異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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祭町ラフターシュカ、雪華の王に赤衣編

18.神の御業というものは1

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 しかし、こんな所にまで何の用なんだ、あのイヤミなオッサンは……教会にこれ以上オッサンが増えたらむさ苦しくて敵わないので、もう勘弁してほしいんだが。
 帽子を目深に被ってしっかり髪を隠しながら、俺はブラック達が先に行っていると言う礼拝堂に足を踏み入れた。

 途端に、なんだか冷えた空気が肌に突き刺さった。恐らく温度の問題ではない。雰囲気の問題だろう。礼拝堂に来た瞬間に緊迫した空気が伝わって来たのだ。

 扉の方を見ると、ブラックとクロウが街長とお付きの人達を遠慮なく睨み付けて通せんぼしているのが目に入った。ああなるほど、お互いに最初から敵愾心てきがいしんバリバリだったのでこんな外より寒々しい空気になってたのね……。

 変な事言ってないと良いけどなと思いながら、俺はブラック達に近付いた。

「ブラック、クロウ」
「あっ、ツカサ君……」

 ブラックの顔が、如実にょじつに歪む。
 その顔は「やべっ、来ちゃった」と言わんばかりだ。
 何故だ。ヤバい話でもしていたんだろうかと問おうとする前に、街長の方が先に動いて俺に近付いてきた。

「やあ、君! しばらくぶりだったが、今日も可愛らしくて何よりだよ」

 はっはっはと笑いながら俺の手を取って引きずり出して来ようとする街長に、ブラックとクロウは慌てて俺の両脇から俺の腕を掴んで逆に引く。

「何してるんだ!」
「ツカサに気安く触れるな」

 敵意バリバリでそう言いながら睨み付けるオッサン二人に、同じオッサンである街長は余裕アリアリで笑うと、一旦俺の手を離して「悪かった」とばかりに両手を上げて謝った。

「分かった分かった、可愛い子には保護者が居ると言うが……こんな怖いナイト様が二人もいたのでは、友好的な握手も出来ないな。まあいいけども」
「えっと……それで、今日は何の御用なんですか」

 両隣で背の高い中年が威嚇いかくしてグルルルとか言ってるけど、相手は街長なんだから下手に出てないといかんだろう。ただでさえ前回は逃げちゃったんだし。
 ドードーと二人の背中をさすって落ち着かせながら、俺は街長に用件を伺った。

 お付きまで用意してこんな場末の教会に来るなんて、どう考えてもまともな要件ではあるまい。それを理解しているから、ギルベインさん(実はブラック達の前にいました)もレナータさんもけわしい顔をしているんだろう。
 でも、何の用なのか。

 無意識に構える俺達に、街長は相変わらずニコニコと笑って身振り手振りをまじえて大げさに話し出した。

「いやあ、風の噂で聞いたのですがね……ギルベイン牧師が、最近急に薬屋に質の良い回復薬をおろし始めたと言うじゃないですか。確か牧師は聖水以外は何かの理由でお作りにならないと聞いていたのですが……妙な話だなと思いましてね? それでよくよく話を聞いてみたら、貴方がたは協力するだけではなく、この教会に滞在していると言うではないですか!」
「だ、だから……来たと?」

 なんだか良く解らないと顔を歪める俺の横から、ブラックが言葉を続ける。

「それじゃ理由にならないと思うけどね。ギルベイン牧師が回復薬を作れたら何故奇妙で、わざわざここに来なければならないんだい? 練習すれば作れた程度の事かも知れないし、そんな些細ささいな問題で長を務める人間がここに来る必要はないと思うけどねえ」

 確かにそうだ。仮にギルベインさんが「薬作りがヘタだ」という情報を街長が知っていたとしても、急に作れるようになった程度で出向く必要はない。後ろにひかえているお付きの兵士を使って調べればいい話だ。
 それに、上手く作れたからって何だってんだよ。
 何度も失敗した後にやっと成功し始めるなんて事はざらにあるだろう。

 そこに俺達と言う要素が加わっていたとしても、何の問題があるのか。

 いぶかしむ俺達に、街長は相変わらずの余裕のある表情で続けた。

「確かに、それだけなら私自身が出向く必要はないな。しかし……回復薬を“確実に成功させる”製法を教えたのが君ならば……出向く必要があるだろう?」

 街長の試すような瞳に、俺はゾクリと背筋が寒くなる。
 回復薬を確実に成功させる製法って……そんなもん教えたつもりはないが、どうしてその程度の事で街長がやってくるのか。
 どうにも解らないと顔を歪める俺に、街長はじいっと目線を送ってくる。

「もし、そこの可愛らしいキミが牧師に手を貸したのなら……キミには、ちょっと頼みたい事が有ってね」
「頼みたい事って……」
「なに、難しい事じゃない。君にはリン教に少々協力して貰いたいんだ」
「何故ツカサがお前に協力しなければならない。それに、決めつける理由は何だ? ツカサが回復薬を作った証拠でもあるのか」

 おおっ、クロウよく言ってくれた。
 こういう時にはやっぱり頼りになるなあ、二人とも……。
 え? 別れたいって言ってたろって? そんな昔の事は忘れたな。
 ……ま、まあ、正直別れたいって言うのはまあ、本気じゃ無かったしな。
 それは今はどうでもいい。

