異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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パルティア島、表裏一体寸歩不離編

26.シーポート炭鉱窟―乱闘―1

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「ツカサ、あるじ、前方に兵士が五人みえる」
「えっ……」
「やっぱりギアルギンの奴が起こしたんだね……」

 道の先、俺にはまだ見えない場所を見据えて、前を走っていたスクリープがうなりながら呟く。その言葉にブラックがすぐさま答えを返したのを聞いて、俺は眉根を寄せた。

「こうなると正面突破しかないかな?」
「増援が無けりゃそれでも良いけど、数人でもこの狭さで暴れられたら困るなあ」

 そうか、俺はココにだけ兵士が詰めてると思ってたけど、もしかしたら加工場の方にも見張りの兵士とか居るかもしれないよな。それに、ここにはトンネルを管理する奴もいるんだ。そっちまで呼ばれたら、結構な人数になりそうだ。

 増援を呼ばれてたら、ヘタに動かない方が良いかも。ここでドンパチやらかして外に知られたら生き埋めにされかねない。
 炭鉱を埋めるなんて事はそうやらないと思うけど、ここは元々立ち入り禁止区域だからな。何やっても誰もとがめる奴なんていない。

「崩れるから、派手な事やっちゃダメってことか」
「それもあるけど……相手も、兵士全員でココに突入するなんてバカな事はしないだろうからね。全員起きてるんだとしたら、外で僕達を待ち構える奴らが居るはずだ。この炭鉱で戦って疲弊した僕達を捕える第二陣がね。そこで僕達が派手な事をしたら、捕まえるのすら危険だと思われてココの道を塞がれるかもしれない」
「じゃあ、スクリープさんに暴れて貰う訳にもいかないんじゃ……」

 かといって、この道は簡単に通れるほど広くもないし、派手に暴れず穏便に済ませるなんてどうすれば。
 迷っていると、ブラックがにっこりと笑って人差し指を立てた。

「んじゃツカサ君、新しい術の習得行ってみようか」
「えっ、今!?」
「ちょうど良いと思って。それに、さっき君は新しい術を習得しただろう? 後はその想像を術の名で固めて、発動させるのに慣れるだけだからさ」

 えっ、俺新しい術なんて憶えたっけ?
 もしかして、ペコリア達を傷つけないようにするために、ギアルギンを攪乱かくらんしたあの葉っぱ吹雪の事か。確かに、あれは新しい方法ではあったけど、弓矢を操る術の応用だし……それほど凄い術でも無いような気がするんだが。

「その術って……?」
「アーシェル・ガスト……グロウで成長させた種子をフロウで遠くへ飛ばす術だ。元々は種子を遠くに飛ばすための農耕用の術なんだけど、木の曜術師は敵の攪乱に使う事も有る。ツカサ君がさっきやってた奴だね」

 要するに、マジで目潰し暴風攻撃?
 風属性の魔法で良くある「暴風を巻き起こす術」みたいなもんだろうか。いくつもの刃を動かさなきゃいけないメッサー・ブラットよりかは楽そうだけど……攻撃力ないよなあ、アレ。

「え、えー……それがどう活路を切り開くと」
「さっきみたいにやればいいんだよ。ただし、グロウで成長させた後も操るんだ。【レイン】を使って兵士達に巻きつけって命令を加えてね」
「ええええ」

 ちょっとまってかなり精神力使うんじゃないのそれ。俺フロウで浮かせて動かすのでもまだいっぱいいっぱいなのに、その後にレインを使えって、要するに俺の今使える木の術全部使えって事でしょう。
 無理ですって、失敗しますって!

「大丈夫、ツカサ君ならやれる! ほら兵士達が見えて来たよ!」
「う、うううう……射程距離ミスっても怒るなよ!?」
「頑張るザンス坊ちゃん」
「ぶはっ」

 集中力途切れるんでお願いだから止めてシーバさん。
 ああもうちきしょー、破れかぶれだ、どうなっても知らないからな!

 俺は種に【グロウ】をかけて強くしなやかなで長い茎を思い浮かべると、自分の周囲に浮き上がるイメージを作った。停滞させて、一気に打ち出すイメージを。
 その後にグロウをかけて操って……それを一言で術に昇華させる。

「敵が見えて来たぞ、ツカサ殿!」
「スクリープさん、ツカサ君の声が聞こえたら右によけて」
「承知!」

 前方には、槍や剣を持った兵士達が行く手を塞いでいるのが見える。
 俺はそいつらに成長し続ける種子を射出するイメージを造りながら、補助呪文を唱えた。もうこんなもん、恥ずかしがるより慣れだ。うなれ俺の中二病!

