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王都シミラル、貴族の陰謀と旅立ち編
9.あの日聞いた話の内容を俺は大体覚えていない
しおりを挟むあえて言おう。薬草園は最高であると。
リスペクト感溢れる感想を胸に抱いた俺は、先程から有頂天になって薬草園を走り回っていた。勿論、ラスターから貸して貰った植物図鑑を片手に。
「あーっこれムラサキタマグサじゃん珍しすぎっ南にしか生えないのに! うわ、シャルジャンシアがあるーっ! そっかここ火の曜気がどっかから来てんのか? やべっ、まって、ドラゴウムあんじゃんうわっ、やっぱこれはコレで正解なのか、おおっとこっちは聖水に入れる……」
「ツカサ」
「うおーそっかこの植物って池に生えるんじゃなくて池の水の中に生え……うわーコレ植物図鑑じゃよくわかんねー」
「ツカサ、おい」
「やっぱ温室みたいにしてあるから曜気が逃げないのかな? ああっ、この花って南国に咲くナナイロ……」
「ツカサ!」
うおっ、まぶしっ。いきなり目の前に煌びやかな顔を出すなよラスター。
折角珍しい水生植物見てたのに……とぶすくれる俺に、ラスターは頭が痛いのか、難しげな顔をしながらしきりに指でこめかみを押さえている。
「どうした、頭痛いのか。緩和剤作ろうか?」
「だからそうではなく……まあいい。全く、本を与えて連れてきた途端に飛び出して行きおって」
「ご……ごめんなさい」
だって楽しくてつい……。
図鑑に載ってるファンタジーな植物を直に触れるってなれば、ファンタジー好きなヤツなら興奮して当然だ。それに、薬草園には俺が行ったことの無いの国の植物が沢山ある。特に南国の植物はよりファンタジーっぽい姿をしてるから、もう本当たまんなくて。
でもそんな場合じゃなかったな。俺一応逃げなきゃいけない人なんだから。
素直にラスターに謝ると、相手も口をもごもごさせながらも許してくれた。
「普通、屋敷に来た時点で喜ばんものか……?」
「え? なに?」
「い、いや、何でもない。それよりツカサ、どうだこの薬草園は。見目が良い植物ながらも、調合すれば薬品になるものや飢饉に備えての物ばかりだぞ」
見渡す限りのガラス張りの温室には、確かに色とりどりの花や植物が植えられていて、ちょっとした熱帯植物園のようだ。
そう言えば昔父さんに連れて行ってもらった事が有るな。あの時は植物じゃなくて、池で泳いでるでっかい魚の方が気になっちゃって良く見てなかったけど……今は、図鑑で見てたファンタジー植物の方に目が行きっぱなしだ。
「うん、本当凄いと思う。でもよくこれだけ南の国の植物を育てられたなあ。ここって確か西の端の国だし、少し寒い気候だから育てられないと思ったんだけど」
「地面に湯を流す道を通して、部屋を常に暖めているのだ。それに、湯は天然の温泉で火の曜気を僅かに含んでいる。だから、火山帯の植物もこうして育てる事が出来るというわけだ。……まあやはり、自生したものよりかは薬の効果が弱くなってしまうがな」
なるほど、温泉の熱で地面を温めてる訳ね。
確か温泉街にある植物園も温泉を利用してるんだっけ。これ一般に普及させたら結構がっつり儲かるんじゃないの。
「これやってる所って他にないの?」
「潤沢な資産があり、且つ近くに温泉が湧く地域でないとムリだろうな。そもそも、異国の植物を育てると言う行為自体が、娯楽や研究目的でしか行われていない。貴族でも薬草園を作る者は稀だ。王族の宮殿なら、恐らく作ってあるだろうがな」
「ラスターん所は娯楽じゃないんだな」
「当然だ。慈愛の女神は下々の者を助ける存在……信徒の俺が神に倣わぬ道理はない。それに、この国は平穏であるが故に下賤の者どもは蓄える事を知らん。いつかその事で慌てる愚か者どもがいれば、ここを開放して国を建て直し、国王陛下の権威をお守りする……それが、このオレオール家の役目だ」
き、貴族格好いい……!
