がっ、内臓が!
「お、おいおいおい旦那方! 折角会えたのに絞め殺す気か!?」
「あっ……こ、こら熊公ツカサ君の顔が真っ青になってるだろやめろ!!」
「ウグッ!? あっ、ああツカサ! 死ぬなツカサ!」
お前も死ぬほど締め付けてただろブラック、と突っ込みたかったがまあいい。
これ以上この話題を引っ張ってたら多分終わらない。
恐らく青ざめているだろう自分の顔から汗を拭いながら、俺はやっと人心地ついた。はあ、全く……再会したらこれって、やっぱ玄関前で待たせなかったのは正解だったな……。
俺だって二人との正式な再会を喜びたかったのに、感動がふっとんじまったわ。
「でも、本当に無事でよかった……ツカサ、会いたかったぞ」
「クロウ」
「あれからどれだけ心配したか……」
橙色の綺麗な目をウルウルさせながら、クロウはまた俺に近付いて来る。
またもや締められるのかと警戒してしまったが、本当に悲しそうなクロウの顔を見ていると毒気を抜かれてしまい、俺はまた抱きつかれてしまった。
「ツカサ……」
見上げる耳が、嬉しそうに動いている。
服に隠れた尻尾も動いているんだろうなと思うとちょっと絆されてしまって、俺は我慢強く待ってくれていた相手に応えるように、広い背中に精一杯に手を回してぽんぽんと優しく叩いてやった。
……二番目の雄とかなんとか言っても、ブラックと同じくらいに心配してくれたんだろうし、それを考えるとやめろとは言えないよな。
それはブラックも理解しているようで、背後で不機嫌なオーラを放っているようだが、とりあえずはクロウの為に我慢してくれているらしい。
ブラック、成長したなあ……ちょっと感動するかも……。
「ツカサ…………」
「ごめんな、クロウ。心配かけて……」
「うぅ……」
クロウは俺の髪に顔を埋めて、俺の腰を引き寄せてすっぽりと包み込む。
ブラックとは違う、だけど安心できる匂いに体を預けていると。
「んっ!?」
ちょっと待て、な、なんか、手が下がって来たんですけど。
がっしりした手が腰から下に移動してるんですけど!!
「ツカサ……良かった……安産型の尻が痩せてたらどうしようかと思っていたが、どうやらこちらも無事みたいだな」
そう言いながら、何をするかと思えば、クロウはおもいっきり俺の尻を撫で回しはじめたのだ。……おいおい待て待て待て。
揉むな。何でこの展開でお前は俺の尻を揉んでるんだよ!!
「こっ、こらクロウっ! やだって、このっ、ちょっと、だ、駄目だって……!」
「だがこれは……やはりちょっと痩せて……クッ、嘆かわしい……!」
「ゴルァア駄熊なに勝手にツカサ君の尻を揉んでんだぁああ! この尻は僕の為の尻だぞ!」
「そう言いながらアンタも揉むなぁ!!」
僕の為の尻ってなんだ、俺のケツは誰の物でもないんですけど!!
だっ……さ、左右で互い違いに揉むな、なんでアンタらこういう時に限って変なチームワークの良さを発揮してるんだよもうううう!!
「やっ、だ、離せってばっ、も……馬鹿っ、ばかぁ……!!」
「つ、ツカサ君っ……ハァ、ハァ……感じてるのかな……? ふ、フフフ……」
「顔が真っ赤だぞ……本当に可愛いな、ツカサは……」
ひぃいいスイッチ入っちゃってるちょっとまって人前なのにぃいい!!
「ろ、ロサード助けてっ!」
「ええー、でも旦那方って邪魔すると後が怖いからなぁ……」
「話が進まないだろー!! お願いだからー!!」
「あーもー、旦那方それくらいにして下さいよー。可愛いのは解りますけど、コトが終わってからイチャイチャして下さいよ、目の毒っすよ。ツカサのそんな顔とか俺に見せびらかしていいんすか?」
俺の懇願に折れてくれたのか、ロサードは呆れたような声で言う。
そんな言葉でこいつらが止まってくれるのか、と思ったが……意外にも、二人は俺からすんなり手を離してくれた。
「そうだね、後でやればいいか」
「足がかりが出来た以上、離れ離れになる心配はないしな」
おや、妙に聞き訳が良い……と俺は感心したのだが、二人がボソリと呟いた次の瞬間、ああやっぱりコイツらは変わってないんだとゲンナリせざるを得なかった。
「終わったら一晩中犯そう……」
「終わったら存分に食わせて貰えばいいか」
……言ってる事は違うはずなのに、同じ意味にしか聞こえないのは何でだろう。
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