異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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港町ランティナ、恋も料理も命がけ編

15.知らぬは当人ばかりなり

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「と言う訳で、海賊ギルドの人達が集まってる場所に潜り込んだわけですが」
「わ、わけですがって、ツカサ君唐突すぎるアル」

 それもそうだなと思ったが、事は一刻を争うのだ。
 明日までに何か情報を一つでも持って帰らなければ、俺達の夏は終わる。いや違った、ファラン師匠の恋が終わりかねない。
 そもそも、俺達が……って言うか俺が祭りに参加する理由は、リリーネさんに弱くてダサい男だと思われている師匠の格好いい所をババーンと見せつけて、師匠が彼女に告白しやすい環境を作る事なのだ。

 だけど、いくら祭りで格好いいところを見せても、リリーネさんがなびかないと言う可能性もある。さっきの事を見ていると、俺は不安でならなかった。
 ……いやだってさ、リリーネさん完全に師匠の事「知り合いの面白い兄ちゃん」的な目でしか見てなかったじゃん……脈以前の問題だよ……。

 だからこそ、俺は師匠を連れて登録所の周辺で固まっている、海賊ギルド諸君の近くへとやって来たのだ。

 俺達よりもリリーネさんを知っているであろう人が沢山いる所なら、一つくらいは彼女が好きな物を聞きだせるかもしれない。

「こうなったら俺は師匠の恋を応援するために頑張りますよ」
「うぅう……ありがとうツカサ君……」

 因みにブラックとクロウは目立ちすぎるので遠くから見て貰っている。
 最初は一緒に付いて来ようとしたが、俺が止めた。だってあいつらがガーランドに見つかったら乱闘とか起きかねないじゃん。
 まあでも俺達も気を付けなきゃな。あまり言いたくないが、俺みたいなちんちくりんでも構わずに掘っちまおうとする奴らがここには多数存在するようだ。
 ガーランドも危ないが、ブラックにブチギレされない為にも自衛しなければ。

 師匠の話では、ガーランドは海賊ギルドでも恐れられたり鼻つまみ者だったりって言う評価らしいので、手下も多分遠くからしか見てないと思うんだけど……。
 まあ、虎穴に入らずんば虎児を得ずだ。俺一人じゃ絡まれそうで不安だったが、師匠は強いし心配なかろう。ってな訳で、俺達は早速情報収集を開始した。

 幸い俺はこれまでも何度かこういう事をした事が有るし、相手が荒くれ者な海賊であっても、真摯しんしに接すれば大抵の人はきちんと答えてくれる事を知っている。
 今回は「なんで冒険者ギルドのダメ長が一緒なんだよ」と言う反応も多かったが、そこは俺がリリーネさんにいつもお世話して貰ってるからお礼がしたい、ってな事を言ってごまかしたのでオッケーだ。

 そんなこんなで数時間調査して得た情報は、こんな感じだった。

「えーっと……リリーネさんは甘い物が好きで、綺麗好きで、お茶も好きで、白兵戦と自分の下に倒れる強い男達を見るのが好き……」
「ま、待つアル、ツカサ君。なんか最後とんでもない言葉が聞こえたヨ……?」
「俺も無かった事にしたいけど、残念ながら側近の人から聞いた確かな情報です」
「ふえぇ……私期待に応えられるか自身無くなって来たネ……とりあえず、強い所を見せてから、改めてリリーネちゃんに倒されるって言う事でいいアルか……?」
「そ、そういう事かな……?」

 せっかく強さを見せつけたのに、またもや彼女に倒されるってのは本末転倒な気がしないでもないが、しかし彼らが言う事が本当なら仕方ない。
 けどさあ、白兵戦が好きなお嬢様って……。

「海賊って女子も基本的に戦うのが好きなんですかね……」
「ま、まあそこは冒険者ギルドと似たような物だからネ……」

 そう言えばそうか……。まったく、この世界の女性冒険家はかくもたくましい。
 まあでも、そのくらいじゃないと冒険なんて出来ないか。
 うーん、マッスル美女も萌えますけども、俺はアコール卿国で出会った宿の娘ちゃんくらいの素朴さの方が好きだなあ……。

 とかなんとか考えていると、不意に小柄なお爺ちゃんが声をかけて来た。

「やあやあ、ファランさん。武器が帰って来たようだの」
「ああ、セダさん。この前のクラーケン退治の時はお世話になりましたアル」

 クラーケン……そっか、そもそも師匠が剣を修理に出したのは、近海にでっかいモンスターが出現したからだっけ。そう言えばその辺りの話は全然聞いてなかったけど、結構な大捕り物だったんだよな?
 それにこのセダってお爺ちゃんが協力したのか。船を貸したのかな?