「力強くしなる緑の鞭よ……弾丸のように敵へと向かい、その自由を奪え! 行け――――【アーシェル・ガスト】!!」

 指を、敵に向かって勢いよく指し示す。
 その瞬間、俺の周囲で漂っていた種子が一気に発芽し、軌跡を描くようにその茎を思いきり敵へと伸ばした。俺達が走るよりも早く到達した茎に驚いたのか、兵士達は茎を切ろうと躍起になる。だが、曜術で成長した植物はそう簡単に切断される事は無い。

 俺の植物を操る術である【レイン】に従って、緑の長い茎は俺の周囲からついに飛び出し、その体でそれぞれの兵士達を縛めた。
 悲鳴を上げる間もなく、数人の兵士達全てが植物に囚われる。
 後には、綺麗な緑色の簀巻きが転がっていた。

「やった、大成功!」

 さすが俺、エロいイメージを日々練習していただけあるぜ。いつもながら、曜術に関しての成功率は高くて自分でもビックリだ。
 俺を見て目を丸くしている兵士達に手を振って、俺達は無事そこを通過した。

「いやー坊ちゃん凄いザンスねえ~! あれはなんて術なんザンスか? 土からは出ないんザンスね?」
「あ、ああ、そういや獣人族って曜術使えないんだっけ。今のは木の曜術だから、土からは出ないんだ」
「木! 木ってあの草食野郎どもがモグモグしてる奴ザンスか。はぁ~……人族はそんなものも操れるんザンスねえ」

 肉食の獣人的にはやっぱり草食の獣人は獲物扱いなんだろうか。倫理観とか違うらしいし、戦った後に勝利したら食べるみたいな事もあったりして。
 いや~あんまり考えたくないなあ。

「ツカサ君、気を抜かないで! もうすぐ出口だよ!」
「えっ、えええっ」

 待って待って、まだ準備出来てない!
 慌てて次の弾を作り、俺は前を見据える。

「小屋の獣人達には、表面上は兵士達に従うようにと言っておいたけど……こうなると総力戦もやむなしかな」

 そう言えば、そんな事頼んでたな。
 でも、あの人達まだ安静にしてなきゃいけないんだけど。

「ブラック待てよ、あの人達は怪我が治りきってないんだぞ」

 治療した人間としては、無茶させるのは承服しかねる。
 難しい顔でブラックを見る俺に、スクリープは任せなさいと胸を打った。

「大丈夫ですよ、我々は怪我の治りが早いので。それに、弱っていた者もツカサがくれた薬のお蔭で、見違えるほど元気になった。みな体力は戻っていましょう」
「そうかな……」

 無理はやめてほしいんだけど、獣人達はやる気マンマンらしい。
 そう言っている内にどんどん近付いてきた。

 ブラックは剣を抜き、スクリープは己を鼓舞するかのように唸る。うわ、増員が来てたらどうしよう。どうか大変な事になってませんように!

 出来るだけ穏便に、と願って、俺達は炭鉱から飛び出る。
 速度を急激に落とす為に、それぞれが地面に傷跡を付けながらきびすを返す。俺達のその姿を見て、案の定入り口に固まっていた男達がどよめいた。

 さもありなん、何の音沙汰もなく飛び出て来たもんだから驚いたんだろう。
 彼らの作戦通りに行くなら、疲弊した俺達か、もしくは兵士が戻ってきたはずなんだから。逆手に取るってのは中々気持ちいいな。

「おっ、お前ら何を……!!」
「ハイオン様はどうした!」

 あっ、そういや置いてきちった。
 いやあの状態だともう二時間程度は起きませんけどね。でもうわ、起こされたら厄介だぞ。炭鉱の中の兵士達縛り付けといてよかった。
 こいつらも逃がさず捕えなきゃやべえ。

「ツカサ君!」
「あいよっ、お前ら神妙にお縄につけぃ! アーシェル・ガスト!!」

 待機させていた種子が勢いよく数人を縛り上げる。
 それを見取って、ブラックがタオから飛び降りた。スクリープとタオは、それと同時にそれぞれの方向に居た兵士達に襲い掛かる。獣人達が自分達を襲ってくる事に泡を喰った兵士は、それぞれに散らばってしまった。

「おっ、おいお前ら出て来い!!」
「くそっ、なんで獣達が出てこねーんだ!?」

 おお、慌てとる慌てとる。ブラックは兵士に従うようにって言ってたけど、彼らはどうやら二度と言う事を聞きたくないらしい。
 まあ今まで好き放題されてきたんだから、仕方がない気もするけど。

 ブラックもそれに気付いたのか、苦笑しながら叫ぶ。

「しょうがないなあ! みんな、こいつらを生かして捕えておいてくれ!!」

 そう言い終わった、瞬間。
 うおおおおおおと地を鳴らさんばかりの雄叫びが聞こえ、小屋から一斉に獣人達が飛び出してきた。その形相と言ったら、笑う者あり般若の形相アリで、もうあんまり見たくない。みなさん鬱憤溜めすぎですって。

