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北アルテス街道、怪奇色欲大混乱編
8.キノコ狩りに行こう!(※性的な意味ではない)
しおりを挟む工房が密集しているエリアから商店街までは、実はわりと近い。
しかし用心には用心を重ね案内板を見つつ、迷路のような街路をそぞろ歩き俺は露店がずらっと並んでいる通りに辿り着いた。
露店は通りの左右にぎっしり並んでおり、店の天井がわりの布が重なっていて、アーケードのようになっていた。
様々な色の布のトンネルは、見ているだけでも実に鮮やかだ。
人の多さにおっかなびっくりしながらも、俺は一番近くにあった店に近付いた。
「へいらっしゃい。今日は何かお探しかい?」
バンダナを締めた威勢のいいお姉さんが、ニッコリ笑顔で出迎えてくれる。今の精神状態では、そんな顔をされると即惚れしそうだったが、そこはぐっと堪えた。
今はキノコ。キノコの事を訊くんだ。うん。
お姉さんの店には、見慣れた野菜や果物がずらっと取り揃えられている。それらは他の国でも見た物ばかりで、特に目を引く物は無かったが、問題はその野菜達を押し除けて中央に居座るでっかいキノコである。
いや本当デカい。これ何に使えるんだろう……。
「あのー、俺今日初めてこの街に来たんですけど、このキノコって……」
「ああ、コシタケと色キノコ? ははぁ……アンタもしかしてヒノワの人だね? だったらこの大きさのキノコは初めてか。これはね、コシタケ……本当はコシカケタケって言うんだけど、長いからアタシらはそう呼んでんだ。ヒノワの言葉で言うと……えーっと、シイタケかな」
えっ、この世界シイタケあるの。
反射的に驚いてしまったが、それはそれで分かりやすいかも。
「じゃあこの茶色のでっかいの……コシタケは、シイタケと同じ味なんスか」
「どうなんだろうね? アタシはヒノワに行った事がないから解らないからねえ。聞くところによると食感は一緒みたいだよ。でも味は人それぞれだからねえ」
「うーむ、そうですか……じゃあこっちのイロキノコってのは?」
メルヘンなお話に出て来る、赤地に白い水玉が入った謎のキノコ。これ食べたら毒に侵される奴じゃないんですか。食べられるんですか。
ゴクリと唾をのみ込みながら聞くが、お姉さんは手をヒラヒラさせて笑う。
「ハハ、そっちは安価な普通のキノコだよ。パンみたいに千切ってスープに付けて食べたりするんだ。パンより安上がりだし何より大きいから、まあ庶民の味方って奴だね。食感もちょっと湿ったパンって感じで違和感はないよ」
パンの代わり!?
あ、でも考えられない大きさじゃないか……しかし湿ったパンってどうなの。
「毒っぽいのに安全なんですね」
「毒ってそりゃあんた、黒いキノコとか腐った色してんのだけでしょ。まあ、赤色の色キノコ以外は薬の材料だったりするから、あんまり食べない方がいいかもね。と言っても、そこら辺に生えてるのは軽い腹痛とか腹下しとか睡眠とかそう言うのばっかだけど」
なるほど、そういや植物の薬効を引き出せるのは木の曜術師だけだったな。
キノコと言えばネムリタケしか知らなかったが、アレもキノコだけじゃ数分程度しか眠らないとかだったし。この世界のキノコは殆ど安全と言っても良いようだ。
「じゃあとりあえずこの二つを覚えておけば安全なんスね」
「まあね。カサが茶色の奴は大体無害だよ。ただすごいマズいのとウマいのと極端だけど……。あ、そうだ。試しに街の外に生えてるキノコ取って来なよ。アタシが食べられるか鑑定してやるし、味や形の違いも分かると思うからさ」
街の外か。ちょっと心配ではあるが、すぐに行って帰ってこれる距離だな。このまま物を買って帰っても良いが、外に出た時にキノコを見分けられればより美味いメシが食えるかもしれん。キノコは専門家に見て貰わないと危険だからな。
ブラックも今は動けないだろうし、暇つぶしがてら行ってみよう。
この世界では情報が命だ!
俺はお姉さんに礼を言うと、早速街の外に向かって歩き出した。
商店街の通りから真っ直ぐ行けば、南アルテス街道に出られる。門から出る時に警備兵に「ボク、障壁のない所まで行っちゃだめだよ」などと言われて気分を害しつつも、俺は難なくキノコが生えていると言う森に辿り着いた。
まあなんせ、門から出てちょっと歩いただけの場所にあったからな、森!
