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裏世界ジャハナム、狂騒乱舞編
35.何故俺の周りには女の子がいないのか
しおりを挟む※今回ちょっと短いです(;´∀`)すみません
戦いすんで日が暮れて、というか、夜が明けて。
何だかモヤモヤしつつも一晩を明かした俺達は、ジャハナムに向かう前に白亜の宮殿に待機しているマグナの所へ寄る事にした。
クロウの首輪のことも有るけど、お礼が言いたかったのも有るし、鍵蟲も返さなきゃいけないからな。本当はその足でシアンさんに昨日の事を聞きたかったけど、今は事後処理の打ち合わせとかで忙しいらしくて会うのは無理だった。
まあ仕方ないよな。遺跡の件については呼ばれるまで待とう。
と言う訳で、俺達はマグナに会って礼を言い、約束通りにクロウの隷属の首輪を見て貰ったのだが……その結果は意外な物だった。
「…………驚いたな。これは古代技術に手が加えられてるぞ」
「……というと」
「全く新しい技術になっているんだ」
豪華な客室の椅子にクロウを座らせ、背後から首輪を工具でガチャガチャやっていたマグナが、驚いたような声を出す。しかしその赤い目はキラキラ輝いていて、まるで素晴らしい玩具を見つけたような顔をしていた。
第一印象はスカしたイケメンってだけだったんだが、まさかここまでメカオタ……いや、マニアだったとはなあ……。
色々複雑な思いを抱きつつ、俺はマグナにどういう事なのかと再度訊いてみる。
すると相手は少々興奮しながら説明し始めた。
「簡単に言うと、古代の曜術に影響のない程度に今の曜術が組み込まれてるんだ。滅茶苦茶な合成の仕方だが、それが奇妙な反応を起こし『獣人族』に多少反応するようになってしまっているらしい。……古代曜術の具合を見ている限りは、大よそモンスター以外には作用しない物のはずなんだがな」
なんだと。
俺は今まで「隷属の首輪自体に獣人族も有効な術が掛かってる」んだと思ってたけど、そうじゃなかったのか。専門家ってそんな事も解るの、すごい。
「えっと……じゃあ、この隷属の首輪って、古代技術まんまのモノじゃなくて……なんかヤバい物だったりするのか?」
そう言うと、マグナは難しげに片眉を歪める。
マグナが言うには、そもそも隷属の首輪自体が『空白の国の技術』を使っていて、それを作れる金の曜術師は現在二人。その二人は国に厳重に監視されて、首輪を購入する者に対しても厳しい審査が行われているらしい。
だから基本的に首輪はあまり出回らないし、よっぽど巧妙な手口でなければ悪人が手に入れる事も難しい……とは言われている。本当の所は良く解らないが。
とにかく、だからこそ今まで隷属の首輪絡みの事件は起こっていなかった。
「しかし、これは厄介な事になったな……技術が流出しているとしたら国家の監視体制に問題があると言う事になるし、俺以外でこの首輪を改変できる技術者がいるとなると、それも新たな問題を起こしかねない……しかも、改変するにはそれなりの等級の曜術師でないとならんし、研究施設も……」
「どっちでも良いけど、その熊男の首輪は取れるのかい取れないのかい」
延々と関係ない話をしている俺とマグナに痺れを切らしたのか、さっきからずっと後ろで黙っていたブラックが苛ついた声で問いかけて来た。
あ、本題はそこでしたね……隷属の首輪が謎過ぎてつい。
「えーと、それに関してはどう? 解除できそう?」
「ああ、構築式に癖があるだけだから、解除は簡単だ。他の人間には出来んだろうが俺なら出来る。この首輪に付加されてる術の『糸』を切れば……」
そう言いながら、マグナは針のような先端の工具を首輪の内側に差し込む。
瞬間、マグナの全身に金色の光が走った。
あれ……もしかして今、曜術を使ったのか?
