異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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北アルテス街道、怪奇色欲大混乱編

12.思いがけない大歓迎

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 そんなこんなでブレア村の人達による歓迎会が始まったのだが……これがもう、「あれ、俺は王様なのかな?」と勘違いするほどの歓迎っぷりだった。

 会場は村長の家に併設されていた小さな講堂で、今俺達の目の前には村中の人達が料理を食べたり俺達の冒険譚を聞いて盛り上がったりしている。その様は、俺が小説で読んだりアニメで見たりしていた、粗野で華やかな大宴会そのものだった。

 テーブルの上には山ほどのご馳走(肉とかキノコとか)が盛られるわ、エールや酸っぱいワインではなく、甘くて美味い葡萄酒や本物のワインが出されるわ、隣には綺麗なお姉さん&お兄さんがはべって来るわで、魔物を討伐した英雄でもないのに自分が偉いような気になってくる。
 正直お兄さんには侍って貰わなくて良かったのだが、しかし綺麗な人に色々世話を焼かれると、気分も良くならざるを得ない訳で。人間誰しも王様扱いには弱い。

 それにこんなに好意の洪水を受けた事の無かった俺は、もうすっかり舞い上がってしまい、お姉さんや子供たちに今まで歩いてきた場所の事やモンスター退治の事なんかを鼻高々に語ってしまった。

 そんな俺を人を凍らせそうなほどの冷えた目でブラックが見ていたが、もうそんなの構ってられない。俺は思いっきり天狗になりたい。だってこんなに歓迎されるなんて、最初で最後かもしれないんだぞ。

「ツカサ様、ブラック様、お二人とも本当に凄いかたでしたのね……日の曜術師に月の曜術師なんて、私達一生に一度お目に掛かれるかどうかなのに……」
「い、いやー……そんな事ないっすよ多分! あははは」
「ふふふ、そんなご謙遜けんそんを……」

 俺達の目の前で豊満な胸を見せつけながら、ウェーブがかった青髪のお姉さんがお酒をそそいでくれる。そう言う事にはやぶさかではないブラックは、なみなみと杯を満たす純粋な酒に満面の笑みで口を付けていた。
 うんうん、お前も男だ。酒と女にゃ弱いよな。
 弱いだろ、弱いと言え。俺も思う存分デレデレするから免罪符を寄越せ。

 必死にブラックの冷ややかな目を回避しようと弱点を探りつつ、俺も村の人達が作ったという甘い飲み物を頂く。ブラックは酒しか飲まなかったけど、俺は酒よりジュースの方が良い。

 この飲み物、【おさげもの】というらしいんだけど、なかなか美味いんだよな。色は珈琲っぽいが、味はまろやかな乳酸菌飲料みたいなんだ。
 作り方は秘伝で長持ちしないらしいので、この村でしか飲めないらしいんだが……いや本当これ美味しいわ。ほんのりヨーグルト風味っぽいっていうか。
 お姉さんにいで貰ってぐびぐび飲みながら、俺は満面の笑みで口を開く。

「いやーそれにしても本当ここって素敵な村ですねぇ」
「そんな……ここはただの小さな村ですから、素敵な事なんて何も有りませんわ」
「でもほら、こんなに美味しい飲み物だってあるし、酒もあるし……」
「他の村でも多かれ少なかれ特別なものは有ると思いますよ。酒は街で買って来ただけですし、このおさげものも……特別な物ではないかもしれませんし……ですが、そう言って頂けて嬉しゅうございます。冒険者の方に認めて頂けるのは、本当に名誉なことですわ」

 そう言ってにっこりと笑うお姉さんに、俺も思わず顔が緩む。
 ここまで好意的に言ってくれたら、そりゃ笑わずにはいられないでしょう。
 ああホント良い気分だ……そうだよ、普通こういうのが王道なんだよなあ……。
 今までの俺の冒険って本当オッサンにつぐオッサンだったし、こういう酒池肉林の「しゅ」の字も無かったんだもんな……思い出すと泣けてきた。

「あっ、だ、大丈夫ですか? ツカサ様」
「大丈夫です、気にしないで……っ」

 今までがあまりにもハードモードだったもんで、今の歓待が嬉しすぎて感動しているだけなんです。悲しい訳じゃないんですよと手を振るも、お姉さんは俺の姿がよっぽど情けなく見えたのか、心配そうに覗き見て来てくれる。
 うぐぅう優しさが染みますぅう。

