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アコール卿国、波瀾万丈人助け編
10.ギルドの依頼は優しくない
しおりを挟む拝啓お婆ちゃん、俺とえっちしたいと豪語する気味悪い中年男がノリノリです。
その上、街が見えた途端にはしゃぎだしやがってウザイです。
こんな奴に今から三回犯されるのかと思うと、軽く死にたくなります。
調子に乗った中年に拳を食らわせて反省させるにはどうしたらいいでしょうか。
無理でしょうか。インポッシブルでしょうか。
再び会えた時にハードゲイになってたらごめんなさい、では。かしこ。
「ツカサ君なに遠い目してるの?」
「うん、辞世の句みたいなものを考えてた」
「ジセーノク? 異世界の怪物かい? それより見てご覧よ、あれが【セーナス】だよ。流石に大きいねえ」
「……まあ、確かに」
アコール卿国の中心付近に位置する大都市・セーナスは、南方の国境近くにある都市と首都を結ぶ交通の要所だ。
自給自足の国とは言え、アコール卿国はライクネスへの通り道だし他国にも面している為、小さな国であるにも関わらず大規模な都市が造られていた。また、この中継都市はアコール卿国に点在する村の農作物を集める場所でもあり、巨大な市場が開かれている。冒険者も多くて、賑やかな都市なんだとか。
交通の要所って事はかなり人が入り乱れてるってことだから、宿も結構ありそうだな。それなりに綺麗で安い宿が見つかればいいんだけど……。
良いんだけどって言うか、本当は入りたくないんですけどね街に。
オレ、ホラレルノ、コワイ。
「ツカサ君なに暴れ猿みたいな顔してるの。さ、早く列に並ぼう」
暴れ猿ってなに、と聞こうと思ったが、道の先を見て俺は口を噤んだ。
徐々に見えて来た街の入り口には、ずらずらと人が並んでいる。
幾つか列が有るが、あれは街に入る目的別に並んでいるんだとか。一番待ち時間が長いのは、物を色々と持ってくる行商やら商人やらの列だな。
「僕達は冒険者だから五番目の列。今日は空いてるみたいだ、運が良かったね」
ベッドでは寝たいけど街には入りたくないぃいい。
複雑な気分のまま、俺達は数十人くらいしか並んでいない列へと加わった。冒険者は人によって検問の時間が違うらしく、進み方はかなりランダムだ。けれどそう待つ事もなく、俺達は数十分程度で兵士の前へ通された。
「セーナスへようこそ! ええと、じゃあメダルを見せて貰えるかな」
若く精悍な顔つきをした兵士が、ペンでなにかを書きつつ問うてくる。
素直にメダルを見せると、相手はそのメダルに触れた。
おっ、この人が噂のメダル鑑定士なのか。初めて見た。
「ふんふん、赤い髪の貴方が月の曜術師で、君が日の曜術師……って君達凄いな。二人揃ってるのは初めて見たよ」
「珍しいんスか」
「ああ、月と日は存在自体珍しいし……なんだろうなあ……そもそも曜術師って、術師同士で仲良くしないんだよなあ。他にも仲間が居るなら兎も角、君達みたいに二人で旅してるのは珍しいんだよ。しかも君ら属性が違うだろ? 普通なら、属性が違うともうそれだけで険悪でさ。検問するこっちもコワイのなんのって……」
属性が全く別。と言うと、ブラックとラスターみたいなもんか。
確かに仲が悪かったなあ。俺を取り合うとか言う行動もそうだけど、ブラックは完全にラスターを僻んでるし、ラスターはブラックの事を見下して憚らなかった。あれは身分の違いって言うより元来の性格故って感じがする。
俺の証言だけなら「思い違い」で済むかもしれないけど、何千人も通行人を見てる兵士が言うんだから、俺達は本当にレアケースなんだろう。
いや、こんなレアケース嫌ですけどね。
「僕達は特別なので」
あっ、おいコラクソオヤジ、俺の肩勝手に抱いてんじゃねー。
兵士のお兄さんもほうとか言わない! 納得すんな!!
