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王都シミラル、貴族の陰謀と旅立ち編
19.砦の街でセクハラ中年と一緒
しおりを挟むこの世界の乗合馬車は少し変わっている。
と、言うのも、引いてる奴がウマじゃないからだ。
いや、この世界ではこの生物も一応ウマに分類されている。されてるんだけど、俺にはどうしてもそいつがウマには見えなかっただけの話で。
何で見えないかと言うと、その馬がカバみたいだったからで。
「か、カ馬車」
「カはいらないってばー。普通に馬車なんだよツカサ君」
俺の隣で呑気に干し肉齧ってるオッサンが突っ込むけど、俺にはどうしてもカバシャとしか発音できない。ていうか、馬いるじゃん。この世界ディオメデっていうちゃんとした(一本角で蹄の所にツメついてる変な)おうまさん居るじゃんか。
なんで馬車がカバなの。いや、正確に言えばカバじゃないけども。
「前にも言ったけど、ディオメデが家畜化されたのは五年前で、なんでものんびり導入なライクネスではまだ普及してないんだよ。他の国でならディオメデみたいな【争馬種】……細身で元々モンスターだった奴らの事ね、その争馬種が馬車のウマになってるかも知れないけど……ライクネスは昔ながらのこのヒポカムでの馬車を使ってるのさ」
ひぽかむ。愛称を付けるならヒッポちゃん……ってやっぱカバじゃん。
確かに顔も馬寄りでシュッとしてるし、全身は長い毛で覆われて普通のカバとは違うけどさ。ヒッポちゃんならカバなんじゃないの……?
初対面で驚いたヒポカムの特徴を思い出しつつ、俺は唸った。
足は象みたいにどっしりしてて、カバよりは長い。口も大きいけど、カバみたいに警戒心強くて獰猛って訳じゃなくて、滅茶苦茶人懐っこい。毛むくじゃらのミニ怪獣みたいで可愛い。でも、カバにしか見えなかったんだよなあ。
ブラックが言うには千年以上前から人が飼い慣らしてきた馬の一種だから、人族のパートナーの一匹と言っても過言ではないとのこと。勿論、牛さんやおんまさんのように老いたら捌いて食うし、年に一度感謝祭も行われてるらしい。
ひっぽちゃん大活躍じゃないですか。
「ヒポカムってどんな味すんのかね」
「脂肪が少なくて噛みごたえのある肉だよ。この干し肉だってヒポカムの肉だし、多分君も食べてると思うよ。流通してる肉の多くがヒポカムの肉だから」
「えっ……そうなんだ……」
「そうそう。すぐ育ってすぐ老いるから。でっかいヒポカムになると、小さな村なら一年くらい肉に困らず過ごせるそうだよ。だから、地域によっては【山くじら】って呼ばれる事もある」
「ちょっとまってこの世界くじらいるの」
この世界のクジラってどういうのなの。変なのじゃないよね。ってか山クジラってイノシシの事だって婆ちゃんが言ってたんだけど、ここではカバなの。
あれ、じゃあヒッポちゃんてイノシシの仲間? ヒッポちゃん馬なのに?