 獣人達は、ここぞとばかりに「この恨みはらさでおくべきか」と砂嵐を巻き起こして兵士達に跳びかかる。
 ああ、獣の時はあんなに可愛い白イタチさんがあんな顔を。
 っつーか獣人って凄く喧嘩っ早いんだな……。

「ツカサ君、今の内にクラレットを拾ってそのー……なんだ、クルクルパーを解放しに行くよ!」
「えーと、うん!!」
「クロウクルワッハ様ザンスよ、お二方ァ!!」

 本当ごめんなさい。失礼極まりないな俺達ったら。
 あとで蜂蜜あげるから許してねクロウ、なんて冗談言ってる場合じゃないか。
 俺はシーバさんから降りると、足にラピッドをかけてすぐさまブラックと管理棟へ入った。兵士達は全員出払っているから、管理棟はもぬけの殻だ。

 問題は、クラレットがまだ寝ててくれるかって事なんだけど……。
 頼むから爆睡しててくれよ、とクラレットを寝かせている部屋の扉を開けると。

「おっ……ね、寝てる……」
「だから言ったでしょ、僕の術はそこらへんの曜術師には解けっこないんだって」

 確かに、クラレットはブラックが放り出した時のまま、変な格好で眠っていた。
 うわーすげー。でもこの格好のまま寝てるって事は、ギアルギンたらクラレットを放っておいて逃げたって事ですよねー。

「……いや、変だな。あいつなんでクラレットを放っておいて逃げたんだ?」
「さてねぇ……まあ護法が使えたとしても僕の術は破れないから……親玉は諦めて、自分だけ助かろうと逃げたとか。捕まったらもう悪事も出来ないからね」
「そんな殺生な」
「ま、どうでもいいさ。僕達がやらなきゃいけないのは、クロウって獣人を助ける事と……兵士達全員をとっ捕まえる事だからね」

 確かにそうだけど、なんだか解せない。
 兵士達を起こすくらいなら、クラレットにもなんらかの事をしてて然るべきだと思うんだけど。
 もしかして、兵士達を起こしたのは自分が逃げ延びるためなんじゃ。
 薄情な奴だな、ギアルギン……。

 クラレットを引き摺って、俺達はクロウのいる牢の部屋まで移動する。
 外では相変わらず砂煙が舞っていて、時折でっかい猿の頭やら獣が飛ぶ姿やらが飛び出ていた。なんか怪獣映画みたいに見えてきたな。

「ツカサ君、こっちが怪しいよ」
「お、おう。……っていうかブラック、その持って行き方どうにかなんない?」

 ハイオンの時も酷かったけど、クラレットの時もすごい酷い。
 普通、足だけ持って引き摺るかい?
 どう考えても私怨を感じるんですけど気のせいかな。

「どうにかって……僕のツカサ君を勝手に犯そうとしたんだから、この程度は普通じゃない? 本当なら下半身と両腕もぎ取って縄付けてってもいいんだけど」
「いいですこのままでいいです」

 いつも思うけど、俺ブラックの敵じゃなくて良かったよ。
 どう考えてもロクな殺され方されなそう。

「……そう言えばブラック。ちなみにの話なんだけどさ」
「ん?」
「もし助けなきゃいけない相手がクラレットみたいな事してたら、どうする?」
「え? 決まってるじゃん、殺すよ」

 決まってねーよ普通殺さねーから!!
 ヤバい絶対クロウがした事言えないわ。別に襲われた事を許すとかそう言う訳じゃないけど、だからと言って殺すのはちょっと。
 クロウだって相手が憎い一心だったんだし、そもそもあの場合なら殺される展開だったんだから、犯されかけるだけで済んで良かったと言うべきだ。

 犯されるのも嫌だけど、殺されるのはもっと嫌だ。
 この世界じゃ殺す殺されるだのは当たり前だから、本当そう思う。
 だから、ブラックが殺すなんていうのも当たり前な話だとは思うんだけども。
 でもさあ、仲間からそう言う不穏な言葉が出るのは怖いのね!

「ツカサ君、クラレットみたいなことした奴が他にもいるの?」
「やっ、やだなあ、いるわけねーじゃん! もしもだよ、もしも!」

 こりゃクロウにも滅多な事は言わせられないな。
 助けるまで色々とバレなきゃいいんだが。











 
※次はクロウとご対面なので、ちょっと文字数の余裕をもつため切ります。
 ブラックのあんちくしょうが激しく暴れるので、文章長くなる 「(:3 」┌)┘
 
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