異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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王都シミラル、貴族の陰謀と旅立ち編

10.願わくば、かつて平和な世界で憧れた勇者を

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免疫酒めんえきしゅ
 モギの葉:10枚/ドラゴウム:二株/ハナヤシの実:二つ
 葡萄の蒸留酒:一瓶/初級曜術【グロウ】の使用

 ハナヤシの実を割り、内部の液体を取り出す
 モギの葉を細かく切り刻み液体と混ぜペースト状にし
 完全に混ざったら、ドラゴウムの茎を細かく砕き混ぜる(1)
 葡萄のブランデーは直前まで封を開けずに取って置き
 (1)が混ざったら、蒸留酒を開け、瓶半分の分量を(1)に入れ混ぜる
 その際【グロウ】をかけ続ける事。液体が透明な緑色になれば成功
 蒸留酒が琥珀色の付いたブランデーとなっている場合薬効がないか
 または色が変わらない可能性があるので注意されたし

                      【中級薬品調合辞典】



「……美味しくなーれ、美味しくなーれ、おいしくなーれ、もえもえきゅん……」
「何をしてるツカサ」
「うぎゃあっ!!」

 いきなり後ろから呼ばれて、俺は思いっきり飛び上がる。
 慌てて後ろを振り返ると、いつになく綺麗な服に身を包んだラスターがいた。

「また薬を作っていたのか? そんな事より、早く着替えろ」

 そうそう、今日はとても重要な日。
 この屋敷で、騎士団やオレオール家と友好関係にある貴族を集めてパーティーをする日なのだ。この世界ではパートナーとして側室を連れてきたりするのは普通らしくて、俺もラスターに同伴する事になっている。

 連れて来られて四日目で同伴とか頭が痛い展開だが、この宴は前から決まっていた事だから急展開でも仕方ない。
 それに、このパーティーは素直に楽しむためのものじゃないんだ。
 この宴は俺達にとっては「決戦の場」でもある。
 だからこそ、俺はさっきから面倒な薬を作っていたんだ。

「いや、お前が宴会に出る前にちょっと飲んでて貰いたいものがあって……あ、出来てた!! フォッホー! やったー!」

 ここはラスターの自室で、本当は調合するための部屋じゃない。
 でも、他の人には秘密にしておきたかったので、調合するための道具やら何やらを持ってきて貰っていた。そうして今までゴリゴリやってた俺は、ついに出来た夢の薬に思わず万歳三唱した訳で。

「なんだそれは」
「これは免疫酒めんえきしゅだよ。これをアンタに飲んで欲しかったんだ」

 免疫酒……名前はちょっと適当だけど、ただの酒と侮るなかれ。この酒は飲んだ人間の毒耐性を一時的に向上させる効果があるのだ。

 毒を防げる訳ではないけど、これなら猛毒を盛られたって簡単には死なない。
 高度な毒消しは俺にはまだ作れないので、これが今ラスターにしてやれる精一杯の後押しだ。

 ちなみに、何故夢の薬だったかと言うと、蒸留酒が庶民にはおいそれと手が出せない値段だったり、ココナッツみたいなハナヤシの実がライクネスでは手に入らなかったからだ。幸運な事にラスターの屋敷にはその二つが存在していたので、こうして作る事が出来たと言う訳。

「さ、飲んでみて」

 風呂の入浴剤を思わせる程に緑色をした酒を、小さなコップで汲んで差し出す。ラスターは物珍しげに酒を眺めていたが、素直に受け取った。

「免疫酒か……先代の国王陛下が飲んでいたとは言うが、まさかそんな高級な酒を飲める時が来るとはな」
「そんなに珍しいの」
「ああ、南国ではそうでもないと思うが……ここは西端の国ライクネスなのでな。ありがたく頂くことにしよう」

 金持ちのラスターがそう言うくらいだから、かなり高い酒扱いなんだろうなこれ……。
 まあ、作り方も少し面倒だし、なによりこの酒って薬草自体が新鮮な物じゃないとムリだからなあ。昨日図書室でコレを見つけて作ってみた時も、モギの葉が少し萎びただけで緑色になんなくて焦ったし。

 グロウも結構気合入れてかけ続けないと駄目だったから、かなり体力使っちゃったんだよな……。いや、グロウに関しては俺が自前の木の曜気を【創造】してやってたから、疲れたと言っても「力入れ過ぎて疲れた」って奴だが。

 本当に苦労したぜ……と思いつつ、ラスターを見ると。

「おお……」

 酒を煽ったラスターの体が、綺麗な緑色の光に包まれていく。
 頭からつま先まで光が覆うと、ラスターはコップを置いた。すると光は消え、今度はラスターの体から透明な緑の光の粒がふわふわと漏れ出て来る。
 うーむ、これって、酒の効果が発揮されてるって事……?

