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アコール卿国、波瀾万丈人助け編
5.暗殺命令は神族から
しおりを挟む「今のは……僕の依頼主だよ。正確に言えば、その使いだけどね」
「依頼主って……あっ、俺を始末するように頼んできた?」
「そう。ツカサ君が現れる場所の情報をくれた張本人さ」
そっか。そもそもの話、ブラックが俺に会いに来たのって【黒曜の使者】を殺せって依頼が有ったからだったよな。色々あってブラックに水先案内人頼んじゃったけど、そういえばコイツ、本当なら俺を始末しなきゃいけないのか。
今となってはブラックが俺を殺せるとは思えないが、その依頼主の使者がやって来たって事は……やっぱ依頼主が叱りに来たのかな。
いや、待てよ。
「も、もしかして、新たな刺客が送られてくるとか……」
「僕も最初はそう思ったんだけど……ちょっと良く解らないというか……」
「ん? どゆこと?」
「制御できると言うのなら、やってみなさい……だって」
ブラックが弱り顔なのも納得の言葉だ。確かに言ってる事がわけわからん。
依頼人は、俺が【黒曜の使者】っていう災厄を齎す奴だから始末したがってたんだろうに、制御出来たら「生かしておいていいよー!」って何だそれは。
ブラックの依頼主って、出来るだけ人を殺したくない人なのかな。それとも思いつきで色々言っちゃう人なのかな。いや、殺されないなら俺は全然構わないんですけどね。まあ、覚悟決めて殺そうとしてたブラックとしては複雑だよね。
「相手の依頼人って……すぐ考え方変えちゃう人なの?」
「うーん……言いそうではある、かな。僕は彼女達の事は好きじゃないけど、古い知り合いだから……良く考えるとそういう感じだなあとは……」
「彼女たち?」
え、複数からの依頼だったの。俺そんなに沢山の人に死ぬこと願われてたの。
今更ながらに落ち込む事実だけど、まあ、仕方ないよな。俺だって凶悪な怪獣が近所にやってきたら、自衛隊さんお願いしますって祈っちゃうし。
この世界を壊す可能性がある以上、俺は厭われて当然だろう。
……うーん、これで悲劇のヒーロー! とかなら格好いいんだけどな。
実際の俺というと、ちまちま薬作って女の子にモテようとしてるだけだし。今の所刺客はブラックだけだし、ぶっちゃけあんまり悲劇的な感じしないんだよなあ。
つーか今お許し出ちゃったしね。
「まあちょっと生かしといたるわ」的な事言われちゃったしね。
ゆるゆるやんけ依頼人。いや、依頼人“達”か。しかし……その人達って一体何者なんだろう。眉根を顰めた俺に、ブラックは困ったように頭を掻いた。
「うんと……どう言ったらいいのかな……。本当の所、あんまり君に知ってほしくない情報もあって……」
「アンタそういう所正直だなあ。別に今の話に関係ないなら言わなくていいから、ざっくり教えてよ。古い知り合いってのは分かったからさ」
「そ、そっか。ええとね、彼女……依頼人は女性なんだが、その人は【世界協定】の裁定員の一人で……実質的にこの世界を牛耳ってる者の一人なんだ」
世界協定。ラスターが口にしてたな。
確か、この世界のお偉いさん達が集まった法規機関なんだっけ。国を跨いだ揉め事や事件を各国で話し合って解決したり、国際的な事をなんやかんや取り決めるっていう。俺の世界で言う国連みたいなヤツ。
世界協定て、この世界ではかなりの力を持ってるっぽいけど……。
待てよ。その機関の……裁定員……?
