異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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裏世界ジャハナム、狂騒乱舞編

6.大人はいつも勝手に話を進めたがる

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 でも、今更グダグダ言っても仕方ない。
 ええいもう、こうなったらクエストとでも思ってやってやろうじゃないか。
 俺達は緑髪の眼鏡美人が運んできてくれたお茶を飲み、一息つくと、トルベールから詳しい話を聞く事にした。
 受ける以上はよく聴かなきゃな。途中で騙されたらたまらん。

 トルベールの話は、まず今現在のジャハナムの状態についてから始まった。
 簡単に言うと、この裏世界には二つの【大元おおもと】と呼ばれるデカい組合があって、裏社会に居る全ての組織がそのどちらかに属しているらしい。

 無論アスワド商会も片方に加入している訳だけど、二つの大元は別に互いを嫌い合っている訳ではない。大元が二つあるのは、「やる仕事」によって所属が分けられてるからで、別に抗争とかが起きるようなきな臭い区分けではないのだ。
 互いが協力しておぎないつつ、上手く裏社会の経済を回しているんだって。

 まあ、区分けっつってもどっちもあくどい事なんで、褒められた事じゃないけど……とにかく、平和に仲良く悪辣あくらつな事をしてたわけだな。

 しかし、それが今になって崩されようとしていた。

 原因は、ある謎の勢力。
 彼らはある日突然裏世界に現れ、二つの大元の手下を始末したり、仕事を奪ったりし始めた。その悪行と言ったらもうやりたい放題。
 悪人ながらも今まで秩序立てて暮らしてきた裏世界の人間達は、そりゃもう困ってしょうがなかったらしい。

 なにせ、この世界では信用と約束が一番大事だ。
 暗殺も裏取引も盗品の売買も全て、基本的に「お互いが約束を守る事」が前提となっている。悪人の世界と言えども、信用の上に商売が成り立っているのだ。

 でも、謎の勢力はそんなもんなんて関係ない。
 彼らは強奪するだけだ。そのせいで、裏社会の人達は顧客からの信頼を失ったりしてて、沢山の小さな組織が潰れてしまったらしい。

 で、ここからがトルベールの「頼み事」だ。
 よくある話だが、その悪事はお前の差し金ではないかと、互いの大元が揉め始めたのだと言う。表面上はただの変態で平和な街に見えるが、トルベールが言うにはもう一触即発状態なんだそうな。

 その為、裏社会は商売に事欠き、「秘密裏に」いう大原則を失い、表社会に進出するものまで出始めた。表社会で真っ当な仕事を装っていた商会も、それに釣られてどんどん悪の部分をいぶり出され始めている。

 このままでは、地下都市としてのジャハナムも表世界の人間の流入で崩壊しかねない。それは、「悪人としての仕事は、悪人の社会のみで行う事。表世界に漏らして余計な波を起こしてはならない」という大元おおもと達の倫理に反する事だ。
 だから、トルベールや他の闇商人達も、謎の勢力を捕えようと躍起になっていると言うのだが……。

「それがなんで獣人達と繋がるんだ?」

 裏社会がヤバイ、という事は解った。
 だけど、それが獣人達にどう関係するのか。
 解せぬとばかりに顔をしかめて茶をすする俺に、トルベールは微苦笑を浮かべつつ頭を掻いた。

「いやー……獣人達と仲が良さそうな人達に言うのも気が引けるんだけど、俺の大元おおもとのお偉方えらがたが、獣人達が犯人じゃねーのかって疑ってましてねえ」
「なるほどね……。それで、裏社会の商会名である【アスワド商会】の名前であの通りを奪い取ったんだね。そうして彼らに揺さぶりを掛ければ、本性を現すんじゃないかと……」

 ブラックの言葉に、トルベールは指を鳴らしてウインクする。

「おっとダンナ、さすがっすね! あ、でも、言って置きますけど、賭け事は表の商会サンのポカですからね。私らは正々堂々、あいつが負けるまで賭場で遊ばせただけっすから」
「ええー……」