「そうじゃないかとは思ってたが……アンタ羨ましいなあ~。こんな若くて可愛い嫁さん貰って二人で旅してるなんて。そりゃ仲が悪いはずないよなあ、畜生、俺もあやかりてえ……」
「はっはっは、そうでしょうそうでしょう」
「違いますぅうううう」
このコントいい加減やめませんか。何度もやったら新鮮味が薄れてすぐ一発屋芸人になりますよ。天丼も度が過ぎると美味しくないんだよ。
疲れ果てる俺に構わず、二人は話を進めていく。
「で、街にはどんなご用事で?」
「とりあえず採取した物の売買と……出来ればギルドに向かいたいなと。あとは、所用を済ませたら出立します」
「はいはい、それじゃ短期滞在の印を付与しておきますねっと」
そう言いながら、兵士はハンコらしき物でメダルに印をつけた。
だけど、返して貰ったメダルには何も変化がない。
「印は一か月以内の滞在用です。一か月を過ぎると印が浮かび上がって身分の項目が隠れてしまうので、ご注意くださいよ」
「要するに身分を示す事が出来なくなるってこと?」
「そうそう。街に一か月以上いるつもりなら、役所で印を変えて貰ってくれよな。あと、一週間街を出ると印が消えてしまうから、この街に戻ってくるならまたここに並んでくれ」
海外旅行とかのビザみたいなもんかしら。
でも、ライクネスではこんなのされなかったよな。大抵ブラックがメダルを見せるとほいほい入れてくれたし、観光地はビザなんていらなかったしなあ。
不思議に思いつつも、俺達は礼を言って街の中へ足を踏み入れた。
セーナスも、ラクシズと同じように綺麗な石畳が敷いてあり、煉瓦の家が並んでいる。けれどセーナスは馬車などが通るせいか道は広く、家々の隙間にある路地は殊更狭く見えた。大通りには商店や露店が並び、ライクネスやザドの砦では見かけなかった品物なんかが溢れている。
他の国のものなのかなー。凄く気になる。
「ツカサ君、まずは宿を探そうか。どんなところが良い?」
「ベッドが二つでメシが美味い所」
「えー、ベッド一つにしない? そっちのが安いよ?」
「お前と一緒に寝たら三度の約束だけじゃ済まなさそうなので絶対嫌だ」
「つれないなあ……」
おバカ! 俺の体力も考えろよこの絶倫オヤジ!!
今朝だって擽られた余韻がまだ治まらなくて、出発するのが遅れたんだからな。一般人の俺と体力有り余る中年を比べるんじゃない。
そんな思いを込めて睨み付けると、ブラックはバツが悪そうな顔をしたものの、やれやれとでも言いたげに大きな溜息を吐いて頭を掻いた。
「まったく、ツカサ君の恥ずかしがりにも困ったもんだねえ。……まあ、いいや。機会はいくらでも有るんだし……」
「おいお前また怖いこと言ってんじゃねーぞ」
「中心から少し離れるけど、ギルドに近い場所なら安いかな。さ、行こう」
「無視か、無視なのか」
都合が悪くなるとすぐ聞こえない振りをするとは。この野郎やっぱり良からぬ事を企んでやがるな。街に居る間は警戒しとかなきゃヤられる(性的な意味で)。
いざとなったらロクかペコリアに助けて貰おう。うん、そうしよう。
ロクと一緒にブラックの背中を睨みながら、俺達は宿へと向かった。
セーナスの宿は、多種多様だ。
民宿も有ればホテルもある。もちろん価格も様々で、その辺りは俺の居た世界とあまり変わらない。俺達が泊まる民宿っぽい宿屋も、安い代わりに食事やサービスはナシとそれ相応の不便さはあった。まあ、街だし食事は外で取ればいいから良いんだけどな。
でも、そんな事をしていたらいつかは金が尽きてしまう。
外食もタダじゃないし、美味い物を食おうとすると高くつく。
ただ普通に生活をするだけでも金は浪費されていく物なのだ。
なので、俺達はギルドで仕事を受けることにした。
蜂蜜や回復薬も後で売ろうと思っているが、それだけじゃ路銀が心許ないしね。
「と言う訳でギルドにやっては来たけど……」
「いざ選ぶとなると、難しいね」
ラクシズとまったく変わりない、木造の酒場併設ギルド。
そのギルドの掲示板の前で、俺とブラックは難しい顔をして突っ立っていた。