「どうした、俺の美しい顔に更に磨きが掛かったか」
「いや、そうじゃないけど……なんか変化とかない?」

 ラスターは自分の体を見回したが、これと言って変化に気付かなかったのか肩を竦めた。なんだろう。もしかしてラスターには見えてないのかな。
 光がふわふわ浮いてるラスターってば、なんか超能力者みたいに見える。
 サイコキネシスとか使う前っぽくて怖い。

「そういえば……力が湧いてくるような気がするな。気の流れもいつもより強い。まるで、温かな力に包まれているようだ。免疫酒とは凄いものだな」

 うーん、リタリアさんもそんな事言ってたよなあ。
 もしかして身体能力を向上させる薬って、必ず温かい光を放つのかな。なら、毒だとどうなるんだろう。俺の世界の薬とは訳が違うから、判断するのも難しいよな。一応、上手くいったとは思いたいけど……。

「さて、神子の加護も頂いた事だし、お前も早く着替えろ。今日は直接対決の日なのだからな」
「そうだな……俺も一応飲んどくか」

 少しだけ酒を煽ると、喉をカッと焼くような感覚とアルコール臭さが鼻に抜けた。うえ、本当何で大人って酒が好きなんだろう。俺にはまだ理解できない。
 体が光るのを見届けると、俺はラスターに促されてでっかい衣装ダンス……もとい、ウォークインクローゼットって場所に入った。

 内部にはそりゃまあ煌びやかな衣装が並んでいる。
 俺は必死に懇願して黒を基調とした地味目の服を選んでもらうと、タンスからラスターを追い出して服を脱いだ。俺はまだお前が襲ったのを覚えてるんだからな。

「しかしツカサ、相手は何か仕掛けて来ると思うか」

 着替えている途中に、外から声が聞こえる。
 俺は少し考えて、いつもより声を張った。

「十中八九……とは言えないけど、屋敷に入り込めたら色々出来るしな。グラスに直接毒を入れたり、人が多い所で刺して人ごみに紛れたり……あと二ヶ月程度しかないってんなら、相手も相当焦ってるだろう。やらかす可能性は高いと思う」
「そうだな……主犯とまではいかなくとも、手先くらいは捕える事が出来るかもしれん。俺とツカサで調べた事は確かな事実だ。あえて会場内は警備を手薄にして、周囲は鉄壁の守りを固めておこう」
「危険な賭けだよなあ」
「なあに、お前が加護をくれたのだ。むざむざやられはせん」
「まー、簡単に言ってくれちゃって」

 でも、そんなノリで行かなきゃ恐ろしくって仕方ないか。
 俺はズボンのボタンの多さに苦戦しつつ、昨日までの事を振り返って溜息を吐いた。ホント、長い話し合いだったよなあ。

 ――あの話の後、俺とラスターは誰が犯人か徹底的に調べて推理し合った。
 勿論、それだけではない。メラスさんに頼んで、色々な記録を取り寄せて貰い、徹底的に事件と照らし合わせたのだ。

 俺達に足りないのは、ありとあらゆる情報。
 一人じゃ調べきれなかった事でも、視点の違う二人が協力すれば思わぬ所からヒントが出てきたりする。そうして色々と調べていく内、俺達はある結論に至った。

 ある三人の貴族の内に、犯人……少なくとも、実行犯がいる……と。

 一人目は、騎士団の団員である青年、セルザ・ファンラウンド。
 彼は遊撃隊として各地に出向く事が仕事で、ラスターの直属の部下でもある。
 そのため王宮での接触も多く、屋敷や別荘に訪れる事も有った。彼も同様に勇者候補に選ばれているが、実力ではラスターに勝てないと周囲から言われている。
 セルザ自身も自分には無理だと笑い飛ばしていたが、彼の家であるファンラウンド家は王侯貴族会の末席、四等権威に属する貧乏貴族で、長く辛酸を舐めて来た。そのため、オレオール家と仲が良いとは言え、内心はどう思っていたか解らない。
 勇者ってのは、成るだけで崇められる称号だ。四等権威という低い階級の貴族だって、勇者になれば最高権威の二家に命令する事が出来る。成り上がるための殺意はあったかも。

