異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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裏世界ジャハナム、狂騒乱舞編

37.無意識に反応するカーストワードは

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 いかんいかん、本来の目的をすっかり忘れる所だった。
 こんなていたらくでは、待っていてくれる獣人達に申し訳が立たない。と言うワケで、俺達は……というか俺は大元二人に重々お礼を言った後、獣人達の事について色々とお願いをした。
 まだあそこはトルベールのシマだし、理不尽でもお願いしなきゃいけないし。

 しかし、既に俺達への好感度をばくアゲしていたらしい二人は、獣人達があの場に店を出す事をこころよくオッケーしてくれて、その上用心棒まで出すと言ってくれた。
 そんなに優遇して良いんですか、と俺が心配になると。

「いいのよ。我らジャハナムは、受けた恩を絶対に忘れはしない。これからも貴方達に協力を惜しまないつもりだから……」
「悪に手を染めた我らとて、人の心は忘れてはおらん。そういう者達が、この街を作ったのだからな。……また何か協力が必要な時は、遠慮なく言うがいい。青と赤、二つの力は必ずや君達の力になるだろう」

 ……こう、来たもんだ。
 あの、いいんですか……。俺的には本当、自分の周囲の小さな事件ってレベルで周りなんて見えてなかったし、この街の為に頑張った訳でもないんですが。
 でも、えんは大事にするもんだと言われてしまい、結局俺は流されるままにジャハナムのお偉いさんとのパイプを作ってしまった。

 えーと、マジでこれどうしよう。
 災厄が巨大な裏社会のボスと知り合いって、シャレになんないんですけど。

 でも結んじゃったもんは仕方ない。
 好意を無にするのはダメだと婆ちゃんも言っていたしな。
 とにかく獣人達にはこれ以上の被害は及ばないようで良かったよ。便利アイテムの「どこでもお馬さん」も貰った事だし、これ以上考えるのはやめよう。

 貰える物はありがたく貰っておく。でも、彼らに助けを求めるのは、本当に必要な時だけにしよう。裏社会全体が後ろ盾ってのは、心強い事しな。
 ヤクザな組織だけど仁義に厚い人が沢山いるんだし、シアンさんの知り合いならきっと大丈夫だろう。

 ……俺には「悪い事はやめろ!」なんて言えるような正義もないし、そもそも俺はまだ十七年しか生きてないヒヨっ子だ。
 その上に現代社会でぬくぬく生きてたんだから、人の人生を評価する資格はないだろう。ってか、エラそうな事なんて言えませんて。俺そう言うの苦手だし。
 まあ、悪い事をしてるのを見たら、俺だってそりゃ止めるけどね。

 とにかく、俺としてはジャハナムの人に敵意や嫌悪はない。けど、裏社会の人の力を借りるってのはヤクザっぽくてなんかヤなので、出来るだけ頼みごとをしない平穏な関係で行こう。うむ。
 こんな感じの結論が出た所で、俺達はジャハナムを後にした。
 もうこの街に居る理由もないしな。あとは話を聞いて旅立つだけだ。

 大元とトルベールは出国の時に見送ると言ってくれたが、丁重にお断りした。
 威圧感アリアリの美男美女に見送られるって、どんな拷問ですか。

 本当の所を言うと、この不可思議なビル街のような街の成り立ちを聞いてみたい気もしたけど……なんだか嫌な予感がして聞く事が出来なかった。

 たまたま地下の洞窟にこんな形の岩があったから……って話なら良いんだけど、そうじゃなかった時、俺はまた余計な物を背負い込んでしまうかもしれない。
 そうなれば、ブラックにもまた迷惑をかける事になるだろう。
 ……そんなのごめんこうむる。
 俺一人じゃどうにも出来ない事なんて、この“ちから”だけで充分だっての。

 冒険に重石おもしは必要ない。俺の重石はこの力だけで充分なのである。

「つーかーさーくーん……もう疲れたよー、宿いこうよー」

 ……前言撤回。
 俺の重石は、この力と俺にのしかかってくるウザい中年だけで十分だ。

「だーもー離れろってば! もうすぐ大通りに出ちまうだろ!」

 隠し通路のある家から出て、もうすぐラッタディアの中心街へ出る。
 そうなるとこんな風に後ろから圧し掛かられてたら、周囲の人に変な目で見られてしまう。俺の肩に乗っている顔を押しのけようとするが、しかし相手もさるもので俺の体を後ろからがっちり掴んだまま離さない。