 なんかそれもあくどい方法っぽいんですけど、本当に真っ当に奪ったの?
 でもそれを聞いたってトルベールは話さないんだろうなあ……。

「でも、獣人達は怯えるだけだっただろう」
「ッスねえ。どうかしたら人間より純粋極まるっつー感じで、アテが外れたな~と思ったんですよねぇ。でも、用心棒を連れて来た訳だし、オッやっぱアタリか? なーんて期待したんスけど……お二方はちゃんとした真っ当なギルドの人間でしたしねぇ……ま、この報告を聞いたら上も獣人達には干渉せんでしょう」
「そっか、それは良かった……」

 思わず俺はホッと胸を撫で下ろした。
 俺達は別にいいけど、あの店の獣人達はなにも知らないからな。クロウの首輪にも関係してないし、彼らはただこの国で生きて行こうとしているだけだ。

 世界協定の後ろ盾もあるんだし、これで彼らが悪人扱いされてたら、シアンさん達も困っただろう。とにかく疑いが張れてよかったよ。
 あれ、でもそしたら別に彼らの安全を約束する必要はないんじゃ……。

「あの、トルベールさん」
「なんでしょ」
「それを報告したら、獣人達はもう安全なんじゃ?」
「チッチッチ。あま~い。それは表の人間の考え方。いいかい鉄仮面君、ここには二つの勢力が存在するんだぜ? 仮にこっちの上司が納得したとしても、あっちが納得しないだろうさ。今二つの勢力は仲たがい状態なんだ、こっちが『あそこはシロです』なんて言っても、納得してくれるわきゃねーだろ? 寧ろ、コナ掛けてた店を野放しにしたってことで、今度はあっちの勢力に狙われる危険もある」

 それは確かにありえるかも……。
 あの通りは今アスワド商会が管理していることになっている。となると、相手は「獣人達がの勢力に手を貸して、自分達に悪さをしているのでは……」なんて曲解しかねない。
 そうなったら、トルベールがやってたチンピラ地上げ屋みたいな嫌がらせ以上の事をされてしまうかもしれん。

「鉄仮面君も理解してくれたみたいだな。ってな事で、今度は俺達が用心棒になる必要が出て来るわけよ。まあ、それはオマケみたいなものだから、後に置いておくとして……ここまでの話はわかるよな?」
「はい、まあ」

 気の無い返事で頷くと、トルベールは結構だとでもいうように頷き足を組んだ。
 チャラ男の行動が、部屋の豪華さと相まって、なんだか本当の社長のように思えてくる。あれ、チャラ男の行動って、突き詰めていくと調子に乗ってる社長っぽくなるのかな。
 関係のない事を考えている俺に構わず、相手はにっこりと笑った。

「で、君達にやって貰いたい事なんだけど……」
「あ゛ー……なんか、アレですよね。色仕掛けとか……」

 うんざりした顔を隠しもしない俺の横で、ブラックがトルベールを殺しそうな勢いで睨み付ける。いいぞ、今だけ許す。もっと睨めオッサン。

「ツカサ君に何をさせる気かな。話によっては、交渉決裂する事になるけど」
「や、やだなあ落ち着いて下さいよダンナぁ。アンタに暴れられたら多分この建物が全壊しますから、カンベンして下さい……。まあ、色仕掛けではありますけど、ベッドに入れだとか無茶は言いませんから安心して下さいよ」
「じゃあ……何をすればいいんですか」

 そう言うと、トルベールはまた指を鳴らした。

「お二方、この裏社会があんまり開放的なんで、慎みがないとおもってるでしょ? でもねえ、お偉い方々ってのは今も昔も、倒錯的なモンが好きなんスよ」

 そう言いながら両手を広げるトルベールに応えるかのように、ドアからまた緑髪の眼鏡美女が入ってくる。今度は畳んだ布を持って来ていた。
 トルベールはそれを受け取り、俺達の目の前で広げる。

