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首都ラッタディア、変人達のから騒ぎ編
4.調査?そのまえに獣人娘だろうがァ!!
しおりを挟むここは宿屋。しかも、とってもお高い宿屋だ。
もちろん、俺達が選んだ宿ではない。シアンさんが宿代を奢ってくれると言うので付いて言ったら、こんな凄まじい宿に来てしまったのである。
驚くなかれ、シアンさんが全額負担で用意してくれた宿は……アラビア風の建物にぴったりの調度品を誂えた、ハイグレードな高級ホテルだったのだ。
しかも、部屋に風呂はあるわ温室はあるわ果物の盛り合わせが置いてあるわで、見るからに「どや、高級リゾートやろ?」な様相だけども……残念ながら、俺達はそれを素直に喜べなかった。
「まさか……『試してみない?』って言われるなり遺跡調査に派遣される事になるとは……思っても見なかったな……」
「ツカサ君、なんで二つ返事で引き受けちゃったの」
「だって……だって、例え相手がお婆ちゃんでも、美人にお願いされたら断れないんだもんっ! 宿代食事代全部手配して貰っちゃったんだもん!!」
「ツカサ君たらもう! この女好きっ、堪え性なしっ!!」
「甘受します! その罵り甘受します!」
だってだって、美女に笑いかけられたら頭を横には振れないじゃん。
聖母の様に微笑まれて、頷かない訳には行かないじゃん!
俺十七歳よ!? エロ広告の一文で妄想しちゃうような多感なお年頃よ!?
多感な俺には美老女の微笑みでもキュンと来ちゃうのよ!
ていうかこちとらもう二ヶ月以上エロ画像やグラビア写真とご無沙汰なんだよ、もう俺のアンテナ変な方向に振りきれちゃってんだよ!
同情するならオカズくれ、幾ら男に掘られても女が好きなんだよ俺は!
だから……いや、うん。だからって訳でもないけど、そんな感じな俺なのでつい二つ返事で内容も聞かず「行きますぅ」なんて言っちゃったんだけど……。
「はあ……しかし、二日後に出発って……どう考えても、遺跡調査の人員が足りないから駆り出されただけだよな」
「絶対にそうだよ。あのクソババアはいつもこうして人を騙すんだ。だから言ったのに……僕、シアンの事は好きじゃないって」
「うーん、ようやくお前が言った事の意味がなんとなく解った」
シアンさんは、人を使役する事に物凄く長けているんだろう。相手の勢いに押されて何でも受け入れているように見えても、その実、全ては彼女の思い通りに動くように計算しているのだ。故に、彼女は慌てない。何でも受け入れて流す。
つまり、彼女は何を言っても暖簾に腕押しを貫く究極の受け身エルフなのだ。
彼女に出会ったが最後、最終的には誰もが言う事を聞く羽目になる。
ブラックが彼女を苦手と公言するのは、自分の思い通りに動けないからってのと……毎回手玉に取られてムカツクからなんだろうなあ。
「まあでも受けちゃったもんはしょうがないよ。それに俺は遺跡初心者だし、玄人が同行するってんなら心強くもあるし」
「そりゃそうだけどさあ……調査隊の行先って……下水道だろ?」
うんざりしたような顔のブラックが、ベッドに倒れ込む。
ぐう、その気持ちは解らないでもない。でも下水道じゃないぞ、地下水道だ。
シアンさんに提案されたのは、『未踏のままである地下水道の中枢部探索』……この古代都市ラッタディアの下を流れる暗渠――地下水道に存在すると言う遺跡を調査する一団に加わるという物だった。
地下水道に遺跡? と最初は思ったけど、良く考えたら古代の下水道なんてわりとロストテクノロジーだ。ライクネスはともかく、アコール卿国には下水道による汚水の排出システムなんて無かったから、失われた技術には間違いないだろう。
