異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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パルティア島、表裏一体寸歩不離編

13.シーポート炭鉱窟―嫌悪―※

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※描写的には軽いものですが、ツカサが怖がったり軽い暴力を受けているので
 そのような感じの描写が苦手な方はご注意ください。



 
「やっとここまで帰って来たな……」

 隠し通路に来るまでが本当に長かったが、ここを通ればもう心配ない。
 慎重に道を戻ったけど、誰かが追ってくるような事はまったく無かったし、どうやら兵士達には見つからずに済んだみたいだ。
 ふうー、なんとか助かったぜ。

 いや、追って来られたら本当危なかったね。俺足遅いから。
 足の機能を向上させる【ラピッド】を付加して走る力をアップさせても、相手もラピッドを使えたら意味がない。術の効き目が同じなら、結局元々の体力で勝敗が決まっちゃうんだから、そうなると俺は絶対捕まってただろう。

「まあなんにせよ、ここから出たらひとまず休憩だ。守護獣達にも色々と報告しなきゃいけないしな。それに……宿に帰る道のりも長いんだし……」

 いろいろ手回ししたおかげで、帰りは徒歩だ。
 そうでもしないと療養所を出られなかっただろうし、仕方なかったんだよなあ。
 全ては俺の計画通りなのだ。だから、疲れても仕方ない。

「しっかし、うまく行ったかなあ……俺の計画……」

 俺はあらかじめザイアンさんが居ない事を確かめると、職員であるテリアさんに「その辺を回って帰る」と言伝を頼んでおいた。だから、最悪俺がいなくなったと騒ぎになっても、俺は「森で迷ってた」と言えば済む。
 まあ、あの森は保護区だし、部外者を入れたって知れればザイアンさん達も困るだろうから、俺の事をおおやけには探さないとは思うけど。

 それに、この事はブラックにも言ってあるから、もしザイアンさんが訪ねて来ても大丈夫。あとは俺が迷わず宿に帰るだけだ。

「さて、もうひと頑張りしなきゃな!」

 気合を入れ直して、再び周囲を見回す。
 明るい場所もしばしお別れだ。そう思ってふと、今まで歩いて来た道を見ると。

「…………え?」

 直線の遥か向こう。レールが見えなくなるほどの遠くに、なにか、見慣れぬものが有って俺は目を細めた。

 最初は小さな点のようだったそれは、やがて豆粒大の大きさになって、こっちへと向かってくる。俺はしばらく何が来ているのか解らなくて呆けていたが、やがてその姿がはっきりと視認できた。

「ヤバ……っ」

 あ、あれって、人だ!!
 なんか知らんけど、人が凄い速さでこっちに向かって来てる!!
 怖っ、ちょ、逃げないと!

 一気に事態が理解出来た俺は、慌てて踵を返して隠し通路に入った。
 相手にこっちの姿が見えてるのかは解らないけど、あの速さだと見つかってようが無かろうが結局追いつかれてしまう。
 薄暗い通路を一直線に走りながら、俺は不安で何度も後ろを振り返った。

 まだ誰もいない。入り口が小さくなる。まだいない。大丈夫、まだ来ていない。

 やがてトンネルの明かりが見えなくなり、周囲は真の闇に包まれる。だけど走る事は止められず、俺は浅い呼吸を繰り返しながら必死に足を動かし続けた。
 アレが何かは解らない。だけど、止まったら行けない気がする。
 捕まったら、どうにかなるような気がする。

「あ、あと少し……あと少しで……!」

 三度も通路を通ってるんだ、この通路の長さは大体把握できている。暗闇でも、出口が近付いている事は解っていた。
 走ってるんだから、出口はもうすぐだ。
 もうちょっとで向こう側から漏れる光が見えるはず。

 俺は手を伸ばして、見えて来るであろう光に手を伸ばした、と、同時。

「ッあ゛!?」

 背後から強い衝撃を受け、俺はその場に倒れた。
 なんだ、何が起こった。この暗い通路じゃなにも解らない。
 体を起こそうとするが、その前に背中に圧し掛かられて俺は大きくうめいた。

 勢いよく石を落とされたみたいな重さに、骨がきしむ。せき込んで倒れ込んだが、俺の体はすぐに大きな腕に捕まれて無理矢理ひっくり返された。
 仰向けになっても、真っ暗な世界じゃ相手の顔が見えない。
 ただ、自分が誰かに囚われたのは解って、俺は思わず顔を歪めた。

「だ、誰……」

 自分でも驚くほどの、怯えた声。
 だが、相手は答える事は無い。必死に目を動かす俺に、相手は鼻で笑った。
 なんだ、誰なんだこれは。俺はどうなる。殺されるのか?