 俺とブラックはそれを見て……思わず、目を剥いてしまった。

「ちょ……そ、それって……」
「そーう! これを来てね、ちょーっとした場所に出向いてほしいんですよ。あ、勿論もちろんブラックの旦那も一緒に……ネ!」

 そう言いつつ、トルベールはひらひらと服を動かす。
 が、俺は何も言えずに、ただただぽかーんと口を開けているしかなかった。

 いや、だって。着ろって言われた服が、酷かったんだもの。

「あの……それ……もしかして、おどりこ……」
「おっと解る?! そうなのよ~、これすっげーヤらしくていいでしょ。でもね、これラッタディアの古代王朝の伝統的な舞踏服なんだぜ? お偉方ってのは、こういうスケスケで見えそで見えないって奴が好きでさ~」

 うん、解る。解るよ。俺も好きだもの。踊り子の衣装がビキニの水着っぽくて、その上じゃらじゃら綺麗な装飾が付いた服だったら、めっちゃエッチだもんね。
 アラビアンナイトとかで見るようなえっちな踊り子服っていいよね。

 でもさ、あの、それを……俺が……っていうか。

「あの、ブラックって……もしかしてブラックも着るの……?」
「え゛」
「あっはっは、冗談キツいよ鉄仮面君! 流石にオッサンがコレ着て踊るのに興奮する人は、裏世界にも滅多にいねえから! ブラックの旦那は燕尾服とかだよ」
「あ。なんだ良かった……」
「ツカサ君、今僕ちょっと傷付いたな」

 うるさい、俺はお前に色んな所蝕まれっぱなしなんだからそれくらい流せ。
 ていうか着なくて良かったじゃん。
 俺着たくないよ。これ絶対着たくないんだけど。

「あの、せめて透けるズボンじゃなくて、普通のズボンにしません? あと下着は男物とかにしたり……」
「だめだめ。可愛い男の子が無理矢理着て恥ずかしがるのがいいんじゃん。性倒錯って知ってる? そう言うのには何事も不均衡な感じが必要なのね?」
「むう、良く解る。じゃあ致し方ないね。ツカサ君着ようか」
「お前納得してんじゃねーよバカ!!」

 ネズミさん映画のアラジンとかの服ならまだいいけど、流石にアレのヒロインの服をもうちょっと恥ずかしくしたような奴は無理だってば。
 ナース服より難易度たけーじゃねーか。

 自分が目の前の服を装着した姿を想い、青ざめながら顔を引き攣らせる俺。
 だが、大人二人は最早俺の言葉など聞く耳持たない。

「これ着てどこかに行くの」
「そうそう。あ、でもですね、この服は踊り子だし……一応こっちも台本考えてるんで、鉄仮面君には踊りの練習とかをして色々と変装を完璧に……」
「踊り。アレで踊るの」
「踊るんスよ。いや、アレ見たら多分お偉方一発ドカンっすよ?」
「ほう、その踊り詳しく」

 詳しくじゃねーよこの変態!!
 ちきしょーめ、いっつもこうだ。俺が混乱してる間に話が進んでいくんだ。
 でもって俺はそれに従うしかない訳で。ブラックがやる気になっちゃった以上、俺はどうしようもないわけで……。

 ああもう、いつもならこういう事は疑ってかかるくせにぃいい。

「じゃあ鉄仮面君、旦那、よろしくってことで!」
「まあ、探し物も有るんだし……乗りかかった船だよね! ツカサ君!」

 いつのまにか、話がまとまってしまったらしい。
 笑顔で俺を見るブラックをじとりと見て、俺は溜息を吐いた。

 ……で、俺話の半分以上聞いてなかったんだけど……あんたら何話したの?










 
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