……金を稼ぐと言っても、無謀な事はする気はない。俺は堅実に稼ぎたいのだ。ブラックもそれは理解しているようで、顎をさすりながら唸る。
「簡単な仕事、かぁ……中々無いねぇ……」
矯めつ眇めつで依頼を睨むブラックを見て、俺もどうしたものかと首を傾げた。
ブラックに聞いたところによると、依頼の受け方は俺がよく見ていたネット小説や漫画なんかの方法と変わらないらしい。
掲示板の張り紙を見て、気になる物が有れば剥がして受付に持っていく。んで、ギルド委託の依頼ならギルドで手続き、個人依頼ならその人の家に行ってやりとりをするのが一般的だとか。
依頼の内容も様々で、冒険者の能力によっては受けられない物も有る。
そのため、依頼の張り紙には【制限なし】、【要技能】、【特殊】と但し書きが付いていた。
じゃあ、薬草集めの依頼は制限なしの部類だな。
なーんて俺は思ったのだが……認識が甘かった。
この世界では、そういう楽な依頼は存在しないらしい。
嘘だと思ったけど、マジ。
薬草は冒険者が小遣い稼ぎでせっせと取ってくるから、依頼する必要がないんだと。仮に依頼があるとすれば、入手困難なものか、品質に明確な希望があるものに限られるらしい。んなもん査術もまだ使えない俺には無理だ。
当然それらは【要技能】に指定されていた。
品質を見分ける目も【技能】として扱われるらしい。【目利き】って資格が有る訳じゃないらしいが、まあ、それも技能って言えば技能だもんな。
そうなると、この世界では「どこそこの街まで行って○○を買う」ってのが一番楽な依頼となる訳だけど……それでも日数がかかるし、買ってきた物の品質にケチを付けられ報酬を値切られたりして、ワリに合わない事が多いんだとか。
それ詐欺に近くね……?
「じゃあ、何が一番初心者向けの依頼なんだ?」
「うーん……討伐と言っても、この辺りじゃあ遠出になっちゃうしね。近場は地下水道のモンスター退治とか、結構汚れ仕事になるんだけど……それはねえ」
「最後の手段って奴だな……」
下水道のモンスターって嫌な予感しかしないんだけど。
ヘドロ系の怪物とか相手するの絶対嫌ですよ俺は。
しかし選り好みできる身分ではないし……と悩んでいると。
「あ、もしかして今日来られた曜術師の方ですか?」
背後から声を掛けられて、俺達は振り返る。
そこには――ギルドのお約束、麗しき受付嬢が恥ずかしそうに……そりゃもう、恥じらいが常と言わんばかりに顔を赤くして突っ立っていた。
巨乳、眼鏡、銀色のロングヘアに緑翠の瞳。最後に泣きぼくろでトドメですわ、本当最高ですわ。美少女なのに大人な雰囲気持ち合わせてるとかアカンですわ!!
ああもうこれは紛う事なきギルドの美少女受付嬢キタァアアアア!!
「君は……ギルドの?」
「は、はい……私、ギルド受付嬢のサニアと申します。あの、兵士の方から、木の属性を含む日の曜術師さんがいらしたと連絡を頂きまして……」
「え? な、なんでですか?」
俺悪いことしたっけ?
興奮を隠しつつサニアさんに向き直ると、相手は恥ずかしそうにチラチラと俺を見ながらも、話を続ける。
「あの……実は、折り入ってご相談したいことがありまして……。木の曜術師さんに向けての、あの、ある方からの個人依頼があるのです」
「ある方って……」
「く、詳しくは別室にてお話し致します。あ、あの、ついて来て下さい……!」
白い頬が真っ赤に染まっているのが凄く可愛い。サニアさんは照れ屋なのかな。受付嬢で照れ屋って結構仕事がしんどそうだけど大丈夫かな。いや、でもそれがいい。照れ屋なのに受付嬢っていうのがいいんだ。大人な感じなのに照れ屋っていうのがギャップで萌え心を擽るんだよ!!
「ツカサ君、なんでニヤニヤしてるのかな」
「あ、な、何でもないで~す。さ、早く行こうぜ」
「ホントに? ホントになんでもない?」
本当ですよ、何でもないですよ。と必死で興奮を隠しつつ、俺はさっさとサニアさんに付いて歩き出した。
木の曜術師に頼みたい依頼ってなんだろう。難しくなけりゃいいんだけどな。
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