異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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シーレアン街道、旅の恥はかき捨てて編

1.武器にはロマンが詰まっている

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※ただの武器紹介回です…本編に一切関係ありません…:(;^ω^):



 
 
 武器。それは男のロマン。
 一度そのフォルムと破壊力に魅せられてしまえば、使えなかろうが欠陥けっかんが有ろうが愛してしまう魅惑の相棒だ。

 「それどんなデカブツが振り回すんだよ」という大剣も、絶対に砲身がぶっ壊れるだろう十連発出来る大砲も、銃に剣が付いてるどっちが主体やコレなガンソードも、使う人がスタイリッシュなら格好いいし、使って見たくなるものだ。
 マジッククロスボウも、魔法剣も、そんなロマン武器の代名詞である。

 だがそういうロマン武器は、度々「おめーそんな武器使えるわけねーだろ」とかヤジられて笑われてしまう。しかし、俺は思うのだ。
 ファンタジーだからこそ! 漫画だからこそ! 使うべきじゃないか……っ!!
 ……と。

 いやだって、可愛い少女が体の十倍の大きさの百トンハンマーとか使うのって、現実じゃ有りえないけど萌えるじゃん。モーニングスターだって鎧以外が相手でも魔法の力でエスカリボルグになるかもしれないじゃん。

 多少の現実感は確かに必要だけど、魔法が存在する世界ならば無限装填が可能のリボルバーなんかも存在して良いんじゃないかと思うんだよ俺は。
 ほらその、摩擦熱とかは魔法でアレしてソレしてさ。

 大泥棒の三世だってわりと自由に弾を連発してるんだし、ファンタジー世界ならそういうのも許してほしいよな。俺はそう思うんだよ。
 でもね、俺はこうも思うんだ。
 強すぎる新しい武器って、どう考えても扱いに困るんじゃないかなあって……。

「…………ぐ、グローゼルさん」

 俺が名を呼ぶのは、綺麗な赤髪のお姉さんの名だ。
 しかし目はある一点に釘付けになっていて、まるで動かせなかった。
 俺達が立ちすくむ場所よりも数十メートル先に存在する、真っ黒に焼け焦げて炭化した煉瓦の壁から。

「……あの……威力、凄すぎやしません……?」

 隣で腕を組んで仁王立ちしているグローゼルさんは、ピッカピカに顔を輝かせて自分の武器の能力を思う存分誇っている。
 可愛い。美人姉御キャラのワクテカ顔って本当可愛いんですけど、ちょっと今は素直に萌えられません。だってアンタ、この人が作った武器の威力ったらとんでもなかったんですってば。

 ほら、ブラックだって自分の武器の威力にびっくりして固まってるじゃんか!
 折角格好いい剣なのに間抜けなオッサンが持ってるみたいになってんじゃん!

 流石にこれはいかんでしょ、とグローゼルさんを見上げる俺に、相手は元気よくあっはっはと笑うと俺の肩を叩いた。

「威力ゥ? こんなの序の口だっつーの! いいかツカサちゃん、アタシが作ったこの【ヴリトラ】はね、曜術師の体内を循環する曜気を、あの刀身の真ん中にある最高級の宝珠水晶に籠めて剣全体に伝達水晶を……」

 ああああすみません説明聞きたいッスけど全然耳に入ってこないッス……。
 こういう説明を聞いていると、ド素人が武器製造とか絶対にムリだよねって確信してしまうわ。
 漫画とか小説とかのアレは、主人公がハイスペックだったりゲームの中の世界だから出来た事だよね……予備知識がない俺には何が何やらサッパリですわ。

「そう言うのはどうでもいいけど、これ火力調節とか出来ないのかい。振った瞬間炎が飛んだら暴発しちゃいそうなんだけど……」

 やっと我に返ったのか、ブラックは冷や汗を垂らしつつグローゼルさんに問う。
 だ、だよな。流石にさやから抜いた瞬間に炎が溢れ出る剣は困る。
 そんなヴリトラの威力に焦る俺達に、グローゼルさんは片眉を上げた。

「火力調節って、アタシにゃ関係ないよ。その炎の出力は、アンタの体内を巡っている曜気の量がそのまま出るんだ。炎をどのくらいまとわせるかは、アンタの体力と技量にかかってるって訳さ」
「えぇ……」
「曜術師なら曜気の取り込みも断絶も自由自在だろ? アタシは武器を作るだけ、それを扱えるかどうかは持ち主次第だ。四の五の言ってないで自分で扱えるように練習しな」

 そう言われてしまうと反論も出来ず、ブラックは改めて自分の新しい剣を見た。
 わずかに虹のような光を含んだ、白銀の刀身。そのつばの部分は細かい細工がされ黄金に輝き、柄頭つかがしらには炎を思わせる紋章が刻まれている。
 刀身の柄に接する部分には、ルビーのような真っ赤な宝石が嵌め込まれていて、その周囲すらも彩る装飾の豪華さには誰もが息を呑むだろう。

 宝剣・ヴリトラ。まさに、そう呼ぶにふさわしい逸品だった。

 人前じゃあ絶対に言えないけど……そんな凄い剣を持って俺達の前に立っているブラックは……何だか格好いい。だらしない無精髭が有っても、その姿は格好いい剣士そのもので不覚にもドキドキしてしまった。
 あ、ち、違うぞ。このドキドキは憧れ系のドキドキだからな、キュンとかのアレじゃないからな!!