 二人目は、貴族監査官のローレン・ブライト。
 リタリアさんのフィルバード家と同じく、王侯貴族会で二等権威を持つブライト家の厳格な当主だ。貴族の不正を探る監査官という仕事をしているので、最高権威であるコリンスキー家とオレオール家の派閥のどちらにも属していない。監査官であるが故にどの貴族の家にも入れるので、オレオール家にも数回出入りしていた。こういう人がどちらかに傾くと、かなり危ない。
 その上ローレンはこの所不審な動きをしており、別荘での毒殺事件をやけに気にしていた。毒殺に使われた不法な毒を所持していたという、ラクシズにある蛮人街の店を調べる時に、何故か臨場を強く希望したとか。勿論、彼も優秀な勇者候補だ。四十代の中年だけど、彼の短刀技は国で一番と言われている。
 短刀……暗殺者にはうってつけの武器だよな。

 そして最後の三人目が、ヒルダ・パーティミル。
 王国一の美女と言われている才媛だ。彼女はコリンスキー家からパーティミル家に嫁いできた身だが、一年前に夫が怪物討伐に失敗して死亡し、未亡人となった。現在は当主となった一人息子の補佐をしているが、実質彼女が領地を統率していると言っても過言じゃない。民からも慕われ王侯貴族会の評価も高く、どの貴族とも上手く付き合っていた。当然、ラスターの屋敷にも何度か呼ばれている。
 しかし、彼女の夫が死んだ理由は、夫が【勇者】だったからだ。勇者選定の儀が行われる事になったのは、何を隠そう彼女の夫が南国での任務に失敗し死去したからに他ならない。徐々にラスターに標的が絞られたのは、親が敵対していたオレオール家に称号を渡したくなかったからかも。

 ……というわけで、正直三人ともが凄く怪しい。
 てか、俺達が警備隊に引き渡した【蛇】って名前の店が、こんな所で関わって来るなんて思いもしなかった。

 ラスターの話では、その店が摘発されてからは毒物による謀殺が無くなったので、犯人と店が繋がっていたのは間違いないとのこと。……人生何が縁になるか解んないもんだな。
 取り調べはまだ続いてるらしいけど、店主は誰に売ったかは覚えてないらしい。まあ、非合法な店なんだし、みんな素性は隠して来るか。

「しっかし……ホント面倒な話だよな……暗殺事件が度々起きてるってのに、その間にも暴徒がちょくちょく暴れてて、捜査もままならなかったってさあ。そりゃラスターも犯人捜す暇なんてないか……」

 暴徒ってのは、【決起隊】というレジスタンスに似た一団だ。貴族の圧政とかに憤っている人達らしく、度々王都で暴れて騎士団と衝突していた。
 一言物申したい気持ちは解るけど、それなら抗議文書くなり討論会開くなり、迷惑かけない騒ぎ方をすればいいのにな。リタリアさんや娼姫のお姉さま方が困ってるのを見てるから、俺的にはあんまり応援できない。

「ってか、回復薬が接収された原因の暴動も、決起隊がやったんだろ? マジで加減ってものを考えてほしいよな。お蔭で色んな人が迷惑してるっつうのに」

 言いながら上着を羽織ろうとすると、後ろから扉の開く音がする。
 鏡越しにラスターが入って来たのが見えて、俺は振り返った。

「その事なんだがな、ツカサ。気になる事が有る」
「気になる事?」

 ラスターが言うには、こうだ。
 彼らは貴族の圧政を拒否し、王都で度々抗議行動という暴動を起こしている。
 だが、ラスター達が調べた限りでは、そんな悪政を強いている貴族など存在していなかった。各地の民への聞き取り調査でも、実態が掴めなかったのだと言う。けれど、決起隊はそれを『騎士団の隠蔽』として反発し、更に暴動を過激化させる悪循環を起こしていたのだ。

 そのせいで騎士団による暗殺事件の調査が遅れ、また、連日の小競り合いで団員たちが体調を崩したり、領地に帰れない者が続出し市政が荒れて行った。
 結果的に、決起隊自身が反発していた悪政を引き起こしていたのだ。

