異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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北アルテス街道、怪奇色欲大混乱編

3.新しい仲間と懐かしい街

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 翌日。それではご武運をお祈りしております、とかなんとか言われてエネさんと別れ、俺達は一路セーナスへと向かう事にした。

 今回はディオメデがいるので、旅のための荷物は少ない。再びオッサンと二人でタンデムする事になるとは思ってなかったが、考えると色々落ちこむから考えない事にした。
 俺ってば乗馬とかまだ練習すらしてなかったからな……まあ、仕方ないだろう。
 しかし、俺数か月くらいこの世界に居るのに、上達してない事多すぎでは……?

 いや、これも深く考えまい。曜術頑張って上級覚えただけでもまだマシだ。
 とにかく、目指すはセーナス。ヘクトからセーナスまでは、普通の馬車で二日……って事は、黒い毛並みの凄いヤツなディオメデならば、恐らく一日足らずで到着できるはずだ。
 本当モンスターとは言え、足の長い馬って速いよなあ。

 とまあそんなこんなで、俺達は途中ヘクトで休憩しセーナスまでかっ飛ばした。

 今となってはヘクトには立ち寄りたくなかったんだが(色々思い出すから)、あそこには前に俺の回復薬を高値で買ってくれた薬屋の兄ちゃんがいるので、立ち寄らざるを得ない。もちろん、作った回復薬を売るためにな!!

 仮に傭兵を雇うにしろそのまま旅をするにしろ、資金は多い方が良い。
 ハーモニックに居る時はシアンさんにだいぶ奢って貰ってたが、滞在してる間に結構お金使っちゃったからなあ。正直な話、路銀が心配なのだ。
 なので、嫌々ながらも滞在する事にしたわけ。

 ヘクトに到着した時のブラックのニヤけ顔ったらもう見れた物では無かったが、余計な事を言う前にロクが噛み付いてくれたので良しとする。
 久々の起床なのに、迷惑かけてごめんねロク……。

 そうしてヘクトで資金調達も終えた俺達は、再びディオメデに乗り、セーナスへの短い旅路をたった今終えて、街に入るための列に並ぼうとしている所なのだが。

「け……ケツが痛い……昨日今日と乗りっぱなしでもう限界だ……」
「えっ!? それは困るよ、今日こそは恋人になってからの初セックスにはげんで、思う存分楽しもうと思ってたのに!」
「お前は大事な旅の途中で何しようとしてんのかな!? 旅程を乱す行動を勝手に計画しないでくれない!?」

 俺はロクがまた長い眠りに入る前にご飯食べさせなきゃ行けないし、乗せてくれてるディオメデの手入れもしてあげたいの! それに加えてギルドやガトーさんに挨拶に行ってたらそんな時間ないの!!

 列に並ぶ直前だから良かったけど本当コイツ、俺の世界の言葉を便利な隠語だと思ってバカスカ公共の場で使いやがって……。
 俺の世界じゃそれ直球だからね。完全にアウトな奴だからね。
 この世界におまわりさんが居ないのが悲しい。おまわりさんこっちですよ。

 俺は泣く泣くブラックの鳩尾みぞおちこぶしを見舞いつつ、ディオメデとロクと共に長い長い列に並んだ。こういうの久しぶりだな。ハーモニックでは身分証明なんて求められなかったし、やっぱ国が違うと従う法律も違うもんだ。

 しばらくぽけーっと列が縮まるのを待っていると、不意にロクが肩に上って来て、俺が手綱を引いているディオメデを見て鳴き声を上げた。

「キュー?」
「ん? ああ、そっか。まだ紹介してなかったよな。ロク、このお馬さんは俺達を手伝ってくれてるんだよ。名前はえーと……そう言えばまだ決めてなかったな」

 赤と青の大元は、この召喚珠のディオメデの名前は特に決めてなかったようで、貰った後にふと問うてみたら「好きに呼んで」と言われた。
 なので、道中ずっとこの青毛の格好いい馬君の名前を考えていたんだが……。