あれー、言ってる事は結構ムカつくのに、信念があればそこそこ尊敬出来るもんなんだなあ。金持ちが金持ちに出来る事で国を助ける。えっと、これって何て言うんだっけ……ノーブレスオブリージュって言うんだっけ?
口と性格は最悪だけど、貴族としては本当凄い男だな、ラスターって。
「そっか、ラスターはすごく偉い奴なんだな」
「今頃気付いたか、愚か者め」
言って、俺達はなんだかおかしくて笑ってしまった。
まあ、傲慢で口は悪いけど、真面目な奴なんだろうなラスターって。
打ち解ける度に逃げる罪悪感が増えていくような気がするけど、こればかりはどうしようもない。でも、出来るなら円満に治めたいよなあ。
しかし、どうしたものか。
今の状態だと、逃げても追いかけられるだろうし……そう言えばコイツ、俺に抱き着いて来た時に何かに怯えてたよな。悩みがあるんじゃないだろうか。だから、能力の解らない危険な俺を側に置いてるのかもしれない。
もしその悩みを俺が解決できれば、この近距離コミュニケーションも落ち着くのでは。ラスターは元々引く手数多の超絶イケメンだ。震える理由が解消されたら、俺への執着もなくなるだろう。
大体俺様至上主義の奴が俺に執着するっておかしいしな。これは不自然な流れだよ、うん。早くコイツをただの俺様に戻してやんなきゃ。
今ちょうど好感度上がってるみたいだし、早速聞いてみよう。
「なあ、ラスター」
「なんだ、ツカサ」
「どうして俺を傍に置いておこうと思ったんだ?」
聞くと、ラスターは目を丸くした。
なんだよその反応。
「今更な事を聞く……もしかしてお前、俺の言った事を忘れてるのか?」
「いや、だって、幾ら神様の贈り物とか言っても、俺の能力は未知数で危険な物だろう? なのに、何で俺をすぐに側室にして近くに置いておくのかなって。気に入ったにしちゃ不用心すぎねえ?」
「そ、そっち……俺はその、お前をだな…………いやいい。そうだな、お前は初心だったな……まあいい……」
おい、なんでそんな呆れたみたいに顔を覆ってんだよ。
思わず聞こうとすると、その前にラスターの声に遮られた。
「そうだな、お前をこれから傍に置く以上、聞かせておくべきか。……話が長くなる。部屋に戻って、ゆっくりと話そう」
「解った」
調合はまた今度だな。
俺は植物図鑑を胸に抱くと、ラスターと共に薬草園を出た。
ラスターの自室があるフロアともなれば、流石に人の出は少ない。けど、階段側には警備兵、そしてそこかしこにラスターの私室を守らんとする使用人達が控えている。警戒レベルとしては、やっぱりここが一番だ。
そんな部屋で、執事のメラスさんが薬湯を淹れてくれている。
オレオール家に代々伝わる癒しの効果を持つこの薬湯、製法は秘密だそうだが、飲んでみるとハーブを加えたドクダミ茶みたいで結構おいしい。
ああ、婆ちゃんが毎年送ってくれるドクダミ茶が恋しいなあ……。
暫く薬湯を飲みながら黙っていた俺達だったが、ラスターがゆっくりとカップを置いたのを機に、話が始まった。
「俺がお前を傍に置く理由をすべて明かすには、まずこの国の習わしを説明せねばなるまい」
「国に関わる話なんスか」
うわあ……滅茶苦茶面倒くさそう……。
露骨に顔を歪めた俺の言わんとする所が判ったのか、ラスターも「分かっちゃいるが話さないと理解して貰えないから」と渋い顔をしつつ片手を揺らす。
まあ、部屋に移動した時点で長い話になるって予想はしてたけど。
覚悟を決めるように息を吐いて、俺はどうぞと言うようにラスターを見て肩を竦めた。
「……ライクネスでは、古くから【勇者選定の儀】という儀式が行われている」
「勇者選定の儀?」
「ああ。ライクネスの国防と外交を司る者を選び出す為の儀式だ。選び出された者は【勇者】と呼ばれ、怪物の討伐や他国の支援を行う一種の英雄職になる。……勇者というのは、遥か昔に存在した偉大なる人族の称号とのことだが、今となってはただの職だな。だが、俺の一族はこの儀式で代々勇者の称号を頂いてきた。勇者の九割は俺の一族の出だ」
って事は……こいつが今の勇者?