良く解らなくなってきた。あーもー異世界って頭痛い。
「ツカサ君頭痛いの? 大丈夫? キスする?」
「おーまーえーはー最悪のタイミングでバカな事を」
この世界で口付けはキスって言わないって解ってるせいか、ブラックは最近特にキスキス言ってくるようになってしまった。
体のいい隠語のように使われるのがムカツクし、おっぱい無い男に「大丈夫? おっぱいもむ?」みたいな台詞言われるのも殺意が湧くだけだ。
「ねーねーお兄ちゃん達、きすってなあにー」
「ぎゃー! ちびっこ覚えないでー!!」
「あのねえボク、キスっていうのはね」
「テメェも純粋な子供に説明してんじゃねえええええ」
「ちょっとお客さーん騒がないで下さいよぉー」
馬車の外でヒッポちゃんがムヒーと鳴く。
ええい煩い構わないでくれ、こっちは変態の相手でいっぱいいっぱいなんだ。
守れ純粋な青少年。ゴトゴトと揺られる馬車の旅は、そんなこんなであっという間に過ぎて行った。
そうしてきっかり二日後。
俺達はライクネスの隣国になっている小さな国、アコール卿国へと繋がる国境の砦――ザドへと降り立った。
この世界の国境の砦は、道の上に居座るようにして造られている。砦の中は街のようになっており、それぞれの国の側に別々の露店が有るので、一度門を抜けたらすぐに異国情緒とご対面だ。
身元証明なんて面倒、道を逸れて素通りすればいいじゃーんなんて言う不届き者も沢山いるけど、ここで通行許可を出して貰わないと他国のギルドで仕事を貰えなくなるし、公共施設にも入れない。冒険者にとっては、それはかなりの痛手だ。
まあ、入れなくても蛮人街みたいな無法者の溜まり場はあるらしいけど、危ない場所は出来るだけ避けたいよな。
とにかく今は国境を超える前に買い物だ。
俺達は同乗していた人達と別れると、活気溢れる砦へと入った。
「ほえー。砦って吹き抜けになってんだ」
「賊対策だね、上から投擲出来るようにしてるんだよ。二階までは店が入ってる。ああほら、真正面にでっかい一枚岩みたいな壁があるでしょ。あれが境だよ」
言われるがままに真正面を見ると、砦を分断する壁が天まで聳え立っていた。
巨大な門を嵌め込んで壁中に模様を彫り込んである姿は、国境の壁というか古代遺跡の遺物みたいにも見える。上から降り注ぐ陽光に照らされると壮観の一言だ。
異国情緒っていうか、西洋の国から一気にマヤ遺跡に来ちゃったみたいな物凄い変わり様だなあ。
「この砦っていつぐらいからあるの? 凄く古くない?」
「五百年くらい前かな。でも、まだ若い方だよ。古いものになると二千年以上にもなるから。……この砦は、ライクネスの伝統に則ってわざと石造りになってるから遺跡っぽく見えちゃうのかもね」
「はー。なるほどなあ……流石は伝統第一のライクネス」
ってことは、他の国境の砦はレンガとか白亜の城とか色々違うのかな。
しかし……古いもので二千年以上って、この世界ってどれだけ続いてるんだ。
そういえば俺、世界地図とか見た事なかったな。この世界ってどんな形してるんだろう。色々と店が有るんだから、地図とか買った方がいいかな?
俺達は露店を流し見しながら、とりあえず必要な物がないかと探してみた。
武器防具にアイテム。装飾品にお土産に保存食と色々な店があるな。街から距離があるからか、食堂とか果物屋なんかもある。
変り種としては地図屋とか運び屋とか傭兵斡旋所……あと……。
「なあ、蔓屋ってなに」
二階の奥まった場所に在るパチモンみたいな名前の怪しい店に目が留まり、俺はブラックを見上げた。ツタじゃなくてツルって。レンタル屋かな。
そう思って訊いたのだが、何故だかブラックはだらしない顔でオッサン丸出しのやらしい笑みをニヤニヤ浮かべはじめる。
「え、は、入ってみる? いや~、ツカサ君がいいんなら僕はいいんだけど、でもなー、付き合ってまだ少ししか経ってないのにアレはなー」
「付き合ってないし入るなんて言ってねぇ殴るぞ。いいから詳細を言え詳細を!」
「だからねー、それは……」
と、耳打ちされて――――俺は、顔の熱が爆発した。
「な゛っ、なっ、な……っ」
「可愛いなあ……ツカサ君……」
ウヘヘとか気持ち悪い声で笑ってるでれでれした中年を押し除け、俺は必死で顔の熱を取ろうと手で仰ぐ。けど、ちっとやそっとじゃ収まらなかった。
いや、だって、お前。
まさかこんな所に大人のおもちゃの店があるとか思わねーだろ普通!!
しかもコンチクショウ、わざわざ「ツカサ君の○○に使ったり○○に使う道具がいっぱいあるんだよ」ってド変態な詳しい説明耳打ちしやがって!!
バカ! バカ!! お前の声耳に残るんだよ!