「炎の出る剣なんて初めて見たぞ。アレは詠唱が無くても炎が出るんだな」

 俺がドギマギしている間に、大人しく剣の試し切りを眺めていたクロウがグローゼルさんに問いかける。クロウもやっぱりこう言うの気になるんだな。
 ちょっとほっこりしている俺の肩を抱いたままで、グローゼルさんは説明した。

「詠唱はいらないよ。まあ、あの兄ちゃんが限定解除級の術師だってのもあるが、あの剣は基本的に体内の曜術によって発動するからね。いわば剣は体の一部になってるのさ。だから、術師の力量と制御次第で炎の力も出方も変わるってワケ」
「ほう……なるほど」

 クロウは曜術師じゃないのに良く解るなあ。
 そういえば、ラッタディアで俺の曜術について聞いてきた時にも、かなりの知識が在るっぽいくちぶりだったよな。獣人は基本的に拳撃での戦いだって言ってたけど……クロウは何故だか大地を操る能力があるみたいだし……やっぱ、その能力が気になって調べていたりしたのかな。

 そんな事を考えている俺を余所に、ブラックは悩ましげな顔つきで剣をぶんぶんと振っていた。

「うーん……体内の曜気か……遮蔽しゃへいは簡単だけど、望む形にするのは難しいな」
「アンタくらいの術師なら、そのうち慣れるだろうさ。ただ、一気に出力するんじゃないよ。宝珠水晶が過負荷状態になって、暫く炎が出なくなるぞ」
「そうか……うん、解った。……それで、ツカサ君の方の武器は?」

 あ、そういやそうだ。
 ブラックの剣の威力ですっかり頭から飛んでたが、俺達はそっちの武器も貰いに来たんだったっけな……。胸当てと籠手こてと宝剣貰ったらすっかり忘れてた。
 ブラックと同じくどうなりましたかとグローゼルさんを見上げると、彼女は待ってましたと言わんばかりにニンマリ笑って俺に武器を手渡した。

「ほらっ、ツカサちゃんのお望みどおりに無事完成したぜ!」
「うおっ」

 投げて渡されたそれは、俺の手の先から肘くらいまでの大きさの、なんとも軽いクロスボウ。しかし、俺が今まで見たクロスボウとは明らかに違う武器だった。

 まず、矢を射るための弓の部分が折りたたまれていて、その武器自体は長方形の細い箱のように思える。箱にはベルトが付いているので、恐らく腕に取り付けるのだろう。しかし、黒光りしたその箱からどうやってクロスボウへと変化するのか。そう考えていると、肘につく部分の所になにやらでっぱりが有った。
 試しにその小さなつまみを左手で引いてみると。

「うおおっ!? 変形!?」

 ガシャン、と音が鳴ったと思ったら、黒い箱は一気に姿を変えたのだ。
 弓の部分が左右から勢いよく飛び出し、引っ張った抓みはわずかに伸びて手前に引くための溝にはまっている。弓を引くための部分にも溝が現れて、黒い箱は完全にクロスボウになってしまった。

 しかし一番に驚いたのは、弓を引く部分。
 そこには左に広がった板がついており、そこには五つの透明な水晶が嵌め込まれていた。もしかして……この部分に曜気を籠めるんだろうか。
 そんで、どっかで射出するってこと?

 使い方がよく解らずグローゼルさんを見ると、彼女は任せなさいと言わんばかりに胸をドンと叩いて解説してくれた。

「そのクロスボウ……【アルカゲティス】は、まず弾倉の……えーと、宝珠水晶が五個並んでる板が有るだろう? そこに曜気を籠めるんだ。で、弓の下に握り込む部分が出て来ただろ、そこを握って引いて射出する。そこの抓みは、弓を引く強さを調節する為のモンだ。一応照準鏡も収納してあるから、良かったら使ってくれ」
「ええっ、威力調節機能もついてるんすか!?」
「その代わり、曜術をどんなふうに籠めて矢を出すのかってのは、曜術師の想像に任せてしまうんだけどな。アタシには、曜術を射出させるための仕組みで精一杯。悔しいけど……今はそれがアタシの限界さ」