 と言う事は、もしかしたら決起隊は最初からそれを狙っていたのではないか、と。

「つまり……貴族を引きずり下ろすために事件をでっちあげて騒いで、その混乱によって貴族の統治を崩そうとしてたってこと?」
「そうだ。決起は決起でも、悪しき黒旗の元での決起だったようだな。これだから下賤な下等民は……いや、この場合は、扇動者の罪か」
「その扇動者って……」
「滅多に顔を見せないらしいが、男だと言うのは確かだぞ。決起隊の数人を捕えて尋問した結果だ。間違いはない」
「……もしかして、貴族だったり?」
「可能性は十二分にあるな。さて、国の転覆を狙ったものだとすればこれも納得できるが、そうではないと思う俺の考えが解るか、ツカサ」

 言い回しが面倒くさい。
 つまり、その決起隊ってのが。

「犯人が捜査を妨害する為に放った刺客かもしれない……って事だろ」
「そういう事だ。ライクネスは蓄えを知らぬ国、つまりそれはここが豊かな国だと言う事だ。平穏の世になってから二百年、一度たりとも民の暴動など起きていなかった国で、ここまで大きな反発が起きるはずもない。となれば、決起隊が出現した時期から見ても、これは俺を暗殺する計画の一部にすぎなかったのだろう」

 あまりにも大がかり過ぎるけど、その推測にも一理ある。
 ラスターの言い分が全て正しければの話になるけど、コイツは国の為にならない事はしない。信用して良いだろう。悪人なら貴族でもちゃんと捕まえるし、見下してる一般人にだって、奴隷みたいな扱いはしないはず。ブラックはすぐに殺そうとしてたけど。
 とにかく、決起隊の出所が怪しい以上その可能性は大いにアリだ。

 だけど……人を先導するって結構大変な事だよな。
 そんな事を易々できる人間なんて、よっぽど魅力的な人か口が上手い人じゃないと無理なんじゃないかな。三人の容疑者の中に、そんな人がいるんだろうか。
 それに、そこまで大きな事をやるんなら「国を荒らす事になっても、ラスターやオレオール派の貴族を殺したい」って強い理由がある人じゃないと……。

「ツカサ」

 不意に名前を呼ばれて、俺は反射的に目の前のラスターを見上げる。
 金糸で装飾を施した綺麗な白の礼装を身に纏い、貴族というよりもおとぎ話の中の王子様のような恰好をした相手。金髪翠眼の容姿が殊更綺麗に見える。
 恰好だけ見たら、ホント悔しい程にイケメンだ。と、思っていると。

「ツカサ、口付けしても良いか」
「はぁっ!? なっ、なにいきなり!!」

 今真面目な話してただろうが!
 目を剥いて後退る俺に、ラスターは少し焦れたような顔をして大股で距離を縮めてくる。

「加護が欲しい」
「さっきやっただろ! 酒!!」
「それだけでは不安だと正直に言えば、許してくれるか」
「う……」

 ま、まあ……今から殺されるかもしれないんだもんな。
 でもそんな、急にキスとか言われても……幾ら美形つってもラスターは男なわけだし……。なんて迷ってる間にラスターの顔が近付いてきて、俺は慌てて相手の顔を両手で押さえた。ちょっと! 性急すぎ!

「なんだ、この俺が側室相手にここまで言っているのに」
「あーもーまた見下しやがって! いや、つーかそんな問題じゃねぇ、俺は、く、口付けしたくないんですけど!」
「じゃあ頬」
「はぁ?」
「お前が俺の頬に口付けてくれ」

 うーんと……殴っていいかな?
 とは思うけど、ラスターがこんな言葉少な(いつもよりは)にお願いしてくるってのは、それだけ切羽詰まってる訳だし……見た目より心臓バクバク言ってるのかな。でも俺は野郎のキスで落ち着けるようなマッスルハートじゃないんだけどな。

「アンタ、本当にそれだけで勇気でんの?」
「ああ、神子の祝福を受ければ、俺はいつものように雄々しく立っていられる」

 …………じゃあまあ……それくらい、なら。
 仕方ない。協力しようと決めたのは俺だし、コイツが安心できないと俺も自由になれないし。なんだかんだで不自由しない暮らしさせて貰ってるし……。
 色々考えて面倒になって、俺は勢いに任せてラスターの方をぐっと引き寄せた。
 そして、頬に口を寄せて。

