異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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波乱の大祭、千差万別の恋模様編

29.新たな道を示すのは

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 そもそも、俺達がこの街に留まってた一番の理由は、クロウがここに居るという事をシアンさんに知らせて連絡を取る為だった。
 祭りの事件や師匠の事ですっかり忘れてたけど、もうそろそろ返信が到着しても良いはずだ。祭りから数日たってるんだし、さすがになんか進展あるよな?
 ってなわけで、翌日俺達は冒険者ギルドへと出向く事にした。

 勿論、ブラックと、クロウと、まだぐっすりなロクと一緒に。
 ……まあ昨日は色々と有った訳だけど、とりあえずブラックとは昨晩の内に話し合って一応の結論を得たので、今日は比較的平穏だ。

 そのブラックとの話は別に面白い事でもなく実に単調な会話だったので結論から言うが、とりあえず「クロウを受け入れるにせよ、恋人としては接する事は無い」と言う結論で納得して貰う事になった。

 だって、俺も一応はブラックを恋人だと考えてるワケだし……それにクロウ自身が二番目と言っているのだから、彼も恋人になる気はないのだろう。
 クロウの望む事は出来るだけ叶えてやりたいとは思っているが、それとブラックへの感情はまた別だ。

 例え同じ感情だったとしても、俺はクロウとブラックのどちらかを切り離したりはしない。受け入れるって決めた以上は、最後まで一緒に居るさ。
 だから、恋人としての関係はブラックだけだと言っておいた。
 ……ただし、かなーり回りくどく。

 でも、ブラックにとっては不快な話だし、散々クロウを嫌っていたんだから、俺の決心なんて激怒の対象以外の何物でもない。
 これは変に拗れて一発やられるかもなと思っていたんだが、意外にもブラックはあっさり頷いてくれた。しかも、お仕置とかナシ。

 これってつまり……あらかじめ俺がこういう事を話すって知ってて、その答えも用意してたって事だよな。そうでも無いと、恋敵である他人を加入させるって問題で、ブラックがこんなに冷静に返してこれるはずが無いもの。

 やっぱり、ブラックとクロウは俺を寝かせてる間にこういう話をしていたみたいだ。二人とも話してくれないので推測する事しか出来ないけども、とにかくお互いに落としどころを見つけてとっくの昔に覚悟を決めていたみたいだな。
 それを教えてくれなかったのはちょっと悔しいが、とりあえずはこれで変なギクシャクも無く旅ができる事になった訳だ。

 ……まあ、俺自身、クロウの事をどう思っているかまだ正確には判らない。
 ぶっちゃけ色々触れられても嫌だとは思えなかったから、憎からず思ってる……なんてレベルじゃない程度にはクロウの事を好きなんだろうけど……こういう場合の気持ちってのは、どういう類の物なんだろうなあ。

 恋の仕方も愛し方も人それぞれって言われたけど、実際ガチで二番目のオスだって俺も納得しちゃったら、色々とヤバい気がするんだけど……。

「ツカサ君、なにぼーっとしてるの。ほら、ギルドに着いたよ」
「お、おう。今日こそは連絡が取れてたらいいな」
「そうだな。とにかくウァンティア候にはまず謝っておかないと」

 ウァンティア候、すなわちシアンさんだ。
 わりと他人の事など気にしないスタンスのクロウがちゃんとこう呼ぶんだから、本当に凄い人なんだろうなあ……。

 俺達にとっては時々思っても見ない事を言う親しいお婆ちゃんだけど、いつかはシアンさんの仕事っぷりをみる事も有るんだろうか。
 そんな事を思いつつ冒険者ギルドの扉を開けると、唐突に耳障りなざわつきが聞こえてきた。ギルドに居る人達は、何やら物凄く驚いているようだ。どうしたのかと周囲を見回すと、ギルドにいた全員がある一点を見つめているのが判った。その視線を辿たどって受付の方に目をやると……。

「……あっ……」
「えぇ……またアイツ……?」

 ブラックの迷惑そうな声に、長身の影がゆらりとこちらを向いた。

「またアイツ、と言いたいのはこちらですが。まったく、通信手段があると言うのに何故私がここまで来なければならないのか……はなはだ疑問です」

 黒いローブをかぶり、その特徴的な耳を隠した、類稀な美貌を持つ女性。
 豊かなおっぱいとその美しい金の髪はまさに、まさに……!