「……えーと……キノコキノコ」
ロクはちゃんと宿屋のベッドに寝かせたし、歩くのに邪魔な荷物は預けて来たので、俺のウェストバッグは今は空だ。
好きなだけ採取できるが……しかし、キノコってのは見つけにくい。
茶色のカサのキノコは安全だと言う指針に従って、俺は地面を這うように探す。
最初は、草に埋もれていたり木の影に隠れているキノコを探すのに苦戦したが、少し時間をかけると、何となくどこにあるか解るようになってきた。
街の近くだからか大きなものは取り尽くされているらしく、日本でよく見かけたサイズのキノコばっかりだったが、俺にはこのくらいがちょうどいい。
しばし色々なキノコを採取してから、俺は改めて成果を確認した。
「えーと、赤キノコ……青キノコに緑キノコ……ってこれカビじゃねーのか。違うの? うわっトゲトゲキノコ!? ふ、ふざけてるとしか思えない……」
まあ一応教えて貰うために捕りますけど、いがぐりを乗せたようなキノコとか、攻撃的すぎやしませんか。あとね、一番問題なのが。
「…………これ、取らなきゃ良かったかな」
そう言いながら、俺は異様な形をしたキノコを摘まむ。
何故採取したのか自分でも解らないが、最初に見た時あまりにもバカバカしくて爆笑してしまったからかも知れない。いや、だって。
「これ、どう考えても十八禁のブツだしなあ」
言いながら掴むのは、どう考えても人の股間に付いているとしか思えないブツ。
しかもそこそこ大きくて、薄ら赤黒い。
そう、お察しの通り……大人のキノコである。
俺はこれを見つけ、後先考えずに採取してしまったのだ。
いやだって、草むらにこんなのが唐突に生えてたら爆笑するでしょ。
どんな世界観なんだよ、道端に男根が生えてるって。
面白すぎて思わずもぎ取ってしまったが、どう考えてもこれ採取したらダメな奴ですよね。これをあのお姉さんに見せたら、俺セクハラで捕まりますよね。
「いやな~、でもな~……これ本当、大きさや細部は違うけどブラックのデカブツに似てるんだよなー……それが地面に生えてたら笑っちゃうよなあ……。でも正直この形ってこの世界のスタンダードなのか?」
思えば俺、三次元の他人のブツなんてブラックのしか見た事がないんだよな。
父さんのなんか覚えてないし、銭湯とかいかねーもん。
あと見れる三次元の奴って大抵モザイク掛かってるし。
冷静な今考えてみると、そもそもこの世界の人はこれが普通の形なんだろうか。エロ漫画ではあんな凶器みたいな形が多いが、アレが普通な訳じゃないよな。
って事はまあキノコだし、お姉さんも許してくれる……はず。多分。
「そもそも、キノコ持って行くのがなんでセクハラなんだよ。ここは異世界だぞ、異世界。ケツ触るのが挨拶の世界で、この程度の物がセクハラなわけねーじゃん」
そうだそうだ。きっと大丈夫なはず。
この世界は性にはわりと寛容なんだから、きっとお姉さんもこの大人のキノコを掴みあげて解説してくれるだろう。あ、やだ超興奮する。
こんなアホみたいな物を笑顔で受け取りながらお姉さんが解説してくれるって、ちょっとしたフェチ映像みたいでたまりませんな。
「ウヘヘ……そ、それはそれでいいかも……」
思わず赤黒いキノコをぎゅっと握ってその姿を想像してしまう。
ついでに素敵なお姉さんに色々教えて貰っちゃたりしたい。「アンタこんな事も知らないのかい? しょうがないね!」なんて言われながら手取り足取りっ!
でも、そう上手くは行かないんだよなあ……。
「はぁあ~……俺だって一回くらいは良い思いしたい……」
ブラックと恋人同士とは言え、俺だって童貞は卒業したい。
と言うか女子にアプローチしたいしされたい!! これは恋人とか言うアレとは別なんだ、抗えない男の本能なんだ!
ブラックが俺に股間を膨らませるように俺は女子に股間が膨らむ、それは誰にも止められない、いわば男としてのジャスティスであってだな。
「……いや、そんな事を考えてる場合じゃないか……そこそこキノコは採ったし、もう帰ろうかな」
ぐいぐい握っていた卑猥なキノコをバッグに戻そうかと思い、ふと前方を向く。
すると、そこにはお菓子みたいな茶色い傘のキノコがちょこんと生えていた。
「あんなところにでっかいキノコが……。何で見逃してたんだろ? めっちゃ美味そうじゃん!あれも採ってから帰ろうかな!」
カサの色がまさにチョコレートだ。まるできのこのや……ま、マウンテンとかに生えてそう。もしかしたら甘いかも知れない!
なんたってここは異世界だし、その可能性は充分ありえるよな!
俺は片手に物凄い物を握っているのも忘れて、そのキノコに近付こうと腰を屈める。その際に、手に力が入り――思わずキノコを強く握り締めてしまった。
瞬間、キノコから粘ついた液体が飛び出して、俺の顔や腕に。
「……えっ?」
な、なんだこれ。白くて……ネバネバしてるぞ。
これ、もしかしてこの卑猥なキノコから出たの?
