異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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裏世界ジャハナム、狂騒乱舞編

29.自分に出来る事、誰かを助ける事

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 ヤバい事になった。
 犯罪まがいの事をやらされるだろうとは思っていたが、まさか……俺達が捕まえた奴を奪取することになろうとは。いくらなんでも、これは流石に俺達だけの手には負えない。実行してしまえば重大犯罪になってしまう。
 だけど、やらなければどうしようもない訳で。

 俺も何かしなければと思ってるんだが、首輪を嵌められていては何もできない。
 正直な話、逃げられない事は無いんだけど……この場合どうしたら良いのやら。

「はあ……どうしよう。ブラックは明日には犯罪者になってしまうのか……」

 いやまあアイツなら悪い事も沢山やってる可能性はあるが、今回のはシャレにならんだろう。何たって、クラレットは世界協定のシアンさんが捕まえたがっていた人間の一人なのだ。
 しかも、彼は諸々もろもろの悪事の首謀者だし、強奪はどう考えてもヤバイ。
 クラレットを拉致すれば、シアンさんに怒られるのは必至ひっしだし、世界協定に喧嘩を売る事にも成り得る。そんなの死亡確定じゃん。絶対嫌だ。

 だから、そうなる前になんとかしなきゃ行けない……んだけども。

「ブラック達は今シムラー達と一緒に下見に行ってるし、俺は鳥籠の中だし……」

 動くなら今ではある。だが、何をすべきか考えないとどうしようもない。
 俺は無い頭を必死に働かせて考え、すぐさま頭を上げた。

「…………よし、助けを求めよう」

 解りきった答えだが、これでも覚悟を決めたつもりだ。
 ブラック達が外部に助けを求められない以上、俺が連絡を取るしか道はない。
 トルベールとロクの所に戻って、何かしら協力を仰がなくては。
 そうとなったら、もうこの首輪をつけてる暇もない。

 俺は鍵蟲かぎむしを使って首輪を難なく外すと、鳥籠の鍵も解除して脱出した。
 首輪は“無理に外す”と仕掛けが発動するんだから、鍵を開ける分にはなんの制限もない。むしろ、特殊な首輪だからこそ、こうしたチンケな方法に弱いのだ。

 なんせマグナが「鍵の形を気にする奴がいるなんて」とか言う世界だもんな。
 みんな鍵の重要性は解っていても、曜具の性能そのものに目がかすんで、こうして解除される事なんて思い至らないのだろう。

 まあ、中には解錠操作対策をしてあるアイテムも有るんだろうが、重さ的にこの首輪にはそんな高そうな機能は無さそうだったしな。
 とにかく、これで俺は自由に動けるようになった。さあ、探索開始だ。

 勇んで飛びだした館の廊下には、相変わらず誰もいない。
 本当にあの三人だけが根城にしているのか、メイドさん一人見かけなかった。
 俺、金持ちの屋敷は数軒見て来たけど、こんな寂しいお宅は初めてかもしれん。いや、人が居なけりゃ自由に散策できるから良いんですけどね。

「むしろ、人が居ないって事は……チャンスなのでは?」

 先日俺がスルーしていた三階も今は無人のはずだ。
 そう思って階段を駆け上がり、俺は一応周囲を警戒しつつ、内部に人がいない事を確認してから目ぼしい扉を開いてみた。
 本当、マグナに貸して貰っといて良かったよ鍵蟲ちゃん。

「うーむ、使った形跡のある寝室に……書斎か。証拠が有るとすればここかな?」

 三階は部屋が少ないし、あるとすればココだろうか。
 俺はコソコソと忍び込むと、執務机を漁ってみた。鍵のついた引き出しが在ったが、自由自在に体を組み替える鍵蟲の前では無意味だもんね。

 小さい鍵穴に足を突っ込み鍵蟲はガチャガチャと動き、数秒で鍵を解錠する。
 うーむ、やっぱ凄すぎるぞこれ……。この世界だと未来の道具レベルなんじゃないのか? あんまり便利アイテム過ぎて、悪用されたら怖いな。他の奴が発明してたら、とんでもない事になってたかも。