 今この場で、ブラック達と会えないまま、殺されるのか……?

 考えて、俺は急に怖くなった。
 体が勝手に震えだして、歯がガチガチと鳴りだす。何も見えないはずの視界は、頬の痙攣けいれんによってがくがくと震えた。
 相手は、そんな俺が見えているのだろう。荒い息遣いを漏らしてくつくつと喉を鳴らす。恐怖に震える俺をあざ笑っているのだ。

 どうにかして逃げようと考えるも、頭が回らない。
 正体の解らない相手に拘束される恐怖は耐え難く、動けない事が更に混乱をあおった。それでも俺は相手を引き剥がそうとするが、力が強くてどうにもならない。腕を引っ張っても、胸を突っぱねても、俺の抵抗は相手を動かせなかった。
 力じゃとても敵わない。
 だけど、組みする事で、俺はやっとを知った。

 ――こいつ、男だ。
 しかも、ブラックと同じくらい体格のいい、長身の男……!

「アンタ、なんなんだよっ……兵士じゃないのか……!?」

 顔の見えない男に、小さな声で吠える。
 すると、男はまた喉を鳴らして、俺の頬を勢いよく叩いた。

「……ッ!?」

 衝撃で地面に頭をぶつける。何が起こったのか解らないまま、徐々に痛みを訴えてくる熱い頬に驚いていると、男は俺の両肩を掴み、ぐっと顔を近付けて来た。
 真っ暗な闇の中、相手の生臭い息が顔にかかる。

「……お前は、殺す……」

 かすれたような、若く低い声。
 抑揚もなく呟かれたその言葉に、俺は何の反応も出来なかった。

 殺す……俺、殺されちまうのか……?

「だが、その前に……」

 抑揚のない声が、離れる。
 何をするのかと思って思わず正面を向くと。

「その前に、お前を喰ってからだ」
「え……」

 ――――食って、から?

 一瞬、何を言われているか解らなかった。
 だが、相手の男は俺が呆けた事すらどうでもいいようで。
 動きを止めた俺に構う事なく、男は俺のシャツの胸元を掴んで思いきり引っ張った。なにを、と思う間もなく、シャツは男の手で易々やすやすと引き裂かれる。
 まさか、素手でシャツを破いたって言うのか。

 青ざめた俺に構わず、男は今度はズボンに手をかけて下着ごと膝下までずり降ろした。今まで理解できなかった「食う」という言葉の意味が一気に頭に流れ込んできて、俺は逃れようと必死にもがいた。

「やめろっ、お前、いきなり何を……!!」
「お前、匂いがする……良い匂い、甘い匂い、狩られるものの匂い……」

 感情の見えない声。若い男とだけ解るその声は、相手がどういう人間か想像する事すら拒否されているようだった。
 だけど、俺の体を這うこの手は、男の手そのもので。

 男の手は、ゴツゴツしていて、節くれだっていて、ざらざらしている。
 ブラックの手と似ているようで違う、別の奴の手だ。それが、俺の体を確かめるように動いている。その事実が、何故か俺の体を硬直させた。
 探るようだった手つきが、徐々に下へと移っていく。

「や、だ……いやだって、触るなっ、いやだ……!」

 手の行き先なんてもう分かり切っている。だけど、逃げ出す事も出来なかった。
 片手で肩を押さえられているだけなのに、動けない。動けば動くほど俺を捕えている手が肩を地面に押し付けて、俺の肩は地面との摩擦まさつで痛みを訴えていた。

 情けない。肩を地面に押し付けられているだけなのに、逃げ出せないなんて。
 だけど、逃げたってきっとコイツには敵わない。きっと、コイツは俺を追って来て、すぐに捕まえてしまう。捕まえて、俺を。

「っ……い、や……」
「さっきと違う高い声だな。震えている、怖いか」
「……っ、ぅ……」

 大きな手が、俺の下腹部を擦って触られたくない場所に辿り着く。
 ざらついた妙な感触の手は、俺の縮こまったソレを指で何度もなぞって形を確かめていた。お前にだって付いてるだろうに、なのに、なんで弄ぶように。
 恥ずかしくて悔しくて、俺は精一杯男の体を両手で突っぱねる。
 だけど、そんな事をしても無駄で。

「泣くか」

 短い声がして、息が頬に掛かる。
 何事かと体を震わせた俺に構わず、生温い物がまなじりに触った。
 これ、は、舌だ。

「ひっ……」

 舌が頬を舐め、首筋へと向かって滑る。その舌は手と同じくざらざらしていて、舐められた肌がざわつくような嫌な感覚を覚えた。
 やめて欲しくて、必死に震える呼吸を整えながら相手の服を握りしめる。でも、相手は止まらない。寧ろ俺の怯えを喜んでいるかのように、荒い息を繰り返した。

 暗闇の中で、舌が俺の体を這うのが解る。
 ぬめった舌が俺の肌を濡らし、余す所なく味を確かめるように、上半身の様々な場所を這いまわった。胸、脇、脇腹、誰も舐めないような所まで、いやらしい舌は探ってくる。怖くて震える俺はただその感覚にびくつくだけで、男の荒い息を嗤う事すら出来なかった。

 怖い。こんなの、したことない。
 知ってる舌じゃない。知ってる動きじゃない。
 ブラックは、こんなこと、しない。
 変態だけど、嫌な奴だけど、でも、こんな怖い触り方は。

 何故かそれだけが頭の中をぐるぐる回っていて、俺は怖くて顔を歪めた。

「ぅ……うぅ……っ」
「また泣いてるのか」

 舌がまた頬に触れる。水を飲む獣のように執拗に眦を舌でいらわれて、俺は肩をすくめ顔を背けようとした。だけど、男は顎を掴んで離さない。
 痛いくらいに眉根をしかめる俺に、男は荒い息を吹きかけると小さく呟いた。

「美味いな、おまえ。殺すのがもったいない」

 殺す、という言葉に体が凍りつく。
 相手はそんな俺の事がちゃんと見えているのか、また軽く笑って……俺の口に、無理矢理キスをした。

「んっ――――!?」

 カサついた唇。だけどブラックの物とは明らかに違う柔らかい感触。
 いつもとは、違う。これも、違うんだ。
 そう思ったら、俺は――もう、耐えられなかった。

「んん゛――ッ!! んっぐ、ふっ、うぅうっ、んんんっ!」

 舌を入れてこようとする相手を歯を閉じて拒否しながら、必死に相手の頭を殴る。だけど俺にぴったりとくっつけられた頭はまるで動かず、俺は顎を取られたままの顔を必死に離そうともがいた。

 こんなの、もう、嫌だ。怖いのはもうたくさんだ。もうこれ以上、こんな怖い事はしたくない。肩を必死に浮かせ、震える足で体に圧し掛かっている相手を蹴ろうと足掻あがき、どうにかして逃れようとした。だけど。

「っ……。こんなに暴れる力が残っていたか。やはり、お前はあなどれない」

 無表情な声に、わずかに混じったどこか嬉しそうな声。
 その声の変化に息を呑んだ俺に、男はまた平手打ちをした。
 ぱん、と短い音のあとに、また頬が痛み始める。
 興奮して熱くなった頬はもうどんな理由で赤くなっているのか解らない。ただ、涙で濡れるとヒリヒリと痛くて、俺は喰いしばった歯をガチガチと震わせた。

 悔しい、だけど、もう、怖くて。

「や、だ……やだ……いやだ、も、離して、頼むから……!」
「可愛いな。でもまだ食い終わってないから、大人しくしていろ。食べつくす前に殺してしまったら勿体ない」

 声がまた下の方へと降りて行く。その荒い息が下腹部に掛かったのを感じて、俺は無意識に足を閉じた。だけど、力の強い相手にはそんな抵抗など関係ない。
 無理矢理に俺の足を開き、そして軽々と開いた足を地面へ押し付けた。

「い、や……やだ、や……」
「お前のような子供だとどんな味がするのか、気になっていた」
「ひぁっ!?」

 萎えきっていた自身が、急に暑くて生暖かい物に包まれる。
 この感覚はもうアイツに教えられていた。これは、人の口の中だ。

 あの時は気持ちよくてどうしようもなかったのに、今は食い千切られるのが怖くて、それ以上に知らない奴にこうされる事が嫌で、俺は必死に相手の頭を押し除けようとしながら腰を引いた。

「な、にっ、いやっ、やぁあっ! だめっ、だ、めぇっ……! そんな吸わないでっあっあぁあっ……!」

 逃げたいと思って腰を引いたのに、相手は俺が避ける度に深く呑み込んでくる。大きな舌で包まれて吸われると、堪え性の無い俺の欲望はあっけなく反応した。

 必死に耐えようとするけど、乱暴に舐め上げられて、射精を求められるかのように先端を吸われると、快楽に慣らされた俺の体は簡単に力が抜けてしまう。甘い声を漏らし始めた俺の急所に気付いたのか、相手は執拗に先端を舌で攻め始めた。
 吸い上げ、大きな舌でくびれから先端までを何度も舐めて、俺を追い詰める。

 こんな場所で、誰か来るかもしれない通路で、しかも素性も解らない奴にこんな事をされているのに……俺は、喘ぎ声を漏らす事しか出来なかった。

「だめっ、いやっ、そこやぁあ……! あっあぁああっ、も、や、やぁあ……っ、ひぐっ、うっあ……あぁあ……っ」

 苦しくて、辛くて、涙が止まらない。
 それでも快楽は強烈な刺激となって襲い掛かり、訳が分からなくなりそうだった。頭が壊れる。色んな気持ちが綯い交ぜになって、どうしたらいいのか解らなくなっていた。ただ、もう、腰が揺れるほどの熱を開放してほしくて、俺は相手の髪を掴んで足を痙攣させる。

「も、いや……だ、からっ、あ、も、いかせ、も、っやだぁ、あ……っ」

 泣きながら懇願する俺に、男は少し顔を上げたようだったが……構わずに、硬く勃ち上がった俺の物を思いきり吸い上げた。

「ひあぁああ!! あぁ、あぁあ、あぁああ……ッ!!」

 その刺激に、一気に熱が飛び散る。
 だけど、男は介抱しただけでは許さず、俺の物を更に舌でいじってすする。

「ぃああっ! あ゛っ、あぁあ、も、いった、いっやっあぁあ!」

 腰が大きく跳ねてしまうのを、男の手が抑えて固定する。そうして、相手は思う存分俺の残滓ざんしを音を立てて吸い上げた。

 あられもないその音が通路に響くのが聞こえて、俺はたまらず耳を塞ぐ。
 もう聞きたくない。そう思うが、音は手をすり抜けて耳に届いてしまう。

 じゅるじゅると言う下品な音が自分の恥部を啜っている音なのだと思うと、俺は涙を湛えた目をぐっと閉じることぐらいしか出来なかった。

「ぷはっ。やはり、美味いな。お前はどこもかしこも美味い。殺すのが惜しい……これで具合も良ければ……殺すよりも、今度は俺が奴隷を飼おうか。四肢を奪い、逃げられないようにして、思う存分に喰らう」

 そんな事されるんなら、殺された方がましだ。
 だけど、殺されたくない。俺は帰りたい。こんな場所で死にたくない。
 ブラックとロクのもとに帰るんだ。俺は、帰るんだ。

「こっちの具合はどうだ」

 体を曲げさせられて、尻を持ち上げられる。
 足を大きく開かれていたせいで、隠れていた部分はあっけなく相手の前に曝された。閉じられていた場所が冷たい空気に触れて、俺は無意識に下半身に力を入れてしまう。その様子を見て、暗闇の奥から、喉を鳴らすような音が聞こえた。
 ああ、この次って。あいつが、いつもやる……。

「ぶら、っく……」
「……なんだと?」

 不意に口をついた涙声に、相手が初めて反応する。
 だけど、名前を呟いてしまえばもう止まらなくて、俺は感情が決壊したかのようにわめいて暴れた。相手を激昂させるだけだと解っていても、もう、暴れるぐらいしか出来なかったから。

