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アタラクシア遺跡、妄執の牢獄編
21.見つけ出した大事な物1
しおりを挟むとりあえず、俺達は目的を達成した。
なので、もうアタラクシア遺跡に滞在する必要はなかったのだが……しかーし、俺達にはまだやる事が残っている。そう、素材集めだ。
この遺跡の近くで見つかると言う鉱物を採掘しなきゃ帰れない。
と言う訳で、俺達はレッドの術を解き、遺跡の隠し部屋に隠れて彼をやり過ごすと、充分に時間を取ってから遺跡の外に出て鉱石が採掘できると言う場所へと向かっていた。
レッドは俺達の事を探そうとしていたようだが、それをベルナーさんがレッドを窘めたのは意外だったな。レッドも自分がグリモアの力に呑まれていた事は自覚していたのか、今回は仕方がないと言った様子だったし……本当、魔導書って怖い。ブラックも一歩間違えば、ああいう狂気モードになったりしたんだろうか。
まあコイツの場合年中狂気な気もするが、年中だったらそれも通常運転だしな。
少なくとも人に嫉妬したりってモンじゃないから、まあいい。
隠れている俺達の事は知らないはずなのに、「次は必ず殺す……」とか呟いてたレッドは怖すぎたので、ブラックがこんなんで良かった。
レッドの事を思うと憂鬱だったが、そんな相手に対抗する為にも早く素材を見つけて武器を作って貰わなきゃな! 死ぬよ俺ら!
ってな訳で、俺達はルアン達に教えて貰った遺跡裏にある洞窟に来たのだが。
「意外と狭いねこの洞窟。……掘ったら崩れたりしないかな?」
「いやー……多分ないと思いたいけど……しかし、どう掘ったら出て来るのかな」
なんせ初めての採掘イベントだ。
ツルハシとかを借りて来たものの、実際どうすりゃいいか解らない。
そもそも、掘って見つかる物なのかと心配になる俺に、そこは任せて下さいよと言わんばかりにブラックがどんと胸を叩いた。
「ふっふっふ、ツカサ君僕を誰だと思ってるんだい。金の曜術が使える月の曜術師だよ! 金属を探すのは僕達の専売特許さ!」
「なにっ、お前そんな事出来んのか!」
「まかせといてよ。金属の探知は、金の曜術でも初歩中の初歩だからね。僕の能力なら、結構深い所まで“視れる”から、まず鉱石は逃さないよ」
「はぇーすごい」
素直に凄い。金属探知機いらないじゃん。俺もその能力欲しい。そしたら道端に落ちてる硬貨とかバンバン拾えるのに……。
いや、ここは日本じゃ無かった。てか貧乏くさい。
素直に「すごい」と褒めた俺の言葉が嬉しかったのか、ブラックは満面の笑みでニマニマしながら、気合を入れて両手を開き、そのまま仁王立ちし始めた。
ポーズで言えば、「僕の腕の中にさあおいで!」みたいな感じだけども、変には見えない。これが術を発動する時の姿勢なんだろうけど、なんかムカツク。悔しい。長身美形なんてやっぱ嫌い。
今更な事で僻みつつブラックの事を見ていると、相手の体の周囲に金色の綺麗な光が漂い始めた。やがて、ブラックの体から陽炎のような淡い光がゆらゆらと立ち昇りはじめる。
索敵の時と似ているけど、でも、アレよりもずっと強い力のようだと無意識に思った。
「我が力に従う眷属よ……その身の輝きを以って我に応えよ……!」
ブラックがそう言った瞬間、纏っていた光が一斉に広がり周囲に溶けて消えて行った。
まるで、金色の雨が降ってるみたいだ。
思わず見惚れていると、ブラックが姿勢を崩して目の前の壁に手を当てた。
「……こっちから反応があった。そんなに深くないみたいだから掘ってみよう」
「あっ、お、おっしゃ分かった!」
よーしガンガン行くぞー。
ツルハシとか全然使った事ないけど、ノリで行けるだろう。
と思ってがっつんがっつん掘ってみたのだが……まあ、運動音痴が建物造ったりするあんちゃんの真似事したって、高が知れてる訳でして。
「い……いってぇえ……」
「あはは、だろうね。ツカサ君か弱いんだから、こんな肉体労働出来る訳ないよ」
「か弱いとか言うのやめろ!」
ぐううチクショー貧弱とか言われた方がナンボかマシだ……。
そりゃ確かに体力おばけのアンタと比べたらへっぽこ体力ですけど、普通の男子高校生は採掘なんてしませんから! って異世界に来てそういう言い訳は通じないんだろうけどさぁもう。やっぱ鍛えた方がいいのかなあ。
「休んでていいよ。もう少しっぽいし、僕が採ってあげるから」
「う゛ー……いい。俺もやる」
「手にマメ出来ちゃうよ?」
「……アンタにばっかりやらせてられっか」
そもそも、最初に鉱石を欲しがったのは俺だし、ブラックにばっかりやらせるのも男としてはどうかと思う訳で。
再びツルハシを持った俺に、ブラックは何やら意味ありげに微笑んでいたが、俺のペースに合わせるように再び洞窟を削り出した。
ガツンガツンと硬い岩壁を二人がかりで削り、その岩を外に出す作業を続ける。
脚力をアップさせる気の付加術【ラピッド】で体力を強化しているが、それでもこれはかなりキツい。炭鉱とかで働いてる人はマジで凄いなと改めて思うが、これをやり続けてたら俺もムキムキになるかしら。
いやならないだろうな。俺三日坊主だし。
そうこうしている間に、ついにツルハシがガツンという音とは違う、金属の響く音にぶち当たった。普通の鉱石なら割れてもおかしくないのに、音を鳴らしたモノはツルハシを震わせる程に強く硬い。
「ツカサ君、これだよ!」
「お、おう……!」
ついに目的の最高の三鉱石の一つにお目に掛かれるのか……!
しかし何の鉱石だろう。確か……ミスリル、アダマン、ハサクだっけ?
思いきり叩いてもツルハシの方が負けるんだから、相当のゴツい鉱石のはずだ。
ブラックに慎重に周囲を掘って貰い、ついにその鉱石を土の中から取り出した。
「やった……! ツカサ君、これすっごく大きいよ! これなら、一つで二人分の武器が作れるんじゃないかな?」
「マジかよ、でかした! ……って、これなんの鉱石……?」
小石っぽい岩がくっ付いてて良く解らないけど、ランプの明かりに照らすと白く光って見える部分がある。だけどこの鉱石は白いだけではなく、オパールのように七色を含んだ不思議な光沢があった。
……待てよ、これって……。
「なあブラック。俺、この鉱石どっかで見た事有るんだけど……」
「奇遇だね。僕も見たこと有るよ……これ……どう考えても…………遺跡の壁の石だね。……あのねツカサ君、これ……いっちばん効果で希少なハサクっていう鉱石なんだけど……あの遺跡、全部ハサクで出来てたんだね」
「えぇ…………」
アタラクシアの規模を考えると、莫大な量の希少な石が使われてるんですが。
ってか、遺跡の材料ってんならそりゃルアン達も邪魔しますよね……。
「……アタラクシアって、とんでもねぇ場所だったんだな……」
「出来ればもう関わりたくないけどね……でもこれでやっと全部終わったね!」
大きく溜息を吐いて座り込むブラックに、俺も苦笑して隣に座りこむ。
俺達の間にはバスケットボール大の大きな鉱石の塊があって、それを見ていると何だか努力が報われたような気分になり、自然と心が高揚した。
そういえば……一緒にこういう事をしたのも初めてなんだな。
今までは、素材採取は俺だけの仕事だったし、ブラックも門外漢だったから俺のやる事をただ見ているだけだった。だけど、今回は共同作業だ。
ブラックにちょっと多く頑張って貰ったが、まあ、一緒に頑張ったんだよ。
一緒に頑張った相手に親近感が湧くって言うけど、今日はその効果が大きいのか、今ならブラックに何を言われても許せるような気がしていた。
べ、別に汗かいて頑張ってたブラックにキュンとしたとかじゃないけど。
ツルハシ普通に使えてすげーなーとか思ってないけど!!
「ん? ツカサ君、どうかした?」
「い、いや別に……その、お前……本当色んな術使えるよなって」
本心からだぞ。話を逸らしたいからじゃないぞ。
良く考えたらコイツ、炎の曜術は攻撃特化で単体から全体までなんでもござれだし、金の曜術に関してはサーチなんて真っ青の探索能力を使えるし、鍵も開けるしなんなら曜具まで作れちゃうんだぜ。
他の曜術が使えなくたって、充分凄いよな。
そう言う意味で言うと、ブラックはあっけらかんと笑って片手を振った。
「ははは、僕が使えるのは炎と金の曜術だけだよ。色々って言ったら、ツカサ君の方が使えるんじゃないかな? まだ土と金は使った事がないけど……ツカサ君なら教えたら絶対に使えちゃうよ」
「……でも、俺はあんな風に出来ないよ。それに、なんだっけ……アンタ人を眠らせる術とか使えたじゃん? あれだって俺にはどう発動すんのか理解不能だし」
今更な話だけど、ブラックってば前から眠らせる術って沢山使ってたんだよな。
クロウが居たシーポート炭鉱窟でもゲスオヤジを眠らせていたし、ここでだって術を使ってレッドを眠らせていた。これって何の術か良く解らないけど、俺は知らないものだし、どう使ったら良いのかも解んないし。
だから、凄いじゃん? ってな事を言ってみたんだけど……ブラックは目を丸くして俺を凝視したまま、動かなくなってしまった。
な、なに。俺変な事言った?
「ブラック?」
「あ、ああ、ごめん。…………そっか。そう言えば、話してなかったね。……あのね、ツカサ君。僕のあの術は……グリモアの力なんだ」
「え……マジ?」
軽く聞き返してしまったが、ブラックは少し気弱に顔を歪めて頷く。
「僕もグリモアだって話はしたと思うけど……【紫月の書】はね、幻術っていう、幻を操る術が使えるようになる禁書だったんだ。……でね、僕は幻術を使えるようになって……その術には相手を眠りにつかせる能力も付属してたんだ。……あっ、でも、ツカサ君には使った事ないよ!? っていうか、幻術は自分より能力が上の存在には使えないし、だから多分ツカサ君にも使えないと思うし……」
慌ててそう捲し立てつつ、ブラックは、急に元気を失くして俯いてしまった。
どうしたのかと見つめていると……ブラックは、窺うように視線を寄越す。
「…………気味が悪いと、思う?」
……ああ、そっか。
だから、今まで俺に言えなかったんだな。
恐らくこの術も、ブラックが恐れられる原因の一つだったんだろう。その能力の真価は俺にはまだよく解らないけど、少なくとも他の奴にはそんな感想を突き付けられたんだろうな。
バカだなまったく。
そんな風に問われて、気味が悪いなんて思えるわけないじゃん。
ズルイ奴だよ、本当。
「俺には無効なら別にいーよ。ま、俺も眠り薬とか使ってお前を眠らせてたし」
強く言えないわなと肩を竦めると、ブラックはホッとしたように表情を緩めた。
「良かった……ツカサ君に気味が悪いって言われたら、僕泣いちゃう所だったよ」
「何を今更。あんた散々俺に変態な事してるだろ。もう慣れたよ。キモいけど」
「うううツカサ君がいぢめる……」
「お前が所構わずサカるからだろ!!」
ふざけんな、と怒鳴ると、ブラックは目を潤ませながらもほんのり笑った。
なんだコイツ。嬉しいのかよ。本当わけわかんね。
「……ほんと、優しいね」
「なにがよ」
「だって、ツカサ君僕がグリモアだって事言わなかったのに、怒ってないんだもん」
「そりゃあ……アンタが隠したい事が沢山あるって言ってたからだろ」
ずっと前からそんなふざけた事を言ってたし、俺もそれを許容してたんだ。
今更過去の事や隠してた事を明かされたって、どうってことないよ。
むしろ……隠してた事をやっと明かしてくれたから、嬉しいって言うか。
そんな青臭い事を考えている自分が恥ずかしくて、ランプの明かりが届かない所に顔を背ける。だけど、隣からの視線が鬱陶しいくらいに強く感じられて、余計に恥ずかしかった。
ああもう、本当ヤダ。
なんだか何も言えなくて黙っていると……不意に、ブラックが話し出した。
「ねえ、ツカサ君」
「うん?」
「僕……沢山君に秘密にしている事が有るけど……言わなくていいのかな」
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