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裏世界ジャハナム、狂騒乱舞編
11.獣人の武芸は超人級
しおりを挟むトルベールと打ち合わせした内容は、実際の所あまり難しくはない。
数分で終わって、俺達はもうぶっつけ本番の場所に来ていた。
打ち合わせってのは、簡単に言っちゃうと「自分の素性を隠してターゲットから色々聞き出せ」って事なんだけど……実際の所、聞き込みやターゲットを見つけるのはブラックとトルベールがやるので、俺にはあまり関係がない。
何故なら役割分担があるからな。
俺達は興行団(移動サーカスとかをやる集団の意味らしい)の団員の一部として宴に入り、俺とクロウは踊りやら武芸を披露して、宴の参加者を油断させる。
その間にブラックとトルベールが「どう、うちの子凄いでしょ」と宣伝するフリをして、参加者に色々と聞きまわるってな算段なのだ。だから、俺はターゲットが決まらない限りは踊った後はサロンへ直行と言う訳。
俺が色仕掛けするのは終盤くらい。トルベールとブラックが見当を付けた相手の所に俺が接待としてやって来て隙を作り、色々と聞き出す手筈になっている。
素人の俺にそんなマネ出来るのか? とは思ったが、誰に聞いても「多少スパイの腕が下手だろうが、君の容姿ならまず両刀のオッサンはコロっと行く」みたいな事を言われたので、安心だろう。
……うん、喚き散らしたいけど俺は大人だからやらないよ。うん。
俺マジで普通の日本人顔でしかないんだけど、なんでオッサンにモテるみたいなことを言われるんだろう。外人から見たら童顔だから、とかいう理由かな。
古今東西、大人の男がロリやショタを侍らせるのは良くある伝統だ。平均身長が高いこの世界では、俺の事が子供に見えるのも致し方ないだろう。
が、やっぱりそう思うと、子供のやらしい踊りで興奮すんなよと思う訳で。
いや、二次元はいいんだけどね二次元は。俺三次元だし高校生だからね。
しかしぶっちゃけた話、魅了されてくれないと始まらないので、周囲の人からの評価をありがたいと思うべきだとは思う。
実際、この作戦って俺に引っかかってくれなきゃ始まらない訳だし。
「……いや、待てよ。そもそも、相手がオッサン好きとか、女子専門だったらどうすんだ。完全に引っ掛ける事が出来るって保証はないのに、何で俺だったんだ?」
薄暗い場所で腕を組みながら、俺は首を傾げる。
そんな俺の隣で、黙々と柔軟運動をしていたクロウが顔を上げた。
「何の話だ」
「ああ、いや……なんでもない」
「そうか。オレ達も、もうすぐ出番だ。怪我をしないよう体を伸ばしておけ」
言いながらまた屈伸を始めるクロウに習い、俺もローブのまま体を動かす。
その度にしゃらんしゃらんと小さな金属を流すかのような綺麗な音がして、俺はげんなりした。ステージでは、嫌と言う程この音を聞く事になるのだ。
あああ……本当に緊張する……。
今俺達が居るのは、商談の宴とやらを行う会場のステージエリアだ。
この【施設】の「宴が催される場所」は、大抵が二部構成になっている。一部は立食やステージでの催し物を見る広間。そしてもう一つが、商談を行うために作られた、広間の周囲に作られている個室だ。
参加者達は「ステージの催し物を全て見てから個室に籠る」と言う唯一のルールに従うので、俺達の芸を見る人間は宴の参加者全員と言う事になる。
俺達のニセの素性は舞台横で解説をする人が説明するわけだから、もし俺達を気に入った人間が居れば、トルベールかブラックに“繋ぎ”が行く。
なくても、ブラック達が俺の事を宣伝して、怪しい人を引っ張ってくる。
俺が表に出ない理由は、その“繋ぎ”の中で特に怪しい奴を惹きつける為だ。
おいそれと会えない存在なら、余計に会いたいと思うようになる。だから、相手の感情を盛り上げるのに効果的なんだと。
この世界じゃ馬鹿正直に聞き込みをしても成果は出ない。だからこそ、こうして容疑者を見極める眼力と、罠にはめる策略が必要になるのだ。
……うん、俺には無理!
ブラックどころかトルベールですら一発で変人だって気付かなかったし!
と言う訳で、俺はもう大人二人に頑張ってもらう事にした。
俺は踊りを一生懸命がんばったら部屋に戻ります。もちろん俺よりおのぼりさんなクロウを引っ張ってな。
「あ、オレの出番だ」
そう言われて、俺は我に返る。
舞台の向こうでは、解説役の人がなにやらクロウの事をがなり立てていた。
曰く、東方からやって来た稀代の武芸師で近付く者は瞬殺するとか、熊のような大男だとか……うむ、偽物の設定なのに本当の事のようだぞ。
トルベール達と考えておいてなんだが、ヒヤッとする。
「ツカサ、何故オレの事がバレている」
「いやいや、アンタちゃんと話したでしょ、アレはただの設定、作り話だから! 絶対に自分から獣人だって言うなよ。いらん誤解を招く!」
精一杯爪先立ちでクロウの鼻に人差し指を向けると、相手は相変わらず眠たげな無表情でぱちぱちと目を瞬かせる。
「ツカサはちっちゃくて可愛い」
「ヴァー! 人の話聞けー!!」
こいつ本当マイペースだなおい!