 発明の事以外考えてないマグナだからこそ、こんなモノを持ってても悪い事には使わなかったんだろうなあ……。自分勝手な事はしてるけど、あいつも悪人って訳じゃないし。

「うん、まあ、俺が言えたことじゃないな」

 人の家の引き出し開けたり盗みを働こうとしてる時点で軽犯罪だが、悪人逮捕のためだから大目に見て欲しい。
 っていうか、犯罪を防ぐ為にやってるんだし……ぐうう……。
 無駄な罪悪感に駆られつつも、俺は引き出しを開ける。
 するとそこにはいくつかの紙束が詰められていた。

「これは……資料? 報告書……かな?」

 一枚目を見て見ると、そこには上質な紙には似合わない物騒な文言がつらつらとしるされていた。

「ええと……武器、輸送? 会合……勧誘…………あー駄目だ、文字が細かすぎて所々解読できない! 仕方ねえ、これ全部トルベールの所に持ってくか……」

 俺は書類を抱えて全てを元の状態に戻すと、あの地下へと続く階段へ急いだ。
 今回はもう怖い事なんてない。さっさと行って戻って来るんだ。
 それでも地下賭博場へ続く扉は慎重に開いて、俺は廊下に体を滑り込ませた。

「…………ていうか、ここ、見覚え有るな」

 良く考えたら、ここはマグナの部屋の近くだ。
 あえて人の出入りが多そうな場所に地上への入り口を作ったのは、自分達が時々居なくなる事をカモフラージュする為だったのかもしれない。
 何にせよ、俺には好都合だ。

 俺は早速マグナの部屋のドアを叩いた。

「誰…………あっ……ツカサ……か?」

 出鼻一番に怒鳴ろうとしたらしいマグナは、扉の前に立っているのが俺だとは思っていなかったのか、思いきり目を丸くして固まってしまった。
 それからまじまじと俺を見て、何だか微妙な顔をして目を細める。

「なんだよ」
「お前、その格好……」

 呟いて、マグナは顔の下半分を手で覆い隠す。
 おいコラなんだ。おかしいか。俺の格好がおかしいってのか。

「笑うんじゃねーぞコラ」
「いや、笑いはせんが……じゃなくて、何の用だ」
「ちょっと頼みたい事が有って……。あの……俺、今監禁されててさ、あまり抜け出せないし、早く戻らなきゃないんだけど……どうにかバレないように特定の人と連絡を取る方法が無いかな」
「……えらくとんでもない事を言い出したな、お前は。……まあとりあえず入れ」

 部屋で詳しく聞かせろ、と招き入れてくれるマグナに、俺は素直に感謝した。
 おお心の友よ。無茶な事を言ってるのに聞いてくれてありがとう。
 矢継ぎ早に事の次第を伝えた俺に、マグナは難しそうな顔をして腕を組む。

「なるほど……下衆な奴らだとは思っていたが、まさか輸送中の囚人を強奪しようとまでしていたとはな……。全く見下げ果てた奴らだ」
「俺、仲間にそんなマネさせたく無いんだよ。……だから、トルベールに連絡を取ってあらかじめ警備隊の人達に知らせておきたいんだ。俺はもうこの通り逃げられるし、あいつらの悪巧わるだくみの証拠っぽいモノも見つけた。だから、早く止めさせなきゃと思って……」

 どうにかならないか、とマグナを見上げると、相手はしばし逡巡しゅんじゅんしていたが。

「……そのトルベールという男は、あの観劇場に居るんだな」
「ああ、そうだけど……って、知ってるのか」
「知ってるも何も、俺はあそこのサロンで契約を持ちかけられたからな。だから、大体の道順は覚えている。その資料と、お前の言伝を持ってトルベールと言う奴に会いに行けばいいんだろう」

 そうしてくれたら一番ありがたいけど……でも、いいのかな。
 マグナにも色々あるんだろうに、俺の為に危ない事していいのか? そもそも、俺達のやってる事はマグナには関係ないってのに。

 そんな遠慮が顔に出てしまっていたのか、俺を見たマグナは何でも無いような顔をして肩を竦めた。

「どの道、俺はこの場所から出なければならん。そのトルベールと言う男には迷惑をかける事になるが、保護して貰った事にして、俺が世界協定に掛け合おう。幸い俺は協定最高位の裁定員と面識がある。裏社会の奴と言えど、邪険には扱われないはずだ」
「裁定員って……もしかして、シアンさん?」