「なっ、なにお前わっ、あ、あ」
「娼館に勤めといて今更な気もするんだけど……まああれだもんね、ツカサ君は僕だけしか相手してないもんね! えへへ」
「あああああ公衆の面前でお前はぁあああ」
「ねえねえツカサ君入る? 入る? どんなのが欲しいか僕に教えてご」
皆まで言わせねえぞ。
俺は背負っていたリュックを思いっきりブラックの脳天に叩きつけると、さっさとその場から退散した。ああ畜生もう絶対ここには来ねえ。
ぶっちゃけ異世界ではどんな道具が使われるのかは気になったのけど、こいつが一緒にいる時には絶対入らない。絶対にだ。
……でも、一人になったら行ってみよう。
この世界は未成年なんて概念はないんだ。えっちなお店にも自由に入れるのだ。もしかしたら念願のエロ本が手に入るかもしれない。異世界のエロ本、きっと凄いものが見れるはずだ。幾らなんでも浮世絵みたいな感じじゃないだろう、多分。
「でもエロ本が浮世絵とか宗教画みたいなのだったらどうしよ……俺ちゃんとシコれるかな……いや、抑圧されてるから気合でイケるはず……」
「キュキュ?」
「あーっ、ごめんね何でもないんだよロクー。さ、地図屋に行こうか」
「キュー!」
蔓屋に行く時はロクも置いてかなきゃな……純粋な子に欲望丸出しの俺を見せてはならない……! ていうか見せちゃったら俺がキツい……!
男に掘られようが女々しかろうが、俺は女の子が好きなのだ。元の世界に戻れない以上、この世界で出来うる限りのエロ画像を探すしかない。いや、娼館に行くのもやぶさかではありませんが、正直俺、二次元の方が好きだしね!
あとナマのアレコレは色々あったし今は遠慮したいな!
「あいたたた、待ってよツカサくーん」
「待って欲しいならまともな事言うようになろうな中年」
「まともって、誰基準のまともかな。ツカサ君は僕にどういう事を言ってほしいのかな? ほら言ってご覧よ、ほらほら」
「がーっ」
こういう所嫌い、本当嫌い!
大人ってきたない!
「あはは、ごめんごめん。ちょっとからかい過ぎちゃったね。ほら、機嫌直して。そうだ地図欲しかったんだよね? 地図屋に行こう」
「ううう……」
口喧嘩で負けることほど悔しい事は無い。
年の差をこういう所で有効活用してないで、もっと俺が尊敬するような事に使えばいいのに。くそう後で何か奢らせてやる。
そういや本買って貰ってなかった。旅には邪魔になるから地図奢らせよう。
どんな高い値段でも慰謝料替わりだ覚悟しろ、と俺が息巻いていると。
「おお、こんな所に居たかツカサ」
「ツカサさん! 探しましたよー」
数日前まで聞いていた声が背後から追いかけて来て、俺は振り返った。
あれ、この声って。
「ラスター! ラーミン!」
らの字始まりのコンビでややこしい。
でも、ここまで追っかけて来たって事は、また何か用事だろうか。面倒な事言い忘れてたとかだったらどうしよう……。
そんな俺の焦りを知ってか知らずか、ブラックは不機嫌を隠しもしない低い声で二人に問いかけた。
「こんな所まで付いて来て、何の用かな。僕達はもうとっくに関係者から抜けてるはずなんだけどねえ」
「す、すみません……! しかし、私達を助けて下さったツカサさん達とこのままお別れするのは、どうしても申し訳なくて……。それで私達どもと、ラスター様とリタリア様、及びフィルバード家一同から、貴方がたにある道具を贈らせて頂きたく……」
「えっ、道具?」
「もう用意してある。さ、最上階の応接室へ行こう」
ラスターに促されるまま、俺達は関係者以外立入禁止の階段を上がって行った。
道具って、なんの道具なんだろう?
→
※蔓屋さんの名はネペント種(やらしい触手植物)から来てます(´∵`)
蔓屋はやらしい道具のお店の一般名称なので「(屋号)蔓屋」なんて感じで
世界中にある。道具はおいおい紹介していきたい(^ν^)
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