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祭町ラフターシュカ、雪華の王に赤衣編
8.衝撃の事実は意外とさらっと話される事が多い
しおりを挟むこの教会には、裏手の方に広い庭がある。
まあ、庭とは言っても草木も生えていないただの土の地面なんだが、しかしここを使わない手は無い。
この庭で野菜を栽培出来れば、仕事が続かなくてもそこそこしのげる。
ただ問題は、この土地が植物が育たない程の痩せた土地だったらどうしようって所なんだけど……まあとにかく、やってみるしかないよな。
仮に土が死にかけているとしても、タマナというキャベツに似た野菜を俺の曜術で成長させて、その茎を肥料代わりにしていけば、いずれは土も肥えるだろう。
土いじりの趣味は無いので、もちろん独断と偏見に基づいた予測でしかないが……うーん、やっぱ本とか借りてくれば良かったかなあ。
まあでも別に失敗するこっちゃないし、まずはチャレンジしようではないか。
そんな事を思いつつ枯れた庭に辿り着くと、そこにはクロウが待っていた。
「あれ、クロウどうしてここに?」
「どうしてって、ツカサを手伝うためだぞ。今から土いじりをするのだろう? だったら、オレの領分だ。ツカサに大いに協力してやれる」
「それは……どういう事?」
確かにクロウは大地を隆起させたり出来るけど、アレってそういう技とかじゃなくて、普通に何か能力があってのことだったんだろうか。
そういえば、クロウは鉱山で鉱石の選別を任されていたみたいだし、だとしたら別の土属性の力を使えたっておかしくは無いよな。でもそれ、技の範疇なのか?
まさか曜術とか……いやでも、獣人やモンスターは曜術は使えないんだよな。
魔族だって、似たような技は使えるけどそれは「能力」の一つであって、人族のように自在に自然を扱える訳じゃない。
あっ、もしかしたら、気功とかみたいに土の気を感じられる……ってそれはもう曜術と変わらないのでは……うーん、定義が判らなくなって来たぞ。
考えるのを止めよう。とりあえず、協力してくれるのはありがたいじゃないか。
俺はクロウに近寄ると、とりあえずどうしたいかを説明した。
「なるほど。ではまず、この土地の豊かさを測ればいいんだな」
「出来るのか?」
「無論だ」
言いながら、クロウは剥き出しの地面に屈むと、地面に手を当てる。
そうして、目を瞑ると――思っても見ない一言を、呟いた。
「仁君たる我が名に於いて命ず……大地よ、その命の限りを見せよ……――」
刹那、クロウを中心にして橙色の光が波紋のように広がって消える。
今までは遠くから見ていた光だったから、その正体が解らなかったけど……いま近くで見て、やっとこの光がどんなものなのかを俺は理解した。
これ……多分…………曜気の、光だ。
……って事は、クロウは……。
「……確かに土が痩せているな。長年放っておいたが故に硬くなっている。その上雨も無く雑草も生えない気候だからか、土が死にかけているぞ。この国には、大地の気など微塵もないから……普通の方法では改善のしようがないな」
「く……クロウ……今の術って……まさか、曜術なのか?」
確信を持って断定する口調のクロウに、俺は恐る恐る問いかける。
すると、クロウは目を丸くして瞬かせたが――素直に頷いた。
「そう言えば言ってなかったな。オレの一族は、獣人の中でも特別に曜術が使えるのだ。とは言っても人族にはあまり人気がないと言う土の曜術だし、そもそもオレ達獣人族は曜術などなくても戦えるからな……足場を作る以外には利用法もないし、あまり使う事は無かったので説明を忘れていた」
「それで曜術とかに詳しかったんだな、おまえ……」
獣人には曜術の知識は必要ないはずなのに、それでも詳しく知っていたってのはそう言う事だったのか。いやでも、これでスッキリしたよ。
クロウは黒籠石の瘴気を受けない獣人であり、なおかつ土の曜術が使えたから、あの悪党どもは手放したくなかったんだな。そりゃ、そんな特別極まる存在がいたら、どんなに抵抗されたって捕えておこうとするよ。
クロウもチートな能力の持ち主だなとは思ってたけど、まさかこんな規格外の力を持ってる奴だったとは……ブラックといい勝負だよなほんと。
しかし、獣人にこんな種族が居たなんて驚きだ。
クロウには角が生えてくる本気モードもあるし、仲間……って言うかスクリープ達のようなお付きの人達もいたし、もしやクロウって獣人族の中ではかなり特別な存在だったのでは。
お付きの人がいて、特別な能力持ちって……まさか……。
「あの……クロウって、実は獣人の国の王様……とかだったりする?」
「いや。オレの一族は特別な一族だが、オレは王ではないぞ」
ふーむ、王ではないと?
クロウは嘘をつくような性格じゃないし、じゃあ全く別の存在なのか。
しかしそうなると、クロウすら束ねてしまう王様ってどんだけ凄いんだか……。
やっぱアレか? 体長は三十メートルくらいあってこれまた規格外にデカい馬に乗って「うぬは世紀末覇者である!」とか言いそうなレベルのいかつい獣人だったりするの? もしかして北斗七星にまつわる拳法を扱えたりする人なの?
