異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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帝都ノーヴェポーチカ、神の見捨てし理想郷編

20.世界最高の薬師はとんでもない人でした*

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 ブラック達から離れ、チェチェノさん達の居る特別区域の森を歩く。
 しばらく行くと奥の方にまた厳重な扉が有って、ゲルトさんはその扉に専用のカードを差し込んで解錠した。どうやら今回はカードを忘れてなかったらしい。

 どうぞと言われて中に入ると、そこは金属製の壁で覆われた広い廊下になっていた。なんだか機械の工場とか秘密基地とかそういう物を思い出すが、ゲルトさんは当たり前の風景だと思っているのかすたすたと歩いて行く。
 お、俺的にはなんか急にSFの世界に来ちゃったような感じなんですが……。

「ムゥ~ッ!」
「うん、そうだな……。ちょっとびっくりしちゃうな」

 ピクシーマシルムも黒豆の様な目を更に大きくして、しぱしぱとまばたきしている。
 どうやって目を閉じているのかちょっと気にはなるが、可愛いので良しだ。

「しっかし……どこもかしこも金属とは……」

 壁もドアも徹底的に金属だけど、訳があるんだろうか。
 まあ、ノーヴェポーチカの街自体が蒸気を拭き出したり配管が壁を這っていたりで、金属製のものを見ない日は無いってくらいだけど……。

「金属で建物を作るのは珍しいですか」

 急にそう言われて、俺はびくんと体を震わせたが取りつくろって頷く。

「は、はい……他の国は煉瓦れんがとか木材だったんで……」
「そうでしょうね。……この国には煉瓦に適した土も建材となる植物も無いので、堅牢な建物を作ろうと思ったら金属に頼るしかないのですよ。煉瓦の家も、過去に他国から仕入れていた建材で作られたもので、今となっては建物の補修材も金属板しかありませんし……まあ、この施設は研究施設でもありますから、耐久性の高い建材の方が好ましくは有りますが」

 そうか……オーデルは大地の気も存在しない、草木も生えない国だもんな。
 近代的な都市だなと勝手に思ってたけど、こういう手段しかなかったから鉄の国にならざるを得なかったのか。うーむ、ゲームとかで出てくる常冬の国が、機械式帝国っぽくなるのは当然の事だったのか。
 しかし、金属はどこから調達してるんだろうか。

「オーデルって鉱石が良く採れるんですか?」
「ええ。ベランデルン程ではありませんが、ドラグ山や永久凍土地帯の洞窟などで採掘できています。……とはいえ、あまり数は無く鉄鉱石などの定番の鉱石ばかりですけどね……っと、ここが研究室です。さあどうぞ」

 そう言いながら、ゲルトさんはドアノブも何もない扉に手を振れる。
 ドアノブや取っ手がないんじゃ開かないのでは……と思っていると、扉に触れたゲルトさんの掌が、緑の光に包まれるのが見えた。
 これ、まさか……木の曜気か?

 まじまじと見ていると、曜気は扉のある一点に注がれている。その曜気は一気に鉄の扉に広がると、機械的な音を立てて扉が自動的に開いた。
 じ、自動ドア……!?

「ムゥウウ!」
「そ、そうだなー、びっくりしたなー!」

 驚いたピクシーマシルムが、目を丸くしてカサを二倍くらいに膨らませている。
 あれか、猫が毛を逆立てて威嚇いかくしてるみたいなもんか!
 とても可愛いけど興奮させっぱなしはヤバい。頭を撫でて必死になだめながら部屋の中に入る。俺もちょっと驚いたけど、こ、こんなのはまだまだだぞ。
 自動ドアなんて俺の世界では当たり前だし、中世西洋風の世界でも作れない事もないし、なによりこの世界には曜具って便利な魔道具があるから、別に自動ドアがあったって何の不思議もないよな! うん!

