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裏世界ジャハナム、狂騒乱舞編
36.クエスト後には報酬が付き物だよね!
しおりを挟む「あ゛ー…………ホント疲れた……」
「でも、これで厄介者を追っ払えたじゃないか。さ、後はもう一つの厄介を終わらせるだけだよ。どんどん行こう。そんで早くこの国から出よう」
「アンタ……分かりやす過ぎ……」
昨日はずーっと何か考え事して上の空で、いかにも「遺跡に行くの悩んでます」みたいな素振りだったのに、他の奴が絡んでくるとすぐこうなるんだからなあ。
まあ、クロウ達と殴り合いにならなかっただけ良かったし……いつものブラックに戻ったんなら、文句はないんだけどさ。
……ちょっとホッとしたとか思ってないからな。絶対思ってないからな。
「ツカサ君?」
「いや、何でもない……」
とにかく、すぐに出国するにしろまだ残るにしろジャハナムに行かなければ。
トルベール達にはあの人員で全部だったのかを聞きたいし、なにより獣人達の事に関しての決着をきちんとして置きたい。
ここで「あれは嘘です! 獣人追い出します!」とか言われても困るからな。
ってな訳で、俺達はコソコソと身を隠しながらあの隠し通路を通り、また十八禁な大人の園に舞い戻ってトルベールのバブリービルにやって来たのだが。
「おおっ、お二人ともお待ちしておりました」
「さあさあ、会長と大元さまがお待ちです。お早く最上階へ」
警備している厳ついおじさんとボインで綺麗な受付嬢さんにそう言われて、俺達はエレベーター……いや、機械式昇降機でVIPルームへと上がった。
すると、昇降機の前にはもうトルベールが待っていて。
久しぶりのチャラい茶髪白スーツだなと思っていると、いきなりブラックと二人纏めて抱き着かれてしまった。
「あーもーほんっっと最高っすよダンナがた~!!」
「ちょっ、なっ、なに!?」
「ナニってナニっすよー! 大元お二方とも大喜びだし、根回しでうまいこと全員逮捕だし、何より行方不明だったマグナ坊ちゃんを見つけて俺達ゃ大手柄ですわ! もう旦那と鉄仮面君には足向けて寝らんねぇ~!!」
ああなるほど……要するに、今回の事はトルベールにとってはかなりの大手柄になったんだな。まあ元々これはトルベールの(強制的な)依頼だし、俺達にも別の目的が有ったからやった事だが、丸ごと手柄を持ってかれたようでちと悲しい。
いやまあ良いけどね! こっちが平和に暮らせるなら!
「あの、それよりトルベールさん……獣人達の事……」
「まあまあそれは後で話すから、とにかく執務室に行きましょ! 赤の大元と青の大元が二人が来たって聞いて待ち構えてんですから!」
そう言いながら、トルベールは有無を言わさず俺達を部屋へと押し進めていく。
いやまあ元々そのつもりだったけど、そんなに急に言われると心の準備が。
「分かった、分かったから押すなって!」
「旦那、そんなに遠慮しないで! なぁに大丈夫ですよ、赤の大元は無精髭くらいで蔑んだ目なんかしませんって!」
いやブラックは多分そっちの心配はしてないと思うんだけどね。
とか思っている内にとうとう部屋の前に着いてしまい、俺達は突き飛ばされるようにして部屋の中に入れられてしまった。
「うおおっ!?」
「ちょっと君、乱暴すぎやしないかい!」
「いやーすんません! 大元、お二人をお連れしました!」
面白いぐらいにはしゃいでいるトルベールが、俺達をずいずいと歩かせる。
半ば諦めつつふと前方を見ると、そこにはソファに悠然と座る大物が居た。
「あ……」
一人は、赤のマーメイドドレスを着た、金髪碧眼の妖艶な美女のお姉さん。
そしてもう一人は、銀髪をオールバックで流した厳ついけど格好いい、青の瞳をしたお爺さんだ。この二人が大元なのか……。
確かに、対峙しただけで何かを見透かされるような妙な心地になる。
位の高い人って何でこんなに威厳が有るんだろう。
しかし、裏社会の大物って初めて会ったけど……こんな綺麗な人なのに凄い迫力があるんだな……。これは流石に「美女だウヘヘ」とか浮かれられない。
ごくりと唾を飲み込んだ俺に、赤の大元はにっこりと妖艶な笑みで笑った。
「ラーク……じゃあ無かったわね。ブラックさんとツカサさん、今回は私達の世界を救ってくれてありがとう。貴方達が居なければ、ジャハナムは恐らく近いうちに崩壊していたでしょう」
「そ、そんな……俺達はあいつらを追っただけですし、何より、あいつらを捕まえただけじゃなんの効果も……なあ」
困ってしまってブラックを見上げると、ブラックはハナから例の言葉なんてどうでも良かったのか、俺を見て気楽そうにこくこくと頷く。
そ、そんな態度してたら殺されるんじゃないの。あの二人ってこの街のボスだぞ。