「いやだっ、もう帰して、帰してくれよぉ!! 俺は帰るんだ、ブラックのとこに帰るんだ……っ!!」
「クッ、また無駄な真似を……」

 暴れる足を押さえつけられる。殴ろうとする手を叩かれる。
 痛い。多分、これ以上暴れたら今度はもっと酷い事をされる。
 だけど、これ以上もうこんな事されたくない。どうしても嫌だった。

「離せっ、離せよチクショウ!! っ、いやだっ、やだああ!」
「このっ……!」

 腕を取られそうになるのを必死で避けて、俺はなりふり構わず相手を遠ざけようともがく。その合間に、男の手がベストの胸ポケットに触れた。
 胸ポケット。そこにある物を思い出して、俺は一瞬気が逸れる。

 男はそんな俺の隙を見たのか、そのまま胸ポケットを鷲掴んで俺を引き寄せようとした。だが、乱暴な男の手は加減をしきれず思いきりポケットを引き裂く。

 それは、水晶を入れていた方ではない。
 ポケットから音もなく飛び出た物が、俺の腹にふわりと落ちる。
 男は、それを見て――――急に、動きを止めた。

「これ、は……」
「っ、ぇ……?」

 不意に、目の前から気配が無くなる。
 どこに行ったのかというより先に、今の内に逃げなければと思って、俺はズボンを上げながら不格好な四つん這いでその場を離れようとした。
 だが、また後ろから肩を掴まれてしまう。

 まさかまた引き倒されるのか……と俺は覚悟したが、いつまで経ってもその衝撃はやって来なかった。それどころか。

「…………すまなかった」
「え……?」

 ちょ、ちょっと待って。今何て言った?
 謝ったの? さっきまで俺の事殺すって言ってたくせに……!?

 突然の謝罪が信じられなくて手が伸びている方向を凝視する俺に、相手は溜息を吐きながら肩を掴んだ手を離した。

「……敵だと思って、無礼な事をしてしまった。すまない。お前を怖がらせ、泣かせた。お前はやっぱりいい人間だった。本当に、すまなかった」

 ごつん、ごつん、と何かをぶつける音がする。
 その間に「すまなかった、すまなかった」と何度も謝る声がして、俺はなんだか怖くなって音のする方に手を振った。

「ま、まって、何やってるの。やめてそのゴツンゴツンってやつ」
「だが、俺は」
「いやもう暗闇だから何やってるか解らなくて怖いんだってば! と、とにかく、もう殺さないんだな、俺の事襲わないんだな!?」
「殺しはしない。オレはお前を誤解していた、早合点は悪い癖だといつも怒られていた、なのに反省がない。俺は」
「待て待て待て! 怖いからちょっと待って!」

 落ちつけ、まずズボンだけでもちゃんと直さねば。
 まだ混乱しながらも、俺は無傷だったズボンをしっかり上げ直して、暗闇の中で黙っている相手に恐る恐る声をかけた。

「あの……まだいる?」
「いる」
「えっと……明かり作ってもいい?」
「うん」

 本当ロボットみたいな感じの喋り方しかしないな。気が抜けそうだ。
 そうは言うが、体の緊張はまだ解けない。

 俺は震える手をウェストバッグの中に入れて、雑草の種を握った。そうして種をグロウで成長させて、木の枝状に作り上げる。それを地面で組んで黒曜の使者の力で火をともせば、小さなたき火の出来上がりだ。
 このくらいなら俺にも出来る。

「明るい」

 そう言った相手に釣られるように、俺はぎこちなく顔を上げた。
 俺を襲った不届きな野郎の顔がやっと見れるのか。なんかちょっと怖いけど……誰に襲われたか解らないよりかは、相手が判った方がまだ安心できる。
 意を決して相手を見て――――俺は、目を丸くした。

「あん、た……」

 思わず、声が途切れる。

「……今、思い出した。オレはお前と二度会っていたのだな」

 そう呟いた相手は、表情を崩さない。
 俺を襲った男の正体は、あまりにも想像しがたいものだった。











 
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