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ベランデルン公国、意想外者の不倶戴天編
10.人は誰もが何かを隠している
しおりを挟む※ブラックがまるで出てなくて申し訳ナス…O(:3 )~ ('、3_ヽ)_
避けてたはずの仮面のイケメン先生と、図書館でマンツーマンのお勉強。
と茶化したは良いが、正直な話、レドが隣で教えてくれたのは物凄く助かった。というか、レドがいなかったら俺は恐らく本を読むのを放棄していただろう。
俺は勉強が苦手だ。教科書も読めてるようで実は読めてない。
興味が有る物は別って言っても、やっぱりこういう専門書は苦手な訳で……。
そんな俺が二時間足らずで三冊の本を読破できたのは、ひとえに隣に座っているレドのお蔭だ。彼が先生のように教えてくれたから、俺は飽きずに情報を得る事が出来たのである。
しかも、レドの場合はただ教えるだけじゃない。
俺が疑問に思って手を止めたら、逐一その部分を分かり易く解説してくれる。
極めつけに、本に載っていない情報まで細かく提供してくれるのだ。
マンツーマン指導の塾の講師でも、こうも多種多様な事柄を簡潔かつ面白く教えてくれる人間は少なかろう。おかげで、勉強嫌いな俺でもすんなり本の内容を理解出来て、しかも時間短縮にもなって良い事尽くめであった。
最初は避けてた相手なのに、今は感謝してるなんて俺もゲンキンなもんだ。
でも、助けて貰ったんだから今更避けるのもな……円満に別れられるんならそうするが、今はそんな雰囲気でもないし、友好的に接した方が良いだろう。
自分に協力してくれた人に敵意向けるってのは、なんか違うもんな。
で、肝心の疑問の答えだが、結論としては……よく解らなかった。
頭の中でまだ整理できてないが、とりあえず三冊読んだ限りではやはり「文明は進んでいるのに、ここでまだ留まっている」という感じ。
ただ、概要だけをざっと見ただけなので、もしかしたらこの世界の文化は俺達の世界よりも緩やかに進んでるってだけで、実は今も進化の途中なのかもしれない。
よくあるよな、俺の世界の“一日”が、他の世界では“三百日”に相当するっていう不思議な異世界の話。それに、進化ってのはどうしても時々緩やかになるものだ。文化の停滞は見られなかったから、今がその時期ってだけなのかも。
聞きかじった程度での考えではこれが限界だが、俺にしてはよく結論を出せた方だろう。うむ、ひとまずこれで一件落着!
まあ色んな用語とか歴史はぼんやり覚えたし、ブラックならまた違う事を知っているかも知れない。後で聞いてみれば何か分かるだろう。
とにかく、今はレドにお礼を言わなきゃな。
「ありがとうレド、すっごい勉強になったよ」
本を閉じて隣で俺を見ている相手に笑って感謝する。
俺が三冊読む間にも驚異的なスピードで何冊もの本を読んでいたレドは、数十冊目の分厚い本を閉じて俺に笑い返した。
「役に立てたのなら光栄だ。他になにか読みたい物はあるか? 俺も今日は時間が有るから、お前が読みやすい本を選んでやろう」
「うーん……それじゃお言葉に甘えて、曜具の種類とか……簡単めなので」
「簡単な本か……だったら、学術院初等部向けの本だな。図鑑に近いから、歴史学の棚じゃなく図鑑の書棚にあるはずだ。金の曜術師になる子供が読むもので、専門用語もあるが……まあ、その辺りは俺が訳してやろう」
「あぁ……何から何まで申し訳ないッス」
「気にするな。お前には恩が有るし……俺は、本が好きだからな」
そう言って笑ってくれる仮面のお兄さん。うーむ、ほんとヒーロー気質と言うか、何でも俺に任せなさいっていうアニキ気質っていうか。
大人になるなら、こんな好青年な人になりたいよねって感じだ。
そんな相手にタメ口ってのは抵抗があるが、レドが良いというから仕方ない。
レドは面倒見が良くて頭がいい兄貴って感じがするし、一人っ子の俺は兄ちゃんが出来たようで楽しいので、タメ口使えるのは嬉しいが。
……なんかドツボに嵌ってる気がするけど、いやまあ、穏便に離れられるようにするだけだし、一期一会の出会いだから多分まあオッケー……だろう。
「本を戻すついでだ。俺が取りに行って来る」
数十冊の分厚い本を軽々と持ち上げ、その上俺の本まで取り上げてしまうレドに、俺も慌てて立ち上がった。
「お、俺も持って行く!!」
世話になった相手に頼ってばっかりってのは男が廃る。
俺だって、運動音痴でも本くらいは持てるんだ!