「エネさん!!」

 おっぱ、いや、おっぱ、いや、久しぶりのおっ……いや、美しい巨乳エルフさんに出会えた嬉しさで思わず声を上げてしまった俺に、エネさんは少しだけ微笑んで近付いてきた。

 お、お、おっぱいが。ローブでも揺れてますおっぱいが。
 駄目だ、失礼だとは解っているのに、どうしても男の本能が胸と顔を交互に見てしまう。どうにか視線を右ひじと左ひじに逃さねば。

「ええええエネさんお久しぶりですお美しい」
「お久しぶりです、ツカサ様。お褒めの言葉と気持ちの悪い発情によるどもり声、嬉しい限りです。早速ですが、こんな異臭が充満する下等生物の集会場にはもう一分といられませんので、静かな場所に移動しましょう」
「わあその毒舌も変わっていらっしゃらない」

 後ろでなんかブラックが人を殺しそうな顔をしてるけど俺は気にしてません。
 はいはいクロウも俺の態度にポカンとしないでねー、女の人に発情しないお前らがおかしいんだからねー。俺は普通のスケベキャラなだけだからねー。
 さあ、師匠に部屋を借りてぱぱっと話しちゃいましょう。

 受付の華やかおねーさんには師匠やエネさんから話が行っていたようで、俺達が訪ねるとすぐに部屋に案内してくれた。
 やっぱり世界を守る『世界協定』の使者は段違いの存在らしく、いつもはお色気ムンムンなお姉さんも緊張でぎくしゃくしている。他の受付嬢の麗しいお姉さん達も、エネさんの正体を知ってからは背筋を伸ばして固まっていた。

 ギルドでの世界協定の扱われ方って今までよく解らなかったけど……この感じはアレだ、黄門さまレベルの扱いだな。
 使者一人でもこんな扱いなんだから、シアンさんみたいな最高位の存在だと、きっと頭が上がらないほどの凄い存在になってしまうのだろう。

 ギルドは世界協定の直轄組織じゃないけど、世界中に根を張る為に色々と協力して貰ってたりするんだろうなあ。うーむ、未だにどんな組織なのかわからんけど、いかにも巨大な組織って感じだ。

 そんな人と仲良しって、俺って実は結構凄いコネを持っているのでは。
 なんてふざけた事を思いつつ応接室へと案内して貰うと、エネさんは早速お馴染みの【偽像球】を取り出した。
 暗がりの無い部屋でもその球が映し出す映像は綺麗に浮かび上がり、そうして半透明の姿のシアンさんが俺達の目の前に現れる。

「な、何だこれは」

 あ。クロウは知らなかったか……。
 目を丸くして驚くクロウは、珍しく熊耳の毛を暴発させて警戒している。
 ちょっと可愛いなと思いつつ、俺は偽像球の事を簡単に説明して安心させてやった。まあ俺は漫画とかで見た事有るし、テレビとかも知ってるから驚かなかったけど、実際こんなの初めて見たら驚くよなあ。

「お話は終わったかしら」
「あ、はい。いやーお久しぶりですシアンさん」

 老いてもなお美しい相手は、相変わらず変わらない。むしろ離れていたからか、その特異な美貌を改めてみると思わず赤面してしまう。エルフの女性ってのは、お婆ちゃんになってもマジで綺麗で魅力的なんだなあ……。
 赤い顔で慌てて頭を下げると、シアンさんは俺達を見てくすくすと笑った。

「ふふふ。何だかちょっと見ない内に、ツカサ君が大きくなってしまった気がするわ。お婆ちゃんとしてはちょっと寂しいわねえ」
「えっ、俺成長してますか」
「体はそうでもないけど、心はね。物凄く大きくなった気がするわ。……ま、この面倒臭いブラックと、クロウクルワッハさんを手懐けてるんだから当然だけど」
「て、てな」
「おいシアン、僕をこの熊と一緒にするな! 僕はツカサ君の」
「はいはい、恋人よねはいはいはい。惚気のろけ話なら今度顔を合わせた時に聞きますから、今は別の話をしましょうね」

 シアンさん、息子のような存在のブラックに容赦がない。
 いやまあ、確かに今は別の話の方が大事ですけどね。
 何をこのババアといきり立つブラックを両手で押さえつつ、俺は早く本題に入ろうとシアンさんに問いかけた。

「えっと……では本題ですが……手紙とかじゃなくてエネさんを寄越したって事は、重要な事を話しに来たからですよね?」
「ええ、察しが良くて助かるわ。まあそれは後で話すとして……ではまず、クロウクルワッハさんが勝手に国境を越えて出国した事ですが……今回は不問とします。本当は異邦人条約においての重大な条約違反なんだけど、クロウクルワッハさんは特別だから仕方ないわ」

 クロウが特別? どういう事だろうか。
 考えている間に、クロウが少し深刻そうな声でシアンに問いかけた。

「スクリープ達はどうなった。ちゃんとベーマスに戻れたか?」
「もちろんです。皆さんの事は船できちんとお送りしましたから、ご安心を」
「そうか……なら、いい」

 ホッと胸を撫で下ろしたクロウに、俺もなんだか安心する。
 そうだよな。ずっと自分に付いて来てくれた仲間なんだから、無事に故郷に帰れたかどうかはやっぱり心配だもんな……。

