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裏世界ジャハナム、狂騒乱舞編
39.普通じゃなくてもいいのなら
しおりを挟む中年に路地裏で犯されて強引に「好き」って言わされたら恋人認定されました。
……って、これどんなエロ漫画展開ですかこんちくしょう。
フラフラの俺を宿まで連れ帰って風呂に放り込んでくれたのはありがたいけど、でも、その後もべったりくっついてベッドまで一緒ってなに。
この中年、あの場の切羽詰まった言葉程度で、俺がマジでお前を好きだと思ってると確信したのか?
…………いや、ないだろ。
って言うかあれ全部お前が言わせたんじゃん!
俺全然能動的に行動してないじゃんか!!
何でアレで「わあ、ぼくらすきあってるんだね!」って錯覚出来るの!?
こじらせすぎてヤンデレ以上の何かになってないこの人!?
っていうか暑苦しい。背中から抱き着いて来て暑苦しいんですけどこの人。
今日は路地裏で突っ込みまくったから我慢するね、とか言いつつ抱き着いてきて荒い息で首筋のにおいを嗅いでるこいつはなんなの。
完全に自重してないよね。完全に好き放題やってるよね。
あの一言だけで信じちゃうわけ?
俺、自分から言ってないじゃん。アンタにちゃんと伝えてないじゃん。
なのに、アレでいいの?
「…………バカ。うすらバカ間抜けおたんこなす」
「え、なにいきなり。それ呪文か何かかい?」
「ああそうだ、大馬鹿野郎を罵る時の呪文だよコンチクショウ」
「ふふふ、そうなんだ。何だか可愛い呪文だね」
自分の事を微塵もおたんこなすと思ってない声が、俺のすぐそばで聞こえる。
抱き着くこと自体は何度もやってるから、もういい。
添い寝もまあ、やったこと、あるし。
……過去を振り返ると、俺も今まで何を考えて中年に抱き着かれるのを許容してたのだろうと思うが、ここでは反省すまい。
すはすはと呼吸しながら首筋に鼻を寄せてくる相手に肘鉄を食らわせつつ、俺は少し距離を取る。
「…………アンタ、その……本当に……」
俺と恋人同士になったと思ってるワケ?
はっきりそう言いたかったけど、その一言が重たくて、中々口に出せない。
二の句が継げずにまごついている俺に、ブラックはふっと笑って近寄って来た。
再び強く抱きしめられて、背中に相手の温かい胸が押し付けられるのを感じる。
思わず鼓動が早くなる俺の首筋に、柔らかい髪の感触が伝った。
髪に、顔を埋めている感触がする。変な事をする訳でもなく、ただ穏やかな呼吸を繰り返す相手に困惑しつつ黙っていると、不意に声が耳に届いた。
「僕も、嘘か真かを見抜く能力ぐらいは持ってるつもりだよ。……だから、僕はツカサ君に『好き』って言って貰えて、嬉しかったんだ。……でもね、僕はそれを突きつけて、君を困らせようとは思わないよ。ツカサ君は自分の気持ちを幾らでも否定して良いんだ。好きじゃないって思ってくれてもいい」
「ブラック……」
俺を抱き締める腕の力がまた強くなる。
髪に掛かる息は、いつの間にか切なくてか細いものになっていた。
そんな息に乗せるように、ブラックは情けない声で呟く。
「だから、それでもいいから……僕を恋人にしてくれよ、ツカサ君……。ずっと、ずっと待ってたんだ……君と出会った時からずっと……」
「出会った、時から……って……」
「君は僕を肯定してくれた、僕をずっと隣に居させてくれた。だから僕は、もっと君が欲しくなった。欲しくなってから、ずっと……君だけを想い続けて来たんだ」
解ってた。解ってたよ。アンタ、普段は本当に薄情そうだもん。
町で声を掛けられた時、ああ、興味を持たれてるんだなっては思ってた。
でも俺は、お前がそこまで俺を好きだなんて、思ってなかったんだ。
だってあんたは大人だし、嘘も吐く。好きだ好きだって言われても、執着されても、俺には何が嘘で本当か解らなかった。俺の体で性欲が満たせるから一緒に居るんじゃないかって、そんな事すら思ってた。だから、拒否し続けて来たんだよ。
そのせいか……アコール卿国で改めて気付いた時は、物凄く、驚いて。
