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帝都ノーヴェポーチカ、神の見捨てし理想郷編
6.大人のおもちゃ屋は夢のワンダーランド
しおりを挟む……まあ、普通に考えたら、妙に機嫌がいい時のブラックって奴は大抵残念な事を考えているわけで……それを見通せなかった俺も悪いっちゃあ悪いが、しかし「宿に帰ろうか」って言ったハナからこれは無いだろう。
俺はそう思いながら目の前にある建物を見上げていた。
「さあツカサ君、入って見ようじゃないか!」
そう言いながら両手を広げるブラックに、俺は今一度問いかける。
「入って見ようじゃないかって……お前、ここ何だか解ってる……?」
理性は残っていないのかと問いかけてみるが、相手は全くもって悪びれもせず、実に興奮した様子で俺の問いに返答してきた。
「解ってるよ? 前に約束したじゃないか、行ってみようねって。だから、丁度時間も出来た事だし帰り道だし、寄ろうかなって思って連れて来たんじゃないか」
「歩き通しの更に疲れさせようとする気かお前は」
「やだなあ今日買って今日使おうだなんて~。ツカサ君たらえっちだなあ」
「えっちはお前だ!!」
耐え切れずにいい加減にしろと叫んでしまったが、この世界ではその単語は変な意味では使われていないので、叫ぶのは許してほしいと思う。
だって、だってだよ、このオッサン……俺をアダルトグッズのショップに連れて入ろうとしてるってのに、これが騒がずにいられるかってーの!!
「あの蔓屋の本店なんだよ、ツカサ君も興味あるだろう!? いいじゃないか、ちょっとくらい入ったって!」
「だっ、だからってお前三人で入るような所じゃねーだろここは!!」
蔓屋はやらしい大人の玩具があるという店、もしくは俺がずっと気になっていたエロ本が在るかも知れない店だ。そんな所に連れだって入るなんて、どう考えても気まずいだろうが。
レンタルDVD店の18禁コーナーに友達同士で仲良く入るのかお前は。俺はイヤだぞ、自分のエグい好みが友達にバレて気まずい思いなんてしたくない。
友達がコンビニでチラチラと熟女系のエロ本を気にしてた姿を見るだけでもどう反応したらいいのか解らないって言うのに、直球で性癖みせつけられてどうすりゃいいんだよ。笑えねーよ、妹持ちのダチが義妹物のエロ画像持ってた時ぐらいに笑えねーよ。正直中にどんなものがあるのかは興味があるけど、ブラックの嗜好なんてハッキリ確認したくねぇよ!!
「ツカサ、蔓屋とはなんだ」
「うっ、い、え、えっと」
「中に入ってみれば分かるって! さー行こうすぐ行こう!」
「ぎゃーっ! 押すなぁああああ!!」
クロウも一緒に居るのに入ろうとするとは……はっ、さてはコイツ、ここから更に用事が出来てえっちが遠のくのを恐れて、何が何でも近日中に事に及ぼうとしているのか……!?
ヤバい、ヤバいぞ。そう考えると俺今日明日中にヤバいじゃん。
大変な事になるじゃんんん!
