異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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港町ランティナ、恋も料理も命がけ編

7.恋する男は一直線

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※今回読まなくても次回にあんまり支障ないです…長すぎた……:(;^ω^):ゥゥゥ…
 
 
 
 
 
 ~ファランさんのお願いの簡単なあらすじ~
 惚れた相手が長年仲が悪い海賊ギルドの責任者で、自分は彼女から「ダサい男」だと思われている。だけど好きなので、この祭りで男を見せて惚れさせたい。
 なので、チームを組む相手としては申し分のない君達に手伝って貰いたい。
 頼みます。後生です。賞金いらないんでマジで助けて下さい。おわり。

「…………なんで僕達が手伝うんだい?」
「実を言うと……この街の冒険者は、海賊ギルドと冒険者ギルドの両方に登録してる、兼任けんにん冒険者が大半アル……。だから、波風立てたくなくて私の恋には全然協力してくれないアル~~~!!」

 わっと泣き出すファランさんに、見かねた周囲の冒険者が声を投げて来る。

「だ、だってよぉ! ガーランド一味は怖いし……それにリリーネ様にギルド長と同類かって目ェつけられたりなんかしたら、しごかれるに決まってんだもんよ」
「船に乗るのはいいけど、もう下働きはごめんだ……」
「ああ……酷かったなあ、リリーネ船長の地獄の船合宿……」

 何だかよく解らないが、兼任冒険者達も船乗りになるまでに相当の修羅場を体験して来たらしい。ってか美貌の女船長なのにスパルタって。ドSですか。
 それともストイック系美女なんですか。なんか凄く気になるんですが。

「そもそも、何故そんな回りくどい方法で惚れさせたい。祭りじゃなくとも己の力を見せる機会はあるだろう」

 クロウのごもっともな言葉に、いやいやとファランさんは首を振った。

「陸での戦闘は、私の方が強いアル。だけど船での戦闘は、リリーネちゃんが一番ネ。得意な場所が違うと、戦っても意味ナイヨ。それに……仮に戦場で私が勝ったとしても、リリーネちゃん傷つけるアル。彼女はギルド長……冒険者ギルドの長である私に負けたら、長の面目丸潰れネ」
「でもファランさんは、しょっちゅうリリーネ様に負けてますよね」

 酒場エリアからのヤジに、ギルド長であるはずの存在は毛を逆立てて怒る。

「うっ、煩いアルヨ! だ、だってリリーネちゃんに傷なんてつけたくないヨ! 彼女が傷付くならそれは勝ちじゃないネ! だから、私は祭りで一番強いって事を見せつけて、リリーネちゃんに少しでも意識して貰いたいアル」

 なるほど……確かに、ファランさんの言ってる事も一理ある。
 決闘とか雌雄を決するって事なら、相手が女性でも本気でぶつかるのが礼儀だけども、相手が好きだから「力を誇示したい」ってんなら、そうじゃないよな。

 力を見せつけて認めて貰いたいだけで、彼女に勝つのは本意ではない。
 だから相手のどこかに傷をつけてしまうのは嫌だ……って言うのは、凄く解る。
 話を聞く限り、そのリリーネさんは贈り物程度じゃなびかない人なんだろうし、だったらもう直接見てくれるだろうこの機会に頑張るっきゃないよな。

「けど俺達……何をすればいいんですか? チラシには心技体とかありますけど、正直俺らあんまり難しい事は出来ませんよ」

 無理難題を押し付けられても困るので一応そう言うと、ファランさんはわずかな希望が出てきたと思ったのか、少し安堵したような顔をしつつ頭を縦に振る。

「なにも色々要求する訳じゃナイネ。海賊王祭りは、昔から三つの競技だけアル。
ここから南にある【クジラ島】と言う小島へ船をつける“潮風競争”に、そこの島で調理を行い審査員に点数を貰う“美食競争”……そして最後が、リリーネちゃん所有の船の上で行われる“船上格闘大会”アル!」
「心技体とか言う割には俗物っぽいな」
「潮風競争と白兵戦はまだしも、美食競争ってなんだい」

 オッサン二人の不満げな言葉は、失礼ながらも俺もちょっと思った事だったので何も言えない。だって、美食って。
 しかしそれにも理由はあるようで、ファランさんは得意げに人差し指を立てた。

「諸君、食事を舐めちゃいけないアルヨ! 船上では食べられるモノがすごく限られるネ。同じような食材でも美味しく作れる腕が必要になるアル!」
「だから、参加者に美味しくて簡単な料理を作って貰って、今後の参考にするって訳か。ギルドもそこそこ美味しい事を考えてるんだね」

 なるほど、つまり「簡単で美味いレシピを教えて貰うため」ってことね。
 そう考えると海賊ギルドとしては結構自分に実のある祭りなんだな。
 祭りを行う事で、優秀な船員を見つけてスカウトする事も出来るし、マンネリな料理を回避するアイディアも貰える。ついでに船上での戦闘が上手い奴の技を盗んだり、戦い方を研究したり出来れば、いざってときに役立つもんな。

 こういう祭りって集客のためだとかの理由が多いと思ってたが、そういう方向への考え方もあったんだな。祭りって言うか、発表会みたいな物か?

「だから、本当お願いしますアル……! 祭りは数日後ネ、もう時間ないアルヨ! さっきも言ったけど、賞金も副賞もいらないアル、だから……!」

 ぱん、と両手を合わせられて深く深くお辞儀をされる。
 その姿には流石に嫌とは言えなくて、俺は困って頬を掻いた。
 けどなあ、俺達正直海賊ギルドには関わりたくないしなあ……。

「あのでも……俺達ガーランドって奴らに目を付けられてるっぽいし……」
「そんなの優勝すれば一発ヨ! 格闘大会でだったらどんなに痛めつけても文句は言われないし、後腐れもなく殴れて一石二鳥で邪魔者を追い払えるアル!」
「なるほどそう言う手も有ったな」
「おいコラ、乗り気になってんじゃないよクロウ!」

 さてはこの熊、実はかなり喧嘩っ早いな。
 無表情とぬぼっとした図体でそうは見えないけど、ブラックとはすぐに口喧嘩を始めるし、結局殴り合いとかやっちゃってるんだもんな。
 クロウって実は乱暴者……いや、結構なアウトローなんだろうか。

 微妙にうすら寒い事を考えて、やっぱ参加はやめた方が良いかもとクロウに釘を刺そうとしたのだが……横から、また声が飛んできた。

「一つ聞きたいんだけど、その格闘大会って一対一なの?」
「ちょっ、ブラック」
「希望者参加型の乱戦アル。時間制限があって、終了まで船の上で立っていた奴の勝ちネ。無事な仲間が多ければ多いほど得点は加算されるアルヨ」
「…………ふーん、誰が誰をどうしたって良いワケだ」

 ……おいオッサン、目を細めて何やら企むような顔をしてますが、変な事考えてないよな? いや考えてるな。絶対に考えてるよなこの顔は。
 船上での乱闘について聞いて、ニヤッとしたってことは……。

「おおおお前さてはこの機に乗じて」
「僕は参加してもいいよ。船漕ぎと料理と戦闘だけなんだろう? だったら、楽なモンだ。ツカサ君も船の旅がしたいって言ってたし……優勝して、船を一隻頂こうじゃないか。ねえ、ツカサ君」
「えっ………そ、そりゃ船旅は楽しそうだなとは言ったと思うけど……」
「僕が、ツカサ君にあげるよ。可愛い恋人が贈り物で喜ぶ姿が見たいしね」
「ふぁっ……」

 思わぬ事を言って俺にニッコリと笑いかけてくるブラックに、俺は虚を突かれて変な声を出してしまった。だけど、上機嫌な笑顔を向けられると、何だか何も言えなくて。結局、顔を火照らせたまま小さく頷くしかなかった。

 こいつ、さっきの適当な独り言すら覚えてんのか。
 怖い、怖いよ、その記憶力。俺忘れてたよさっきまで。
 それとも恋人ってこんなマメじゃなきゃダメなのか? 難易度高すぎる。

 まあでも、自分の船って言うのは確かに憧れだし、その……俺もちょーっとだけ海賊漫画とか映画みたいな、冒険感のある旅をしてみたいなっていうか、陸も良いけど海の冒険もねって言うか……。

「ツカサ、オレが船を勝ち取ってやる」
「え?」

 いきなり横から飛んできた宣言に、思わずクロウの方を向く。
 チームで参加するんだろ、どうしたクロウ。
 まさかブラックと張り合って……とか思っていたら、案の定ブラックがいらついた顔でクロウに対抗してきた。

「ハァ? ツカサ君は僕と話してるんだから入って来ないで欲しいんだが」
「嫁が欲しい物をくれてやるのは夫の役目だろう。恋人程度の覚悟しかないなら、脆弱な力しかない人族は引っ込んでいるがいい」
「なにをこの紳士ぶり腐れ熊」
「やるのかこの変態縮れ赤毛」

 …………ああもう嫌だ。聞きたくない。
 耳を塞いで自分の頭上でギャンギャン言い合っているオッサンを無視していると、今度は周囲から「うわぁ」という視線が送られてきた。
 へっへっへ、存分に笑ってくれやちくしょうぅ……。

「つ、ツカサ君泣かないで……って言うか賞品の事言わない方が良かったアルネ、すまない。本当にすまないアル」
「いえもう良いっす……こいつらとパーティー組んでる俺が悪いんで……」
「それで……どうアル? 受けてくれたら嬉しいんだけどネ……」
「ファランさんも相当強引っすね」

 この状況でまだ言うかとちょっと苦笑して返すと、相手は深刻そうな顔をして、俺に訴えかけるように言葉を返してきた。

「リリーネちゃんに認められるの、もう一年も待てないアル。この祭をあきらめたら、次までに彼氏作ってるかもしれないネ。そんなの嫌アル。私は、どうしても彼女に認められて、対等の位置に立ちたいアルヨ。……ワガママなのは解ってるネ。でもどうしても、これだけは譲れないアル……」
「ファランさん……」

 先延ばしにしてたら、思いが伝わらないような気がする。
 取り返しがつかない事になる気がする。だから、今のこのチャンスを手放したくない。例え結果がダメでも、がむしゃらに挑みたいのだ。

 ……その気持ちが判らないと言ったら、嘘になる。
 だって俺も――突然ブラックから引き離されるかもしれない未来を知ったから、ブラックに素直になれたっていうダメな男だから。

 だったらもう、答えは一つしかないよな。

「……ファランさん、俺、力になれるかどうか分からないけど……きょっ」
「是非とも参加します!」
「オレも参加する」
「…………てめーら本当空気読まねえな」

 シリアスモードに入りかけていた俺の繊細な気持ちを返してくれませんかね。
 そうは思うけど、俺も「協力します」と言おうとした手前何も言えなくて、ただただ左右でいがみ合っているオッサンに深い溜息を吐いたのだった。

 ……なんにせよ、磯釣りとかの予定は丸つぶれですねこれ。
 でも競技には興味があるし、まあいいか。

 よーし、気分を切り替えて練習頑張るぞい!










※ツカサの事にだけ口数が異様に多くなるクロウをどうにかしたい
 
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