「ツカサさん、驚いちゃったんですね」
「えっ! なんで解ったんスか!?」
「ふふふ……君は本当に正直な人なんですねえ」

 まさか、また顔に出てたってのか俺は。なんで自分で解んないのに表情に出ちゃうんだろうか……こんなんだからブラックにからかわれるのに……。
 そんな事を思いながら、顔を上げて――――俺は、また言葉を失った。

「ようこそ、皇帝陛下直属の薬師の研究室に」

 ゲルトさんが真正面でにっこりと笑う。
 その彼を中心として広がる部屋には、机と様々な器具、ぎっしりと本が詰められた本棚……そして――――所狭しと咲き乱れた植物が天井にまで根を張り、まるで森に侵食された庭園のような部屋がそこにあった。

「う……わ……」

 ゲルトさんの背後にはガラスの壁が有って、その奥でも木々が鮮やかな緑を芽吹めぶかせている。あっちは実験場……なのだろうか。
 しかしまさか、研究室に森と見紛みまがうほどの植物が生えてるなんて。
 それにこの部屋の植物は全て、緑色の光を薄らと帯びている。こんな光景は見た事がない。木々が緑の曜気を散らしてる所なんて……初めて見た。

 これが、世界に名を轟かせる薬師の力って事か……。

「素直な反応ですね」
「あっ、い、いや、すみません……その、植物園みたいで驚いちゃって」

 木々に興味津々のマシルムを降ろして自由にしてやると、俺はアハハと照れ隠しで笑う。そんな俺をゲルトさんは目を細めて見つめていたが、マシルムが横を通りぬけて行った事に視線を動かして眉を上にあげた。

「……植物園、ですか。本当にそう思いましたか?」
「え?」
「同族におためごかしは通用しませんよ。……貴方にも見えているのでしょう? この部屋の木々が、見ようとせずとも解るほどの曜気を吐き出しているのが」
「っ……!」

 ゲルトさんの目が、妖しく光る。
 まるで見透かすかのようなその眼差しに、思わず声が詰まった。

「貴方も植物を司る曜術師……しかも、恐らく私に次ぐ力……限定解除級の力を持っているはずだ。そうでなければ、この研究室の有様に驚く事は有っても……木々から漏れる光を目で追う事なんて出来ませんからね」
「あなたも、って……ことは……」

 まさか。
 目を見開く俺に、ゲルトさんは口を弧に歪めた。

「改めてようこそ、優秀なる曜術師よ。この私――アドニス・ゲルト・パブロワの大実験室へ!」

 …………え。

「えええええええ!? ちょ、ちょっと待って、ゲルトさんがパブロワ!? この前まで完全に“別にそう言う人がいる”的な感じだったじゃないっすか!」
「いやー、そう言う感じでやっとかないと、ばれちゃいますからねえ。ほら、私って美男子だからいつも人に見られてますし、そんな状態だから色々隠さないと噂なんてすぐ広まっちゃいますからねえ」
「えぇえ……」

 確かにゲルトさん……あれ、この場合なんて呼べばいいんだ。どこが名前?
 ええと、とにかくパブロワさんは美形だ。賢者風長髪眼鏡イケメンだ。
 だけど自分で美形って言うか普通。この人変わり者ってレベルじゃねーぞ。
 いやまあ謙遜けんそんされてもそれはそれでイラッと来るけどさあ!

「……さて、自己紹介も終わった事ですし……早速、君の薬を解析しましょうか」
「えっ……な、なんでそれを……」

 俺、自分が作った薬なんて一言も言ってないんですけど……。
 どういう事だと顔を歪めると、パブロワさんはまたもや綺麗に微笑む。

「薬の解析というのはね、新薬や詳細不明の古代の薬を取り扱う際にしかやらない事なのですよ。通常の薬であれば『鑑定』や『照合』を使います。……まあ、この二つは大地の気が無ければ使えませんが……」
「解析って、そう言うのとは別物だったんですか」

 確かに鑑定や照合は気の付加術によって使用可能になる技能だ。
 俺はまだ使った事は無いが、それが薬を調べる際に有用なものになるとは知っている。だから、解析して貰うってのもそう言う技術を使ったものだと勝手に思っていたんだけど……どうやら違うらしい。

「私の『解析』は、付加術ではなく木の曜術で発動させる……そうですね、私固有の技能のような物です。ですが、それを使わなければいけない程の薬なんて、早々ありません。そんな物が、普通の冒険者であるツカサさんの手の内にあるとすれば……それは、君が調合した薬ということになる」
「……おっしゃる通りです……。あの……実は、俺が調合した回復薬の効果の明確な値とか、一般の薬とどう違うのかって言うのを知りたくてここに来たんです。クロウの父親の事もありますけど……」
「まあとにかく解析してみましょう。話はそれからです」

