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アタラクシア遺跡、妄執の牢獄編
18.封じられし過去の記憶
しおりを挟む※次話の長さの都合上、今回は少し短いです(´・ω・`)スンマセヌ
「ツカサ君、どうしよう……この本、読めるのに読めないよ……」
なんだこれ、と言った後のブラックの言葉がこれだった。
な、何を言っているか解らねーと思うが以下略。
俺もその言葉を完全に理解してる訳ではないが、ブラックの言う事をまとめると「本の中の文章を“読める文字”だと認識しているのに、脳内にその文章の意味とか単語が入ってこない」って事らしい。
……えーと、それってどういうことだ?
めちゃくちゃ眠い時に本読んでて、ちっとも文章が頭に入ってこない感じ?
解るような解らないような……。でも何でだろう。
ブラックはそれなりに古代文字も読めるし、この世界の文字には詳しいはず。
そんな相手が文章を読めないってどういう事なんだろう。
俺はもう純粋に「この文字知らんから読めん」ってだけなんだけど、ブラックの動揺している様から考えると、そういうアホな事でもないようだし……。
あ、そうだ。
じゃあ俺にも読める文字の本を探して、それを見て貰ったらどうか。
俺は適当に「今現在使われている文字」で題名が書いてある本を二冊抜き出すと、ブラックに表紙を見せてみた。
「これは読める? こっちの本は?」
「読めるんだけど……読めない。あ、でも左の方の本は題名もちゃんと読めるよ」
「え? この【とある古代技術の応用植物学】……とかいう変な本?」
「うん。でも右のは全く読めない」
「えーと……【古代遺跡の研究】って書いてあるんだけど……なんで読めないんだろう。なんか変な術でも掛かってるのかな?」
俺にだけ両方読めて、ブラックに読めないってのはおかしいと思うんだが。
これはどう考えても変な術が掛けられているとしか思えない。
「あ、そだ。ベルナーさんにも聞いてみよう」
もしかしたらブラックは曜術を使い過ぎて疲れているのかも知れない。
そう思ってレッドを介抱するベルナーさんに両方の本を見せてみたが、結果は「どっちも理解出来るのに読めない」という妙なものだった。
……んんん……?
人によって見れる物と見れない物が有るってこと……?
余計に訳解らんと首を傾げる俺を見つつ、ブラックは困ったように頭を掻いた。
「困ったな……これじゃ本が在ったとしても見分けられないかも……」
「ブラックが読める古代文字の本も読めない?」
「いや、そんな事はないみたいだ。でも、これもやっぱり内容が入って来るものと入ってこない物がある。……なんだか、誰かに目隠しされてるみたいだ」
「目隠し……」
まさか、都合の悪い本は見せません! って術でも掛かってるのかな?