慌てて大元達を振り返るが、彼らは相変わらず優しい笑みでにこにこと笑っている。実は優しいのか、それとも俺達みたいな小物にどんな態度をとられようが気にしないくらい肝っ玉がでかいのか……。
どうしたら良いのか困っている俺に、今度は青の大元が話しかけてくれた。
「効果がないと言う事は無い。君らも知っているだろうが、あやつらは強奪の他にも裏賭博場を経営し、多くの一般人を無作法に食い物にして、ジャハナムの秩序を乱そうとしていた。あのまま奴らが他国に逃亡したとしても、あのやり口を覚えた下衆どもは確実に同じ事をしただろう。それを考えれば、君達はこの世界の崩壊を未然に防いだも同然だ」
「それに、あの神童マグナを助け出したのも大きな功績よ。彼はこのラッタディアで失踪したが故に、我々も彼の国との関係が悪化していたの。そのせいで取引にも影響が出ていてね……だから、上手い事見つけて貰えて本当に助かったわ……本当にありがとう」
なるほど、今後の事を考えたら確かにヤバかったのかも。
あんまり自覚がなかったけど、今回の事はそれほどの事件だったのか……。
それを考えると、褒められたのがなんだか照れ臭くなってくる。だって、今回の一番の功労者は、情報を一生懸命探してくれたトルベールの部下達だしなあ……。
俺らはただ美人局をやって、最後に捕まえただけだし。
証拠の事だってトルベール達が裏を取ってくれなきゃどうにもならなかった。
だから、俺達だけが褒められる事じゃないんだよ、ほんと。
「あの……お礼を言って頂けるのは本当に嬉しいんですが、今回の事はトルベール……さんの部下の人達や、俺達に協力してくれた人が居たからこそだと思うんです。だから、お礼はトルベールさんや部下達に言ってあげて下さい」
そう言うと、赤と青の大元は少し驚いたような顔をして、くすくすと笑った。
「はっはっは……トルベールの言う通りだな」
「ふふ、本当にそうですわね」
「あ、あの……」
何を笑っておられるのですか。も、もしかして片腹痛い系?
心配になって来た俺に、二人は空涙を拭ってこちらに優しい目を向けた。
「貴方みたいな子だからこそ、あのティオ・シムラーも……真実が見抜けなかったのかも知れないわね」
「……と言うと」
ブラックが問いかけると、赤の大元は朗らかな顔に少し困惑の色を含ませた。
「調べてみて分かった事なんだけどね……あの男はこれまでに沢山の詐欺を行ってきた、他国の凶悪犯罪者だったの。名前はありすぎて、どれが本当の名か解らない。ただ、その能力でうまく人々を騙して、今まで逃げおおせて……彼は世界有数の大企業であるリュビー財団の末端にまで入り込んでいた……それを考えたら、どれほど相手がうまく立ち回っていたか解るでしょう」
「だけど……彼も、嘘をついていても感情を隠せなかったツカサ君には、その能力が発揮できなかった」
冷静なブラックの言葉に、二人は頷く。
「賭博でもそうだけど、純粋な無心は時に計略を軽く飛び越える。それは必ずしもうまく行く訳ではないけれど……人の裏を掻いて『分かり易い他人』を騙し続けていたシムラーは、ツカサ君の無垢な感情を勘違いして結果的に見誤ってしまった」
「定石とそうでない物を見誤る愚者が、ジャハナムの一員とは片腹痛い……あの男を認めたのは失敗だった。……赤の陣営にも、君達にも申し訳ない事をした」
しょぼんとする青の大元に、俺は思わず手を振って否定する。
年配の人が落ち込むのはあんまり見たくない。っていうかこれはシムラーが悪いんだから、大元二人は責められないだろう。
「い、いえ、青の陣営は秘密主義なんですから、それも仕方ない事かと……だから、この件はとりあえずシムラー達が悪いって事で……」
そういう事でイイじゃないですか、と笑うと、青の大元はまじまじと俺を見た。
「……本当に君は類稀なる少年だな……シムラーが騙されたのも解る気がする」
「え、えぇえ……」
「む……」
俺的には普通の考え方で行動しているだけなんだけど、どうしてそうなるのか。
この世界の少年ってどんだけシビアなの。思わず顔を歪めてしまう俺の前に、何か不穏な気配を察知したのかブラックが歩み出る。
いやー、今のは流石にそう言うのじゃないと思うんだけどねお前さん。
でも、ブラックの勘違いがマジなら色々困るな……と思っていると、微苦笑したトルベールが間に入って来た。
「大元、鉄仮面君をからかうのはそれぐらいにして……」
「ああ、そうだったわね。いけない、ちょっとはしゃいじゃったわ。ね、青様」
「はっはっは、いかんいかん。つい年甲斐もなく色々関係ない事を……すまんかったな、お二方。世界協定で色々とやる事もあるだろうに、時間を取らせた」
えっ。今のが本題じゃなかったの。
目を丸くして驚く俺達に、二人の大元は姿勢を正して安閑と俺達を見やった。
