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帝都ノーヴェポーチカ、神の見捨てし理想郷編
21.努力して得た技術を笑うなかれ*
しおりを挟む「そのアンプネペントはまだ実験段階でしてね、ちょうど試してくれる人を探そうと思っていた所だったんですよ」
「そっ、んんっ! そん、なっ」
「安心して下さい、触手を挿入されるなんて事はないので、思う存分気持ち良くなって貰って結構ですよ」
「そ、そうじゃなくてぇえっ!」
この人何考えてんだよっ、普通こういう時って嫌がってる俺を助……いや、そう言えばこの人普通の人じゃなかった……。
人の事をあまり気にしない人っぽいから、そりゃこんな事も言いますよねえ!
あぁああどうして俺はこんな時にばっかりドジを踏むんだ!
「それにしても……ツカサさんの肉体は随分と美味しいようですね。吸引型試作体二号がこんなに活発になるのは初めて見ましたよ」
てな事を言いながら、アドニスさんはちゅうちゅうと左右の乳首を吸われる俺を興味深げに観察する。その視線が真っ当であればあるほど、自分の今の状況が恥ずかしい物に思えてしまい、俺は喘ぎ声を必死で噛み殺しながら視線を逸らした。
だけど、アドニスさんはそんな俺の事など気にもせず、触手に抱え上げられている俺の痴態を間近で観察しようと近付いて来る。
人に……まだ知り合い程度でしかない相手に、こんな姿を見られている。
その上、俺の浅ましい分身はたったこれだけでもう反応し始めているのだ。それを考えると、もう居た堪れなくて仕方なかった。
「んっ、く……ぅんん……っ、うぅ……」
「吸い付き方は……悪くないみたいだ。この分なら調整はいらないかな」
「っ、ぁ、の……なんでっ、こんっ、ぅあぁっ、こんなっ、植物……っ」
「ん?」
「こ、んぁ、もんすたっ……っあ、あぅ、うぅう……なんっ、で、ここにぃ……っ!」
一生懸命喋ろうとしているのに、俺が声を出すたびに触手が肉厚な内部で乳首を挟みあげて吸うもんだから、上手く喋れない。
それでも、どうしてこんな破廉恥な物が実験場にあるのか、せめて理由だけでも知りたくて必死で問いかけると、アドニスさんは綺麗な顔で微笑んだ。
「これは私が育てた……というか品種改良した植物です。まあ副産物的なものではありますが……これも研究資金の為ですので。……しかし、良い顔をしてくれますねえ。こっちまで欲情してしまいそうですよ」
「そ、んなっ、ぅっ、うあぁっ……!」
変な事言わないでくれよ、こっちはもう耐え切れないってのに。
ズボンの中もきっとどうしようもない事になってる。こんな所を人に見られて、変な気分になるなんて言われて、どうすりゃいいんだよ……っ!
「も、や、ぁ……やぁあ……! おねがっ、だからっ、も、はなしぇっ」
「ふふ、快楽は知っているくせに初心なんですね……。恥ずかしがるわりには君の陰茎は素直に膨張しているようですが……これも誰かさんの調教のお蔭ですか? いやあ、実に羨ましいことだ」
アドニスさんの手が、俺の股間に近付いて来る。
それが何を意味するかもう解っていて、俺は涙目で首を振るが、アドニスさんは意地の悪い笑みに顔を歪めて、その細く綺麗な指で俺のズボンの合わせ目を下からつうっとなぞりあげた。
普段なら、そんなことで感じるはずもないのに、俺は。
「っあぁぁあ……!」
「悪くない感度だ。ここも吸引したらどんな風になるのか、気になりますねえ」
「ぁっ……!? や、やらっ、そ、それだけはっ、あぅう! お、おねがっ」
「ん? それはこのまま乳首を吸い続けられたいと言う事ですか? 困りましたねえ、この試作体二号は対象の愛液か精液を摂取しないと止まれないんですよ……と言う事は、君はこのまま乳首を吸い続けられて、その可愛い飾りを肥大化させたいんですね?」
「ふあぁあ!? ち、ちがっ、ちがいまぅっ、んっ、ぅうう……!」
そんな訳がない。開発された上にデカくなってたまるか。そんなのエロ漫画の中だから萌えるけど、実際にやられて嬉しいワケないじゃないか。
必死に頭を振る俺に、アドニスさんは嬉しそうに目を細める。
見下ろす彼の顔は綺麗だが、しかし、どこか俺をいたぶるのを楽しんでいるかのような雰囲気が感じ取れた。
も、もしかしてこの人……ドS属性ってヤツ……?
