異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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裏世界ジャハナム、狂騒乱舞編

9.二人きりでレッスンという言葉のいやらしさよ1

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 学校の授業でダンスをやったことは有る。が、俺は基本的には運動音痴なので、正直な話ソーラン節レベルで限界ギリギリだった。
 もっと簡単に言うと、単調な動きで限界って事だ。

 そんな俺に踊りをマスターしろとは無茶をおっしゃるハハハ。
 ……なんて笑っていられないのが辛い。そんな軽い問題じゃないし。
 半ば強制的にだけど、引き受けちゃったものは仕方がない。これを断ったらもう裏社会と繋がれなくなるのだから、やるならやらねば。

 と言う訳で、俺はバレエ教室のような鏡張りのレッスンルームを用意して貰い、トルベールが呼んでくれた古代舞踏専門の先生に習うという高待遇で、レッスンを始めたのだが。

「……ええと……つ、ツカサ君、すっごく頑張ってるわ! 飛び回るとかの動きはちょっと苦手みたいだけど、体の動かし方は綺麗だから……えーと、なるべく舞台を大きく使わない踊りを習って行きましょうね!」

 そう言いながら、俺の踊りの先生は「頑張って!」と両手でガッツポーズを作る。先生はエッダさんと言う女性だ。褐色の肌でえっちな踊り子の服が似合いすぎる黒髪美女で、性格は本当に優しい。

 どれくらい優しいかと言うと、俺の超絶ヘタクソな踊りを見てもなお、こういう優しい言い方をしてくれるくらい優しい。
 俺がコケまくったり振付を間違えまくったりしても、エッダさんは苦笑いはするけど俺を見下しはしなかった。むしろ、励ましてくれたりする。

 大人の女性ならではの気遣いって本当いいっすね。ママみを感じるってこういう事なんだね……。とは言えども、申し訳なさが先に立って興奮できるはずもなく。

「あの……俺、あと四五日で上達できますかね……」

 恐る恐るそう言うと、エッダさんはちょっと困ったような顔をして、視線を空に彷徨さまよわせていたが……やがて、俺の不安を吹き飛ばすかのように花のような笑顔で手を叩いた。

「だっ、大丈夫よ! ツカサ君の体の動きは解ったから、今日はおしまいにして、ツカサ君が踊り易いような踊りがないか、ちょっと調べて来るわね! 確か、簡単な踊りが有ったような気がするから……ね、だから元気出していきましょう!」
「本っ当すみませんんんん」

 今日は早々に切り上げて対策をって、どう考えてもエッダさんを困らせるレベルでヤバいってことですよねー!!
 いかん、俺ってもしかして運動神経だけじゃなくてリズム感も悪かったのか。
 一気に自分の運動神経に絶望しながらも、俺はエッダさんを見送った。

 ああ、本当にこの数日でマスターできるんだろうか。

「ツカサ君、今日の練習は終わった~?」

 そう言いながら入って来るのは、あくびをかみ殺したブラックだ。
 このレッスンルームに入ってくるのは、朝の時以来か。そう考えると随分会っていないような気がして、俺はブラックに近付いた。

 あ、ちなみに今はジャージみたいな練習服だから別に恥ずかしくはないぞ。
 衣装を着るのは本番が近付いてからにして貰ったからな!
 あんなヤバい服、毎度毎度着てられるかってんだい。

「まあ今日は早引けって感じ……。ブラックの方は何してたんだ?」

 色々な事を思いつつブラックを見上げると、相手は至極つまらなそうな顔をして眉を上げた。

「何って……僕にあのを頼んだ君がそれを言うか」
「いや、仲良くなったかなあとか思って……」

 そう、実は、俺がレッスンを受けている間、ブラックにはクロウの教育をお願いしていたのだ。教育って言っても難しいことじゃない。これから何をするかとか、やってはいけない事を教えてくれって頼んだんだ。
 クロウは人族の里にまだ不慣れだったしな。

 俺が教えても良かったんだけど、こういう事はこの世界に詳しい人の方が良い。
 それに、クロウと年が近いブラックなら、俺が気付かない大人同士の事だって、クロウに教えてくれるだろう。だから、ブラックに両手を合わせて頼み込んだのだ。

 ブラックも俺に頼まれた時はまんざらでもなかったようなのだが、今の仏頂面を見ると……うーん、やっぱり仲良しレベルは上がってないみたいだな。
 よっぽど相性が悪いんだろうか。

「ブラック……まだクロウと仲良くなれないのか?」
「なんで僕があんな奴と仲良くならなきゃいけないんだい?」
「俺がいたたまれないから」
「ぐっ……」

 はっきり言われてうろたえるブラックに、俺はフンと鼻息を鳴らす。
 相手は恐らく「みんな仲良くしてほしいから~」なんて言葉を予想してたんだろうが、俺は聖女キャラじゃないんだ。そんな善良な事言わないぞ。

 俺はな、でっかい中年二人の間に挟まれて迷惑してるんだよ。だから、二人には仲良くしてほしいんだ。大体、お互いに口調に苛ついてるだけなんだから、大人の対応をすれば歩み寄れるはずだろう?
 なのに、そんな事もしないで喧嘩してるんだから、俺より子供だよホント。
 間で肩身の狭い思いをする俺の気持ちも解って欲しいもんだ。