下水道が古代ダンジョンって、どっかで聞いたような話だが……それは兎も角。
この点から考えれば、地下水道も古代の遺跡と言って間違いはない。
だから、下水浚いという訳では無いんだけどね。うん。
しかしブラックは納得いっていないようで、ベッドの上でじたばたしていた。
アンタ、シアンさんと会ってから精神年齢低くなってませんか。
「ぬううぅ……やっぱり納得できない……。どぶ浚いなんてどう考えても嫌がらせじゃないか。ツカサ君、僕もう一度シアンの所に行って来るよ」
「シアンさんって【世界協定】の仕事で忙しいんじゃないの?」
「忙しいもんか。シアンの通常業務は世界の監視だけだよ? 予知能力以外は部下にやらせりゃ事足りる。予知だって不意に来るものなんだ、きっと今頃茶でも飲んでゆっくりしてるさ。そうに違いない」
そうに違いないって……こんなにプンスカしてるブラックは初めて見たな。
俺が見た限りでは、シアンさんと仲が悪いようには見えなかったけどなあ。殺すなんて物騒な事言わない分、どこかで信頼はしてるんだろうし。
このオッサン、気に入らない相手だとすぐ「殺して良い?」とか言うけど、シアンさんには言わないもんな。クロッコってエルフ美青年には殺意を向けてたけど。
だから俺としてはブラックのシアンさん嫌いも微笑ましいんだけど……。
うーん、しかし、こうもじたじたしてるブラックを見ると、何だかカーチャンの言う事にダダこねてる息子に思えてきた。
「中年なのにママにダダかあ」
「何か言ったかな」
「ん? い、いや? てか、行くなら一人で行けよ」
「ええっ、付いて来てくれないの!?」
何を驚いてるんだろうかこのオッサンは。
「だって俺達もうシアンさんが全額負担してくれた宿屋に泊ってるし、 地下水道なんて腐食の森に比べりゃマシに違いないだろうし……。これで文句言いに行ったらすげー恩知らずじゃね?」
「宿は変えればいいじゃないか」
「俺が今更この快適空間を手放すとお思いか」
「ううっ、裏切りものー」
「泣いたってダメ。一度決めたんだから男に二言は無い!」
びしっと言ってやると、ブラックは目尻に涙をためながら後退った。
そして、そのままじりじりとドアの方へ向かって、走り出す。
「ツカサ君のばか! でも大好き! 明日の朝帰ってくるから大人しくしてるんだよ、出歩いて知らない人に犯されたらお仕置だからね!!」
「なにその捨て台詞!?」
いやに具体的な台詞言うのやめてくんない!?
思わずツッコミを入れたが、ブラックは泣きながら出て行ってしまった。
物凄く消化不良だけど……まあ、出て行ったならよしとしよう。
「……しかし明日の朝か……。となると……」
半日分、俺には余裕が出来たって訳だな。
ニヤリと笑うと、俺は早速外出の準備を始めた。
ラッタディアの飲み屋街。そこはまさしく桃源郷だ。
夕方近くになって灯される水琅石の街灯は道を明るく照らし、大通りに向かって扉を開く飲み屋や妖しいお店は、客を呼び込むかのように活気ある音でそぞろ歩く客を誘っている。
道に溢れる宣伝看板や呼び込み人を見ていると、繁華街ってのは俺の世界とそう変わらないもんだなと思い知らされる。
違う部分があるとすれば、ここはアラビアンな建物ばかりで……それでいて……いかがわしいお店は、俺みたいなガキでもウェルカムって所だけだ。
そう。ここは俺にとっても桃源郷の繁華街。
話を聞いた時から何度も何度も夢に見た、ファンタジー万歳のえっちな店が沢山ある場所なのだ!!
「ヒャッハー! ついについについに来たぞ夢の国! この飲み屋街にある猫耳の看板の店が俺の願いを叶えてくれる場所なわけね!?」
ブラック……いや、鬼の居ぬ間に大豪遊とはよく言ったもんだ。
ロクも寝かせて来たし、この日の為に溜めて来た軍資金もしっかり持った。
繁華街ではスリに出くわすって言うから、肌身離さず対策もばっちりだ。
さあ、いざ行かん! 夢のお店へ!!
「うおー、しっかし人が多いな」
ごったがえすって程じゃないけど、でも今まで旅してきた街から比べれば大盛況だ。歩いている人達の髪色も千差万別だし、俺みたいな黒髪もちらほらいる。
時々だけど、耳がちょっと尖ってたり魔族っぽい人もいた。
獣人もいるんだろうけど……みんな背が高すぎて見えねえ。
まあ男なんかどうでもいい。俺は獣人娘に会いたいのだ。
雑踏をかき分けて進み、飲み屋街の端の方まで来ると、やっとお目当ての看板が見えて来た。猫耳で、ピンク一色に染まった可愛らしい看板。あれだ、あれが俺が来たかった店だ!
「やった! ……って、わりかし人少ないな」
飲み屋街の入り口や中心に比べると、端の方は人が少ない。
っていうか、猫耳の店の周りには人がいなかった。
他の店の前には結構人がいたりするのに、なんでだろう。
入り口の前までやってくると、扉に妙な但し書きが張られているのに気付いた。
「うん……? なんじゃこりゃ」
但し書きには、こう書いてあった。
【ご入店する前に】
・貧弱な方、腕を折られても知りません
・下品な方、殴り飛ばされても知りません
・金の無い方、先に言って下さい
・差別主義者、殺す
以上の事をご留意の上、お入りください。
「…………世紀末乱世を再現するお店かな?」
この但し書き、上の二つは俺にガッチリ当て嵌まるんですけども。
俺、もしかして複雑骨折でお店の外に放り出される可能性あるのかな?
どう考えても危ないよね、危ない店だよね、ここ。
最後に「殺す」ってはっきり書いてあるよね。そりゃ人が近寄らないよね。
いいのこれ。お店として大丈夫なの。
「ど、どうしよう……でも、折角ここまで来て帰るのもなんだし、もしかしたら……もしかしたら、ちょっとした脅かしって可能性もあるし……!」
ええい悩んでても仕方ない!
俺は覚悟を決めて、店の扉を開けた。
ガチャ、と音がして――店内の怪しげな光が漏れ出してくる。
その紫の光の中に一歩踏み込むと。
「いらっしゃいませー!」
男の低い声による挨拶が、元気よく俺に放り投げられた。
一瞬、失敗したかと思ったが……
俺の目の前に広がる光景は、やはり天国だった!!
「いらっしゃいませ~!」
男の声に釣られるように、色んな席に座って接客をしていた女の子達が声を上げる。その女の子達の頭を見て、俺は感動に震えた。
「はっ、はぁああ……!! 良すぎるぅ……っ!」
いかにも大人のお店って感じの丸い箱みたいなイスとテーブル。
人があまりいない場末のスナックみたいな店にいるのは、多種多様な獣娘達だ。
猫耳犬耳キツネ耳、牛に馬に兎にと、スタンダードな耳はばっちり網羅。中には耳が尖った角が生えてる人もいて、魔族もちゃんと在籍しているっぽい。
しかもみんな可愛いか美人。俺は初めてこの美形の多い世界に感謝した。
「お客さん初めてですね、可愛い~! えへへ、いらっしゃいませ!」
高い声で可愛らしい犬耳の美少女が近寄ってくる。
茶色い垂れ耳、ふわりと整えられた金髪、しかも純白のロリっぽいドレスとくれば、あまりに狙いすぎて「萌え殺す気か」と逆に怒りたくなる。
思わず鼻の下が伸びそうになるが、キリッと抑えて俺はエヘエヘと笑った。
「そ、そうなんです……というか俺、こういう所自体初めてで……」