「…………っ」

 ちゅっ、と軽く音がする。
 ……ぐ、は、はずかしい。
 耳塞げって言えばよかった……。

「ツカサ」
「うえっ?」

 カッカしながら肩を離した俺を、今度はラスターが捕える。
 何をするのか解らずに相手を見ていると、事も有ろうかこの男……まだ上着を羽織っておらず上半身素っ裸だった俺の首に噛み付いたのだ。

「ぎゃあっ!」

 うわあバカ人食い反対っ、俺の血に加護なんざねーぞ!
 慌ててラスターを引きはがそうとするが、やっぱり体格差ってのは覆せない。肩をがっちり掴まれて動けず鏡に背を付ける俺に、ラスターは遠慮なく首筋まで唇を移動させた。そして、ある場所に強く口付けをする。

「ふっ、ぅ……!」

 そこ、風呂場でキスされたとこ……っ。
 思わず体をビクつかせるけど、相手は俺を離そうとしない。そのまま深く抱き込んで、今度は俺の頬にキスをした。

「やっぱりお前は愛い奴だ」
「ばかっ、この、お前本当知らないからな!?」

 勝手に野垂れ死んでも泣いてなんてやらねえからなこのクソ貴族!!
 そう思って睨み付けたけど、やっぱりラスターはいつものドヤ顔で笑うだけで。

「それでもお前は、俺の為に動いて助けてくれるのだろう?」
「はっ……」
「ツカサ、俺はお前に会えて良かった」
「な、なにその別れの言葉みたいなの……」
「それだけ今からの宴が怖い……と言う事らしいな。……うむ、お前にだけは本音を言おう。俺はさっきから、震えが止まらない」

 そう言えば……俺を掴んでる腕がまたかすかに震えてる。
 思わずラスターを見上げたけど、でも相手は相変わらずドヤ顔で笑ってるだけだった。そうか。怖いって思いを今までずっと押し殺してきたから、もう怖がる顔が出来なくなっちまったのか……。

「ほら、お前は悲しそうな顔をする。すぐに俺の事を理解して、憐れむ。そんな奴は、お前だけだ。そして俺の哀れな感情を止めるのも、お前しかいない」
「ラスター……」
「神子の加護を信じる。そして、お前の心も。だから……この屋敷にいる間だけでいい。俺の側に居てくれ」

 そう言って、震える腕で俺の事をぎゅっと抱きしめた。
 ……素直になると、ラスターは傲慢じゃなくなる。
 困るよ、アンタにはいつも傲慢でいてくれなきゃ。そうじゃないと、反発できないじゃん。まだ少ししか付き合ってない俺でも判るよ、傲慢じゃないラスターなんて、らしくないって。
 ドヤ顔で人を見下して何の恐れもなく笑ってくれなきゃ、勇者じゃないよ。
 俺が子供の頃に憧れた勇者は、どんな相手にも怯まず向かってく凄い奴なんだ。最後は必ず勝つ、思わず応援しちゃうような奴なんだから。
 自分の手で人類すべてを救ってやるって大口を平気で叩ける、凄く傲慢な奴が……それが、俺がガキの頃に憧れた勇者なんだよ。
 そんな勇者にアンタが成るってんなら、お願いだから、俺の思い出どおりの傲慢な勇者でいてくれよ。なあ、ラスター。

「……しかたねえなあ、もう……」

 どれだけやれるか解らないけど、俺は俺なりにラスターの為に覚悟を決めよう。
 勇者を陰で支える仲間ってさ、実は凄く格好いいんだ。
 俺がそうなれるかは解らないけど、でも、ラスターをこのまま死なせたくない。自分勝手に人を殺す奴なんかに、他の奴の事なんか考えもしない悪人なんかに、負けてられるか。

「時間がねーんだろ、アンタもさっさと立ち直れよ」

 広い背に手を回して抱きしめてやると、ラスターは俺の肩に顔を埋めて頷く。
 相手の呼吸が間近に聞こえるその先で、客を迎える門が開く音がした。














※やっと次回再会…だけどやっぱりロクなことになりません
 (´・ω・`)長かった…そしてコメディドコーですみません…('、3)_ヽ)_
 
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