112 / 1,264
パルティア島、表裏一体寸歩不離編
1.船の上で観光案内(またの名を説明回)
しおりを挟むハーモニック連合国のほぼ中央に位置する、アルシャシード州。
その州には、領土の二分の一を占有する【ミトラダ海】という不思議な湖が存在していた。
ミトラダ海は大陸に在り、海に面していないのだが、その湛える水は塩辛い。
そんな海の上にぽつんと存在しているのが、パルティア島である。
パルティア島はミトラダ海の中央に在り、火山が鎮座するそこそこ大きい島だ。その為か温泉も湧き、南国の色鮮やかな花が絶えず咲き誇っている。もちろん水も豊富で、パルティア島はラッタディアと並ぶ湧水都市として世界に知られていた。
島民は観光地である島を誇りに思っており、島民全てが外からの客を「宝客」と呼んで歓待を尽す。博愛と美食を好む彼らは、島外の者を島の恵みで蕩けさせるのを喜びとしているのだ。
この事から、パルティア島は間違いなくこの世の楽園と言える場所だろう。
……以上、パルティア島への渡し船を出す港の立て看板より。
とにかく平和で不思議な場所だって事だよな、多分。
今俺達を渡し船で運んでくれているおじさん曰く、パルティア島は「癒しの島、地上の天国」……との事だから、本当に凄く良い所なんだろう。
「あすこはな、モンスターはいねえしメシも酒もうめえ。それに、島の女はみんな薄着なんだ。白い布にベルトだけだぜ? 雨が降れば、そりゃー素敵な眺めが広がるんだよ。美女ばっかりだし目の保養にもなるし、本当いう事ねぇ島だぜ」
えらい褒めようだが、おじさんの気持ちは痛いほど解る。
いいよね、夏の雨とかに降られた女子の制服にうっすら透けるブラ。透けブラ。
いや、この場合はブラが無いのだろうか。直か、直で透けてるのだろうか。
そりゃ一大事だ。パン食ってる場合じゃねえ。
「ち、ちなみに雨の日は……肌色スケスケですか」
「おうスケスケだともさ」
「見てたらビンタされませんか」
「パルティア島は観光地区と居住区が分けられててな、お客さんが来る観光地区の女は寧ろ見せつけてくるさ。なんたってパルティアは島全体が娼館みてーなもんだからな。上手くやりゃあどこでもヤり放題よ」
アーッ、まじかよ! 後ろでずーっと不機嫌なオーラ出してる中年がいなかったら、是非お頼み申したかったー!
本当あいつが居なかったら俺だって今頃はもう脱童貞してたのにな畜生!!
でもまあ嘆いてても仕方ないか。
何にせよ、女子の裸を見て何も言われないのはありがたい。恥じらいがないのは純日本人としては残念だが、俺だってたまにはヌーディストビーチが見たいんだ。美女でナイスバディなら尚更なんだ。
何度も言うけど俺は男じゃなくて女が好きなんだってばよ。
「しかしどこでもかしこでもやり放題って……なんか悪い事ないんですか」
「女はみんな気立てが良いから、ぼったくりなんてあり得ねえし、悪いと言えば……湯冷めか何かで風邪を引く事と、金を全部使っちまうくれえかなあ。だから俺も月に一度しかいけねえんだわ」
うーむ。性病とかってないのかな、この世界。
風邪が有るんなら性病もありそうなもんだけど、もしかしてこの世界の風邪って菌が原因じゃないのかも。そもそもブラックが「性病って何」レベルだから、まあそこの所は一安心か。
あとは金の心配だけど……今回の俺達には伝家の宝刀・ブラックカード……じゃなかった、世界協定のシアンさんの小切手帳がついている。
泥棒以外に怖い物は無い。
なので、遊ぶときには遠慮なく使わせて頂こう。あと……。
「なあなあおじさん」
「何だい、そんな内緒話みてぇに」
「あのー……パルティア島って、いい病院とかなある? あとさ、出来たら守護獣とかの事も診てくれるお医者さんとか居ないかな……」
「そりゃまたどうして」
きょとんとしつつも船を漕ぎ続ける職人肌のおじさんに、俺は背後のブラックを気にしながらウェストバッグにそっと手を触れた。