意識しはじめてしまって。
……ああ、そうか。
俺も、アンタの事、いつのまにかそういう意味で意識してたんだな。
だから、最近おかしかったんだ。
気付いてみれば簡単な事だったけど、俺には今まで解らなかったんだよ。
だって、こんなこと……初めてだったから。
初めてが多すぎて、自分でも、自分の気持ちが解らなかった。
今も解ってないんだ。だから……だから、不安で仕方なくて。
「……俺が……俺が、本当に好きかどうか判らなくても……アンタはいいのかよ」
今更な事だけど、凄く怖くなる。
体を繋げても、大事でも、仲間と思っていても、それが恋になるとは限らない。
恋なんてした事ない俺には、アンタへの気持ちが何かなんて言えない。
元より普通じゃない相手との、普通じゃない関係だ。
これがもし恋じゃなかったとしたら、ブラックを傷つけてしまうかもしれない。
自分の気持ちが何なのか判らないと言う恐怖よりも、本当は……そっちの方が、どんな不可解な感情よりも怖かった。
ブラックは、この世界で俺をずっと守って来てくれた奴だから。
悔しいけど、もう……
ブラックがいなくなる事なんて、考えられなくなってしまったから。
だから、本当の気持ちが解って、俺かお前のどちらかが離れようとするかも知れないのが、怖くて仕方なくて。
――――……ああ、そうか。
俺、好きとかそういう事を考える前に、もう、駄目になってたのか。
無意識にブラックと離れるのを怖がるくらいに。
「…………」
泣きたくなって喉が痛くなる。それを必死に抑えて顔を覆うと、また腕が俺の体にしがみ付いてきた。まるで、逃すまいとでもいうように。
そうして、ブラックは俺の首筋に顔を埋めた。
「いいよ、いいんだ。恋人らしい事なんてしなくていい……。ツカサ君は、いつものままでいいんだ。だから、お願い…………僕を、ツカサ君の恋人にして……」
答えが出せなくても、いいんだろうか。アンタはそれで満足なのか。
アンタの好きと俺の好きが違っていても、構わないのか?
それでも良いって、言ってくれるなら――――。
「…………変なこと、したら……いつも通り、ぶん殴るからな」
精一杯の言葉に、ブラックは息を呑む。
けれど、それ以降はもう、悲しそうな声は出さなかった。
「ありがとう、ツカサ君……」
「…………もう、寝るぞ」
嬉しそうな声が照れ臭くて、泣きそうな自分がなんだか悔しくて仕方なくて、俺は少し距離を取ろうとする。だがブラックは俺を抱き留めたまま、より自分の体を密着させてきた。
お、おい。俺もう寝たいんだけど。
「ツカサくん……」
「な、なんだよ」
「今の恥じらいながらの肯定が、物凄く股間にキたんだけど……! 恋人になった記念に、ちょっともう一回セッ」
「寝る!!!」
恋人でも、言っていい事と悪い事が有る。
俺が背後の男の股間を足でけり上げたのは、きっと正当防衛だ。
そんなこんなごたごたあって、俺達も落ち着いてきた二日後。
ついに事務処理が終わったのか、宿にシアンさんの使いが来て俺達は白亜の宮殿へと招かれた。……もちろん、いちゃいちゃせず。
いや、恋人とか言うものすごーくおもっ苦しい称号が付いたからと言って、俺はすぐ「ウチらラブラブですぅー」なんてやんないぞ。
腐っても日本男児……と婆ちゃんに煽てられて育った身だ。っていうか、無精髭のオッサンとバカップルみたいな事をやるとか嫌だ。
普通に考えてみてくれ。
高校生とオッサンが、なにが悲しゅうて顔つき合せてイチャイチャせにゃならんのだ。見たくない。俺は見たくないぞ、そういう寒い場面は。
だからなるべく普段と同じように過ごしているんだが、幸いブラックも「恋人」という存在に慣れていないのか、いつも以上にくっ付いて来る事はなかった。
っていうか、この人そもそも世間一般的なデートすらした事ない大人だしな。
考えてみればお互い「恋人」と言うものを単語以外ではよく理解してないんだし、そんなに構える必要もなかったのかも。
……あ、違うぞ。別に俺はだから躊躇ってたとかそう言うんじゃないからな。