 そういう小言をつらつらと相手にぶつけてやると、ブラックはおののいたように顔を引き攣らせていたが、負けじと俺に言い返してきた。

「そうは言うけどさ、アイツはツカサ君の事を性的な目で見てるんだよ? なのに、それを解ってて平気でいられるわけないだろう」
「……いや、クロウは俺を食料として見てるんだと思うけど」
「ハァ……ツカサ君、こういうのには本当鈍感だから困るよね……。あのねえ、君の体を食べたいだけだったら、料理食べて納得しないし、そもそも料理が食べたいならねだるだけで良いだろう? それを、あの駄熊はケツ揉んで抱き締めて来たんだよ? いくら何でも鈍感すぎだよツカサ君」

 そうなのか? いや、だって、クロウは表情も変わらないし、なんか俺より子供っぽいし……じゃれついてるんだとばかり思ってた。
 獣人ってスキンシップが激しい種族だとネット小説では言ってたから、そういう物なんだろうと勝手に思ってたけど、そうじゃなかったのか。

 いやまあ、そうだな。
 普通、なついてるってだけならケツ揉まないよな……。

 今更な事にびっくりしている俺に、ブラックは深々と溜息を吐く。

「はあ……そうやって気付いてくれないから、僕がこうして怒る羽目になるんじゃないか。ツカサ君がもうちょっと周囲の反応を考えてくれれば、僕もこうしてキイキイ言わないで済むんだよ?」
「す、すんませんッス」

 思わず謝ると、ブラックは急に俺の肩を掴んできた。
 菫色すみれいろの瞳がぐっと近付いて来て、俺を睨み付ける。そのどこかねたような顔に、俺は何も言えずにただ目を瞬かせていた。

わかってる?」

 低い声で、一言そう言われる。
 だけどどう返していいか解らなくて、俺は黙るしかなかった。

「……僕がこういう事で怒る理由、ツカサ君はちゃんと解ってる?」
「…………」

 目を逸らしたいけど、何故かそうできない。
 どうしたらいいのかと眉根を寄せた俺に、ブラックはさらに畳み掛けた。

「僕は、君が『僕を好き』って言ってくれるまで待つって言った。でもね、だからって、僕の好意を忘れて欲しいなんて言ってないんだよ」

 どういう、意味だろう。

「ツカサ君、どうして僕が、ツカサ君が他の男に色目を掛けられて怒るのか、本当に解ってる……? ねえ、答えてよ……」

 切なそうに歪む相手の顔に、思わず俺は息を呑む。
 他の奴に怒るって……それは、ブラックが俺のことを「自分の物だ」って思ってるからだろ。自分の物を取られるのが嫌だから、怒ってるんだ。
 でも、そういう事じゃないんだよな。

 ブラックは、そんな上っ面だけの事を言ってるんじゃないんだ。
 だからこんなに、切なそうな顔をして……。

「…………俺の事……」
「うん」

 無意識に、口が窄まる。だけど、その口ではっそうとした言葉は出なかった。
 ただ、時間が過ぎるだけで、何も言えなくて。
 責めるような空気に耐えられず、俺はついに目を逸らしてしまう。

 そして、ぽつりと一言だけ呟いた。

「……手放したく、ないから」

 違う。そういう事を、言いたいんじゃない。
 だけど、なんだか顔が熱くてそれ以上言葉が出なかった。

「…………それ、本当に思ってる?」
「なっ、なんだよ。事実だろ! わ、解ってるよ、気を付ける! クロウにもああいう事させないようにする! その……アンタだけでも、手一杯……だし……」

 頭がだって来て上手く喋れない俺に、ブラックは軽く溜息を吐いたが、先程の真剣な表情とは打って変わって朗らかに笑った。
 あ、よ、良かった……納得してくれたのか。

「そう。……ま、今はその答えで満足しておこうかな」
「なんだよソレ……」
「ん? 発言の撤回なら喜んで聞くけど」
「あーっ、もういい!!」

 くそう、またニヤニヤしてきやがって。
 なんだよ、アンタは俺の事をそう思ってるんだろ?
 なら、さっきの答えで正解じゃん。
 いやまてよ、もしやコイツ……俺から「アンタは俺が好き」って言葉を引き出したかったのか。

 じゃなけりゃ、俺がどのくらいブラックの事を知ってるかが知りたくて?
 ただ、それだけのために?
 …………なんだよ、それ。ば、ばかじゃないの。

 普段俺の気持ちなんて関係なしにサカって来るくせに、自分の気持ちは知っててほしいのかよ。そりゃ、ボケてた俺が悪かったけどさ。
 でも、なんか……あーもう、考えるの面倒くさい!!

「ツカサ君顔真っ赤だよ」
「誰のせいだ!!」

 クスクス笑うんじゃねえ!
 破れかぶれで睨み付けると、ブラックは解ってると言いたげに手を上げた。

「ごめんごめん。じゃあさ、さっきの事は忘れて早速練習しようよ」
「練習、って……あ、例の恥ずかしくない踊り?」

 そういやエッダさんのレッスンの後にやるとか言ってたな。
 顔の熱を手で散らす俺に、ブラックはにっこりと笑って布を差し出した。

 え……もしかして、コレが恥ずかしくなくなるための道具……?
 いやでも、俺には普通の長いタオルにしか見えないんだけど。

「さ、練習を始めようか。でもその前に……本番の服に着替えて来て」
「え゛?」
「この踊りはね、恥ずかしくはなくなるけど、布の動きと体の動きが合わさる事が重要なんだ。だから、ちゃんとした衣装で踊って調節しないとね。さ、早く着替えて来て」

 はい、あの。え?
 あの……今、なんて言いました?

 俺には、ブラックの言葉がしばらく理解できなかった。











※中途半端で切って申し訳ない(;´・ω・`)
 次はHなのでご注意ください。ブラックが(また)ただの変態です(;^ω^)
 
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