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北アルテス街道、怪奇色欲大混乱編
26.ホラー映画の定番と言えば
しおりを挟む※ちょと短いです、すみません(;´・ω・`)
なるべくドアをゆっくりと開いて、青々強い苔が生えた庭を移動する。
そっか、苔ってある程度湿気がないとこんなに綺麗な緑にはならないんだっけ。
キノコだのコケのが関わってくる時点で、ある程度気付けていたらなあ……まあ今考えても仕方ないけど。
余計な事は気にしないようにして、とにかく今はロクと藍鉄の所に行かねば。
薄明りのせいでまた目が暗闇を認識できなくなって見辛い思いをしながらも、俺はブラックに続いて馬小屋へと近付いた。
「藍鉄……? ロク……?」
小声でそう呼びながら近付くと、馬小屋の中で何かが動く音がする。
馬小屋に居た馬達は全員俺達の気配に気付いたらしいが、侵入者だと騒ぐことはせず、座り込んだままでじっと俺達を見ていた。
なんだろう。庇ってくれてるのかな。それとも藍鉄が事前に根回しをしておいてくれたんだろうか。なんにせよありがたい。
俺達は馬小屋に近付くと、一目散に藍鉄の所へと走った。
「藍鉄ー! ごめんな、ずっと放って置いて……!」
出来るだけ小声でそう言いながら鼻っ面に抱き着くと、相手は息を潜めつつも、嬉しいのか俺のお腹にぐりぐりと鼻先を押し付けてくる。
ううう、ごめんよ寂しい思いをさせて……! これが終わったらいい干し草沢山食べさせて、居心地のいい赤の大元の所に帰してやるからな……!!
「ツカサ君、再会の喜びを分かち合ってる場合じゃないよ」
「あ、ああそうだった! 藍鉄、お前の所にロクが来てないか?」
屋敷にはいないみたいなんだ、と言うと、藍鉄は俺の傍を離れて寝床にしている干し草が積み上がった場所へと近付いて行く。何をするのかと思ったら、そこに顔を突っ込んでブルブル言いだした。そうして、何かを口に咥えて戻ってくる。
口に緩く挟んでいるのは、細長い縄のような物体。
それって、もしかしなくても……!
「ロクショウ! ああぁあ良かったぁあ……蛇酒にされてなくて本当に良かった……ううぅっ、ありがとう、藍鉄ありがとなぁ~」
「ブルルルッ」
もう本当最高! 俺のモンスター達本当最高だから!
もしかしたら俺より頭いいんじゃないのかというレベルだが、全ては至らぬ主人の俺が悪いので何も言えねぇ……。とにかくロクも藍鉄も無事でよかった。
俺は今度こそ離さないようにとロクをウェストバッグの中に入れて、馬小屋から藍鉄を解放した。こうなればもうこっちのものだ。逆戻りになるが、マイラの街に逃げ込めば村人達も追ってはこれまい。
馬小屋の隅に放置されていた俺達の鐙や鞍などの馬具を回収し、ブラックに取り付けて貰いつつ、俺はピクシーマシルムに目線を合わせるようにしゃがんだ。
名残惜しいけど……この子の故郷はあの場所だし、お別れしなきゃな……。
「お前はここでお別れだよ」
「ムゥ?」
「俺達に付いてきたら危ないし、第一お前には待ってる人がいるんだからな。もうあの洞窟におかえり」
しかし、そう言ってもピクシーマシルムはヤダヤダとばかりに首を振って俺の足にぎゅっと体を押し付けてくる。
可愛い、優勝。いや可愛いけど、連れていく訳にもいかないんだよぉ。
「ム~~~、ム~~~」
「まだ離れないのかい。もういっそアイテツ君に踏ん付けて貰えば?」
「お前はよくそんな非道な事が言えるな!」
ええいこの人でなしめっ。この子は赤い帽子のヒゲに踏ん付けられただけで死ぬレベルのHPしかないんだぞ! 本当にもうこのオッサンは!
抗議の意味も込めて睨んでやるけど、薄暗い視界では効果が有るのかどうかすら判らない。眉根を寄せる俺に、ブラックは冷静に言葉を返してきた。
「どっちにしろ時間がないよ。厳しく言うのも、相手の為だと思うけどな、僕は」
「……それは、そうだけど……」
マイラの街の時にも思った事だけど、それがさらっと出来りゃあなあ。
「誤解されても良いから、突き放して相手を守る」って行動は、凄く勇気が要る。だってそれ、喧嘩別れして決別した場合、真実を話す事すら出来ないんだぜ。
って事は、永遠に相手に理解して貰えないかもしれないワケだろ?