男を見せてやる、とレドが持っていた本を五冊ぐらい取り上げた。が。
「ごぁあッ」
重すぎて、俺は思いっきり腰から崩れ落ちた。
「だ、大丈夫かツカサ!」
「ひ……ひぃ……おも……」
「無理をするんじゃない。俺の分は大丈夫だ、ツカサは自分のを持って来てくれ」
「ずびばぜん……」
格好悪い! 格好悪いよ俺!!
ていうか数か月この世界に居るのに、全然筋肉が発達してないんですけど俺!
なんでだ、なんでこんなにインドアボーイなんだ俺は。いや攻撃手段が魔法で、そのうえ移動はゆっくりな徒歩だから筋力ステータスは初期のままなのか。でも俺弓は使ってる訳だし、筋力は付いてるはず。
もしや、それでやっとこの程度と言う事なのか。
元居た世界では、それなりに筋肉あると思ってたのに。
ちくしょう悔しいぃいい……。
「やっぱり五キロダンベルを毎日……いや、五キロは無理、せめて一キロ……いやそれ筋肉つくのか? やっぱ三キロ……」
「なにを言ってるんだ? さ、早く行こう」
ブツブツと己の非力さを悩む俺に構わず、レドは颯爽と歩いて行く。
俺も三冊でもずっしりと重い本を抱えて、必死にその後に付いて行った。
「それにしても、人と本を読むと言うのは存外楽しいものなんだな」
「今までは一人で読んでたの?」
本を元の場所に戻しながら聞くと、レドは頷く。
「俺にとって読書とは仕事であり、使命であり、生きる意味だった。だから、本を読む時は内容を全て頭に叩き込む為に、常に一人で籠っていたんだ。……そんな事ばかりしていたから、俺は今まで色んな事に気付かなかったんだろうな」
「色んな事って?」
レドの顔を見上げると、相手は青銀の仮面の奥の目を優しく細めた。
「自分が本を好きだと言う事と……他人と好きな物を共有する行為が、こんなにも楽しいという事をだ。……お前にはまた借りを作ってしまったな、ツカサ」
「い、いや……俺こそなんか言いたい放題言っちゃって……」
本を読みこんでて、良い悪いなんて事まで判断できる=本が好き!
なんていうアホみたいに簡単な図式で褒めてしまったが、本当コレ人によってはそうでもないって言われそうなレベルだよな。
レドが心の広い兄ちゃんで良かった。
しかし……本を読むのが仕事って、レドはどういう仕事をしてるんだろう。
あれだけの凄まじい記憶力と知識量が必要な仕事って、どんなものなんだ。
曜術師ってだけなら他の属性関連の知識なんていらないし、かといって技術職と言う訳でもなさそう。考えられるとしたら……政治関係?