 話の流れが俺にはよく解らなかったので、とりあえず二人の会話を静かに聞いて見る事にした。

「祭りが来ちまったけど、大丈夫かねえ。ああいうのは一匹見たらもう一匹は居るんだろう? 祭りがおじゃんにならなきゃええんだが」
「もう一匹いるかどうかは不明だけど、祭りには海賊も冒険者もいるから、きっと平気アルネ。この前も連携して倒したヨ」
「だけどお前さん、あの時はリリーネさんが不在で海賊ギルドは混乱してたし……なにより、クラーケンもアンタ一人で倒したようなモンじゃないか。そんな連中で船を出すってのは、まあ……危なっかしいなあ。明日の天気も心配だしのう」

 むむむ……クラーケンってそんなに強かったのか。って言うか、一番驚きなのは師匠が一人でそんな化け物を倒したという事実なんだが。
 それが本当なら、もしその場にリリーネさんがいたら惚れてたのでは?
 ことごとく運がないと言うか、好きな人の前では格好がつかないんだな師匠……。

 いや、ちょっと待てよ。
 これまでのリリーネさんの「好きな物」を考えてみると……これ、実はリリーネさんも師匠の事を好きだったりしないのかな。

 あくまでも近所のお兄さんって感じの扱いだったけど、よく考えたら照れ隠しって可能性もあるよな。実際はどうか分からないけど……でも、もしリリーネさんが師匠の実力を知っていたとしたら、惚れない訳がないと思うんだが。
 俺ならクラーケン一人でぶった切ったって話を聞いたら「すっげえええええ」ってすぐ尊敬しちまうんだけどな。
 うーん、でもなあ、女心ってのは複雑って言うしなあ。

「ツカサ君、どうしたアルか?」
「あ、いや何でもないッス。あれ、お爺さん……セダさんって人は?」
「もう帰ったアル。どうやら港が心配で見に来たみたいアルね。あっ、セダさんは私に船を貸してくれた人で、クラーケン退治の時に凄く協力してもらったアルヨ」
「そうなんですか……。あの、そう言えばクラーケンって言ってましたけど、マジで心配ないんですか?」

 まあ「他の奴は役に立たなかった」ってのはセダさんの主観だし、すんなり信じる訳には行かないけど……心配なのは解る。
 俺はまだ海のモンスターってのを見た事がないけど、一度港に姿を現したのなら二度目がないとは言えないよな。セダさんが怖がるのも無理ないよ。
 言われるまで気付かなかったが、そんな状態で祭りやって大丈夫なんだろうか。

 今更心配になった俺に、師匠は気にするなとばかりに明るく笑った。

「大丈夫アルヨ! クラーケンは基本的に単独行動するモンスターアル。それに、この前港に現れたのも、海賊が逃げきれずにつれて来たのが原因ネ。クラーケンの住処はここよりもっと遠くの海域だと言うし、現れる確率はちりより小さいアル」
「そうですか……それなら良かったです!」

 後でちゃんと調べるけど、ギルド長の師匠が言うんなら心配ないだろう。
 俺は海の事に関しては門外漢だし、港町で長年ギルド長をしている師匠の方が色々と理解しているに違いない。
 それに塵より小さい「アタリ」の確率を気にしててもしょうがないだろう。今は人災の方を心配する事にしよう。ガーランドもそうだけど、特にブラックとクロウの事な。

 俺は料理なら失敗しない自信がある。幸い俺は本番に強いし、女装して人前で踊った事も有るんだ、普通に競争する程度ならもう何も怖くないわ。
 だから、とりあえずは中年二人が喧嘩しないようにサポートしなくちゃな。