 おいテメーこの格好だと絶対お前蟹股がにまたで歩いてるだろ、格好悪いぞこの野郎。
 おおやけの場でそんなみっともない姿披露したくないでしょ、離れなさい!
 と言っても、相手はずっと俺に抱き着いたままで。

「ツカサ君、そういえばさあ」
「なんだよっ」
「僕の事どう思ってるか、分かった?」
「……え」

 ブラックの何の気もなしに言ったようなその言葉に、俺は固まった。
 だけど、ブラックは肩に顎を乗せたまま、俺の耳元で低い声を漏らす。

「抱き着いても平気って事は、結論が付いたんでしょ。で、どうなったのかな? 忘れてるなんて言わせないよ。忙しいからってだけで忘れられるような感情だったら、あんなに僕を拒絶しなかったよね?」
「う……そ、それ、は……」

 その通り、忙しくて忘れてました。だなんて言えない。
 だって、色々と考えることが有って頭が働きしっぱなしだったし、アンタだっていつも抱き着いて来るからその、気にしなかったって言うか……。
 でも、そんな事言われたらじわじわ顔が赤くなってきて。

「あ……今やっと意識してきたんだ? ……ずるいなあ。僕はずっと待ってたのに……ツカサ君が僕に『好き』って言ってくれるの……」

 吐息が、耳に掛かる。
 いつの間にか頬に柔らかい何かが触れていて、視界の端に赤い髪が見えていた。
 でも、その事に構っている余裕なんて俺にはなくて。

「す、すきっておまえ」
「待つって言ったけど……忘れていいとは言ってないよ」
「ぅあ、ちょっ……」

 そう言いながら、ブラックは唇でゆっくりと俺の耳元を食んでくる。
 少しかさついた唇が柔らかい肉を挟んで歯を立てると、俺の体は自分でも驚く程に跳ねた。だけど、抱き着かれていたせいか、体は痙攣するだけで。
 その事に気付いて思わず顔の熱を上げる俺に、ブラックはふっと笑った。

「あれ? おかしいね……ツカサ君、いつもなら抵抗するよね?」
「っ、や……そ、そんなん……」

 あんたが俺に抱き着いて離れないからだろうが、と、言いたいのだが、何故だか声が出ない。雰囲気に流されているのか、それとも、大声を出せば誰かに聞かれるかもしれないと無意識に自分を抑えているのか。
 良く解らないけど、俺はブラックに耳を軽く噛まれると、それだけで何だか体がゾクゾクして、声も出せなくなってしまっていた。

 なんだ、なんだこれ。本当に俺、どうしたんだ。
 逃げたいのに、恥ずかしいのに、逃げ出せない。

「ねえ……期待して、いいのかな……?」
「ぁ……っ、や……ばかっ……!」

 耳をねぶるように、ねっとりとした大人の声が俺をさいなむ。

「ツカサ君……僕もう、凄くセックスしたいんだけど……どうしよう」
「はっ、はぁ!? お、おま……こんなっ、往来で……っ」
「我慢する、人の居ない所まで我慢するから。だから……セックスしよう?」
「ぅ……あっ、あん、た……」
「ツカサ君が好きで好きでたまらないんだ、ねえ、愛したくてたまらないんだよ……ずっと我慢してたんだ……だから、ねえ……」
「っ、ぅ……~~~~っ!」

 やだ、やだってば、耳噛むのやめて……っ!!
 お、俺なんか変だ、おかしいってこんなの。
 ブラックに何か言われるたびにドキドキして、体が震える。熱い息といやらしい感情丸見えの声を吹きかけられると、ゾクゾクしてたまらない。
 それが股間にまで伝わって来るようで、俺はたまらず内腿をぎゅっと擦り合わせてしまって。威勢のいい言葉をぶつけたくても、声が震えて格好がつかなかった。

 変だ。なんで、何で俺、急にこんな。
 た、たかが、ブラックに抱き着かれて、睦言を囁かれてるだけ……なのに……。
 こんなの、いつもの事だったのに……!

「ツカサ君……」
「んっ……ぅ……」

 頭を掴まれて、無理矢理にキスをされる。
 抵抗も出来ないままにゆっくりと抱え上げられて、俺はブラックの胸元を掴む。
 キスを拒めば平手打ちだって何だって出来たはずなのに、頭がぼうっとしていて何もできなかった。











※次は当然背後注意

 
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