視覚拡張とかの術があるわけだし、そういうトラップも構成できない訳じゃないよな。でも、曜術とかならブラックが看破しそうなものなんだが。
それに、俺だけが全部の本を読めるって言うのもおかしいと思う。
そりゃ知らない文字は読めないけど、俺にはさっきの本は両方読めたもの。
しかし多分、これもこれでおかしいんだろうなぁ……。
「何で俺だけ読めるんだろう……」
「ツカサ君は黒曜の使者だし、異世界の人族だからかな? しかし……これじゃあ目的の本も探しづらくなっちゃったね……」
「だな……」
件の【ロールプレイングゲーム】と言う本が、読めない文字で書かれた本かもってのは予想してたけど、それでもこんな変な事態になるなんて思ってもみなかったよ。これじゃ本を見つけるのも絶望的かも……。
「一体どこに本があるんだ……」
そうぼやいて、俺は部屋の奥の方の本棚を見ようと頭を動かした。
と、その時。
「…………ん?」
奥の方の本棚に、なにやら光が見えた。
未だに本を読んで首を捻っているブラックから離れ、その本棚へと近付く。
すると、光っているのはある一冊の本だった。
「なんだろ……」
さほど分厚くない本は、それでも獣の皮で作られた滑らかな茶色の表紙で、カサついて薄汚れた表面からは年月が感じられる。
手に取ってみると、光は消えて霞んでいた文字が綺麗に浮かび上がってきた。
茶色の本の表紙に刻まれたその本の題名は……――。
「…………ロール、プレイング……ゲーム…………」
読めた。それは当然だった。
なぜならその本に刻まれていた文字は――――日本語だったのだから。
「…………」
また、日本語。
英語でも他の国の言語でもなく、俺が知っている、俺が生まれた国の言葉。
この異世界では一度しか見た事のないものが、今ここにある。
俺は唾を飲み込むと、ゆっくりとその本を開いた。
真っ白で綺麗な紙は、俺の世界の本と変わらない。滑らかで、薄くて、この世界ではお目に掛かれないほどの高い技術で作られている。
やっぱり、変だ。そうは思うが、手は止められない。
白い遊び紙をめくり、横文字で記されたその文章を見る。
そこには、日本語でこう書かれていた。
『この文字を解する事の出来る選ばれし者に、我が計画を託す』
……勿体ぶった、文章。
その筆跡は綺麗だが、どこか古臭く大人が書くような文字に見えた。
「我が計画って、なんだ……」
本の題名と、そしてこの言葉。
さっきから叫びだしたくなる程の嫌な予感がするのに、その“嫌な予感”の正体が判らなくて答えにならない。漠然としたモヤモヤが俺を苛むばかりで、一向に結論にはならなかった。
読みたくない。だけど、読まなきゃいけない。
俺の能力の事が、この世界の事が、そして……ずっと疑問に思っていた事の謎が一つでも解けるのなら、俺はこの本を読まなければいけなかった。
震える手で、ページをめくる。
じわりと滲んだ文字はこの世界で書かれた物だと確信させる。
間違いなくこの世界に自分と同じ日本人が居たのだと思うと、嬉しさよりも恐ろしさの方が勝った。それは何故か解らない。だけど、俺の本能的な部分がこの本に異常な程の警鐘を鳴らしていた。
『名も無きこの世界に訪れた君は、神か、人か?
人であれば申し訳ない事をした。君のその運命は、私による一種のゲームだ。
君は、いや、君達は私のために、この世界へ連れて来られた。
この世界を回すため、次の進化を求めるため、私には君達が必要だったのだ。
わずかな能力を与えるだけで放逐された君達は、どう生きただろうか?
どう道を経てこの真実が記されし本に辿り着いただろうか?
是非とも教えて貰いたいものだ。
私が造ったテウルギアの遺跡は君にはどう映った?
君達が生きていた世界とこの名もなき世界はどう違っただろうか。
私の文明は、治世は、人間は、歴史は、どう思えた?
そうだ。私に対しては、どう思ったかな。
怒りか。憎しみか、それとも戦を逃れた感謝か。
時代の違いにより、君達にもそれぞれの感情が在るだろう。
だがその感情が怒りや憎しみであるなら、申し訳ないとも思う。
……しかし君は、選んだのではないか? その世界から消えたいと。
私はそれを叶えただけだ。そこは解ってもらいたい。
だからこそ、私はこの本を遺したのだ。
君達の残りの人生に、この本が良き絶望と希望を与えん事を願う。』
「………………」
絶句した俺の目に、最後の一文が見えた。
『そして最後に。
神としてこの世界に降臨したものよ。
私の治世を越えられるものなら、越えて先へ行くがよい。
だがそれは、お前が望む永遠には程遠い物だ。それを承知で、進め。
どんな道を歩もうと
お前はやがて、絶望の内に死ぬだろう。
――――そう。 私と 同じ よ うに』
……俺は、神様じゃない。
だけどその最後の一言は、俺に強烈な寒気を覚えさせた。
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