生涯に一片の悔いも無く死ぬ系の人かな、やべえ会いたい。
いやそんな事を考えてる場合じゃないな。
とにかく、土の曜術師の手助けが貰えるようになったのは物凄い僥倖だ。
そうとなれば、とっとと土を耕してしまおう。
「クロウ、ここの土の地面を掘り返して柔らかくしたり出来る?」
「ああ、畑を作るんだったな。まかせろ」
そう言うなり、再びクロウは地面に手を付ける。そうして何か一言二言呟いたと思ったと同時……目の前の地面がうねうねと動き始め、波のように逆巻いていく。
それを数分繰り返すと、硬い土の庭はすっかり姿を変え、よく耕された畑に変化してしまった。
「す、凄い……」
「おぉ……土の曜術師とはこれほどまでに凄まじいのか……」
あっ。そう言えばギルベインさんも一緒だったんだっけ。
クロウの隠された能力に驚いててすっかり忘れてた。
ってかギルベインさん驚きまくってるけど大丈夫かな、なんか申し訳ない。
「えっと、大丈夫ですか」
「は、はい、なんとか……それで、つ、次はなにを?」
「えーと……俺が【グロウ】でまずタマナを成長させた後、その茎を取って、草木灰にします。そんで、かまどの灰と混ぜ合わせて土に撒こうかと」
「草木灰……ですか? それで、土が蘇るのですか」
「そうです。ようするに、土から吸い取った栄養を還元する……的な感じですかね。それなりの肥料にはなりますよ。今回は俺が無理矢理曜術で野菜を育てるので、還元って訳じゃないですけどね」
俺の婆ちゃんが住む田舎では、野焼きという行事が行われていた。
簡単に言うと、畑の雑草などを火で一斉に焼いてしまう驚きイベントである。
最初は何をしているんだと思っていたが、ああして草を焼く事で害虫を駆除し、その灰を土に混ぜ合わせる事で土に栄養を与えているらしい。
昔からの知恵だと婆ちゃんが話してくれたが、まさかこんな所で役に立つとは。タマナの茎は肥料に最適と百科事典に書かれていたし、使わない手は無いだろう。
ただ、撒き過ぎは土に良くないらしいので、適度にね。
今回は土の状態を完璧に把握できるクロウがいるので、そう言う点は安心だ。
そんな事をギルベインさんに簡単に説明すると、彼は感に堪えないと言う感じで頷いていた。だよねー、俺も婆ちゃんに教えて貰った時そんな感じだったわ。
だって普通、畑を焼いたらなんか土が死にそうな気がするよな?
でもそうじゃないってんだから、昔の人の知恵ってのは凄いよ。しかも、おバカな俺でも判るくらいに簡単で賢い方法ってのを伝えてくれてるんだもんな。
教えてくれた婆ちゃんにも感謝感謝だわ。
ってなわけで、俺は早速昨日購入して置いたタマナの苗を土に突き刺し、気合を入れてグロウをかけてみた……のだが。
「…………んん?」
なんか、育ちが遅い。野菜はちゃんと育ったけど、元気がない気がする。
ちょっと気になって収穫したタマナを数分置いておくと、驚く事にその野菜達はすぐに枯れたり萎びてしまった。
……こんなこと、今までなかったぞ。
萎びた野菜達を困惑しながら見ていた俺に、クロウは近寄って来ると俺の肩越しに野菜を見て目を瞬かせた。
「変だな。ツカサのグロウで育った植物は、長い間枯れずに残っているのに」
「うん……初めての事態だよ。やっぱ土に大地の気が無いとダメなのかな……」
さっきのグロウは黒曜の使者の力をちょっぴり使ってズルをしたのだが、それでも枯れてしまうなんて……これは思っていたより難しいかもしれない。
この教会で今まで野菜なんかの栽培が行われていなかったのって、もしかして土自体に全く力が無かったからだったのかな……。
木の曜術も万能と言う訳ではないようだ。
「俺の能力でもやっぱり難しいかな……」
「いや、そうでもないと思うが」
思っても見ない事を言うクロウに思わず振り返ると、クロウは俺の顔のすぐそばでじっと俺を見つめ返しながら、ほんの少しだけ微笑んだ。
「オレに良い考えがある」
「えっ、マジ?!」
さすが土の曜術師、と間近にあるクロウの顔に笑顔を向けると、相手も更に表情を和らげて、俺の肩をぐっと抱き込んだ。
あれ、あの、ちょ、ちょっとクロウ?
「他の奴を驚かせるかもしれないから、夜に二人でやろう」
「というのは……えっと……ブラックは?」
「連れて来たら教えない」
えぇ……あの、それってちょっとヤバいような……。
いやそんなやらしい勘繰りをするのはやめようぜ、俺。もしかしたら、クロウは門外不出な技を持っていて、それを俺に教えるつもりなのかも知れないじゃん。
きっとそうだ。聖水と同じく、人に知られちゃ困る術なんだよ。
クロウはブラックよりも紳士なんだし、そんな、滅多な事はしないはず。
うむ、そうだな。そうに違いない。
むしろそんな変な事を考える俺の方がスケベなのだ。反省。
「よし、分かった! みんなが寝た後でな!」
ギルベインさんに聞こえないようにヒソヒソと耳打ちをすると、クロウは嬉しそうにピコピコと熊の耳を動かすと、他の奴には向ける事の無い、満面の笑みを俺に向けて抱き着いてきたのだった。
→
※まだまだチートは続く( ^)o(^ )
そして次回はクロウ×ツカサ主体でちょっとやらしいのでご注意を
ブラックとのラブラブはのちほど(`・ω・´)
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