 明日は晴れだって周囲の人が口々に言ってるけど、風が強かったら舟をぐのにも影響が出るし、その場合天候へのイライラのせいで険悪になりかねん。
 俺はブラック達より体力ないんだし、せめてそのあたりのメンタルケアくらいは頑張らなきゃ男がすたる……と言っても、俺が出来る事はたかが知れてるが。

「それより……ちょっと気になることがあるアルネ」
「気になる事?」
「ガーランドは、祭りに行儀よく参加するようないい子ちゃんな海賊じゃないネ。そのガーランドが祭りで正々堂々の勝負を仕掛けてくるなんて……やっぱり私にはせないアル……。それに、あの男はリリーネちゃんにも色目を使ってたネ。よくよく考えたら、何か裏があるような気がして来たアル……」
「裏……」

 ぶっちゃけ、俺はガーランドがどんな人物かよく解ってないし、第一印象は凄く失礼で悪い意味で海賊っぽい人間だとしか思えなかった。
 だけど……狡猾な奴って言うのなら、確かにそういう別の目的を考えてる可能性もあるよな。その目的が何かは解らないけど、そもそも俺をさらう宣言するってのもありえない事だし、やっぱ別に目的が……?

「まあそうですよね、俺を攫うなんて事、冗談でも無けりゃ言わないし……」
「いや、それは普通に本心からだと思うけどネ……」
「でも何をたくらんでるんですかね?」

 師匠が何か突っ込んだ気がするけど俺は聞こえない。聞こえないぞ。
 その意思を固くして師匠を見上げると、相手は困り顔で頬を掻いた。

「……それは、私にもまだ解らないネ……。何にせよ、ブラックさんと熊さんの事と同じようにガーランドの動きも警戒しなきゃいけないアルヨ。今の所、街で不穏な動きは見せてなかったみたいだけど……港での事は私には解らないから、明日の祭りはそう言う所にも注意した方が良いアル」
「……そうっすね。俺、ブラック達と師匠が頑張ってる間、一生懸命見張ります」

 折角の楽しい祭りだ。
 師匠の恋を叶える為のイベントでも有るんだ。
 願わくば、安全に楽しく終わって欲しい物だが……。

 でもなあ、なんか嫌な予感がするんだよなあ。ブラックとクロウがお互いに睨みあってるのを見ると、明日が不安でしょうがない。
 お祭りは普通楽しいものだってのに、どうしてこんなに気苦労が絶えないのか。

 がっくり項垂うなだれる俺に、師匠がさらに追い打ちをかけるような言葉を放つ。

「あ、ツカサ君。一生懸命やるんなら……出来れば、自分のこともちゃんと見てて欲しいアルネ」
「はえ?」
「きみ、ずーっと気付いてなかったけど……さっきから男達に痴漢されそうになってたヨ……。私が言うのもなんだけど、ブラックさんの為にも、もうちょっと自分の事を気に掛けた方がいいと思うネ……」
「…………ご……ごちゅうこく……ありがとごじゃいます」

 あれ……お、おれも気を付けてたつもりなんだけどな。
 もしかして知らない間に師匠に迷惑かけちゃってたのか……って言うかこの街、なりふり構ってない奴多すぎだろ! なんで俺なんだよ、もうちょっと綺麗なお姉ちゃんとか狙えよ! あれか、俺がボーっとして狙いやすそうだからか!
 ああそうかじゃあしゃーねーなちくしょう!!

「ツカサ君、ブラックさん心配させたら駄目だヨ」
「あい……」

 だけどさ、注意力を上げるのってどうすりゃ良いんだ?
 俺、気配で相手を察知するとかの漫画みたいな事全然出来ないんだけど。
 これじゃあ、メンタルケアできるかどうかも危ういのでは……。

「…………」

 マジで明日……大丈夫かな?










※次はブラックのデレデレな彼氏視点(´・ω・`)


 あと今更な話ですがなんで島の川魚を調理に使ってたかと言うと
 海の魚だと釣れる種類が多すぎて品質が安定しないからです(´・ω・)
 本筋とあんまり関係ないので出しませんでしたがせっかくの海なのに
 川魚かよって感じになりますよねこれ…(;´Д`)ユルシテ
 
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