「さー入ろうねーいらっしゃいませー」
「あぁああぁあ」
カランカランとドアベルを鳴らして、ブラックは俺の体をでっかい建物へと押し込む。抵抗もむなしく、俺は窓も無い怪しい雰囲気のお店に突入させられてしまったのだった……。
「うぅうちくしょぅうう……」
「ホラホラそんな可愛い顔しないで。見てご覧よツカサ君。さすが本店だよねえ、凄い広さだ。それに沢山人がいるじゃないか、恥ずかしい事なんて何もないよ」
「ひ、人……?」
ちらりと店内を見てみると、確かに店には思ったよりも人がいるようだった。
それに店の雰囲気も少し広い雑貨屋のような明るさで、窓がない以外はこれと言って不健全な感じはしない。やらしい道具がわんさか置いてある店だと言うのに、ピンクな照明で薄暗い雰囲気ではない……ちょっと意外だ。
「蔓屋は確かにいやらしい道具を売る場所だけど、だからって別にそれが悪いワケじゃないだろう? 違法な店じゃないんだから、普通の雰囲気で当然さ」
「まあ、そう言われればそうだけど……」
俺の世界の大人の玩具屋って、おピンクで薄暗い雰囲気だって聞いてたんだけどな……。今じゃネットで通販出来るし、そう言う店も少なくなったって話だから、もしかしたら俺の世界の店もこんな雰囲気なんだろうか。
ネットや野山で画像やエロ本を拾う俺だが、さすがに未成年お断りの店には入れないし、そこは大人になってからと思っていたので、正直アダルトグッズの店という物がどんな物かはよく解っていないのだが……うーむ、こんな普通のお店みたいなら、恥ずかしがる必要も無かったかなあ。
でもなあ、置いてある物がモノだしなあ。
「とにかく色々見てみようよ、ね?」
「いや、その……」
「ツカサ君がどんな道具で悦ぶのか、僕も知りたいしね……?」
ブラックはそんな事を言いながら、俺の耳を軽く噛みやがった。
「ひぁっ!? こ、この馬鹿っ、もう勝手にやってろ!」
人がいる場所でなにすんじゃいと突き離して、俺はブラックとクロウから駆け足で離れた。ああもう畜生、からかわれてる、ムカツク!
「くそぉおおこうなったら、こうなったら……俺もエロ本か何かないか探す!!」
最初に蔓屋を見て思ったのは、まさにその事だったんだ。
もうこうなったらブラックの意思とか丸無視だ。俺は関与しない。ブラックから逃げ回りつつ、この世界にエロ本が在るのかを確かめようではないか。
俺は心機一転で深く呼吸をすると、早速お目当ての物がないか探し始めた。
「…………しかしすげえな」
端から棚をちょこっとずつ見て行くが、なんだか見ている内に自分が買う訳でもないのに恥ずかしくなってくる。
並んでいるものの用途を想像したり、その品物の説明を見たりするだけで、どうにも堪えられなくなって赤面してしまうのだ。
いやだって、人の肌に優しい手枷とか、香油を混ぜ込んだ植物の潤滑液とか、あと、その……ブラックが俺に使った、あの空豆みたいな触手の玩具とか……。と、とにかく、駄目だこれは。見てらんない。
俺はなるべく周囲を見ないようにしながら、冊子が並べてあるコーナーがないかと店内を移動した。
……すると、店の奥の方になにやら薄い本らしきものが!
ま、まさかあれは、俺が探し求めていたエロ本か!?
脇目も振らずに駆け寄り、その冊子のコーナーへと近寄ってみると。
「お……おぉ……これは……!」
震えながら、平積みにされている本を手に取る。
上質ではない紙がまとめられた、薄い薄い冊子。しかしそれには、紛れもなく「女体艶姿集」という若干古臭いが期待できるタイトルが!!
やった! やっぱり有ったんだ、ラピュ……いや違う、やっぱりエロ本は有ったんだよ父さん!
まさかこの俺がエロ本を堂々と買える事になろうとは……と思いつつ、俺は周囲にブラックとクロウがいない事を確かめて、そうっと本を取る。
ああ、艶姿、艶姿か……どんな本なんだろう。写真が一番いいが、絵でも文章でも構わない。とにかく興奮出来ればそれでいい。
やっとこの世界の女子の裸が見れるのかと思うと、もう色んな所が嬉しくて興奮してしまい、俺は荒い息を押さえながら恐る恐るページをめくった。
いざ、御開帳……!
「おぉお……っ! お…………お……?」
……あれ? なんか、変だぞ。
なんか、この本の女の人の体……薄っぺらい……っていうか……絵じゃん。
いやただの絵じゃない。昔じゃん。てか古代の絵じゃん!!
このエロ本、エジプトの壁画かレベルの画力で描かれたエロ本じゃん!!
「うっ、うそだろ」
せめて春画くらいの単純明快でエロい絵柄だったらまだ耐えられたのに、何故壁画。この世界にもフレスコ画みたいなの有ったじゃん、写実的な絵とか絶対描けるはずじゃん。なのにそれがどうして壁画! どうして紀元前!?
