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裏世界ジャハナム、狂騒乱舞編
10.練習風景ってどこからカットするか悩むよね
しおりを挟む翌日。後処理も賢者タイムの時の気まずさも、その後「踊りはおわったのか」と顔を覗かせて来たクロウに思っきり驚いて悲鳴を上げた事なども省略して、翌日。
ブラックに色々やられた日の事はあまり思い出したくない。
今回のは特にな!!
とまあとにかく、トルベールの根城の一部屋を借りて気まずい夜を明かした俺達は、今日も今日とてそれぞれのやる事に精を出していた。
やる事とは言っても、ブラックはトルベールとの打ち合わせだったり、クロウに至っては人族の一般的マナーを覚えると言ったものだったが、とにかく頑張った。
もちろん、俺も頑張ったぞ。
布を使った踊りをエッダさんに紹介して、彼女が一晩考えてくれた簡単な動きと組み合わせる方法を一緒に考えて、ついに振付が決まったのだ。
運動音痴の俺でも華麗に踊れる踊りがな!
言っててむなしいけど、これはもう事実だからしょうがねえわな!
って事で、その日一日中俺はエッダさんに教えを乞うて練習に精を出した。
こんなに頑張って踊ったのは、体育祭でのソーラン節以来だ。
……ソーラン節以外引き出し無いんかと言われそうだけど、アレは唯一俺が輝けた踊りだったんですよ。アイドルダンスとか俺には無理だったんですよォ!
でも今回は違う。ミスした時の対策もばっちりだし、なによりエッダさんという褐色美女にマンツーマンで教えて貰ってるからな。
なにより、エッダさんに「あら……! どうしたのツカサ君、昨日とは見違えるほどいい動きよ。特に腰の動かし方ったら、私でもちょっと嫉妬しそうなくらいね……!」なんて言われたし、これはもう勝ちに行けるでしょう。
冷静に考えたら「腰の動かしかた」を褒められたって言うのはマズい気がするが、エッダさんにべた褒めされたんだからもう何も言うまい。
とにかく、その日からは俺は真面目に練習をする事にした。
こうなったら情報ゲットの為に頑張るしかない。
そんなこんなで、俺達は一週間くらいトルベールのビルに籠って練習やら自分達の「ニセの身分」の設定やらを、トルベールと練り上げた。
が、その間の事はあまりにもルーチンワークすぎるので省略する事にする。
クロウとブラックにメシを作ったり、トルベールや従業員の人に冗談で言い寄られたり、オッサン二人は結局ずっと仲が悪かったりしたが、とりたてて語る程の事でもないだろう。と言うか、思い出すと頭が痛くなるので思い出さないでおく。
というわけで、俺は今、黒いローブを着てとあるでっかい建物の前に居る。
隣には勿論ブラックとクロウ、そしてトルベールが居る訳だが……。
「……なんで俺だけ黒ローブ?」
「だって、衣装着たままの恰好で歩くのは嫌だっていったのツカサ君じゃないか」
「そりゃそうだけど……」
でもさあ、大人三人だけが格好いい服装してりゃ、そら愚痴も言いたくなるよ。
ブラックは黒の燕尾服のようなスーツを着て、片目にはモノクル手にはステッキを持ち、おまけに黒のシルクハットで如何にも紳士っぽくキメているし、クロウも中華風っぽい独特な服を着ていて、拳法家みたいで格好いいんだもの。
あ、ちなみに、クロウの耳はバンダナで押し付けて隠しているから安心だ。首輪も、周りに黄土色の石細工をつけているから、隷属の首輪だとバレないだろう。
この石細工は、実はあの地下遺跡のゴーレムの破片を加工した物なんだ。
シアンさんが言うには、あのゴーレムを調査した結果、ゴーレムの体には曜術などを跳ね返す術が掛けられているのが解ったらしい。
ゴーレム自体が壊れてしまったので、もう術の効果は長くは続かないらしいが、それでも付けていれば数か月程度は首輪の力に抗えるようになるんだとか。
……まあとにかく、本当お二人さんタッパがあるから格好良くてムカツク。
今更だけど、何で俺が踊り子せにゃならんわけ?