「そ、それじゃあ俺……国際的に指名手配されてたりするのか……?」
「いや、大丈夫。ツカサ君がこの世界に来た事は、彼女達しか知らないんだ。……というか、彼女達には隠し通せないというか……」
「どういう事。占いとか予知できる技があるの?」
「そうじゃない。彼女達は神族っていう人型の種族でね。何かこの世界に不都合が起こった時は、彼女達が真っ先に気付くんだよ」
「神族……?」
ブラックの話をまとめると、こうだ。
神族というのは恐ろしく強い力を持つ種族で、その始祖は遥か昔に神に産み落とされたと言う【光の神子】とされる。その伝承が示す通り、神族はこの世界の種族の中でもかなり古い歴史を持ち、神にも等しいとても気高い存在と言われている。
そんな種族だからか、神族は皆驚くほどの美形で頭脳明晰な上、全ての者が曜術を使える。そして何より、この世界を見通せる千里眼というものを備えていた。
だけど、彼らは【神域】と呼ばれる特定の地域にしか住む事が出来ず、外に居るのはキツいとの事で、何千年もその【神域】で引き籠ってるらしい。
存在は広く知られてるけど、彼らを見る事が出来るのは凄腕の冒険者や世界協定の関係者だけ……ってことは、魔族や獣人よりもレアな存在なのか。
「その神族の中でも、外の世界でやっていける程に力が強い人達がいるんだが……その一人が、世界協定の裁定員をやっているシアンって人でね。今回の依頼は、彼女から受けた物だったんだ」
「ふーん……。じゃあ、その神族のシアンって女の人が、俺がこの世界に飛ばされた事を千里眼で察知してたんだな」
「いや、そうじゃない。千里眼は遠方の様子を知る事が出来る能力だけど、予知は出来ないんだよ。君の事を知れたのは、彼女が“先祖返り”と呼ばれる特殊な存在だったからさ。シアンは、その特殊な能力でこの世界の動きを読めるんだ」
世界の動きを読む。さらっと言ったけど、凄くないかそれ。
神族ってだけでもメチャ強そうなのに、それに加えて世界の動きを読めるって、どう考えても支配者層だよねシアンさん。そりゃ世界協定で世界を牛耳ってるわけだよね。うわ、女傑つよい。
「そ、そんな女傑に殺されそうになってたのか俺は……」
「神族の仕事は、世界が平穏であるように保つ事だからねえ……まあ、仕方ないと言えば仕方ないんだけど……。とにかく、シアンはその能力で君の事を知り、僕を引きずり出したんだ。……僕も本当は断りたかったけど……神族が人族に頼み事をする時は、世界が大きく変わる時だから」
――神族が脅威を告げるのは、世界が変わる時。
その言葉に、俺は何故か異様なほどに強い寒気を感じた。
……前に同じような言葉を、どこかで聞いたような覚えがある。
でも、思い出せない。確かに誰かに言われたような気がするんだけど。
この寒気も関係あると思ったが……思い違いだったかな。
悩みつつ、俺はブラックに問いかける。
「……んなら、なんで俺の事を生かしておくつもりになったのかな。もし俺が神族だったら、伝説の災厄を見逃すなんて悠長な事言ってられないよ。相手の素性も解らないんだから、すぐに消そうとすると思うんだけど」
「僕もそう思うよ。でも、神族は良く解らない考え方をする人達だからね……。今だって『なにか質問があれば、ハーモニックへ来い』とか言ってたし……」
えっ、ハーモニック? ブラックさん今ハーモニックって言いました?
獣人娘ちゃんやモンスター娘さんが沢山いると言う、あのハーモニックですか。あの国にシアンさんっていう神族がいるっていいました!?
やべっ、あっ、待て待て、冷静に。冷静にだ。顔を保て、頑張れ俺。
遊びじゃないんだぞ。これは大事なことなんだ。
そう、俺は自分の為にもハーモニックに行かなきゃ行けない。
この力の事が何か分かるかも知れないし、予知能力があるっていうシアンさんに会えば、これからどうすればいいのか教えて貰えるかもだし。
だから、ハーモニックには真面目な理由で行かなきゃいけないんだ。
決してやましい気持ちで行く訳じゃないんだぞ。そう、俺は真面目なんだ。
俺はキリッと顔を引き締めると、ブラックに向き直った。
「ブラック、ハーモニックに行こう」
「ツカサ君」
「ぐちゃぐちゃ言ってても始まんねー。殺される心配がないってんなら好都合だ。シアンさんに会いに行って、色々聞いてみようぜ。もしかしたら俺がどうしてこの世界に飛ばされたのかも分かるかも知れないし! なっ!」
気合を入れて力説した俺に、ブラックは少し驚いたようだったが軽く頷いた。
「そうだね……うん。どうせどこへ行っても彼女達には解ってしまうんだ。決着をつけておいた方が良い。……解った、ハーモニックに行こう」
ブラックは俺の目をじっと見て、ぐっと口を引き締める。
俺もしっかりと見返して、力強く頷いた。
そう、行くんだハーモニックへ。
素晴らしいモンスター娘のいる……じゃなかった。
俺の事を何か知っているかもしれない、神族のシアンさんの所へ!
……いやーしかし、ブラックがさっきの事忘れてるみたいでよかった。
→
※神族・魔族・獣人は人族の住む大陸とは別の所で暮らしてます
ちと短いので20時にもっかい更新しまする( ・ω・)
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