「あのオッサンの事も見て欲しいんだけど……その、俺の飼ってるヘビが最近具合が良くなくてさ……療養地って言うし、病院とかあるかなって」
一応、ラッタディアにも医療施設はあったんだけど、ブラックの野郎が断固拒否したんだよな。金が掛かり過ぎるので、冒険者や一般人はおいそれと通えないって言ってたけど……今の俺達にはそこそこ金が有るし、そんな言い訳は通用しない。
多分、ブラックは他人に体を診て貰うのが嫌いなんだろう。
だけど、そんな事言ってたら治らないし後遺症が心配だし……。
なので、気分のいい場所で良いお医者さんに診て貰うのなら、大人しくしてくれるんじゃないかと思ったのだ。
ロクは別段悪い所は無い……と思うんだけど、最近前よりも寝ている時間の方が多くなって心配で仕方ない。ラッタディアにはモンスターを診てくれる所が無かったから期待薄ではあるけど、こちらも聞くだけ聞いてみようという訳だ。
俺の懇願するような言葉に、おじさんはしばし首を傾げていたが……何かに思い至ったのか、顔を明るくして俺に向き直った。
「おう、確か島には世界でも指折りの医者がいるぜ! サリクって名前で、温泉街に治療院を開いてたはずだ。なんでも優秀な水の曜術師とかで、馬でもネズミでも診て治しちまうってさ。だから、ついでにそのヘビも見せてみたらどうだ」
「マジっすか、ありがとうございます、行ってみます!」
やった、これでひとまず安心だぜ!
お金はシアンさん持ちだし、旅を続けるためだと言えば、ブラックも今度は拒否出来ないだろう。じゃなけりゃ、泥酔させて引っ張って行ってもいいな。
とにかく元気になって貰わないと不安でしょうがない。
……いや、不安になってとかじゃなく。あれだ。このまんま後遺症とか残ったら旅が困難になるし、俺だってまだ強い訳じゃないし。
だからだな、まあ、そういう事だ。
とにかく、島に到着したら宿屋に直行して治療院に行こう。善は急げだ。
「おっと、お客さん方、島が見えて来たぜ!」
そう言われて前方を見やり、俺は思わず声を漏らした。
「うわぁ……あれって……密林?」
「あの真正面にある神殿は……遺跡かな。本当凄い場所だね」
前方に見える大きな島には、瑞々しく光る緑の木々の群生と、咲き乱れる色とりどりの花が見える。その緑の合間には建物が所狭しと連なっていて、随分と気持ちの良さそうな場所に見えた。マジで南国リゾート地って感じだな。
観光地区と居住区の区別がつかないけど、多分ライクネスみたいに一つの街の中で区分けがされているんだろう。
それに、ブラックが言うとおり真正面に見えるあのギリシャ式っぽい神殿。
あれも島の外から見ると迫力が有って凄いの一言だ。
背後の火山っぽい山の中腹にある神殿は、今も白く輝いていてちかちかと光る物が見えた。火が焚いてあるのかな。今なお現役の遺跡らしい。
ふーむ、あの形だと、やっぱ神殿っぽいよな。
ここもナトラを祀ってるんだろうか。あとで観光ガイドとか買おうかな。
「ガイドと言えば……島の後ろ側ってどうなってんだろ。もしかして裏にも観光地とかあったりします?」
「ああ、そこいらは植物や鉱物の保護地区とかで立ち入り禁止なんだよ。観光客は行かねぇほうがいい。こっぴどく叱られるからな」
「保護地区っすか……」
そう言えば、ハーモニックじゃ植物採取とかしてなかったな。黒曜の使者の事が最優先だったから、なるべく寄り道しないで旅してたし。遺跡から帰ってからも、ブラックの足の事でドタバタしてたもんなー。
うう、そう思うと色々作りたくなってきた。
回復薬も所持数がかなり心許ないし、道具整理したら材料もなかったし……。
南国ならではの植物で作れる薬が有るから、是非とも入手したい。
「あの、珍しい植物とかあるんですか?」
「おうもちろん。パルティア島には他の地域とは違う植物が沢山生えてるらしいぜ。それを目当てに来る曜術師ってのも多いらしい」
「へー……そうなんですか……!」
酒池肉林に加えて魅惑の南国植物とは……。
こりゃあとで絶対森に行かなきゃな!