「何か悲しい事が……? あの……なぐさめにならないかも知れませんが、ツカサ様にだけ、とっておきの物を……差し上げます。ですから……元気を出して下さい」

 とっ、とっ、とっておきのもの!?
 思わずブラックに聴かれてやしないかと左右を確認するが、件の相手は少し離れた場所に居るトルクさんの所に居て、既に俺の横にはいなかった。
 どうやら彼が持ってきていた商品を見ているらしい。
 何かに夢中になっていて、完全に俺の監視を忘れている。

 おっと、これは近年まれにみるチャンスですね。
 鬼の居ぬ間にお姉さんとねんごろになれと言う神のくれたチャンスですね!

 そうじゃないとしても最早俺には関係ない。
 美女がくれると言う物ならば、ビンタでも罵倒でも貰っておいて損はないのだ。この機に乗じて俺も大人の階段を登ろうではないか。
 そう心に決めて、鼻息荒くお姉さんを振り返ると、お姉さんは何やら懐から取り出している所だった。なんかの包みだ。

 もしかして、これが「とっておきの物」なのか?
 ああ「私をア・ゲ・ル(はぁと)」みたいな意味じゃなかったのね……。

「えっと……それは……」

 少々がっかりしながら問いかけると、お姉さんは笑顔で包みを開いた。

「はい、コレがとっておきの物です!」

 その包みの中には、薄桃色の粉のようなものが小さく盛られている。見た目的に粉薬っぽかったが、匂いは甘く、薬と言うよりも粉末ジュースの方に近い。
 この駄菓子的な粉末がとっておきとはどういうことだろう。
 不可解だと眉を寄せる俺に、お姉さんは楽しそうに笑いながらおさげものにその桃色の粉末を流し込んだ。そして、棒でぐるぐると中身を掻き回す。

 コーヒーの色だったおさげものは、桃色の粉によって徐々にその色を変える。
 てっきり桃色は珈琲色に負けるかと思っていたのだが、薬の方の色味が強かったのか、おさげものはエグい程のドぴんく飲料に変化してしまった。
 そんなびっくり色水を、お姉さんは笑顔で俺に差し出してくる。

 え、えええ、それ飲めるんすか。飲んで病気になんない?
 思わず青くなってしまったが、女性からの好意を無下むげには出来まい。
 俺は意を決して、そのピンク極まる飲料に恐る恐る口を付けた。……と。

「…………あれ……うまい……」

 なんだろう、なんかあれだ。トロッとした桃の飲料に物凄く似てる。
 ははーんなるほど、ピンクだから桃味なのか。
 存外美味しくてゴクゴクと飲んでしまう俺に、お姉さんは実に嬉しそうに微笑みながら得意げに小首をかしげて見せた。ううっ、か、可愛い。キュンと来るっ。

「それもこの村の特産品なんですのよ! 果物を絞った訳でもないのに凄く甘くて美味しくなるでしょう? だから、みんなこの粉が大好きなんですの。気に入って頂けて良かったです」

 へぇ……この粉末ジュースが村の特産品なのか。
 美味しいし、確かに高値で取引されて儲かるのも頷けるな。
 駄菓子屋とかで売ってるような感じだったけど、駄菓子が特産品ってのもなんか異世界っぽい。甘いお菓子が少ないこの世界じゃ、駄菓子でも高い値が付きそうだもんなあ。異世界で駄菓子屋とかやったら儲かるんじゃないのかこれ。
 しかし、材料はなんなんだろう。

「あの……これ、何から作られてるんです?」
「うふふ、それは秘密です。それより……もし気分が落ち込んだり、今夜の一人寝が寂しくなられましたら……私達全員がお待ちしておりますので、どうぞ遠慮なくおいで下さいね……」

 そう言いながら、お姉さんは周囲にいる美男美女に目配せして、全員でにっこりと微笑む。美男美女の笑顔は、ほんのり頬が染まっていて実に蠱惑的だった。
 ……ひとりね。一人寝が寂しい時はって……あの、そういう意味ですよね?
 期待して良いんですか。俺ってば脱童貞期待しちゃっていいんですか!?

 しかもよりどりみどりのこの状況って、どう考えてもパラダイスじゃない?
 誰だよゾンビとかお化けとか言ってたの、全然そんな気配ないじゃん。まあ俺が一人で怖がってただけですけどね……ってええいそんな事は今はどうでもいい!