 クロウの頼もしい言葉に顔を明るくする俺だったが、しかし街長は相変わらず顔色を変えずにさらっと言葉を返してくる。

 まるで、俺達の言葉を予想しているかのようだった。

「証拠? 君達が出してくれた計画書を見て少し考えれば……学のある者ならすぐに解るさ。そこの赤髪のラークと言う男は炎の曜術師、したがって木の曜術を使える可能性は限りなく低い。そして熊の獣人である君はそもそも曜術が使えない獣人だ。シスター・レナータは水の曜術師であるし、この教会に曜術の指導者が訪れた形跡もない……と言う事は、そこの可愛い君……ツカサ君が木の曜術師である可能性が高いだろう?」

 華麗にそう言いきって、ポーズをとりながら「フッ」と息を吐く街長に、俺達は言葉を失くす。……このオッサン、ボンクラそうな見た目に反してかなりの情報収集能力を持っていたのか。

 それに加えて、ちゃんと書類も熟読している。
 俺達は書類に詳しく自分の特徴を記したつもりはないし、必要最低限の事だけを記入して役所と警察に提出している。だが、全ての書類を読めば、ブラックが炎の曜術を主体に使う事は解るし、俺が木の曜術を使うと言う事も予測できるだろう。
 ……どうやら、街長はマジでただの色ボケじゃないらしいな。

 警戒し始めた俺に気付いたのか、街長はまたほがらかに笑って俺に一歩近づいてきた。勿論、ブラック達が手で追い払えない程度の距離は保って。

「もし他にどなたかいると言うのであれば……教えて欲しいですね? なんなら、この教会を洗いざらい探しても良い」

 その言葉を言った瞬間、街長の目が何かただならぬ光を灯す。
 俺はその表情に思わず口を開いたが――それよりも先に反応したのは、以外にもレナータさんだった。

「だ、だれも居ません!! つ、ツカサさんごめんなさい……そうです、わたくし達に回復薬の作り方を指導して下さったのは、ツカサさんなんです」
「レナータさん!?」

 いや、まあ、バラしてもいいけど……なんでそんなに必死に訴えるんだ。
 驚いてレナータさんを見た俺とブラック達に、レナータさんは申し訳なさそうに顔を歪めたが、しかし何か強い意志を持って街長に近付いて行った。

「ですが、わたくし達は何もしておりません。神に誓って、悪い事は何も。ツカサさん達も、わたくし達を博愛の精神で救って下さっただけなのです。ですから、どうか乱暴な事を仰らないで下さい……!」
「レナータ……」

 ギルベインさんが、心配そうな顔でレナータさんを見ている。
 しかし、彼女の必死な様子を心配していると言うよりかは、何か起こらないかとの懸念があるような表情に見えた。

「分かった分かった。私はただこの可愛らしい薬師様に同行して頂ければ、それで問題は無い。……同行して頂ければ、だけどね」

 ちらりと街長が俺の方を見る。
 それは……脅しだろうか。
 俺が素直に付いて行かければ、教会に何らかの嫌がらせをするつもりなのか?
 まあ、何にせよ……タダでは済まさないに違いないよな。
 だけど、俺をリン教に連れて行って何をする気だ。

「……あの、何故俺をリン教に……?」
「ああ、そうか。肝心のそこのところを伝えていなかったな! そうだそうだ、いや済まなかった。君達が警戒する訳だな。なに、別に軟禁しようと言う訳ではないし、危ない事をさせるわけでもないから安心しなさい。そこのラークとかいう男と獣人君も付いて来たければ付いて来ると良い」
「やけに譲歩するね」
「それほど焦っているのさ。私がこんな所に来たのがその証拠だろう?」

 こんな所、とは言ってくれる。
 アンタが対策を考えないから壁際の区域はスラム化しかけてるんだけどな。
 でも今はそんな事を言っている場合ではない。どうやら、このまま拒否すればレナータさんやギルベインさん達に迷惑がかかるみたいだし……大体、相手はこのラフターシュカの街を司る人間なんだ。ヘタに断ったら、何をされるか解らない。だったら、断るのはヤバイよな……。
 ブラック達も連れて行っていいと言うのなら、罠でも何とかなるだろう。

「ブラック、クロウ……付いて来てくれるか?」

 そう言うと、二人は当たり前だとばかりに頷いた。

「では、決まりですね。そうとなれば早速参りましょうか、可愛い君」
「あの、その呼び方やめて貰えますか……」

 背後でオッサン二人が怒気を発してるし俺も恥ずかしいしで、まるで良いことがないんですけど……。
 しかし街長は初めて対面した時と変わらぬ様子で笑いながら、アメリカ人のように朗らかに笑った。

「はっはっは、可愛らしい方を可愛いと褒めずにいるなんて、紳士の名折れですよ! さあ、そんな些細な事は置いておいて私の馬車で参りましょう」
「どさくさに紛れてツカサ君の腰を取るな!!」
「ツカサ、こいつ危険だ、危険だぞ」

 ナチュラル変態紳士を出し抜いて俺を引き寄せられるその手腕は、確かに危険かもしれない……って言うかもう、俺なんか帰りたくなってきてるんですけど、行かなきゃ駄目なんだよなあ……。

「あの……じゃあ、ちょっと用意してきていいですか」

 何も装備がない状態で、敵地かも知れない場所に向かうのは心許こころもとない。
 そんな俺の思いを知ってか知らずか、街長はこころよく頷いて俺達に時間をくれた。
 さすがはさっきから余裕がある街長。逆になぜそんなに余裕があるのかと疑問には思ったが、今更それを考えていても仕方ない。

 俺達は手早く用意を整えると、「ごめんなさい……!」とばかりに両手を合わせているギルベインさんとレナータさんに見送られながら、俺達は教会の外に停めてある物凄く豪華な馬車に乗り込んで、リン教の教会へと向かった。











※申し訳ない、あんまり進まなかった…(;´Д`)
 次回は俺SUGEEEEE。
 
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