鼻息を荒くして上陸を待っていると、ブラックが横から話しかけてきた。
「他の場所からも、沢山の人間が来てるみたいだね」
「え?」
「ほら、いくつか船が見える」
言われて、指をさす方向へ首を向けると、俺達と同じように木製の小舟に乗って島を目指している人達がいた。
他の場所にも船乗り場があったから、そこら辺から来てるんだろうな。
中にはゴンドラのようなでっかい船や豪華な大型船もあったりして、バカンスに来る人達も様々だってのが見て取れる。
これだけ客層がバラけてるなら、堅苦しくなくやれそうだな。
貴族の集まりみたいなのはもうこりごりだ。
「ツカサ君、上陸したら宿で……」
「荷物を降ろしてさっさと治療院いこうなー、ブラック!」
「ええ……」
「怪我人が四の五の言わない」
睨み付けると、ブラックは嫌そうな顔をして顎を引く。
お前の為なんだから、嫌がってんじゃねーぞこら。
大体病院嫌がるなんて子供のする事なんだからな、俺より年上のくせしてそんな言動は許さんぞ。まったく。
「はっはっは! お客さん方本当に仲が良いなあ。うーん、俺も久しぶりにかかあと島に渡ってみるかなあ」
「あー……あははー……」
良い話だ、奥さん大事にしてあげて下さいね。とは思うが、俺達を見てそんな事を思わないで下さい頼むから。そんな事を言うとこの中年調子に乗るから。
本当調子に乗ってウザいから。
「へへ、えへへへ……僕達夫婦に見えるんだって、ツカサ君!」
「お前恋人まだにもなってないのによくそんな事言えるなオイ」
ほらすぐコイツ調子に乗るー。
もう肩に担いで歩くのやめてやろうかな。
……とは思うが、そこまで非情にはなれない。
ああ本当俺ってお人好しだよなあ。慈愛溢れすぎて愛の神様にでもなりそうだぜ。なんて、ありえない事を冗談めかして思いつつ、俺は石造りの岸壁を見て溜息を吐いたのだった。
▼現在のアイテム
○回復系
・自家製回復薬(中)× 5個
・毒消し薬(中) ×20個
・包帯1ロール ×6 個(ブラックのために買い足しした)
・気付け薬酒 ×2 瓶
○攻撃系
・自家製睡眠薬(中)×2 瓶
・シュクルの種 ×20個
○その他
・水琅石のランプ ×1 個
・狩猟用ナイフ ×1 個
・小さな弓 ×1 挺
・丈夫な弦(一巻) ×2 個
・シュクルの実 ×5 個
・鎧ネズミの外殻 ×35枚
・蜂蜜瓶(中) ×5 個
・溶解液(大) ×2 個
・蜂蜜漬け(中) ×3 個
・ハチミツトリートメント×30個
・世界協定宛勘定帳 ×1 冊
その他、調合・調理用具、召喚珠など。
※これからは定期的に道具一覧を出しますです。
おまけ的要素ですのでよろしくですヽ(・ω・)ノ
→
40
お気に入りに追加
3,685
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。






久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる