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波乱の大祭、千差万別の恋模様編
8.星降る山を歩むもの
しおりを挟む俺もうおムコに行けない……。
人が居るってのにあんな事して、しかも気持ちよくなっちゃうなんて。
マジで変態じゃん、こんなのブラックのこと罵れないじゃんんん。
うううう、こんにゃろぉおお……! バレなかったから良かったものの、バレてたらどうなってたか、冷静になったら肝が冷えてしょうがないわ。
流された俺も俺だけど、こいつが盛らなければこんな思いせずに済んだのに。
本当もう、こいつ嫌、この中年嫌い!!
「ってぶすくれてるけど、ツカサ君は僕の事好きなんだよねぇ~」
「人の心を読むな抱き着くなデカブツしまえバカァ!!」
後処理もむなしいし、こんな満天の星空の下でまた犯されたとかホントに嫌なんですけど。考えれば考えるほど死にたくなるんですけど!!
チクショウ、結局こいつの思い通りかよ。
好きだからって何しても良い訳じゃねーぞこの野郎……。
「ズボン穿いたから抱き着いてもいいよね、えへへ」
「ああもう、勝手にしろ……」
どーせ拒否したって無理矢理抱き締められるんだから、どうしようもない。
……そう思って許すのも相手を許容してる俺もどうかと思うけどさあもう。
ああオッサン臭い、げんなりする。
「そんなに怒らないでよツカサ君。僕達がここに来たお蔭で、いくつか分かった事も有るじゃないか。結果良ければすべて良しだよ」
「俺のケツが痛い事は良い結果なのか? あ?」
「それはそれとして、まず何を処理すべきかははっきりしたよね」
「無視か」
都合が悪くなるとそうやってすぐ逃げるのは大人の悪い所だ。
イラッとしたけど、いつまでも怒ってても仕方ない。俺はでっかい溜息を吐くと、気を取り直してブラックの話に乗ってやった。
「えーと……白煙壁っていうモノが霧を発生させているって事と、クラーケンを操ってる謎の女の人がいるって事か? それでいて、その謎の女……姉御って奴はリリーネさんを恨んでいて失脚を狙っている……と」
「それと、姉御って女は後釜に座ろうとしていて、あのクソ海賊は身の程知らずな事に僕からツカサ君を奪おうと本気で考えてるってのも追加だね」
「落ちつけ落ちつけ。……で、この中で先に処理すべきものって言ったらやっぱり……ガーランドをとっちめるか、白煙壁って道具を壊すかだよな」
俺の言葉に、背後でブラックが大きく頷くのが分かった。
「ガーランドを締め上げた方が早いのは確かだけど、でもそれだと女の方が白煙壁を別の場所へ移動させる可能性も有る。誰が『姉御』なのかが判明しなければ、ガーランドを引き離して尋問する事も出来ないだろうし……それを考えると、もうこっちで白煙壁を見つけて壊しちゃった方が早いんだけどね」
まあそうだよなあ……姉御って女の人を捕えなきゃクラーケンもそのままだろうし……仮に彼女が参加者の中に居るとしたら、霧が晴れても動く事は出来ないし、森の中に潜んでたとしても迂闊に行動できないだろうから、霧を晴らす事が一番に優先させるべき行動だってのは解るんだけど……。
「うーん……でも、肝心の霧を発生させる道具がどこにあるのかがなぁ……」
「霧はどうやらこの島の周囲を回ってるように動いてるから、その動きがちゃんと解る所があればどうにか……」
「島を囲んでる霧が全部見える場所……となると……あそこか?」
俺が見上げると、ブラックも同じようにある一点を見上げる。
そこには、星空の下で黒く聳え立つ島の頂点が映っていた。
「…………登ってみる?」
「言っておくが俺はお前のせいでケツが痛いから歩けんぞ」
「おおおおんぶ! おんぶしようか!! ねっ、おんぶしようおんぶ!!」
「その反応、自分でもおかしいと思ってくれないかなぁいい加減……」
おっぱいが背中に当たるぜ、ヤッター! とか言う展開だったなら、俺もそんな風な欲望丸出しのリアクションをしてたと思うけど、男の俺をおんぶしても当たるのはせいぜい粗末な息子くらいなもんですよ。
そうは思うけど、目に見える好意を向けられると、さっきまでの「嫌な自分」が掻き消えたような気がして、不覚にも少し安堵してしまっている俺がいる訳で。
……はあ。なんかもう、俺も重症だなあ……。
クジラ島はそれほど大きくない島だが、だからといって山が小さい訳ではない。
小山、というのがどのくらいの高さまでなのかは俺には解らないが、クジラ島の頂上はそれなりの標高を誇っているらしかった。
そんな場所を、俺をおんぶしてブラックが登っている訳だが……。
「は、はやひ」
「そりゃ当たり前だよ。ラピッド使ってるもん」
サラッと「当たり前だよ」って仰るけど、ラピッドで脚力を強化してこんなに早くなりましたっけ。
それにベランデルンは大地の気もかなり少ないのに、どういう事だろう。
まさか……。
「あのさ、もしかして……俺絡み?」
「うーん? 言われてみればそうかも……。ツカサ君が『大丈夫か?』とか言ってくれる度になんかラピッドの効果が高まってる感じがしたし」
「……気遣うだけでもこれって、俺ヤバいんじゃ……」
「あはは、ただ単に僕とツカサ君の相性がいいだけかもよ? それに、僕達は恋人だし……それも関係あるのかも」
軽口を叩きつつ順調に登山道を登っていくブラックに揺られながら、俺は何だか妙に恥ずかしくなってぐっと相手のマントを握った。
マジでそうなのかな。恋人だから、こんな風に力を与えっぱなしになるのか?
……だとしたら、俺、やっぱそこそこコイツの事好きって事なのでは……。
「うわっ、うわうわうわ」
「え? どうかした?」
「なんでもひゃい!!」
ううう、寒くて口が回らなくなってきた。ブラックの体温に縋りつくように体を寄せると、何を勘違いしたのか、相手はだらしない笑い声を漏らして俺の尻をもつ手を動かす。
やめんかいおバカ。
「スケベな事する暇が有ったらさっさと登れ!」
「ああ~、ツカサ君にスケベって言われるとまた興奮しちゃうなぁ~」
「お前本当にどうやったら枯れるの……」
俺の心底怖がってる声など気にもせず、ブラックはどんどん山道を登っていく。
空が近くなるにつれて周囲が冷たくなってきて、やっぱりここは秋の気候なんだと改めて感じた。星空もどんどん小さな瞬きが増えて行って、頭の上には天の川に似た綺麗な星の群れが遠くまで続いていた。
「高い所にまでくると、こんなのも見れるんだ……」
「ああ、銀河だね。銀河は小さな星の群れだから、山に登らないと見えないんだ。だから、凄く貴重で尊い物みたいに見えるだろう? それもあってか、山は神聖なものだってことで昔は登る人が少なかったんだって」
「へー……今はそうでも無いんだ?」
「うん。山には金属も沢山あるし、旅人が越えるからね。でも、そんな風潮があったからなのか、鍛冶師達は『星が落ちて土を分け、星は金属となり巻き上げられた土は山になった』って伝説を今も信じてたりするよ」
それはロマンチックだなー。
大地に落ちた星は宝石や金属になる。星が落ちた所から追い出された土は、その星に覆いかぶさって山になる。素敵な話だけど、ファンタジーだから有り得る伝説なんだよな。俺の世界じゃ星が落ちて来たらクレーターがズドンだし。
でも、そう言う夢のある話は嫌いじゃない。
ファンタジーな世界に来ると、そんな夢物語すら現実になるから面白いわ。
「なあブラック、そう言う話もっと話してくれよ」
「ふふふ、ツカサ君本当こういうお話好きだよね。……うん、いいよ」
はにかむように笑うブラックの横顔は、どこか嬉しそうだ。
そんな相手の顔を見るのは、正直言って俺も嬉しかった。
……だってその……そりゃ、素直に喜んでる顔って、可愛いもんだし……。
とにかく、話だ。話が聞きたいんだ俺は。ただそれだけ!
そんなこんなでブラックが教えてくれる雑学を聞きながら登っていくと、ようやく頂上が見えてきた。
クジラ島の頂上は禿山なだけあって殺風景で、だがそのおかげで全方位が難なく見渡せる。俺は降ろしたがらないブラックにチョップをして降ろして貰うと、遥か下に広がる光景を覗き見た。
「おぉ、高いな……ってか、マジで島の向こうは晴れてるな」
「だねえ……なのに、霧は本当におかしいくらいに、綺麗な円形を保って島を取り囲んでる……これが人為的じゃないって言うんなら、神の力でも働いているとしか言いようがないよねえ」
確かに、霧はドーナツみたいに厚みも高さも一定を保ちながら動いている。
でも……霧って言うのは、あんな風に一定にならないから霧なわけで。
それを考えると、やっぱ人工的なモノに違いないよなあ。
しかし、それはどこから発生しているのか。
俺とブラックは全方向大パノラマな頂上から、注意深く霧の流れを観察した。
夜だからなのか知らないが、真っ白な霧は妙に暗闇に浮かび上がって見やすい。
目を凝らせば、高く遠いこの場所からでも霧の流れは理解出来た。
その流れを辿って、ゆっくりと動いてみると――――。
「…………ん? なあブラック、あの島の裏側の方……流れが途切れてないか?」
俺が気付いたのは、島の裏側を流れている霧の一部分。
潮風競争の時、丁度俺達が霧に視界を遮られた地点だ。どれどれとブラックがやって来てそこを数秒じっとみやるが、やはりその部分の変化に気づいたらしく、小難しげに顔を歪めて頬を指で擦った。
「確かに変だね……霧の流れが、あの場所で一度途切れているような感じだ……。ツカサ君、あそこが見える場所に行ってみようか。もし曜具とかの類があの場所に有るとしたら、僕の曜術で設置されてる所が判るかも」
「あっ、そっか……アンタは金の曜術師でもあったんだっけ……!」
普通、金の曜術師は木の曜術師と同じように冒険者になる事は無い。
だから誰もその装置が発見されるなんて思っても見ないのだ。
と言う事は、件の白煙壁と言う装置は野ざらしで放置されているはず!
ブラックが居てくれれば、霧を発生させる装置がぶっ壊せるかも……!
「よし、行こうぜ!」
早速向かおうと思い、勇ましく踵を返した俺だったが……一歩踏み出した途端、腰の鈍痛に崩れ落ち……結局、ブラックにおぶられたままでの下山という情けない移動になってしまった。
トホホ、格好つかねえなあもう……。
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