「うーむ、ロク、お前はどう思う?」
「キュー?」
「ブルルッ」

 列が動くのに合わせて歩きながら、俺とロクとディオメデは首を傾げる。
 俺の世界でも馬は頭がいい動物と言われてるが、この世界の馬もかなり頭がいいらしい。いやまあ、角が生えてたりひづめに爪が生えてたりするから、普通の馬ではないんだけどね。

「ロクがロクショウだから、同じ感じの名前つけたいなー」
「そう言えば……ロクショウって、緑青色から付けたのかい?」

 チッ、ブラックめ、もう復活しやがったか。
 とは言えもういやらしい気分はどこかに言ったようなので、俺は答えてやった。

「そうそう。と言っても、ロクの名前は俺の世界でダハに良く似た『青大将』ってのが居たから、緑色と青でロクショウって名前にしたんだけどな。ヘビーちゃんとか色々考えたんだけど、ロクはこの名前が気に入ったらしくって」
「えーと……ロクショウ君、賢明な判断だったね」
「キュゥー」

 おいてめえ何で今「うわぁ」って顔をした。
 センスないってか、俺がセンスないってかコラ!

 しかし、ここで怒れば自分でも気にしていると言っているような物なので、怒りを収めて黙っておく。
 お、俺は決してセンスが悪い訳じゃないんだからな。

「とにかく、今はこの馬君の名前だ。ロクショウと同じ感じだから、やっぱ色縛りかなー。青毛だからそれに因んだ名前が良いかなあ」

 黒か。ブラック……は隣のオッサンと被るしなあ。
 俺も色の名前をたくさん知っているって訳じゃないから、これは難しいかも。と思っていたら、ブラックが何だか妙な顔をして小さな声で俺に提案してきた。

「青毛……と言うか、黒に関係する名前はあんまり……やめた方がいいと思うよ」
「アンタの名前とかぶるから?」
「それもあるけど……まあ、だったら付けないんだよね?」
「うん、俺も黒系の色の名前はあんまり知らないし……じゃあ青色で考えるわ」

 そう言うと、ブラックは何故かホッとしたようだった。
 自分と同じ名前を付けられるのは嫌だったんだろうか。確かに、ペットに自分と同じ名前を付けられたら、良い気分はしないだろうけども。ま、いっか。

 じゃあ、青系かな。ディオメデの目は綺麗な青だしな。
 俺が知ってる青色系の名前で格好いいのってーと……。

「んーと……じゃあ藍鉄ってのはどうだ?」
「アイテツ……ってどんな色だい?」
「そうだなあ、ディオメデの体の色を少し薄くして、そこに青を混ぜたって感じ。群青よりも青と黒が濃い色って所かな」

 婆ちゃんの家にあった爺ちゃんの着物の帯が、確か藍鉄色って言った気がする。
 爺ちゃんは青色が好きだったらしくて、色んな青い着物を持っていた。だから、それを見せて貰った時に、婆ちゃんに色の名前を教えて貰った事が有るんだよ。
 その時に藍鉄色ってのを聞いて、俺は不覚にも格好いいと思ってしまった訳だ。

 どうかな、とディオメデを見やると、相手はとても嬉しそうにいなないた。
 おっ、やっぱり君もこの名前の格好よさが解りますか!

「よーし、お前の名前は今から藍鉄だ! よろしくなー、藍鉄」
「キュッキュー!」
「ヒヒヒーン!」

 嬉しそうに嘶いてるのを見ると、なんかめっちゃ可愛くなる。
 盗賊の馬車を引いてた時のディオメデは怖そうだったんだけど、人間に慣れてるとこんなに表情豊かになるんだなあ。ああ、新たな癒しだ。

 ロクと一緒に藍鉄の顔をぎゅっと抱きしめていると、俺達の番がやって来てやっと街に入る事が出来た。前に俺達と喋ってくれた兵士さんに会いたかったんだが、今日はいなかったみたいだな。休みだったんだろうか……ちょっと残念。