とにかく、ぶっちゃけ恋人同士になったって自覚はあんまり無いし、ブラックもデレデレする事はあるけど無闇やたらに恋人とは言わないので、まあ良しとする。
恋人ってこれでいいのか? とは思うが……。
「やー……だって、漫画とかで見る恋人ってラブラブじゃん? アレの時とかみさくら語とか使えとかいったりするじゃん? 映画デートでラブホ行きとかそういうのこの世界じゃありえないしこの世界でのノーマルな恋人って一体……」
「ツカサ君なにブツブツ言ってるの?」
「あ、いっ、いや、何でもない! お、遅いよなシアンさん!」
ブラックがジト目で俺を見て来るが、何でもないと必死で誤魔化す。
この世界にみさくら語とか映画とかラブホって単語が無くて良かった。
西洋風ファンタジー世界にしてくれて神様ありがとう。
「うーん、言われてみれば確かに遅いね……。呼ばれたから来たってのに、随分と時間が掛かってる。いつものシアンなら、こんな事はないのに」
「なんか急用が出来たとか?」
「緊急の用件か……案外僕達についての事だったりして」
「ハハハ、まっさかー」
「だよねー。あっはっは」
こいつめ、ぬかしおるわ。と二人して暇つぶしに笑っていたら、なにやら応接室の扉の外からドタドタと足音が聞こえてきた。
白亜の宮殿でこんな無作法な足音なんて、初めて聞いたぞ。
ブラックと顔を見合わせてその足音が辿り着くのを待っていると、扉がバンと音を立てて開いた。そこに居たのは、なんとシアンさんで。
「し、シアンさん?!」
「どうしたの、そんなに急いで」
いつも穏やかに部下を従えて登場する美老女エルフシアンさんが、息を切らせて肩を大きく動かしながら、ふらふらと部屋に入って来るなんて。
今日はもしかして雪でも降るのか?
何が有ったのかとオロオロしながら相手を見ていると、シアンさんは弱々しい笑みで笑いながら、やっと俺達の目の前の椅子に腰かけた。
「はっ……はぁ……ご、ごめんな、さいね……ちょっと、っ、色々、あって……」
「そ、それは良いですから、とにかく落ち着いて」
エネさんに運んできて貰った緑茶をカップに注いで渡すと、シアンさんは深呼吸をして息を整えてからゆっくりとカップに口を付けた。
「……ふぅ……。やっと、人心地ついたわ……」
「シアン、早速だけど……」
「ええ、ごめんなさい。私も貴方達に早急に話したくて急いで来たのよ。……と言っても、これは遺跡の話じゃなくて……別の話なんだけど」
そう言って深刻そうな顔をするシアンさんに、俺達は思わず身を乗り出す。
こういう時は大抵ロクな話じゃないってのは解ってるんだけど、聞き逃す訳には行かなかった。だって、シアンさんが俺達に早く伝えたかったって事は……俺達に関係する、なんらかの事態が起こったって事だろうし。
そんな気持ちが相手にも伝わったのか、シアンさんは軽く頷くと、口を開いた。
「私は貴方達を遺跡に導くにあたり、アランベール帝国とプレイン共和国を通るルートを使おうと考え、安全に旅をして貰おうと思っていました」
「ああ、大きな道路を歩けば迷う事は無いし……多くの商人も通ってるからね」
そう言えばアコール卿国の時も、ライクネスでも馬車に乗ってたらそう言う道を通ったな。特に気にしてなかったけど、乗合馬車が通っていた道は全部広くて大きくて、輸送用の馬車や貨物を乗せた馬車と結構すれ違っていた。
国と国を繋ぐ道は安全で広い。アコール卿国の時は村とかに立ち寄ってたから、結構輸送ルートから外れて小さな道を通ってたりしたんだけど、この世界ではその道を通るのが一番楽な旅なのだ。
でも、シアンさんの口ぶりでは……。
「あの……思ってましたってことは……使えなくなったって、事ですか?」
恐る恐る訊いた俺に、シアンさんは悩ましげに顔を歪めて頷いた。
→
※説明がちょっと長くなるのでここで切ります(`・ω・´)
てかなんか本当普通の恋人同士みたいなアレじゃなくてすみません…
ラブラブする時はラブラブするからゆるしてくだしあ…!!(´;ω;`)
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