「これでいい。ええと……クルクルワッパとか言ったか、外してみろ」
「クロウクルワッハだ」
クロウこの部屋に来て初めて喋ったね。
さすがにマグナの酷い名前間違えには反応したか……。
妙な所に突っ込んでしまう俺に構わず、クロウは若干不満げな顔をしつつも首輪に手を掛けた。そうして、外そうとして――――
ばきゃ、となんか凄い音が聞こえた。
「あ」
「あ!?」
何事かとクロウの手を見てみると、そこには……真っ二つに折れた首輪が。
「おおおお前なにやってるんだ!! 折角の素材を!!」
見た事ないくらいに動揺したマグナが、クロウの手から二つに割れた首輪を奪い取る。そうしてぶるぶると震えていた。よっぽどショックだったらしい。
しかしクロウは全く気にしていないようで、ボサついた頭を掻きながらのほほんとしていた。
「力が入った。だがこんなもの壊れた方がいいだろう。大丈夫大丈夫」
「大馬鹿者め!! 曜具は欠けたりするだけで内部の構築式が変化する可能性が……クソッ、これだから獣人族は嫌いなんだッ、道具を繊細に扱わない!!」
何だかよく解らないが昔獣人族に機械を壊されたりしたんだろうか。
マグナのクロウに対する憤慨っぷりは凄かったが、なんとか俺が宥めて話を軌道修正してやった。もちろんブラックとクロウは知らぬ存ぜぬでした。
ぐぬぬ……このクソ大人たちめ……。
いや、怒ってはいけない。ビークール。ビークールだ。
とにかくマグナには落ち着いて貰おう。って言うか、お礼を言おう。
「えーと……本当ありがとうな、クロウの首輪を解除してくれて……」
「いや、俺は約束を果たしただけだ。礼を言われるほどじゃない」
「マグナ……」
お前本当良い奴だなあ。
思わずほろっと来てマグナを見上げたが、しかし。
「それに、お前には俺の研究を手伝って貰うと言う約束があるからな」
「はい?」
えーと。……えーと?
あれ? ここ感動する所でしたよね? 俺今要求されてる?
対価を要求されてます?
ポカーンとする俺に、マグナはマシンガントークで捲し立ててくる。
「俺は今からプレイン共和国に帰るが、お前は荷造りはしたのか? 早くしないとウァンティア候の使いが来るぞ。帰ったらすぐ施設に行こう。ちょうど水の曜術師に協力を仰がねばならん開発中のブツが沢山あったんだ。聞く所によると、お前は木の曜術も使えるらしいじゃないか。無所属の木の曜術師だなんて滅多にいないし、願ったり叶ったりだな。さて、何からやって貰おうか……」
「ちょっ、ちょっと待てっ! お前何を言ってるんだ!!」
今まで知らんぷりだったのに、マグナがとんでもない事を言い出した途端にブラックが俺に抱き着いて来た。おいオッサン、いい度胸してんな。
しかしマグナも負けてない。ブラックの事なんてお構いなしに俺に手を引いて、ブラックの腕から俺を取り返そうとする。
「ツカサ、さあ行くぞ」
「ちょ、ちょっと待って俺まだやる事あるし、い、今からはちょっと」
「そうだっ、ツカサ君を離せこの若造ッ」
「お前もツカサから離れろ」
「ツカサ、ウァンティア候には俺から言っておくから平気だ。さあ行くぞ」
マグナが俺の手を引くのをブラックが抱き着いて止めて、その抱き着きをクロウが止めさせようとブラックの顔を平手でぐいぐい押しのけている。
だだっ広い部屋なのに、中心で固まって団子になってる男四人。
……うむ。これはなんの地獄絵図かな。
「ツカサ、行くぞ」
「だあああいい加減にしろこの赤目小僧! ツカサ君は僕と一緒に居るんだ!!」
「お前も離せ、ツカサが苦しがっているだろう」
「クルクルもああ行っている。早く離せクラックという中年」
「僕はブラックだしお前に命令される筋合いはないいいいい」
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