 俺が限定解除級の曜術師だと確信しているからなのか、パブロワさんは俺の話を疑う事もせず手を出す。実際のところ俺は黒曜の使者だから曜気が見えるだけで、限定解除級かどうかは解らないんだけど……まあ、悪い誤解をされるよりは良いだろう。とにかく調べて貰わないとな。
 俺はバッグを開けると、備蓄していた自家製回復薬を一瓶渡した。
 パブロワさんは渡された薬を光にかざして、ふーむとうなりながら片目で瓶の中の青々とした綺麗な液体を眺めた。

「これは……凄い純度ですね。一級以下の曜術師では作れないほどの青色だ。……詳しく解析してみますので、少しその辺りを眺めていて下さい」
「よ、よろしくお願いします。ゲル……えっと、パブロワ……」
「ああ、私の事はアドニスと呼んでください。ただし、この場でだけ」
「わかりました、アドニスさん」

 それだけ言うと、アドニスさんは器具が並べられた机に椅子を引き、そこに座って俺の回復薬をガラス管の中に零し始める。
 眺めていて下さい、と言われてもどこかを触ったら壊してしまいそうで怖くて、俺は手持無沙汰できょろきょろと周囲を見やる。
 どこもかしこも植物だらけの部屋は圧巻の一言ではあるが、何だか人の居場所が無いような気がして居た堪れないな。

「あ、そうだ。ピクシーマシルムと一緒にいようかな……」

 ただ突っ立っているよりも、楽しそうにはしゃぐキノコちゃんを眺めていた方が楽しいもんな。そう思ってどこにいるのかと探したが……部屋には見当たらない。
 もしかして、実験場の方へと行ってしまったのだろうか。
 でも、実験場って俺みたいな部外者が入ってもいいのかな……貴重な植物とかが生えてたりしたら……いや、それなら余計にマシルムが入るのも駄目なのでは? 危険な植物がないとも言いきれないし、早く連れ出さねば!

「あ、アドニスさん、実験場に入っても良いですか!」
「あー? うーん」

 ……だめだこの人仕事に熱中するタイプの人だ。
 仕方ない、後で怒られるかもしれないが、入ってみるしかない。
 俺は開け放たれている入り口から鬱蒼とした森のような実験場に入ると、ピクシーマシルムに呼びかけた。

「おーい! どこだー!?」
「ムムー」

 奥の方から声がする。この実験場、実は結構広いのか……。
 なるべく土が剥き出しになった所を踏みながら木々の群れの中に入ると、少し先の方に何やら大きな赤紫の物体と、その近くで飛び跳ねている小さな物体が見えた。あれはまさしくピクシーマシルム!

「こらこら、一人で入って来ちゃだめだろー!」

 そんな事を言いながら、草木をかき分けて喜んでいるキノコちゃんに近付く。

「ムムー!」

 俺の姿を見つけたのが嬉しかったのか、さらにぴょこぴょこ飛び跳ねる可愛いピクシーマシルム。怒ろうと思っていたのにその姿を見ると毒気を抜かれてしまって、俺はでれでれと顔を緩めながらピクシーマシルムを抱き上げた。

「もー、一人で変な所に来ちゃだめだぞー?」
「ムュー……」

 どんな発音なのかちょっと解らないけど、でもしょぼーんとしているのが可愛いから許す! 全面的に許します! そうだよね大冒険したかったよねえええ!
 んもー本当天使な菌類だなあと思って頬擦りしていると……
 背後で、なにかがガサリと動いた。

「…………ん?」

 ガサガサしてる。なんだ。もしかしてここって何か動物が居るのか?
 そう思って振り返ったそこには。

「……………」

 ああ、ありました。有りましたよ。
 最近までその存在をすっかり忘れて幸せに暮らしていたんですがね、まさかこんな所で遭遇するなんて思っていませんでした。しかも赤紫色の色違い!!
 つーか、なんでっ。なんでここに!

「なんでここにアンプネペントがあああああ!!」

 そう、俺達の背景となっていた赤紫の謎の物体は、なんとびっくりエロ触手ことアンプネペント(色違い)だったのである。
 何でこんなもの見て喜んでたのキノコちゃん!!

 慌てて逃げようとしたが、俺の動きは相手よりも一瞬遅かった。

「うぎゃっ!?」

 完全に相手に背を向けていた俺に対して、生々しい色の鮮紅色をした触手が一気に絡みつく。そして俺を引き寄せると、いくつもの触手で支えて宙に浮かせてしまった。ちょっ、ま、まって、駄目だってコレ駄目だってば!