慌てて他の冊子も見てみるが、しかしそこには……やはり、遥かナイル川を思わせるような壁画チックなエロ絵がえがかれているだけだった……。
「…………」
いや、まあ、局部丸出しのシーンと接合絵があれば、俺もわりと妄想逞しいんで、なんとかシコれるかもしれませんよ?
なんてったって若いしね、エロチラシの煽りで抜いた事もあるからね。
だけどさ、さすがの俺でもこの考古学に貢献できそうな絵でシコるのは、その。
「って言うかなんで壁画……?」
もう一度丹念に調べてみたが、やはり壁画ちっくなエロ画集ばかりと言う事には変わりがない。他の場所には本は無いみたいだし、とするとこれがこの世界のエロ本と言う事で決まりなのだろうか。
世のお兄さんお姉さん達はコレで性欲を発散しているのだろうか、本当にコレで大丈夫なのだろうか……いや、気軽に実物に触れられるからこそ、エロ本はこの絵で大丈夫だと思われているのかも知れない。
「そうだよな……この世界は金を払えばすぐヤれるし、誘えば相手も簡単に付いて来ちゃう性に大らかな世界だもんな……エロ本で発散させるような奴なんて稀だから、こんな絵で進化が止まってるのか……」
要するに俺みたいなオタク気質の人間は少数派ってことね……。
よく見たら本棚も一つだけだし、マイナーな趣味なんだろうなあエロ本って。
「はぁ……念願の美女の裸もお預けか……」
いや、まだ諦めるんじゃない俺。
あわよくばストリップショー……いや、艶芸小屋で裸を見られるかもしれない。
こんなお堅そうな国にあったまさかの素敵スポットなのだ。もしクロウのお父さんがそこに訪れていなくても、何とかして行ってみる価値は有るではないか。
行こう。必ずそこで女体を見よう。
そして俺は今度こそ正しい大人の階段を上るのだ。
エロ本がなんだ。この世界は美女でいっぱいなんだ、実物を見れば良いではないか。俺ですらおっぱいに顔を埋められた世界なんだから、裸のおねーちゃんとも激しく触れ合える可能性は充分にあるだろう。
よし、落ちこむんじゃない俺。次へ進むんだ。
俺は本棚の前で忙しなく苦悩と復活を繰り返していたが、やがて人目があるのを思い出して自制すると、そそくさとその場から去った。
まあとにかく、ポジティブに行こう!
そう思っていると……向こうから満面の笑みのブラックがやって来た。
「ツカサ君! これとこれ、どっちがいい?」
言いながら近寄ってきて、俺に見せた物は……軸の部分にイボイボがついた謎のピンク色のキノコと、ぬめぬめして動いている半透明の謎のキノコ……ってどっちもバイブじゃねーか、エグいバイブじゃねぇかぁあああ!!
「な、なに持って来てんだ!!」
「何って張型じゃないか。まあ僕のよりは小さいけど、慣らすのにいいかなぁって思って……で、どっちがいい?」
「どっちもお断りだよ! つーか何故に使う前提で道具を選んでんだ!!」
俺は一言も「何か買って」とは言っていないぞ。
確かにブラックはここに来ようと言っていたが、俺はそんなものが欲しいなんて一言も言ってないんですけど。つーかお前のデカブツで精一杯なんですけど!