 どうしよっかな、本当に行っちゃおうかな。
 こ、これは浮気とかじゃないはず。だって筆おろしして貰うだけだもの。恋とかじゃないもの。しかしあの嫉妬中年の事だから、これも浮気認定しそうだな。
 手ほどきして貰うのも駄目とか言いそう。少女漫画か。

 でもブラックは今日はしこたま酒を飲んでるし、すぐ寝ちゃうんじゃないか。寝静まってから出て行ったらバレないのでは? いや待て、あいつ絶対俺の気配には気付くしな。あん畜生、自分は無断外出する癖に俺はダメとかいう感じを出してるのが気に食わない。恋人って平等な関係じゃねーのかよこんにゃろめ。

 とか何とか考えていると、いつ戻ったのか背後からブラックが顔を出してきた。

「ツカサ君なに難しい顔してるの?」
「ぎゃっ、な、何でもないです!!」

 ぬおおびっくりした。心臓バクバクするじゃないかもう。

「うえっ、ツカサ君なにその凄い色の飲み物……飲み物なの?」
「あ、これはお姉さんに作って貰ったんだよ。甘くて美味いぜ。お前も飲むか?」
「いや、遠慮しとくよ。……それよりツカサ君、今までずーっとこの女性ひとに鼻の下ビロビロ伸ばしてたみたいだけど……変なこと、考えてなかっただろうね?」

 じろりと俺を睨む、迫力だけは一人前の中年。
 ここで言い返せれば俺も立派なんだろうけど、残念ながら俺は後ろめたいとすぐ顔に出る。ドキドキが抑えられないまま、俺は仏頂面のブラックに笑顔を見せた。

 ここは別の話を振ろう。そうだ、さっき聞いた風呂の話だ。
 気取られないように全力でお茶を濁すんだ。

「い、いやーあっはっは……そ、それよりさ、ここの風呂は露天風呂なんだって! 歓迎会終わったら入りに行こうぜ、久しぶりに湯船に入れるぞ!」
「入りに行こうぜって……どーせ別々なんでしょ?」
「う……ま、まあ……」
「じゃあいいよ。そんなの入ったって意味ないし楽しくないもん」

 いつもより不満を言うなこやつ。さてはそこそこ酔ってるんだろうか。
 ブラックの顔をよくうかがってみると、確かに相手はいつもより目を潤ませてまぶたを重そうに持ち上げていた。こんな状態になってるブラックはゴシキ温泉郷の時以来だが、あの時はコイツが大泣きしてて観察する暇も無かったな。

 今更だけど、酔ったブラックって初めてちゃんと見たかもしれない。
 でも今の状況で酔った様子を見ても何も嬉しくないぞ。

「酔って絡み酒ってオッサンくさいぞお前」
「オッサンだもん」
「あーもーこんなめでたい席でそんな仏頂面すんなよ! 折角もてなしてくれてる村長さん達に申し訳ないだろ!」
「だってツカサ君は他の奴にデレデレするし、お風呂だって一緒に入ってくれないんだもん。僕は一生懸命我慢してるのにツカサ君はツカサ君は」

 ぶちぶち文句を言いながら自分でも落ち込んで来たのか、ブラックは俺に背中を向けてしまった。体育座りして床にのの字を書くってどんだけ昭和なんだお前は。
 なんで異世界の人間がそうもオッサンあるあるを体現できるんだ。黙ってワイン傾けてりゃ、そこそこダンディな悪役みたいなのにアンタって奴はもう。

「だー分かった分かった一緒に風呂入るから! ただしやらしい事すんなよ!」

 みんなを困らせるような事をするんじゃない、と肩を叩くと、ブラックはすぐに俺に向き直って満面の笑みで頷いた。

「分かったよ、ツカサ君! 終わったら絶対に一緒に入ろうね!」

 ……はいはい、またわたし騙されましたね。
 そうは思っても強く怒れなくなってしまったのが、なんていうか……。

 まあ、いっか。ブラックがずるいのはいつもの事だし。
 だんだんこのオッサンの言動に慣らされちゃってる気がしないでもないが、何故だか前ほどムカつく気持ちにはならなかった。











※男二人、貸切風呂、何も起きないはずはなく…(某広告
 と言う訳で次はえろですご注意ください(´・ω・`)
 
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