「ぎゃあああはなせええええ!!」
「ムムムゥ~! ムゥ~!!」

 必死で抵抗する俺を援護するように、ピクシーマシルムが触手を噛んでくれるが、敵はそんな可愛い攻撃など物ともしない。それどころか、小さな体をくるりと巻き込むと、俺から引き剥がしてポイと捨ててしまった。

「ああぁあ! 何すんだテメー!」

 食べなかっただけありがたいけど、でも小さい子を乱暴に扱うなよ!
 思わず怒鳴った俺だったが……コートをいつの間にか剥ぎ取られて上着を捲られていた事に気付き、声が引っ込む。
 いつの間に……しかもこの触手、服を破くんじゃなく剥ぐことを知っているって事は……さては、知能が在るのでは……。

 ゾッと青ざめたが、もう遅い。俺の上着は触手でたくし上げられて、肌を曝されてしまう。このままでは、お、犯される……!!
 でもどうしよう、燃やしたり攻撃したりしたら、アドニスさんに怒られるかも。
 つーか色違いって普通貴重な存在だよな? それを斃したら物凄い損害賠償とか請求されちゃったりして……うわあぁあそれだけはっ、それだけはあああ!

「ど、ど、どうしよ……」

 こういう時にブラックだったら何かいい案を思いついてくれただろうに。
 ……いやアイツ多分俺の事ニヤニヤして見上げるだけだな。絶対そうだよな。
 くそう、素直に助けてくれると思えないのが悲しい。

 そんな下らない事を思っている暇なんて無いのに、と正面を向くと……
 目の前に、先端が吸盤のような形になっている二つの触手があるのが見えた。

「え…………」

 驚く俺に構わず、その二つの触手は俺の胸に吸い付く。そうして何かを探るように、ぺたぺたと移動しながら俺の胸を吸い始めた。

「ひっ、ぃ……! や、ちょ、っと、なにっ、やだって……!」

 俺の制止など聞こえていない触手は、きゅうきゅうと俺の胸を満遍まんべんなく吸った挙句あげくにとうとうある物を見定めてと動き出す。そこには当然、まだ勃ちあがってもいない俺の、乳首が……。
 ……や、やっぱ、そういうタイプの触手なのぉ……。

「やだやだやだ吸うなっ、すうなっ、あっ、ああぁぁあっ!」

 抵抗する途中で急に両乳首に取りついた触手に、反射的に声が上がる。
 びくびくと体が震えたが、触手は気にせずにやっと見つけた乳首を一生懸命吸い上げて立たせようとする。
 そんな事をされたら、今の俺では耐えられるわけがない。

「やぁあぁっ……や、ら……やだってばぁあ……! んっ、う、ぅうう~~っ!」

 強く、激しく吸引されて、腰が砕ける。
 勃ちあがった乳首を緩急をつけて弄られる感覚は耐え難くて、俺は内腿でぎゅっと熱くなる股間を押さえて、快楽に呑まれないように歯を食いしばる。
 だけど、もう、そこを性感帯として開発されてしまった俺には、声も快楽も我慢する事なんて出来なくて。

「ぅあぁあ……っ、や、ぁ……あぁああ~っ……! や、だ、やだぁあ……」

 声が、情けなく伸びてしまう。
 以前の俺ならこんな事で喘ぐ事なんてなかったのに、乳首をちゅうちゅう吸われるだけでもうこんなに体が熱くなってしまっている。
 それが死ぬほど恥ずかしくて、情けなくて、俺は涙声になりながら力の抜けた体を震わせる。泣くなんて余計恥ずかしいだけなのに、でも、どうしようもなくて。

 もうこのまま犯されてしまうしかないのかと、ボロボロ泣いていると。

「おやおや……まさかこの商品の試験体になって下さってるとは……」
「ふぇ……」

 し、しけん、たい?
 涙に塗れた視界で声のした方を見ると、そこにはアドニスさんが立っていた。

「あ、あどにすさ……」
「ツカサさん、とてもいい格好ですね」
「そ、そんなの、いいからっ、た、たすけぇっ、あ、あぅう……っ」

 もうこうなったら、恥かいてでも助けて貰うしかない。
 そう思って必死にお願いした俺に、アドニスさんは笑ってこう言った。

「折角だから、そのまま試して貰いましょうかねえ」

 ……え…………。

 ええええええええええ!!?












※次回引き続きちょっとえっちです…
 
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