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シーレアン街道、旅の恥はかき捨てて編
16.風邪っぴきと甘い薬
しおりを挟む草原に積もる雪も徐々に増えて来た、シューデリカ街道のまっただ中。
俺達の馬車は店も何もない待避所のような小さなスペースに停まり、昼日中から三人で馬車に籠っていた。
まあ、移動中に雪が降り始めて慌てて休める所に停めたとか、説明書をちゃんと読んでたのが俺しか居なくて、藍鉄に防寒具を付けてやれずここで帰したからとか理由は色々あるんだが……一番の理由は、この俺の状態だった。
「ばか、あんぽんたん、おたんこなす、せいよくのけだもの」
寝袋に入ったまま座る俺が吐き出すのは、悲しいくらいに掠れた声だ。そんな声で罵るのは、目の前で正座して首を垂れたオッサンどもである。
いつもは俺の怒りなんてどこ吹く風の奴らだが、今度ばかりは度が過ぎたと感じたのか、素直に俺に謝っていた。
「返す言葉もございません」
「ごめんなさい」
そうは言うけど、肌寒い中素っ裸に剥かれてアンアン言わされてた俺は、見事に風邪を引いて寝込んでしまったのでそう簡単には許せない。
あの思い出したくもないアレから二日経ったが、まだ俺は声が元に戻らないし、情けない事にまだ本調子でもない。馬車のガラガラした音も、今の俺にはかなり頭に響いてちょっと静かにして貰いたいと思ってしまう有様だった。
そんな調子だから、昨日も今日も藍鉄を召喚した後はもう馬車でミノムシのように転がって、飯も食わずにずっと眠っていたのだが……今はやっと起き上がれるまでになった訳で。これが罵倒せずにいられるかってんだい。
俺は大事にしていたクレハ蜜を溶かしたお湯で喉を潤しつつ、正座するオッサン二人をじろりと睨んだ。
「あのさ、俺だってわざと炎を消したのは悪かったと思ってるけどさ……だからってお前よ、普通の恋人同士だとか、ハーレム持ってる人がやる事じゃないと思うんだがな、アレは。なあ、そこんとこ解ってるか」
「お仕置って普通の事したらお仕置にならないんじゃないのか」
「シャラップクロウ!!」
「ウグッ」
「熊公喋んない方が良いぞ、ツカサ君怒るとすっごいネチネチ言うから」
「ゴルァアブラック!! 聞こえてるかっら゛っ、ゲホッ、ゴホッ!」
怒鳴ろうとした途端に喉から咳が飛び出してきて、俺は体を折る。
ち、ちくしょうまだ本調子じゃない。
「あわわわっ! つ、ツカサ君あんまり無理しないでっ」
「むっ、無理させてんのはっ、ゲホッどいつらだ……!」
「ツカサ、オレ達が悪かったからあまり興奮しないでくれ」
咽る俺の背中を二人分のでっかい手が擦るが、加減が判ってないので痛い。
でもまあ……ブラックもクロウも、揃いも揃って情けない焦った顔になってて、本当に俺に申し訳ないと思っているみたいだし……そもそもブラック達を調子に乗らせた原因を作ったのは俺なんだから、あんまり怒るのも自分勝手かなあ……。
怒ってはいるが困らせたい訳ではないので、俺はやっと落ち着くと、またクレハ蜜のお湯割りを一口飲んで、二人に問いかけた。
「もう二度とああいうお仕置とかやらないよな? 二人とも」
羞恥にしてもそうだけど、人を巻き込んだプレイだなんて迷惑すぎる。
つーかマジで他人が見ちゃったらどうすんだよ。異性愛者の人ならトラウマもんだぞ。二次元ではどんどんやれと思うけど、三次元でやったらいかんって。
あと俺の精神がいつかぶっ壊れそうで怖いのでやめてほんとに。
そんな思いを込めて真剣に二人を見ると、ブラックとクロウは顔を見合わせたが、どこか拍子抜けしたような顔でうんうんと頷いた。
「許してくれるの?」
「正直、物凄く調子に乗ってたのにか」
「そこらへん蒸し返すとまた怒りが湧いて来るから忘れろ。とにかく……今後人を巻き込んだり、俺に度が過ぎたやらしい事をしないなら、それでいい」
そう言うと、二人は途端に顔を輝かせて……
「ツカサ君……っ!」
「ツカサ……っ!」
いきなり、俺に抱き着いてきやがった。
「ぐわああっ!!」
ぐ、ぐるじいオッサン臭い両方から吐息が掛かって気持ち悪い。
つーか俺風邪ひいてるんですけど! まだ治ってないんですけど!!
「ツカサ君のそう言う所大好きだよぉおおお」
「本当にお前は優しいな、ツカサ……!」
「わがったっ、わかったから離れろってば!」
お湯割りが零れるしあと鬱陶しいめんどくさい!
まだ動きが緩慢な手で二人の顔を遠ざけると、渋々オッサン達は俺から離れて行った。ったくもう、本当こいつらは……。
「で……あんたら夕飯とかはどうすんの。昨日は干し肉とか適当に食べてたっぽいけど……悪いけど俺まだきちんとした料理作れそうにねーぞ」
「あ、やっぱりそこ心配してくれてたんだね……!」
「心配してないっつーの。あんたら適当に料理し過ぎで気になっただけだ」
「またまた~。でも、そこは大丈夫だから気にしないで。僕達は良いから……それよりツカサ君の風邪を治さなきゃね」
「悪い雪の精霊を追い出すために、今日はずっと寝袋に入って暖かくしろ」
先程から一転して、二人は俺の体を慮るように俺の顔をじっとみやる。
熱のせいで顔がユデダコになっているだろう俺の状態は、起き上がれるくらいには回復したとはいえ、まだまだ心配な段階だと思われているのだろう。
風邪って意外と治りにくいし、こじらせると厄介だもんな。
……しかし、風邪が精霊のせいだとはなあ。
この世界では、風邪はウイルスのせいではなく「悪い雪の精霊」が体に入り込んだのが原因だと言うのが通説だ。
で、その精霊は熱いのが嫌いで体の熱を追いだそうと、外側へと熱を出して体を冷やそうとするから、暖かい恰好をして熱を逃さないようにしなきゃ行けないんだそうな。対処法は俺の世界の風邪と一緒だけど、ウイルスじゃなくて悪い雪の精霊のせいだってのは斬新だなあと思う。
いや、そもそもこの世界に細菌と言う概念がないからそうなるのかな?
そう言えば……この世界で発酵食品とかって見た事ないな。
もしかするとこの世界には病原菌などが存在しないのかも……?
ずるずるとお湯割りを啜りながらぼんやりと考える俺に、ブラックは少し微苦笑したような顔をすると、俺の頭を撫でた。
「もうすぐラフターシュカって街に着くから、早く風邪を治して……元気になったら、またデートしようね。今度は、本当に君のために何でもするから」
「ん……うん……」
こういう事する時だけは、大人に見えるんだけどなあ……。
相手に頭を撫でられるだけでちょっと機嫌がよくなる俺もどうかと思いつつ、俺は早く風邪を治すために再び寝袋に入って目を閉じたのだった。
→
※次はラフターシュカ編。街の説明で「アレか」と察して下さったら嬉しいです。
季節柄……やりたかったんや……!!
でもラフターシュカはあんまり本編と関係ない話になるます( ^)o(^ )
でもラブ度とか増すので宜しくお願いしますわーい逆ハー( ^)o(^ )
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