 限界。
 これが、グローゼルさんが持てる力全てを使って作ってくれた武器なのか。
 そう思うとより一層凄い物に思えて、俺はグローゼルさんに全力で頭を下げた。

「あ、ありがとうございます! こんなスゲーもん作ってくれてありがとうございます!! 俺コレ絶対に大事にします、めっちゃ有用に使ってみせます!!」
「そ、そんなに喜ぶなよ、なんか照れちまうだろ……。それに、アルカゲティスは完成品だっつっても、まだまだ未熟だし……」
「いやでもすげーっすよ、見た事もない物を作れるってのは、絶対最高の職人じゃなきゃ出来ないと思います……!! あ、あのこれ、試し打ちしてみますね!」

 俺達はこれからオーデル皇国に出発しなければならない。
 そうなると、グローゼルさんにはしばらくの間会えなくなる。だから、彼女が作った武器は素晴らしい物だと今ここで証明しなければ。
 ただ一つ懸念があるとすれば、俺がこのクロスボウ……アルカゲティスをキチンと使いこなせるかって事だが……どうかどうか、失敗しませんように……!

「よし……っ、やるぞ。ブラック、ちょっと下がってて」
「うん、ツカサ君くれぐれも無理はしないようにね」
「わーってるって」

 そう言いながら、俺は一番目の水晶に木の曜気を注ぎ込む。
 一番使い慣れている木の曜術なら、上手くコントロール出来るかもしれない。
 ただ、木と言う性質であれば想像するのは難しい。
 木の曜気の弓矢は……どうイメージするべきか。
 力を籠めながら、俺は考える。

「木……矢だとなんかありきたりだし……うーん、そうだな……」

 そう言えば俺は以前アーシェル・ガストという種を遠くへ飛ばして発芽させると言う術を使った事が有った。あれは気の付加術との複合だったけど、ああいう感じで想像すればいいんじゃなかろうか。
 少なくとも俺には黒曜の使者の力がある訳だし……ここはちょっとズルをして。

「……よーし…………」

 俺の中のイメージが固まると同時に、水晶が綺麗な緑色に染まる。
 それを確認すると、俺はトリガーを引いて射出部分にその水晶を移動させた。
 装填された水晶が、弓へと繋がる溝を緑の光で満たす。
 その光を見て、俺は一度戻ったトリガーを再び握った。

「行くぞ……」

 どうなるかは、やってみなけりゃ解らない。
 なんにせよ、これが俺の武器の華々しい一発目だ。格好良く決めてやる。
 どんな衝撃が来ても良いように、俺はごくりと唾を飲み込んだ。

 いざ、尋常に勝負……!

「一発目、いっきまぁあああす!!」

 叫んで、俺は思いっきりトリガーを引く。
 その、瞬間。一気にクロスボウ全体に緑の光が走り――――
 弓矢の形をした緑色の光が、炭化した煉瓦に思い切り飛び込んだ。

「なにっ……!?」
「うわぁあ!?」

 背後から叫び声が聞こえる。
 その刹那、ガラガラと何かが崩れ落ちる音が聞こえた。
 くずれ……え? 崩れ落ちる?

「え……え……!?」

 何が起こったのかと、慌てて自分が攻撃したところを見る。
 すると、そこには……崩れて向こう側がコンニチワした壁と……その壁に蜘蛛の巣のように思いっきり広がっている、蔦が…………。

「…………え?」

 ちょっとまって、意味が解らん。
 俺は普通に緑の光の矢をイメージして打ったんだけど、どうしてこんな攻撃力と捕縛性を備えた矢が出てきちゃったのかな……?

「こりゃ……アタシは大変なモンを作っちゃったみたいだな……」

 あからさまに「想定外の威力です」と言わんばかりのグローゼルさんの言葉に、俺は今更ダラダラと冷や汗を流し始める。
 ええ、待って。わりと威力は弱めにして曜気を籠めたのに、これってことは……俺の武器も、鍛錬が必要って事ですか……?

「…………いやー……これ、僕はともかくツカサ君は大丈夫かな……?」

 うるせーブラック、お前一人だけ「僕はすぐ剣を使いこなしてみせますけどね」みたいな顔しやがって。
 でもこれは確かに……スキルアップが必要かも……。
 まさかこんな強烈な武器になるなんて思わなかったし、これでは他の属性を籠めたらどうなるか解らない。それこそ、ヴリトラ以上に酷い事になるかも。
 まだ調整方法も解らないし、これは危険すぎるぞ……。

「……身に余る武器って、確か破滅を呼ぶんだっけ……?」

 そんなようなことを格好いい軍人キャラが言っていた気がする。
 だけど、俺達はこの武器を望んだ訳で、俺も術式機械弓アルカゲティス自体は物凄く気に入っているので、今更これは返しますとは言えない訳で。
 出来れば使いこなしたいけど……外で使うにはまだ技量が足りないよなあ。

「うーん…………これは……当分戦闘には使えないな……」

 ブラックはともかく、俺は当分曜術縛りになりそうだ。
 オーデル皇国に着くまでには、使いこなせればいいんだが。














※次はちゃんと本題入ります、すみません(;´∀`)
 武器の説明もっとやりたかったけど自重します_(:3 」∠)_
 
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