……いやいや待て、これマジもんじゃねーか。もうこれ普通にお姉さんに渡せるキノコじゃないよね。渡したらセクハラだよね。
お姉さんがこのキノコの事知ってたら絶対ヒくやん。
ヒかざるをえないやん。
「まさかここまで十八禁に特化したキノコだったとは……」
というかまさか二度も白い液体を引っ掛けられるとは……。
キノコに白濁を引っ掛けられるなんて屈辱だ。って言うかコレ、ブラックに言ったら絶対とんでもない事になるな。……よし、このキノコは置いて行こう。
一瞬でそう考えて俺は卑猥なキノコを置こうとした、が。
「ムム~ッ!」
甲高くて可愛い声が聞こえたと思った瞬間、目の前の茶色いキノコが消えた。
……というか、飛び上がって来て、俺にのしかかって来た。
「えっ、えぇええ!?」
「ムムゥー、ムゥー」
きっ、キノコが、キノコが鳴いてる!!
ちょっと待ってヘビとか兎が鳴くのは素直に受け入れられたけど、キノコって! 両手で抱えられるほどのでっかいキノコが鳴いて飛ぶって!!
「まっ、待って、まって!」
「ムムムゥ~!」
キノコのカサに、黒豆みたいなキラキラした目が二つ付いている。
頬っぽい所がピンクに染まっていて、可愛い。可愛いけど、あの、ちょっと退いてくれませんか。待ってカサの下から何出してんの。それ舌? 舌なの!?
「ま、まってどう考えてもそれ触手系……ッ、ぅあっ、やっちょ、ちょっと!!」
「ムゥ~っ」
キノコは意外と力が強く、手も足も無いのにしっかりと俺の腹の上に乗って俺を押さえてしまっている。
そんなキノコの舌が、俺にかかったキノコの汁をペロペロ舐めて来た。
犯されるのかと一瞬青ざめたが、しかし、舌は汁を舐め取るだけで。
……も、もしかして……汁が欲しいだけなのか?
顔と腕をべろべろにされつつも、俺はまだ所持していた卑猥なキノコをそいつに近付けてやる。すると、生きたキノコは目を輝かせてそれを舌で奪い取った。
「あ……カサの下に消えて行った……」
どうやって食べてんだこれ。
頬の部分っぽい所をモゴモゴ動かしているが、そこが顔なのか。
しばらく黙って観察していると、咀嚼を終えたキノコは俺の上から降りた。
そして、ぺこぺこと頭を下げる。どうやらお礼を言っているらしい。
「ムムムゥ~」
「えーと……美味しかったなら良かったけど……」
「ムゥ~」
ぴょんぴょん跳ねながら、目をキラキラさせるぬいぐるみみたいなキノコ。
……良く考えたらこれもメルヘンの生き物みたいだよな。
そう考えたら、なんか可愛いかも。
「お前この森に棲んでるのか?」
「ムゥ~」
そうだ、とでも言うように頷くキノコに、ちょっと面食らう。
モンスターの中には人と意思疎通を図れる奴もいるけど、まさかこんな不思議な姿のモンスターにも、人間の言葉が通じるとは思ってなかった。
うーむ、意思が通じるとなるとますます可愛く思えて来たぞ。
「キノコなのにキノコが好きなのか」
「ムムー!」
「あはは、そっかそっか。あ……じゃあ、お前の食べ物を取っちゃってたかな……ごめんな。これ、返そうか……?」
今考えたら取り過ぎだったかも。
申し訳なくなりつつバッグの中を見せると、キノコはぷるぷるとカサを振った。
どうやらいらないらしい。って事は、あの悪趣味なキノコが主食なのか……?
……いや、深く考えまい。とりあえず、貰っていいのなら貰っておこう。
採取した分はありがたく頂く事にして、そろそろ戻ろうか……と思い立ち上がると、キノコが俺の脚にすり寄って来た。
「ムムー」
「おっ……」
目を細めて、俺のすねに懐いて来るキノコ……ってか、多分モンスター。
モンスターがここまで人懐っこくていいのかと思いながらも、俺はその可愛い姿にキュンキュン来てしまっていた。
無意識に手が伸びて頭(と思しきてっぺん)を撫でてやると、キノコ君は嬉しそうに上下運動を始めた。こ、これは喜んでるって事でいいんだよな?
可愛いけど、ロクやペコリア達とは違う喜び方だから少し驚いてしまった。
でもまあ、俺には敵意がないみたいだしいいか。
……それにしても、この子……なんていうモンスターだろう?
→
※……な、なんか色々アレな話ですみませぬ… ('、з っ )っ
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