好きな人にずっと嫌われ続けるわけじゃん。そんなの悲しいよ。
ガキの頃から「人に優しくしましょう」だなんて育てられて、尚且つ自分が悪者になりたくないなんて現代的な思考が蔓延る中に育った俺では、とてもじゃないがそんな決意はすぐに出来そうになかった。
人間、誰だって己は可愛い。大好きな人に嫌われたくなんてない。
相手に好かれる自分でいたいって気持ちは、友達がいる奴なら誰でも思う事だ。
自分の都合だけを考えちゃいけないってのは解ってるけど……。
「ムー……」
「あぁあ駄目ですこんな可愛い子に酷い事なんて言えませんんん」
「だーもーしょうがないなあ! 一緒に連れていこう。またあの森で放せば問題ない……ここでぐずぐずしてるよりマシだろう」
わあブラック素敵、頼れるお父さんみたい!
……とか言ったら怒るかな。怒るな絶対。
親子に間違えられた時おもいっきり嫌な顔してたし。
まあ実際親子でもなんら不思議じゃない歳の差なんだがな俺達は。
「あ、なんか今ものすっごい寒気したわ」
「なんだろ、嫌な予感かな。なんにせよ早くここから出よう」
準備は出来てるよ、と鞍を装着した藍鉄に華麗に乗り込み、ブラックは俺に手を伸ばす。俺の寒気は嫌な「予感」でなく「事実」に因る物だったんだが、まあそれはいいか。今はそんな事考えてる場合じゃない。
無駄にサマになっているだろう馬上の格好が暗さであまり判らないのに感謝しつつ、俺はブラックの手を取り、ピクシーマシルムを抱えて藍鉄に乗ろうと力を入れようとした。その時。
「な……何だお前ら!」
「!?」
ブラックではない何者かの声が後方から聞こえて、俺達は思わず振り向いた。
冷たい空気が支配する夜の闇の中に、一つだけぽつんと小さな明かりが宙に浮いている。もちろん、それは大地からの気の光などではなく。
「お前ら……どうやって洞窟から出やがった!?」
叫びながらどんどん近付いて来るのは、馬小屋の馬を世話していた使用人の老人だ。こんな言葉遣いをするような人では無かったのに、本性はやはりとんでもない悪人だったのだろうか。
思わず固まる俺を引き上げて、ブラックは手綱で藍鉄に合図した。
「とにかく逃げるよ!」
「あっ、おい、待て!」
逃げようとする俺達の前に、使用人のお爺さんは老人とは思えぬ動きで近付いて来る。その動きに藍鉄も驚いたようで、手綱で指示した方向から大きく逸れて走り出した。向かう場所は、進行方向右。館の方向だ。
「チッ……仕方ない、館を迂回して道に出よう、村の入り口に向かうんだ!」
指示していたのと反対の方向へと走りだしたが、ブラックは臨機応変に手綱を動かす。人目に付きやすくなるが、それが最短で逃げられる道と判断したのだろう。しかし、その騒ぎは……運悪くまだ眠っていなかった村長に聞こえていたようで。
「起きろ、生贄が逃げるぞー!!」
二階から叫び声が聞こえて、ヒィ、と笛特有の吸い込む音がした、刹那。
「――――ッ!!」
まるで防犯ブザーのようなけたたましく強い音が背後から俺達を追ってきた。
だが耳を塞ぐことも出来ず、ブラックは更に速度を上げようと手綱を打つ。
もうすぐ館の角に到達する。ここを曲がり、村の入り口に辿り着いてアルテス街道へと戻る。そうすれば、もう勝ったも同然だ。
しかし、もう少しで角を曲がろうかという時。
俺達を驚かせるかのように、一斉に館の電気が点いた。
その点灯と共に、村の家々の明かりが次々に灯されていく。
「つ……ツカサ君……明るくなって良かったね……」
「言ってる場合かぁ!!」
俺達をどうにかして止めようとするように、尋常ではない顔をした使用人達が、窓からぞろぞろと這い出てくる。その手には、それぞれ殴打や刺殺に適したようなものが握られていた。
……ああ、これ……ホラー映画のクライマックスみたいだなぁ……。
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