「さて……貴方達を呼んだのは、感謝を言いたかったと言う事も有るのだけど……なにか、お礼がしたくてね。ツカサ君は私の“子ぎつねちゃん”達のお蔭だと言ってくれたけど……正直、貴方とブラックさんの手助けが無ければ、我々は犯人の見当をつける事すら出来なかったから……」
「そうそう、それに君がシムラーの屋敷から持ってきてくれた、強奪品で行っていた取引の報告書とこの紙……これがあってやっと証拠が出揃ったのだ。よくやってくれた君達には、ジャハナムの住民として厚く礼を施さねばならん」
言いながら青の大元が見せて来たのは、俺が資料と一緒に送ったゴミ箱のメモ。
なんの意味があるのか見当もつかなかったが、一応マグナに届けて貰ったのだ。
それも重要だったとは……。
「あの……それって結局どういう物だったんですか?」
「これは、赤と青の陣営の裏切り者に送られた指令書だったのだよ。彼らがジャハナムを離れた時の記録と、この紙の時刻を指定する単語を合わせると、ぴったり一致した。そこから足跡をたどれば、彼らのやった事の特定は簡単だったよ」
俺には良く解らないが、ジャハナムには色々と記録する係がいるのかな。
バイトのタイムカードみたいに、出勤退勤がどこかにいる記録係に記されていたりして……あれ、本当ジャハナムって結構ガッチガチの世界なんだな。
でも調べるのは大変だっただろうなあ。
この世界では記録は全部紙に記してるんだろうし、送られてきた資料も膨大だったからな。やっぱ今回はトルベール一派の力が大きいわ。
しかしトルベールはそんな事をおくびにも出さず、俺に笑いかけてくる。
「ま、俺達も頑張ったけど、結局一番の功労者は鉄仮面君って事だよ」
自分の功績を誇るでもなく、トルベールはそう言って肩を叩いてくれた。
協力者にはっきりとそう言われると何だか照れ臭くて、俺は頭を掻く。
「いやー……あはは……」
「それで、貴方達には私達から何かお礼をしなきゃと思って……」
「あ、いやそんな……」
お礼なんて、そんなつもりでは。
でもぶっちゃけた話、パルティア島では報酬を貰えなかったんで、出来ればお金とかだったら嬉しいんですけどー……と思ってしまったが、流石に言えない。
微妙な笑顔で頭をぼりぼりし続ける俺に、赤の大元は笑って肩を揺らした。
「聞いたところによると貴方達、旅人なんですってね」
「しかも、空白の国の遺跡を調査すると……ウァンティア候が言っていたな」
青の大元の発言に、俺とブラックは顔を見合わせる。
「な、なんでそんな事を知ってるんですか」
「なに、儂は少々ウァンティア候とは面識が有ってな……。立場は違えども、このラッタディアに組する同士ゆえ、時々情報を交換しておるのだよ。蛇の道は蛇とも言うからのう」
……あ。
もしかして、シアンさんの今回の情報元ってこの人だったのかな……。
だから、本来表社会の人が知らない裏社会の秘密劇場っていう情報とか知ってたのかも。そうでもないと、そんな事言えるはずないもんな。
って事はもしかして……また……俺達って騙されたの……?
もしや、シアンさん俺達が巻き込まれる事を知ってて泳がせてたのか……?
「ブラック……」
「言うな、言わないでくれツカサ君……もう今泣きたくてしょうがないから……」
「なんだ。何だかよく解らんが、話を続けるぞ。……で、ウァンティア候からその事を聞いた我らは、これを君達に送る事にしたのだ」
そう言いながら青の大元が机の上に置いたのは、黒みがかった深い群青の宝玉。
どこかで見た事が有るようなその美しい珠に、俺は無意識に呟いた。
「これって……召喚珠…………ですか?」
「そう。良く知っていたな。これは召喚珠……争馬種・ディオメデの珠だ」
「ディオメデって、あの一本角の黒い馬の?」
「ええ。貴方達には馬がないと聞いてね……だったら、私達が所有する馬をいつでも使って貰えるようにと思って、これを送る事にしたの。召喚珠なら好きな時に私達の馬を持ってこれるし、帰すのも楽ですからね」
確かに「出し入れ自由な車」と考えるとめちゃめちゃ助かるけど、そんな凄い物を貰っちゃっていいのかな。
って言うか、ディオメデってまだ普及しきっていないんだよな。
お値段的にはとっても高いお馬さんなんじゃないの。馬車なんかどーんと一輌買えちゃうんじゃないの。どう考えても高価過ぎる代物だよね……。
「ほ、本当に頂いていいんですか……?」
「ええ勿論! 私達は仁義はちゃんと尽くすわ」
「さあ、受け取って下され」
こうして俺は、楽な移動手段を手に入れることになった。
……こんなに上手く行っちゃっていいんだろうか、ほんと。
恐縮しきりで召喚珠を受け取った俺の背後で、唯一場の雰囲気に流されていないブラックが、ぽつりと呟いた。
「…………っていうか、獣人達の事は?」
……あ。忘れてた。
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