 あてずっぽうで言うと、マグナはびっくりしたのか目を見開いて口を開けた。
 お、おお。こんな驚いた顔をしているマグナは初めて見たぞ。

「な、なんだ。お前ウァンティアこうを知ってるのか?」
「候って……侯爵こうしゃくなの!? シアンさん!」

 いやいやいや、そっちの方がビックリなんだけど!!
 今度は俺が目をかっぴらいてしまうが、マグナはもう冷静さを取り戻したのか、頭を掻きながら頷く。

「ウァンティア候は世界協定の裁定員と同時に、高位の神族だからな。侯爵の位の他にも様々な二つ名を持っておられる。俺が会った時は大抵が侯爵として宴に出席する事が多かったから、俺はウァンティア候と言っている」
「シアンさんとかじゃないんだ」
「お前……恐れ多すぎるぞ……」

 えええええ。ブラックが普通に名前で呼んでるし、シアンさんも構わないわよ~って笑ってくれてたから、名前で呼ぶのが普通だと思ってたんですけど!
 いやでもそうだよな。よく考えたら、シアンさんは巨大組織のピラミッドの頂上付近に居る人なんだ。知り合いでも無かったら名前呼びなんて無理か……。

「あ、い、いや、でも、シアンさんと知り合いだったならありがたいよ! 頼む、お前からこの事を伝えてくれ。お前も合わせる顔が無いとは思うけど……だけど、もう時間がないんだ……頼む! 俺に出来る事ならなんでもするから!!」

 お前しか頼れる奴がいないんだ、と両手を合わせて頭を下げる。
 事を穏便に済ませる方法が“誰かを頼る事”しかない以上、俺にはこうする事しか出来なかった。だから、相手が俺の行動で納得してくれるのならば、土下座でも裸踊りでも何でもやる。
 最悪の事態が起こる可能性がある以上、ここで引く訳には行かなかった。

 代償で何かを求められたとしても、喜んで差し出そう。
 そう思いながら祈るような気持ちで地面を見ていると、頭上で溜息が聞こえた。

「頼むも何も、お前に協力すると言ったのは俺だ。今更なことを言うな」
「マグナ……」
「……ただ、そうだな。これが終わったら……また装置の調整を手伝ってくれ」
「そんな事でいいのか?」
「俺にとってはお前が今頼んでる事と同等に重要な事だ。今度はじっくりと付き合って貰うぞ。……今回の話の結末は、その時に教えてくれ。俺も、お前達の冒険譚には少し興味があるしな」

 代償になってない代償だ。俺の事を考えてる訳じゃないんだろうけど、でも……そのいたって普通な願いに、俺は涙が出そうになった。
 ああ、いいさ。俺に出来る事なら、なんだってやってやるよ。

「ありがとな……マグナ」

 空涙を拭いながら笑うと、マグナは少し困惑したような顔をしたが――目を逸らして頬を掻く。そうして、軽く頭を動かしていた。

「まあ……友達……だからな」
「……へへ、そっか」

 友達。友達か。
 この世界でそう言ってくれるのは、マグナが初めてだよ、ほんと。
 俺の周りは大人ばっかりで、俺はいつも見上げていた。旅をする時は人と関わらないようにしていたから、仲良くなっても友達なんて言えるほど深く会話する事も無かったんだ。だから、マグナがそう言ってくれるのが嬉しくてたまらなくて。

「なんだ、笑ったり泣いたり忙しい奴だな」
「まあそう言うなって。……あ、あと……これは俺のワガママなんだけど」
「なんだ」
「もし……もし、この場所にまた戻って来る事が有ったら……連れて来て欲しい奴がいるんだ」
「連れて来て欲しい奴?」

 怪訝けげんそうな顔をするマグナに、俺は頷く。

「俺の大事な相棒。俺を助けてくれる……頼もしい奴だよ」















※お話し微妙に進んでなくてすみません(;´Д`)
 あと数話でジャハナム編終わりますので、宜しくお願いします!
 
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