普段は別に気にならなかったけど、こういう場所ではかなりハラハラする。
頼むからポカしないでくれよー……。
俺の不安を余所に、クロウは解説役の声に呼ばれて舞台へと出て行った。
舞台にはいつの間にか何十枚も重ねられた板だとか、分厚い壁が置かれていて、青竜刀っぽい反り返った剣が中央にぽつんと立てられていた。
舞台袖からクロウの事を見守っていると、クロウはぺこりとお辞儀をして、中国風な音楽の中で動き始める。まずは分厚く重なった板の前で止まると、うまい具合に音楽に合わせて拳を振り上げた。
「うわっ……!」
ばこん、と言う何かを殴りつけたかのような強い音がしたかと思ったら、何十枚にも重なった分厚い板が一発で割れていた……いや、あれは、割れるって言うより粉砕と言った方が良いかも知れない。舞台の外から思わず悲鳴が聞こえる程、その威力は凄まじかった。俺も思わずあんぐりと口を開けたまま戻せない。
しかしクロウは無表情のままで、今度は青竜刀を手に取って低く構えはじめる。
拳法を放つ時の構えのように足を延ばして腰を落とすクロウ。その目の前には、これまた分厚くて強固な壁が有る。クロウは暫し息を繰り返し、拍を数えると――勢いに任せて、青竜刀でその壁に切りかかった。
その反り返った刃が、壁に食い込む。
一瞬、失敗したかとその場の全員が思ったが、クロウは涼しい顔でそのまま剣を力任せに叩き下ろした。
「ひっ――――!」
女性のような悲鳴が聞こえるその目の前で、壁が斜めに切り落とされる。
が、それと同時に青竜刀も真っ二つに折れて地面に落ちてしまった。
しかし、クロウは相変わらず平然とした顔で、青竜刀を捨て去る。
そして、軽快な音楽が流れる中――――
リズムよりも早く、目では追えない速度で拳撃を壁に打ち付けた。
「ええええええ」
思わず声を上げる俺の目の前で、壁が瓦礫になって崩れ落ちる。
その場に居た参加者達も流石にこれには驚いたのか、感嘆と悲鳴が入り混じった独特な歓声が聞こえてきた。ど、どうやら好評で終わったみたいだ。
解説役がありがとうございました~なんて言ってるのを後にして、クロウがこちらへ帰ってくる。別段疲れても居ない、行った時と一緒の眠そうな顔だった。
「ツカサ、どうだった」
「い、いや、凄かった……」
それしか言いようがない。あんな風に打撃で壁を壊せる人間なんて、三次元では初めて見た。ブラックは魔法剣士タイプだし、拳撃で戦う人ってそう言えば見た事なかったから、本当に驚きだ。
まだ驚きが冷めやらず目を丸くしてクロウを見つめる俺に、相手は目をしぱしぱとさせると、なんだか嬉しそうにほんの僅か口を歪めた。
「ツカサは俺のこと、格好いいと思ったか」
「まあ、そりゃ……」
瓦割りできる強い男って憧れだもんな。俺も真似した事有るし。
素直にそう言ってやると、クロウは何故だか俺の頭をぽんぽんと撫でて来た。
「クロウ?」
「ツカサも頑張れ。マズかったら、オレが助けに入る」
「う、うん」
何だかよく解らないが、これってブラックの言う好意って奴なんだろうか。俺にとっては、知り合いの兄ちゃんが良くしてくれるみたいにしか思えないんだが。
あまり優しさを無下にするのも申し訳ないので、俺は快く頷いた。
まあ、ブラックだって下心は有っても約束だけは守ってくれるし、そんな誰もがケダモノではないでしょう。クロウは今俺達の仲間になってるんだから、あんまり疑いたくない。うん、俺は仲間としてクロウに優しく接しよう。
そんな事を想いつつクロウの綺麗な橙色の瞳を見ていると、遠くの方で俺の事を語る声がした。
「ツカサ、出番だ」
「お、おう、一発やってきちゃるぜ!」
稀代の踊り子だの華麗な舞いだの、本当ハードル上げてくれるよ。
でも、やらなきゃ終わらないないんだ。
俺はローブを脱ぎ捨てると、最後の装飾であるイヤリングを付けて歩き出した。
→
※ツカサの踊りひっぱってすんません…時間足らなかった(;´Д`)
次はげんなりするほど褒め殺しなブラック視点
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