いい加減にしろとキノコを握った両手を目の前から除けると、ブラックは不機嫌そうに口を尖らせて首を傾げた。
「えぇー、だって折角なら何か買いたいじゃないか。僕とツカサ君の相性が抜群なのは解ってるけど、でもほら、たまには刺激的なセックスもしたいでしょ?」
「お前はこれ以上どんな変態行為を俺に働こうっていうんだよ……」
「張型がいやなら……ああこれどう? 一時的に巨乳になる薬」
「人の話を聞け頼むから」
恐ろしい薬をさらっと勧めて来るな。
頼むから俺の体を改造するのだけはやめてくれ。
そんな俺の願いも気にせずに嬉々として怪しいグッズを選んでいるブラックに、俺はそこはかとない絶望を覚えた。ああ、これ、絶対一個くらいは道具を買わされて試されそうな予感がする……。
そんな事を思っていると、背後からクロウの声が聞こえた。
「ツカサ」
「あっ、クロウ……ごめんなこんな事に付き合わせて……すぐ終わらせるから」
そういえばクロウは疲れていたんだし、こんな場所に来るより早く帰って飯食って眠りたいよな。そう思って、申し訳ない顔で後ろを振り返ったのだが。
「コレはどうやって使う物なんだ?」
不思議そうに言いながら手に持っているのは……切れ目がある輪に、小さな鎖でつながれた鈴がついたもの。
……クロウ……お前もか……お前もこういう物に興味が在ったのか……。
いやまあそうだよね、クロウも男だもんね。
でもブラックよりはまともなクロウが、俺達と同じようにアダルトグッズに興味を持つんだって事が少しショックで、俺は何故か頭が真っ白になってしまった。
そんな俺の背後に居たブラックは、変な笑い声を漏らしながら俺の肩に手を置いてクロウに悪戯っぽい声を向ける。
「知りたいか?」
ブラックの言葉に頷くクロウに、ブラックは含み笑いを漏らすと……いきなり俺のコートの前を開くと、俺の胸に手を這わせてきた。
「ちょっ!? な、なにっ」
「それはな、ツカサ君みたいな虐められたい子の乳首に付けるもんだよ」
そう言いながら指で立ち上がってもいない乳首を摘まむブラック。
何をする、と怒りたかったが、あまりにも唐突な刺激に体が素直に反応してしまい、俺は思わず声が出そうになって息を詰まらせてしまった。
「ち、乳首にか」
「そうそう。それでそのまま犯したら、振動で鈴が鳴るだろう?」
指が、説明しながら俺の乳首を服の上からぐりぐりと押し潰す。
コートの中で蠢く手をクロウが唾を呑み込みながら見ているのに、俺は抵抗も出来ずにただ下唇を噛んで耐える事しか出来なかった。
「っ、ぅ……んん……っ!」
「激しく責めるほど、鈴も鳴るってワケ。まあ、趣味が良い道具とは言えないね」
「ふむ……面白いな、人族の辱めの道具というのは」
「ぅ、うぅうっ、は、辱めとかいうなぁ……!」
余計見たくなくなるからやめて本当に。
憤死しそうになっている俺と乳首リングを交互に見ながら目を輝かせるクロウに、俺はもう堪らなくなって顔を覆う。ああもう、どうしてこのオッサン達は俺を恥ずか死させるような事ばっかりするんだよ!!
つーかいい加減離せ、乳首摘まむな!!
「どうしたのツカサ君、えっちな気分になっちゃった?」
「ニヤニヤしながら聞くなバカ! お前のせいだろぶっ飛ばすぞ!!」
涙目になりながらどなると、ようやくブラックはコートから手を抜いてくれた。
「あはは、ごめんごめん。じゃあまあ、おふざけはこれくらいにして……」
おっ、帰るのか。やっと宿に帰るのか!?
ブラックの次の言葉に期待して顔を見上げた俺に、ブラックは人懐っこい笑みでにっこりと笑うと……悪びれもせず、言い放った。
「本気で夜に使う用の道具を選ぼうか!」
「………………」
「ツカサ、オレも選ぶのに協力してやるぞ」
「…………帰る……お宿かえるぅううううう!!」
そうは言っても、俺の後ろにはブラック、前にはクロウがいるわけで。
「さー選ぼうねえ、ツカサ君どれが気持ちが良さそうかちゃんと言ってねー」
「う、うぅううう……」
俺はスケベだが、掘られる方としてのスケベじゃない。
なのにどうしてこんな目に遭わねばならないのか。
チクショウ、こうなったら体に負担が少なそうな道具を選んでやる。そして何が何でもストリップショーを見に行ってやるんだ。
それがせめてもの抵抗だ。
抵抗になってないかも知れないが、俺の男としての抵抗なんだ!
だばだばと泣きながらそう思いつつ、俺はブラックに引き摺られてエグい道具が並ぶコーナーへと連行されていったのだった。
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