異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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首都ラッタディア、変人達のから騒ぎ編

1.数週間あればスキルくらい増えるさ(震え声)

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※今回は転移もので定番であろう主人公のスキルと持ち物の確認回です。
 ちょっと実験的にやったので変だったらすみません(;  ・ω・)




 みんなー、オナ禁効果って知ってるかなー?
 うん、そうだね。なんか知らんけど色々捗るようになるって奴だね!

 でも、世の中にはオナ禁すると逆に最悪な状態になる人がいるらしいよ!
 例えば人のケツ借りて気持ち良くなる中年とかね!

「ツカサ君、よく僕の隣でニコニコしてられるね……」
「いつも通りの顔なんだけど……お前被害妄想強くなってないか」
「許されるなら今すぐ二度目の約束行使したいくらいだよ……」
「やだこの人話通じてない」
「キュゥ~」
「そうだね、ロク。無視が一番だね」

 こりゃアコール卿国きょうこくの時の比じゃないな。とか思いつつ、俺は無視を決め込んで、馬車の前方に見える風景を眺める。何度目かの馬車からの景色だけど、見える物はいつも違って新鮮だ。特に、南の端の方まで来るとかなりの変化だった。

 木々の中に南国の植物がぽつぽつ混ざりはじめ、空気も暖かくなってくる。
 ここまでくれば植物も西とは違う物が見られるかな。
 考えるだけで無意識にワクワクしてくる。

 それに、なんと言ったってもうすぐハーモニックの首都・ラッタディアが見えてくるのだ。これがはしゃがずにいられるか!
 いやーこの数週間、本当に長いようで短い旅だったぜ。

 俺は微かに甘い空気を思いっきり吸い込んで、ゆっくりと吐き出した。
 この匂い、田舎のばあちゃんの所で嗅いだ五月の香りみたいだ。
 山の中だと、綺麗な空気に乗って蔦や花の香りがふわっと漂って来るんだよな。都会の空気とは全然違うからよく覚えてたけど……まさかここで思い出すとは。

 ハーモニックは日本と違ってカラッとしてるけど、その分過ごしやすい。
 こういう国ってリゾート地とかそういう感じなんだろうなあ。

 とかなんとか考えてウキウキしながら到着を待っている俺に、ブラックは恨めしそうな声を掛けてテンションをダダ下がりさせてくる。

「なんで約束を果たして貰おうと思ったらその度に邪魔が入るんだろうね……折角宿に泊まっても疲れ切って寝ちゃうし移動時間考えたら無暗に襲えないし、その他諸々の事情で手が出せなかったし!!」
「あーもー煩いなっ! 良いじゃん、そのおかげで懐もけっこー潤ったし、馬車も貸して貰ったしさあ……っていうか無暗に襲うってテメェ」
「こうなったらラッタディアに到着するなりまた宿に……」
「入らない! まず先に【世界協定支部】に行って、シアンさんに会う約束を取り付けるって話しただろーが!」
「う、ううう……用事が憎い……」

 ギリィと言わせんばかりに歯を噛み締めて涙を流すブラックをみつつ、俺はこの数週間を思い返した。うん、確かに色々あったなあ。

 バラッカに入るなり【緊急招集】とかいうギルドの強制参加依頼に巻き込まれて集団でロバーウルフ退治に行ったり、その途中俺が何度もナンパされたせいかブラックが一人ずつ半殺しにしようとしてたり。
 しかも、バラッカの次の街でも騒動が色々あって大変だったよなあ。

 まあそのおかげで懐は潤ったし俺の薬も売れたし、ついでに俺は術の練習も出来て充実してはいたけど……。
 でも本当、ハーモニックの人達にはまいった。

 性にあけっぴろげな国なのか、それとも冒険者が多いからなのか、ハーモニックって国は男色イベントに事欠かない。
 俺はラッキースケベの国だと思ってたけど、そうだよな。獣人娘や魔族のお姉さんが働くくらいリベラルな国なら、色々おおらかなんだよな、うん。