「ほえ~、そうなんですか! えへへ、初めて大丈夫ですよ、安心して下さいね! ウチは明朗会計健全運営、世界協定お墨付きの真っ当なお店ですから。さーさー、まずは座って!」
どうぞどうぞと促され、俺は逆らわずに付いて行く。
純白のドレスからぴょこんと飛び出した尻尾がぱたぱたと動いていて、もう本当その尻尾が可愛すぎて頬擦りしたかった。しないけど。俺殴られたくないからしないけど。頑張れ俺、頑張れ。
比較的店の真ん中に在る席に通されると、すぐに牛耳をつけた美青年の店員さんがやって来た。イイヨイイヨ、今なら男でも許すよ。
牛耳可愛いじゃない。俺牛耳も好きよ。
「当店にようこそお越し下さいました。初来店のお客様という事で……外の張り紙以外にも少し注意がございますので、ご説明させて頂いてよろしいでしょうか?」
「あ、はい」
なんだ、まだあるのか。
入店してから「ハハハ馬鹿め、ここはぼったくりだ!」とか言わないでくれよ。身ぐるみ剥がされない程度の金は持ってきたけど、そういう怖いの嫌だからな。
とか思っていたら、まず先に説明されたのは料金の事だった。
この辺りの説明は、指名料とかメニューが割高なお詫びとかだったからちょっとホッとした。てか割高な事も一々説明してくれるんだ。俺の世界の水商売より優しいじゃん。メニューを見せて貰ったけど、別に酒場とあまり変わらない値段だったので、俺は快く了承しておいた。
「で、指名する女の子の事なのですが……獣人と言う種族上、彼女達には獣としての習性が有ります。猛獣でしたら、その……失礼ですがお客様の様に華奢で可愛らしい方だと、怪我をしてしまう可能性が有りますので……初めてという事でしたら、大人しい獣人か魔族をご指名頂くのが一番かと」
「あ、そっか……獣人って俺達より力ありそうですもんね」
「はい、彼女達も本意ではない怪我をさせてしまったりしますので……」
うんうん、良く解るよ。だって漫画でみたもの。
獣人やオークな女の子は、力持ちだからつい人間を振り回して怪我させちゃうんだ。後で必死に謝ってくれるけど、その必死に謝る姿がもう可愛くて……。
「お、お客様?」
「あっすいません、いや、獣人も大変だなあって思って」
妄想に耽りそうになっていたとは言えず、マイルドに取り繕ってみると、牛耳の美青年は目を潤ませて尻尾をぱたぱたと大きく振っていた。
「左様でございますか……! うっ、うう……お客様はとてもお優しい方なのですね……!」
「だ、大丈夫ですか」
「ふぐっ、し、失礼致しました……大丈夫です……! で、ではご指名はいかがいたしましょう。今日はお客様が少ないので、ご自由にお選びいただけますが」
「えっ、ま、マジっすか」
思わず店内を見回すと……四方八方から、俺に視線が突き刺さった。
うるうると潤んだ目から、挑発するような色気のある目、そしてどこかキラキラしている真っ直ぐな目……。見渡す限りに広がる人外娘パラダイスに、俺は思わずめまいを覚えた。
ああ、決められない。
こんな大っぴらにけもみみ萌えーとか言える日が来るなんて。
感動に浸っていると、痺れを切らしたのか客についていない女の子達がどっと俺に近付いてきた。あああそんなに沢山っ、駄目です、もうダメです、俺鼻の下伸びちゃいますぅうう!!
「お客様、私を指名してくださいっ!」
俺を求めて方々から綺麗な手が上がる光景を見て、俺は今までの苦労を忘れ咽び泣いたのだった。
→
※……BLの受けがこれでいいんでしょうか(´^ω^`)
この展開だと流石にアレなので、次は二本立てです。えろはなし。
更新が夕方ではなく夜になるかもしれませんが、宜しくお願いします。
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