いやいやいや、あり得……うん、功績とか地位とか考え方とかは勇者としては申し分ないとは思うけど、でもこいつ完全に人類見下してるよ。どう考えても言動を顔で許されてる人だよ。しかも俺を襲ったよ。大丈夫なの。
健全な勇者様がいる事を祈っていたのに、とんだ所で大事故だよ。英雄色を好みすぎだよ。この世界の勇者もロクでもない奴だったんか、くそう、くそう。
「……お前……勇者なのか……」
「いや、俺は勇者ではない」
えっ、違うの。
思わず驚いた俺に、ラスターは居た堪れないのか目を伏せた。
「まだ選ばれてはいないからな。その選定は二か月後に行われる。俺以外にも候補は居るが……まあ、ライクネス騎士団の団長でもあるこの有能な俺に決まりだろうともっぱらの噂だ」
「騎士団って……」
「ああ、言ってなかったな。俺はこの王都シミラルと陛下をお守りするライクネス騎士団の団長を仰せつかっているのだ」
あのう……ラスターさん、幾つ称号を持てば気が済むんですか。
「貴族」に「神に愛された男」に「勇者の一族」……それに加えて「王国騎士団の団長」て。勇者揃ったらロイヤルストレートフラッシュじゃないですか。最強じゃないですか。
それ、本当なら異世界から飛ばされてきた俺とかが色んな称号ペタペタ付けられる奴ですよね。あれ、俺って主人公じゃなかったのかしら。
いや、まあ……俺みたいなのが変に仰々しい称号貰うより、実力のある人が己に見合った称号を沢山貰う方がいいとは思いますけどね、ええ。
泣いてないですよ、ほんとだよ。
っていうか、ここ、王都だったんだ……今初めて知ったわ。どうりで街がデカいはずだ。なら、見えなかっただけでどこかに王宮か城も有るんだろうな。
そんな事を俺が考えている間にも、ラスターは話を続ける。
「しかし、二年前か……選定の儀の話が出るようになると、俺の周囲では妙な事が起こるようになった」
「妙な事って……あの、暗殺みたいな?」
恐る恐る訊くと、ラスターは苦々しげに頷いた。
「最初は国王陛下の病……これは曜術師達の薬で回復したが……その後、俺を信奉する二等権威以下の貴族が狙われるようになった。俺は陛下に反逆するものの仕業として、騎士団と共に調査に当たっていたが……色々と面倒が重なって、調査が進まなくてな……。その内、その魔の手はこの俺にまで及ぶようになってきた」
なんだかきな臭い話になって来た。
俺一人で解決できることじゃなさそうだけど……だからといって、聞き流すなんて出来ないよな。
ラスターの苦悩に染まった顔を見詰めつつ、俺は眉根を寄せた。
「あのゴシキでの暗殺も、その事件の内の一つか」
「ああ、恐らくな。しかし、俺に対しての行動は前から起こっていた。始めは王宮での刺客、別荘では飲み水に毒薬を入れられ、俺の配下の者が命を失った。その内魔の手は俺の屋敷にも及ぶようになってな。……おかげで俺はメラスの用意した物しか口に出来ん。あいつは俺の親代わりだから、一応安心はできる」
王宮、別荘、屋敷……って……着実に魔の手が迫って来てないか。
まさか、この屋敷にもラスターを狙う刺客が潜んでるとか……?