 俺のケツ触るくらいは挨拶なんだろう。最初やられた時は思わず殴ってしまったが。っていうかブラックが思いっきり剣抜いてたが、それはともかく。

 そんなだからブラックは余計にフラストレーションが溜まったようで、バラッカから逃げ出すように移動したときにはもうこの状態になっていた。事態を重く見た俺は、薬屋の鑑定で最高品と箔押しして貰った睡眠薬を使い、この数週間事なきを得て来たのだが……。

「まあ、街に到着するごとに面倒事に巻き込まれて、その都度疲れて寝るか睡眠薬で寝るかって続けてれば、そりゃ溜まるよな……」
「なんか言った?」
「な、なんでもないでーす」

 慌てて取り繕い、俺は馬車を操ってるお爺さんに声をかけた。

「お爺ちゃん、もうすぐ着く?」
「ああそうだよ。もう半時くらいでラッタディアに到着しますよって」

 このお爺ちゃんは、ラッタディアに向かう途中で助けた御者さんだ。
 盗賊に馬車を盗まれたというので、俺とブラックが盗賊をとっちめて馬車を返してあげたのだが、それの恩返しって事で、俺達を馬車で運んでくれている。勿論、その間もブラックは禁欲だ。

「ところでクグルギさん、ラッタディアに着くまえに教えておきたいんだがね」
「ん? なに?」
「ラッタディアではあんまり、曜術師だって言わねぇほうがいい。南の端と北の端は【気】が少ねぇせいか、曜術師が中々生まれなくってなあ。だもんで、うっかり日の曜術師って言うと、ほれ、おめえさんみたいな細っこい子だとすぐ攫われちまうよ。ライクネスの奴隷なんて比じゃねえくれぇ酷でえことされちまう」

 ら、ライクネスの奴隷制度以上……?
 青ざめた俺に、馬車馬のヒッポちゃんがムヒーと鳴く。

「まあブラックさんは大丈夫だろうけんども、あんたはくれぐれも気を付けてな」

 のんびりしたお爺ちゃんの言葉に、ぎこちなく頷く。
 えっと……じゃあ、今回も木の曜術師一本で行った方が良い……かな?
 俺が今使える術は、アコール卿国の時よりもかなり増えている。
 戦闘を繰り返したり薬を作ったりする内に、俺もかなりスキルアップしたのだ。それに、わりかしアイテムも増えた。
 あ、そうだ。どうせなら今の内に確認しておこうかな。

「ブラック、ちょっと馬車が狭くなるぞ」
「えっ、また取り出すの? まあいいけどさぁ……そのスクナビ・ナッツって奴、便利だけど出す時迷惑すぎない……?」
「そりゃそうなんだけどさ。宿を決める前に色々出歩くんだし、無暗に出すわけに行かないだろ? なら、今の内に整理しとかないと」

 腰に付けたポーチを開きつつ、俺は自分の能力も改めて確認した。

 今の俺は、六つの曜術と三つの気の付加術が使える。

 気の付加術は、物を浮かせて操る初級術の【フロート】と、同じく初級術である弱風を作り出す【ブリーズ】、そして新たに覚えたのが、跳躍や走る速度を高める【ラピッド】だ!

 ラピッドはフロートとブリーズを合わせて、足に力を付加する中級術だ。これが有るのと無いのとでは、俺の動きに随分差が出る。
 俺は運動音痴なので、慌てると転んだりして素早く動けないのだ。
 そのせいで戦闘ではかなり足手まといだったし、それに負い目を感じてたから、これを覚えた時は本当に嬉しかったよ。
 いやー、ブリーズも根気よく練習してて良かった。地味な作業の勝利だな。

 そんでもって、木の曜術では初級術【グロウ】に植物を操る【レイン】、そして気との複合術である中級曜術の【メッサー・ブラット】……水の曜術は、初級術で水を作り出す【アクア】と水を操る中級術の【カレント】をマスターした。

 そして……最後の一つ。
 俺は旅をするうちに、水の曜術最終奥義とも言われる上級術【アクア・レクス】を覚えたんだけど……これがかなり意味不明な術だった。

 【アクア・レクス】は、水源や水脈を感知する術だ。認識出来る範囲の全ての水を鑑定し、自分の体と照合して有害か無害かを判定できる。
 そして、この術で認識した水が鑑定できる物であれば、精神力と引換えに自分が認識した全ての水に変質させられる……って事だったんだけど、イマイチ使い方が解らない。