「解放してほしいなら、試作体二号にお願いしなければなりませんね。ああでも、そんな風に恥じらって足を閉じていたら感知出来ませんよ。お願いするのなら、ちゃんと無様に股を広げて許しを請わなければ……ね?」
「ぅ……ぅう~~……っ」
なんでそんな事しなくちゃいけないんだよ、一昨日だってブラックとクロウに同じような事されて、精も根も尽き果てたってのに。なのに、何で。
あの二人の前でだって恥ずかしかったのに、それを良く知りもしない相手の前でやるとか……そんなの出来る訳がない。
……だけど、逃れるには、そうするしかない訳で。
「ううぅ…………」
俺はアドニスさんの目の前で、擦り合わせていた足をゆっくりと開く。
すると触手は俺の動きを察したのか、椅子に座らせるような体勢に俺を動かし、アドニスさんに大股に開いた姿を見せつけるようにしてしまった。
「あっ……や……やだぁ……っ」
膨らんだ俺の股間が、明るい場所に曝される。
そんな俺の姿を見てアドニスさんが愉しげに微笑んでいるのが恥ずかしくて、俺は涙を零しながら頭を振る。この体勢でなんて、そんな……。
「言わないと、終わりませんよ」
楽しそうな声。ブラックの声で聞き慣れていた、熱っぽい声だ。
だけど目の前の相手はブラックじゃない。クロウでもない誰かで。
それを思うと声が出なくなってしまったが、触手に無理矢理に乳首を吸われて、もうどうしようもなくなって、俺は情けない泣き声で背後の触手に懇願した。
「お、ねがっ……お願ぃっ、おれのっ……お、俺のおちんちん……さわ、って……もう、いかせて……!」
大きく足を開かされて、恥ずかしい事を言わされて、熱が上がっていく。
アンプネペントは俺の願いを聞き届けたのか、鮮紅色のグロテスクな触手を増やし、膨らんだ股間へ一気に襲い掛かって来た。
「はっ、あっ、あぁああ……!」
人間とは全く違う動きをする触手にズボンを膝下まで降ろされ、曝された下着の中に一斉に大小の触手が入り込んでくる。そして既に勃起しきっていた俺のモノを包み込むと、ぬちぬちと音を立てて擦り始めた。
「ぁああぁっ!! やっ、あ、あぅうっ、そんな、たくさっ、だ、めっ、だめぇ……!」
「まだ射精してはいけませんよ。服を汚さない為にもね」
「ぅあぁっ……!? あ、あぅっ、ぅんんっ、なに……っ」
愉しそうなアドニスさんの声に応えるかのように、俺の目の前にもう一つ触手が現れる。それは、俺の乳首に張り付いている吸盤型の触手だった。
そう、いえば……吸うってさっき言っていたような気がする。
だとしたら、この触手って、俺の……。
「やっ、やだっ、ま、まって、そんなのやだっ、吸われたぁっ、あぁあっ! す、吸われたら、そんなのっ……!」
「良いじゃないですか。よがり狂って、ツカサさんの可愛い姿を見せて下さいよ。きっと恐ろしいくらいに気持ちよくなれますよ……?」
触手達が連携するかのように、下着をずらして俺のモノを露出させる。
俺が止めようと口を開いたと同時、吸盤型の触手は勢いよく先端に取りついた。
「やぁああっ! やらっ、ま、だえっ、そんな吸っあっああぁああ!! だえっ、ひぐっ、吸っちゃやだあぁあっ……!」
柔らかくて濡れた感触が先端を包んで、緩急をつけて吸い付いて来る。
口の中とも手とも全く違う、狭く締め付けるような感覚。あまりにも刺激が強くて、俺は子供のように泣きじゃくりながらがくがくと体を震わせる。
乳首もおちんちんもちゅうちゅう吸われて擦りあげられて、こんなのもう、耐え切れない……っ。目の前にアドニスさんがいるっ、いるのにぃい……!
「あぅうぅっ、んっ、あっあぁああぁ……っ! も、や、らっやらぁあっ! ひっゃうっ、ひぐっ、いっ、いっあぁああ……!!」
あられもない姿で、俺は腰をびくつかせる。
思いきり精を吐き出した俺に気付いたのか、アンプネペントは音を立てて乳首から触手を離すと、その二つともを精液が滴る竿に貼り付けて来た。
「あ゛ぁあ゛あぁ!? だめっやっ、いっ、いあ゛あっ! 吸っちゃだめぇえ!」
そんなっ、イッたのになんでっ……!?
止めたいのに手も足も動かない、やだ、吸わないで、擦らないで……!
「ふふ、痙攣するほどイイんですか?」
「やぇ゛っ、とめてっ、もっ、やだ、やぁあぁあ!」
「ああ、申し訳ない……この試作体二号は一定数の濃さの精液でないと満足しないんですよ。ふっ……ツカサさん、精液がずいぶんと薄かったみたいですね? もしかして、ここに来る前に誰かに犯されてよがっていたんですか? 純情そうな顔に似合わず好色なんですねえ……」
「ち、がっ、ちがうからっ、も、やだ、やぁあぁ……っひぐっ、ひっく、ぅあっあぁあぁ……」
痛いくらいの快楽に顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにして、俺は首を振る。
違うよ、俺が悪いんじゃない。ブラックとクロウが俺にえっちな事ばっかりするから、だから、こんな風になっちまったんだよ。
「もっ、やら、すわれるのやらぁああ……っ」
「ほらもう少し我慢して。可愛い陰茎も頑張って勃っているんですから。ふふっ、さあ、イくならイくとちゃんと言わないと……」
「はっ、あうぅ……っいっひゃぅ、も、らぇっいぐ、いっちゃっあっあうぅうう……!」
強く吸われる感覚に歯を食いしばって、俺は痛いくらいに目を瞑る。
間を置かずに酷使された俺の急所は震えたが、射精したかどうかも解らないほどに吸い付かれて、俺は仰け反りながら震えるしかなかった。
◆
「いやあ、いい記録が撮れましたよ。ツカサさん本当にありがとうございます」
相変わらず緑が溢れる研究室。
部屋の片隅にあるテーブルについていた俺は、声を掛けられて顔を上げた。
「温度管理がしてあるとはいえ、流石に体が冷えたでしょう? はいこれ」
そう言いながら温かい緑茶を渡してくれるアドニスさんに、俺はげっそりした顔をしつつありがたくそれを受け取る。
あの後もう一度精液を搾り取られて精も根も尽きた俺は、もはやアドニスさんに文句を言う気力も無くなっていた。
俺の膝には触手に投げられて目を回していたピクシーマシルムが寝ていて、辛うじて俺の正気を保たせてくれているが、キノコちゃんが居なかったら今頃俺は泣きながらブラック達の所に帰っていた事だろう。
ああちくしょう、憎しみで人が殺せたら。
「それにしてもツカサさん、貴方は実にいい被験者だ。もし良かったら、私専用の被験者になって下さいませんか? 報酬は言い値で構いませんよ」
「おーこーとーわーりーしーまーすうううう!!」
ふざけんな!! 誰があんなド変態なモノがある実験場で被験者なんて……いや待てよ、あれに襲われた=私専用の被験者って事は……。
「あの……もしや、アレ以外にもえっちな植物があるんですか……。って言うか、そんなもん栽培して何の研究してるんです? アドニスさんって、この国を緑化する為の研究をしてたんじゃ……」
「ははは、質問が沢山ですねえ」
俺の問いに朗らかに笑うと、アドニスさんは自分用のカップに注いだ茶を飲み、一息ついてから答え始めた。
「この部屋を見れば分かると思いますが、あれはあくまでも研究している物の一部に過ぎません。それに基本は荒地の緑化である事に変わりは有りませんよ。薬師としての称号も、あの玩具も、研究する内に偶然出来た副産物なんです。最近はその副産物の方が忙しくて、研究が進まなくて少し困っているんですがねえ」
「お、おもちゃ……?」
あのアンプネペントが玩具ってどういうことだ。
目を丸くしてアドニスさんを見る俺に、相手はにっこりと笑って言い放った。
「ええ。見た事有りませんか? 蔓屋という店にある豆型の擬似触手や、媚薬とか……あそこの植物性の玩具は、全て私の作品ですよ」
「あれ作ったのアンタか――――!!」
ああああアンタのせいで俺は度重なる変態のプレイに泣かされてっ!!
「もしかして、使って下さったんですか? いやー嬉しいですねえ。どうでした、使用感は。ちゃんと絶頂までいけましたか? ちゃんと試しはしたんですが市場の言葉は私には届きにくい物でしてねえ、で、何を使っ」
「あ~~~!! そ、そんな事はどうでもいいでしょうっ!? それより俺の薬の結果はどうだったんですか!!」
にわかに活気づいて俺に迫ってくるアドニスさんに、俺は慌てて話を変える。
俺がここに来たのはそんな話をする為じゃないです本当勘弁して下さい。
必死で逃げる俺にアドニスさんは少しつまらなそうに顔を曇らせたが、立ち直りも早いのか再び顔に笑みを浮かべるとカップをテーブルに置いた。
「そうでしたね。……では、簡潔に言いましょう」
「は、はい」
神妙な顔つきになったアドニスさんは、椅子に座って俺に視線を合わせる。
先程とは打って変わって静かになった相手に思わず身を固くしていると――相手は、静かに切り出した。
「ツカサさん。あなた……何者ですか?」
「…………え?」
思わず声を漏らす俺に、アドニスさんは真剣な表情を崩さずに続ける。
「あの回復薬の効果は、明らかに人知を超えています。良く出来た回復薬ですら、壊死した部分を修復する効果までしか構築できないと言うのに……貴方の薬は、量によっては失ってしまった分の血液や曜気ですらも再生できる可能性がある」
「それ、って……」
「有り得ない事です。通常、回復薬とは人体に存在する気を活性化させ、治癒力を高めるための薬……故に、壊死や欠損には効果がない。なのに、君の薬は明らかに失われた物以上の治癒効果を発揮した。……こんな凄い薬が市場に出回ったら、他の薬師は職を失うでしょうね」
どういう、ことだ?
回復薬は欠損や失われた血液まで取り戻す事は出来ない。それは前に本で読んで解っていた事だ。俺だって知っている。理解していて、本に書いてある通りに薬を作っていたんだ。なのに、それ以上の効果があるって……そんなバカな。
瞠目してアドニスさんを見る俺に、相手は目を細めた。
「値で言えば、効果は回復薬の数百倍。この薬一瓶で、今現在の医術では実現出来ない施術も可能になります。まさに……神の薬ですよ」
「で、でも、俺……普通に作っただけで……」
「ええ、そうでしょうね。成分自体は他の回復薬と全く同じ物でしたし……まあ、調合する際の素材の選別は見事ではありましたが」
「じゃ、じゃあ、下拵えしてきちんと作ってたから……」
「ありえませんね。私もツカサさんと同様に薬効の強い部分を薬に使いますが、それでもこの効果を再現する事は出来ない……この、私がですよ」
「…………」
「だから、お聴きしたいんです。……ツカサさん、貴方何者なんですか?」
畳み掛けられて、怜悧な眼差しで射抜かれる。
だけどその答えを言えるはずが無くて、俺は目を見開いたまま息を震わせた。
――どうしよう、どう答えればいい?
俺にはどうしてそんな薬になったのか解らない。思い当たる事があるとすれば、それは黒曜の使者だからと言う事だけだ。でも、それを喋る訳にもいかない。
断定はできないし、何よりそれが本当に黒曜の使者の力であれば、それこそ誰かに利用されてしまいかねないのだ。
……嘘をついて逃れるか。
しかし、相手は研究者だ。絶対に俺よりも頭がいい。
下手な事を言えば矛盾を指摘されて墓穴を掘るだけだし、かと言って心当たりはないと答えても不自然だと思われるだろう。
回復薬に使う材料が違うのでは……という逃げ台詞すら、先程のアドニスさんの発言で封じられてしまっている。
どうしよう。
まさか、自分の薬にそんなイカれた威力が有るなんて思わなかった。
回復量が違うとは前から言われていた。傷だらけの獣人達を一気に治癒できたのだって、チートだチートだとはしゃいでたけど、本当にそんな物だなんて思ってもいなかったんだ。
だから、ラフターシュカでリン教の人達がいきなり元気になったのだって、俺の薬の作り方が凄いからだって、そう……思ってたのに。
……俺の作った薬は……俺の努力の結果じゃなく、チート能力のお蔭で凄い能力を発揮していたっていうのか……?