俺の国の政治家はどうだか知らないが、帝王学ってもんが昔からあるくらいだし、政を司るって事で色々覚えてなきゃいけないのかも。
だとしたら、やっぱり知り合ったのはヤバかったような気が。
「えーと……レドの職業って……聞いていい?」
「職業か……。蔵書管理人、というべきなのかな。職業と言うか一族の使命というものだから、厳密にいうと違うかもしれないが……一応そう言う物だと思う」
「蔵書管理人……なんか凄そうっすね」
「そ、そうか?」
あ、なんか今嬉しそうな声だった。
もしやこの人、褒められるのにも慣れてないんだろうか。
なーんか俺のよく知ってる奴に凄く似てるな。この世界の赤髪美男子ってのは、もしや全員こんな感じなんだろうか。ストイックすぎるか他人に興味なさ過ぎて、褒められるのすら慣れてないとかいう。
赤髪属性って熱血主人公や姉御肌が多いと思ってたんだけど、違うのかしら。
「蔵書管理人ってことは……その“蔵書”に関する用事があって、この国に来たのか? ベルナーさんはこの国の支部長みたいなもんで、レドの手伝いをしてるとかいう話を昨日聞いたんだけど」
図鑑があるという本棚へと向かいながらレドに訊くと、相手は少し困ったように口を歪めて頬を掻いた。
「……仕事……。そうであり、そうではないが……ああ、図鑑はここだ」
逃げるように本棚と本棚の間に入っていくレドに、俺は首を傾げて後に続く。
一足先に本を探し出したレドは、俺が追いつく前に目当ての本を見つけたのか、それを難なく抜出してから――自分の行動のミスに気付いて、固まった。
うん、そんなに早く見つけ出したら、はぐらかした意味ないよね……。
聞かれたくない事なら、無理に問い詰めない方が良いだろう。
そう思い、俺はなんて事はない顔をしてレドから重い図鑑を受け取った。
「ありがとう、レド」
「ああ、いや……その、ツカサ」
「話したくないなら良いよ。誰にだって事情はあるしさ。って事で、早く閲覧席に戻ろうぜ! 今度もばっちり解説お願いしますっ」
無理しなくていいぞと言う気持ちを込めて明るく笑うと、レドは一瞬硬直し口を戦慄かせた。なんだ、俺なんか変な事言ったかな。
心配になりレドを見上げていると、相手はすぐに表情を戻し、一つ咳をした。
「…………その、ツカサ」
「ん? なに?」
「……いや、大丈夫だ。そうだな……ツカサ、お前には伝えておいて損はないかも知れない。お前なら、信頼できる」
「え……? えっ、ちょっ、なに?」
唐突に肩を掴まれて、そのまま本棚へと押し付けられる。
レドが何がしたいのか解らなくて瞠目したまま見上げていると、相手は真剣な眼差しで俺を見つめながら、酷く小さな声を漏らした。
「俺は、ある男を探している」
「……ある、男?」
「俺の母親を狂わせて殺し、俺を無用の子として貶め……一族を崩壊の危機にまで追いやった悪しき仇。俺がこの国に来たのも、その男が居ると聞いたからだ」
憎悪を満たしてぎらぎらと光る青眼に気圧されて、俺は本棚に背を付けたままで体を反らす。さっきまではあんなに穏やかだったのに、レドの顔は今や狂気染みた表情を浮かべている。あまりの豹変に驚き動けない俺に、レドは顔を近付けて低く唸るような声を絞り出した。
まるで、その「仇」を呪詛するような声を。
「その男は……俺と同じ、赤い髪をしている。だが非常に冷酷で、人を人とも思わない外道だ。その男によって死んだ人々は数えきれない……なのに、その男は今、冒険者として世界に解き放たれているらしい……」
「そ、そんな奴が……」
レドの剣幕に勝手に声が震える。
だが相手は構わず、俺の肩を掴む手に力を籠めて指を喰い込ませた。
「あの男には、一つ大きな特徴がある。……お前は冒険者だ、いつか出会うことも有るかも知れない。だから覚えておいてくれ……。その男には、両掌に傷があるはずだ。その傷こそが罪の証、俺の一族から全てを奪った……罪人の手だ……!」
「……その、男の名前は……」
俺の言葉に、レドは爛々と光る青の瞳を見開いて――――その名を告げた。
「ブラック……――――忌み名を持つ、史上最悪の悪魔だよ」
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