 実は水の曜術ってこの三つだけしか術が無くて、アクア・レクスもすぐに覚えられるワリには水専用の鑑定スキルっぽいので凄いのかすら判定不能だ。
 これだけすんなりだと、本当に最終奥義なのかすら疑わしい。
 でもブラックは「短期間で上級術を習得出来たのは凄い」って言ってたし、上級術には間違いないんだろうな。すぐに覚えられたのは、俺のイメージする能力……操力そうりょくが高いからなんだろうか。

 まあ、使えるに越した事は無いよな。
 とにかく俺もこの数週間で色々と進化したって訳だ。
 無論、薬師としての研鑽けんさんもちゃんと怠らなかったぜ。

 リュックやスクナビ・ナッツからアイテムを取り出して、それぞれ確認する。
 俺が今所持しているのは、調合・調理器具やペコリアとドービエル爺ちゃんから貰った【召喚珠】、そして携帯百科事典と【縁故の腕輪】に、野宿をする道具やら食料やら狩猟用のナイフなどだ。

「えーと……そんで、薬品とかは……っと」

 今俺が持っているのは以下の通り。


 ・蜂蜜瓶(中)×5     (10個売却、2個はおやつ代わりに食べた)
 ・溶解液(大)×2
 ・蜂蜜漬け(中)×4
 ・自家製回復薬(中)×30 (在庫が尽きたので新たに補給)
 ・自家製睡眠薬(中)×1  (用心のために2個目を作りましたとも)
 ・毒消し薬(小瓶)×6   (俺にはまだ作れないから購入)
 ・狩猟用麻痺薬×6     (獣を狩るのに使う為に8個買って2個使用)
 ・包帯1ロール×3
 ・ハチミツトリートメント×30(蜂蜜を2個消費して30個新たに作成)
 ・空の瓶(合計)×80    (買い足したよ!)
 ・小さな弓


 結構増えたと思うんだけど、やっぱゲームで言ったら初期装備もいい所だよな。因みに弓は俺の武器にして初装備。俺は剣を振るうのがどうしても苦手だったので、弓術を習う事にしたのだ。もちろん、師匠はブラックである。

 弓なら敵に突っ込まなくていいし、弓矢は【グロウ】ですぐに作れる。草が有る場所なら弾数は気にしなくていいので、俺には最適なのだ。
 その証拠に、練習したら十発中四発くらいは的に当てられるようになったしな。
 
 にしても、ブラックってセクハラ変態中年のくせに本当色々知ってるよ。
 凄い家に居たから、勉強とかもかなりやらされてたのかな?

 まあそれは置いといて、売ろうと思っている道具を残して後は収納だ。

「えーと、こんなもんかな」
「それにしても、ツカサ君も結構上等な曜術師になったよね。水の曜術は全て覚えたし、木の曜術も今なら二級に上がってもおかしくない。ラッタディアに着いたら昇級試験を受けても良いかもね」

 やっと被害妄想が治まったのか、ブラックが嬉しそうに近づいて来る。
 俺の術は全てブラックから教わったものだから、ブラックとしても俺が強くなるのが嬉しいのかな。

 ……うん、まあ。師匠としてだよな。うん。

 何だか妙な気持ちになったが、それを振り払って俺は道具をリュックに収める。さて、これで仕分けは終わりだ。街に着く前にこうして整理しておけば、後で慌てて出し入れしたりしなくて済む。

「クグルギさんがた、ほれ、ラッタディアが見えてきましたぞい」
「えっ、ホント!?」

 お爺さんの声に、俺達は思わず御者台に駆け寄る。

「うわっ……海だ……!」

 疎らに草の生える丘の向こう、木々を豊かに生やしたオアシスのような街の背後に、キラキラと光る水平線がはっきりと見えた。
 あれは……この世界で初めて見る海だ。
 俺の世界と同じように蒼くて、広くて、凄く輝いている。

「はは、海か……久しぶりに見たな」

 ブラックの言葉に、軽く頷く。
 頬を撫でる風は暖かくて、微かに潮の匂いがした。











 
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