「…………」
なんだよ、それ。
俺は自分の力でちゃんと薬効があるかどうかを調べて、自分の力だけで頑張って、そうしてあの回復薬を初めて作ったって言うのに。
なのに、その回復薬の効果は全部チートのお蔭だったってのかよ。
薬草を選ぶ手間も、丁寧に作った事も、全部……無駄だったってのか。
俺自身が一生懸命にやった事は、全部。
そんなの…………そんな、ことって……。
「…………泣かないで」
「え……」
少し心配したようなアドニスさんの言葉に、俺は思わずびくりと震える。
その拍子に目から涙が零れて、俺は初めて自分が泣いていた事に気付いた。
「うわっ……な、なんで……ごめんなさい、俺」
「いえ……すみません。私も少し性急すぎましたね。……これをどうぞ」
「あ、ありがとうございます……」
ハンカチを渡されて、慌てて目を拭う。
雫が落ちたらピクシーマシルムが起きてしまうかもしれない。必死でゴシゴシと目を擦っていると、アドニスさんは今までとは違う、少し苦みを含んだ柔らかい笑みを浮かべて俺に語りかけて来た。
「……どうやら、本当に原因は解らないみたいですね」
「なんで解るんですか……?」
「貴方の涙を見れば、すぐ解りますよ。……技能を持つ人ならば、誰もが皆自分の手に自信を持っている。だから、その力を疑われた時には酷く傷ついてしまうものなんです。貴方もそうだった。なら、少なくとも貴方はきちんと薬に関して学んでいたという事の証拠になる。曜術の力にかまけて素材の事を考えない薬師が多い今の世で、自分の技量を疑われてここまで傷付く人は珍しいですよ」
「アドニスさん……」
「ただ、泣いてしまう事はあまりありませんがね……ふふ、可愛いですね」
「うぐ……」
は、恥ずかしい……まんま子供じゃねーか俺……。
顔が熱くなって思わずハンカチで顔を隠す俺に、アドニスさんは笑う。
その笑顔はやっぱり、出会った時と違うより自然な微笑みだった。
「まあ、どんな力であれ……君の調合の腕は確かです。こんなにきちんとした薬を作っているのですから、それは確かに君の力ですよ。だから、もう泣かないで」
「は、はい……」
「しかし……この薬はあらゆる意味で危険ですね。これから使い続けるにしても、人の手に渡ってツカサさんの能力が知られてしまうと厄介な事になりますし……」
「あの……意図的に薬の効力を下げる事ってできないんですかね?」
そうすれば、人に売る時も心配しなくて済むのだが。
何とかならないだろうかとアドニスさんに話すと、相手は少し考えたが……またニコリと笑って俺の手を取った。
「そうですね、やってみましょうか。効力の減退……なるほど面白い研究です! 上手くすれば他の研究の役に立つかもしれませんし……」
「あ、ありがとうございます!」
思わず相手の手を握ると、アドニスさんは少し目を丸くしたが、またあの自然な笑みで笑って手を握り返してくれた。
「とりあえず、また明後日ここに来て下さい。材料を揃えておくので、二人で色々と試してみましょう」
「はい! よろしくお願いします!」
アドニスさんは変な人だし、実験場には恐ろしすぎる植物をわんさか植えてる人だけど、でも、とても優しくて頼もしい。
俺のために時間を割いて貰うのは申し訳ないけれど、俺の事を案じてくれるのが嬉しくて俺は強く頷いた。
その反動が伝わったのか、膝の上のピクシーマシルムが少し声を漏らす。
「ムムゥ~……」
もぞもぞと動いて俺のお腹の方へと近付いて来る姿が可愛い。
片手で落ちないように支えてやると、マシルムは俺の腕に寄りかかって来てまたスヤスヤと眠り始めた。
「あの、明後日も……ピクシーマシルムを一緒に連れて来ていいですか?」
「ええ。ここまでモンスターに懐かれる人も珍しいですからね。存分に観察させて下さい。……それを、薬を作る対価にしましょう」
ああ、本当に良い人だなあ……。
こういう人を大人って言うんだろうなと考えて、俺は何故だかブラックとクロウを思い出してしまい、不覚にも噴き出してしまった。
→
※次はらぶらぶヽ(*・ω・)ノメリクリ
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