 スクリープさん達は元気にしてるかなあ。なんか印象がザマスしか脳内に蘇ってこないから、あの時の事が未だによく思い出せないんだけど。
 イケメンのザマスがとても衝撃的すぎてね、うん……。

「それで……ギルド長からの連絡で、クロウクルワッハさんの目的が判ったので、私達なりにお父上の事を調べてみたのですが……お父上はどうやら、魔族の船に乗ってヒノワを経由し、オーデル皇国に渡ったみたいです」
「オーデル皇国?」

 首を傾げるクロウに、ブラックが不機嫌な口調で説明する。

「この大陸の北方全てを支配している国だよ。凄い技術を持っていて、その国土は大陸一の広さだ。その広大さと言ったら、ライクネス、アコール、ベランデルンと国境越しに繋がってるほどさ。ただ、雪や険しい山に覆われているから、人が住んでいる地域は国土の五分の一しかないけどね」
「そ、そんなに広いの!?」

 思わず驚いてしまったが、あれかな、要するにロシアみたいなものかな?
 北方だって言うし、だとしたら雪国か……雪国・皇帝・凄い技術の国と来たら、漫画の影響でラスボスとか悪者が居る場所ってイメージになってしまうが、どんな国なんだろう。この世界の事だから、別に悪い国では無さそうだが。

 ブラックの説明に驚いて色々考える俺を余所に、シアンさんは話を継いだ。

「それで……オーデル皇国側にその後の消息を聞いてはみましたが、解らなかったそうです。ですが、かの地にお父上が足を踏み入れたのは確か……貴方がもし望むのならば、私達から皇国側に打診して調査して貰う事も出来ますし、自力でと言う事なら協力しますが……どうなさりたいですか、クロウクルワッハさん」

 その言葉に、クロウは俺達を見た。

「…………ツカサ……ブラック……」

 クロウは熊の耳を垂れて、潤んだ橙色の瞳で俺達を見る。
 そりゃあもう、捨てられた子犬のように真っ直ぐに……。

「う……ぅう……」

 こんな目をされたら、相手がオッサンだろうが何だろうが断れない。
 って言うか俺、クロウが必要だとか言っちゃったしなあ……。それに断る理由もないし、父親探して三千里なんて泣ける話だし、出来れば会わせてあげたいし……でもなあ、隣のオッサンがなあ……。
 いや、でも、この目は断れない……!

 懇願するようにじっと見つめる相手に我慢できず、俺はブラックの方を向いた。

「ブラック……」

 俺も、クロウと同じようにじぃっとブラックを見る。
 それはもう目をキラキラさせて、じーっと……。
 すると、ブラックは俺の顔に耐え切れなくなったのか、でっかい溜息を吐いて「降参ですよ」と言わんばかりに両手を上げた。

「あーあーもう分かった分かったよ! コイツの父親探しに付き合えばいいんだろっ! 構いませんよ、どーせ僕達はフラフラ旅してたしね!!」
「やったー! ブラックえらいぞっ、ちゃんと大人だぞっ」
「流石は群れの王だ」

 俺達はブラックの英断に喜んで褒めちぎるが、ブラックは褒めれば褒めるほどにぶすくれた顔になり、ねたように肩をすくめた。

「どーせお前もこうなる事が解ってたんだろ、シアン」

 あからさまに不機嫌な言葉に、シアンさんは苦笑して首を傾げる。
 そうして、嬉しそうに言った。

「ふふっ……本当に優しくなったわね、ブラック」

 母親のような温かい眼差まなざしに、ブラックはぶっきらぼうに鼻を鳴らして顔を背けた。その頬がほんの少しだけ染まっているのは、きっと照れ臭いからだろう。
 何だか微笑ましくて、こっちまで笑ってしまう。
 だけどからかったら悪いような気がして、俺は笑みを収めると気合を入れるように小さくガッツポーズをした。

「よしっ、じゃあ次の行き先は雪の国オーデルだな! グローゼルさんから武器を受け取ったら、さっそく北へと向かおう!」
「私も丁度オーデルに用事があるから、これからそっちに向かうわ。だから、到着したら首都の世界協定支部で会いましょう。私が居た方が色々と調べやすいでしょうし……何より、他にも話す事はありますからね」

 その事はきっと、アタラクシアの遺跡の事だろう。
 ああ、そう言えばレッドとの事も話さなきゃな。よくよく考えたらクロウとの事以外も問題が山積みだけど……まあ、なんとかなるだろう!

 何たって、俺は一人じゃない。
 どんな事が有ったって、一人で鬱々うつうつと悩まなくたっていいんだ。
 信頼できる仲間が、ずっと俺の傍に居てくれるんだからな。

 
 














※次は一話目は武器の話で、二話目からちょっと時間が飛びます
 オーデルまでの道のり編ですが攻めが二人に増えた事で
 ちょっとアレな展開になるのであらかじめご了承ください…!
 
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