俺もなんか格好いい服着たかったな。折角のファンタジーなんだし……。
「さてさて、君らには歩きながら説明しよう。まず俺……おっと! 私が招待されてる部屋に行こうぜ。宴が毎回開催されてるこの【施設】はな、賭場とかなんとかイロイロ入ってんだ。ホレ、見た目にも豪華だろ? ここは商談の場であると同時に、裏社会の人間のサロンでもあるのさ」
そう言いながら、トルベールは笑う。彼の姿は白スーツに柄物のシャツ、おまけにキンピカの腕輪とか指輪を付けてて、一目で成金社長と判る様相だ。
でも、堂々としているせいか妙にサマになっていた。
周囲に似たような金持ちが、わんさと居るせいだろうか。
彼らは皆白亜の石段の上を目指して、連れの女性や男性の肩を抱いてゆっくりと足を動かしていた。
彼らが目指す階段の先には、オペラハウスのように豪奢なゴシック建築の建物が聳えている。地下世界だと言うのに、こんな立派な建物が有るなんて驚きだった。
マジで外国のオペラハウスって感じだけど、中身は賭場とかがあるんだよな。
うーん、格式高そうなのに俗っぽい。まあ裏社会だし仕方ないが。
四人して階段を上がりながら、俺はトルベールに聞いた。
「あの……サロンって?」
「おう、そうか。えーっと……ようするに、上流階級な人達がお茶したり軽食しながら会話を楽しんだりする所だな。こっちの人間からすれば喫茶と言った所だが、北の国の貴族の間ではそういうらしい」
「へー……」
サロンって英語でも使う言葉だけど、これは方言みたいなもんなのか。テーブルやベッドは普通に使われてるのに、なんか変な感じ。
俺が不思議がる横で、ブラックがトルベールと話を続ける。
「サロンがあるなんて、悪人が随分と洒落てるじゃないか。裏社会の人間も貴族の真似事がしたいのかい」
「いやいや、まあ、中にはそういった御仁もいますがねぇ……実際は、商談相手のためって部分もあるんですわ。私らが相手するのは、なにも同業者だけじゃない。場合によっては、マジもんの位の高けぇ人とも相手にしますんでね。まともな住処をもってない奴は、ここを使ったりするっていうワケです」
位の高い人。
それを聞いて、俺とブラックは苦い思い出を反芻してしまい顔を見合わせた。
間違いない。ライクネス王国転覆を狙っていたゼターは、このジャハナムで黒籠石を取引したんだろう。恐らく、彼もこの施設に来たはずだ。
「トルベールさん、ここで暗殺の取引とかやったりします?」
「ああ、そういうマジでヤバいのは絶対ココ。俺達は一応オモテに出ても大丈夫な仕事をしてっから拠点作ってるけど、暗殺や危険な道具を扱う奴らはそもそも拠点を持てねぇから……必然的に、ヤバい取引はココでやることになる」
って事は、黒籠石を渡した業者とか特定できないかな。
でも、裏社会って信用が第一だし、いくらなんでも教えてくれるわけないか。
この人って実は赤の大元に見込まれてる凄い奴らしいし。
性格と見た目は軽くても、義理人情を軽視するほどバカじゃないだろう。
階段を登り切り、開け放たれた入口から施設の中に入る。
荘厳な装飾と調度品に彩られたエントランスは、まさしく中世のオペラハウスそのものだ。橙色の明かりを灯すシャンデリアと、飴色に輝く床。綺麗で微細な模様の入った壁紙は、見る物に溜息を吐かせるほど華やかで美しい。
ラッタディアの白亜の宮殿も凄かったけど、この施設もかなり凄い。
バッキンガム宮殿級かな。名前が面白いよねバッキンガム宮殿。
田舎者丸出しできょろきょろと周囲を見る俺とクロウを引っ張って、ブラックがトルベールに続く。くそーこの金持ちっぽい風景になれた奴め。
「わたしらのサロンはこっちだぜ。宴が始まるまではまだ時間が有るから、ここでもう一度確認をしよう」
そう言いながら、トルベールは長い廊下の壁に張り付いている幾つもの扉の中の一つを指さした。うおお扉一つとってもすげえ輝き。
中は少し狭いが、それでも十分に豪華だ。背もたれが半円形に作られた高級そうな椅子に、猫足テーブル。そこには既にお貴族様御用達っぽいお茶とお菓子が置いてあって、クロウが鼻をフンスフンスさせていた。
いや、本当凄いな裏社会のサロン……。
おっかなびっくりしつつも、俺達はその椅子に腰かけて、打ち合わせを始めた。
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