「さて、これからどうするんだい?」
「とりあえず、宿を取った後はギルドに挨拶に行こうかなと」
「アイテツ君はどうするの」
「世話したら、人目に付かない所で家に帰って貰うよ。俺らの泊まる宿より、赤のお姉さまの所の方が快適だと思うし……」

 そう言うと、さもありなんと言わんばかりにブラックは大きく頷いた。
 ちょっとイラッとしたけど、事実だし仕方ないか。俺達は基本的に安宿しか取らないので、その分馬小屋も居心地が悪い。帰れるならその方が良いだろう。
 って事で宿をとった俺達は、一旦藍鉄とお別れをしてギルドへ向かった。

 銀髪眼鏡っ子のサニアさんとマッチョギルマスは元気かなあ。







 西部劇で良く見るスウィングドアを開いて、俺とブラックはギルドの中に入る。
 ギルドは相変わらず騒がしく、併設へいせつされた酒場のエリアでは今日も厳つい兄ちゃんや冒険者っぽい人達が笑いながら酒を飲んでいる。

 その隣のギルドのカウンター近くでは、職員に相談を持ちかける人や、掲示板を見て唸っている強面な面々がたむろしていた。
 これこれ、本当何度来てもファンタジーでテンションあがるよなあ。

「えーと、サニアさんは……と……」
「一番右のカウンターの人じゃないか?」
「ホントだ! おーいサニアさーん!」

 声を掛けながら近寄ると、相手も俺達を覚えていてくれたのかワタワタと慌てて立ち上がって、にっこりと笑い返してくれた。

「あ、あの、お久しぶりです……! ま、またこの国に来て下さったんですね」

 はぁ~。
 このどもりも、銀髪眼鏡巨乳泣きぼくろも全く変わらず萌えるままですな!
 ラッタディアでは眼鏡成分少なかったから、ほんと新鮮で萌えるなあ……。
 本当に美少女はいい、心を満たしてくれる……。

「ツカサ君、どうしたのツカサ君」
「あ、いや、何でもない。サニアさんの方も元気そうでなによりです! その後、ギルマスやガトーさんの様子は……」
「あ、相変わらずです。ツカサさん達も、お元気そうで安心しました……この国に戻ってこられたと言うことは、あの、もしや……ここを拠点に? ツカサさん達が来られると言う連絡は別の支部からはなかったので、あの……なら、嬉しいです」

 あ、そっか。この世界のギルドって普通に人力だもんな。
 アコール卿国に行かなければいけない依頼が有るのなら、冒険者が受けた時点でこの国のギルドに連絡が行くわけだよな。
 現実でなら普通な事かも知れないけど、俺が見てた小説はギルドカードとか有ったし、こういうアナクロな感じは無かったからちょっと新鮮だわ。

 でも、拠点かあ……。
 サニアさんみたいな可愛い女の人がいるなら拠点にしちゃいたいけど、今回はそう言う話じゃないからなあ。

「あの、もしかして……何かご用事が? わ、私とギルドマスターで良ければ……お二人の相談に乗りますよ」

 頬を赤らめて照れながら俺達を見るサニアさんに、俺は内心テンションが上がりつつブラックを見る。

「なあ、協力して貰わないか? もしかしたら何か分かるかも知れないぜ!」

 エネさんは現地調査まではしていないと言ってたし、もしかしたらまだ俺達が知らない情報が眠っている可能性がある。

 それにギルマスやサニアさんはこの周辺の事には詳しいから、思わぬ所から糸口が見つかるかもしれない。
 イコール、村人消失事件も何か科学的な真実が出て来るかも!

 という思いをこめてブラックを見上げると、ブラックも同じ事を考えていたのか不承不承ふしょうぶしょうと言った様子で頷いた。

「まあ……仕方ないか。今は少しでも安心できる情報が欲しい所だし……」

 こういう時は話が分かるな、オッサン!
 俺達はサニアさんの嬉しい申し出に快く頷くと、ギルドマスターの居る執務室へと向かったのだった。










 
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