「ラスター、あの……ってことは、この屋敷も安全じゃないってこと?」
「そうなるな。我が屋敷の使用人は厳選しているが、それでも世の中には人を操る術と言う物が存在する。……俺の一族に伝わる【浄波術】のようにな。だからこそ、俺はメラス以外の他人を信用できなくなった」
「騎士団でさえも?」
「そうだ。しかし、温泉郷で謀殺されかけたあの時……メラスさえも信用してはならないのだと思い知ったのだ。……例え相手が善人でも、知らぬ内に悪事に加担させられている場合もある。だから、これ以上巻き込みたくないからこそ、俺は誰も信用しない事にした」
そう言いながら、ラスターはカップの中の薬湯を見る。
つられて俺も自分のカップの中を覗いたが、薄桃色の薬湯は自分の顔を映すだけだった。
「この薬湯は、毒が入っていれば必ず紫に染まる。そして、俺とメラス以外の人間に作る事は出来ない。……だから、俺はこの薬湯だけは安心して飲める」
ぐっとカップを煽るラスターを見て、俺は無意識に眉間に皺を寄せていた。
そうか、貴族は貴族なりに苦労があるんだな。ラスターの一族は王様に贔屓にされているし、実力もある。人々にだって慕われている。騎士団での仕事もちゃんと行っているんだろう。でも、だからこそ妬まれて、いつも誰かに殺されないかと怯えている。過ぎた有能は、人にとって害悪に変わるんだ。
もしかしたら、ラスターの傲慢さは、その恐怖に打ち勝つために手に入れた物なのかもしれない。もし俺がラスターだったら、きっと怖さに負けて引き籠ってしまうだろう。だけど、彼は英雄の一族だ。無理にでも外に出ないといけない。
それに、国王を守らなきゃならないんだ。
勇気だけじゃ耐えられない。だからこそ、ラスターは傲慢さを手に入れた。
何物にも怯まないような、バカみたいな傲慢さを。
でもそれって、辛すぎないかな。
「…………なんだ、どうしたツカサ」
「いや、なんでもない。話を続けて」
促した俺に訝しげな顔をしたものの、ラスターはカップを置いた。
「そして、あの時意識が途切れ…………次に目覚めた時には、お前がいた。風呂場で思い切り俺を罵り、突き放したお前がな」
「う……」
「最初は訳が判らなかった。だが、お前が俺を助けたと解った時、俺は思ったのだ。お前の力の特異さと、あの微笑みと慈愛……なにより、俺を突き放して尚助けたその心は、神の思し召しなのではないかと。お前は、この状況を打破できん俺に、慈愛の女神ナトラが授けてくれた【最後の希望】なのではないか……そう思い、俺はお前を手に入れようとしていた」
そっか。だから、あんなに強引に俺を連れて来たのか。
なんだ、ラスターも怖かったんだな。
死ぬのは嫌で、怖くて、怯えてた。
だから、神様が出会わせてくれた……と思い込んでる俺を無理矢理連れてきて、ずっと一緒にいようとしたんだ。ただ、傲慢が行き過ぎてて、それが顔に出なかっただけ。コイツも本当は俺と変わらない人間なんだ。
初めに言ってくれれば協力したのに、本当面倒くさい性格だよ。
「じゃあ、お前は側室としての俺を欲しがった訳じゃないのか。俺を側室と言う事にしておけば、傍に置いても不自然じゃないってワケか。そっか。じゃあ、殺される心配がなくなったら、俺はお払い箱になるわけだよな?」
「えっ? いや、待て、それは違うぞ。俺はお前だから側室に……」
「でも初対面じゃ俺の事何とも思ってなかったんだろ? ラスターは今、窮地に陥ってて、俺がそれを偶然助けた。……だから側室にして傍に置こうって思ったんだ。なら、現状を打開出来る力だったら、俺じゃなくても良かったわけだろ?」
はっきり言うと、ラスターは言葉に詰まった。
けど、この話は俺にとっての好カードだ。ラスターには悪いけど、円満に屋敷をお払い箱になる可能性が出た以上、使わせてもらう。
今だったらラスターも弱気になってるしな。
心の中でごめんと謝りつつも、居心地悪そうに肩を縮めるラスターに畳み掛けた。
「だったら、お前が命を狙われなくなれば、俺は屋敷を出て行ってもいいよな。ラスターだって、その方がいいだろう? 俺は得体が知れない存在だし、調査するよりも他国に追い出した方が処理も楽だ。俺自身、この力の事は隠しておきたいし……滅多な事はしないよ」
「いや、し、しかし……貴族の側室だぞ。お前には光栄なことではないか」
「だから、俺的にはぜんっぜん光栄じゃないんだってば。大体なあ、俺はあの時旅に出ようとしてたんだぞ。冒険者になろうとしてたの。それをお前に連れて来られて、いま軟禁状態になってんだ。どう考えても迷惑だろ」
「そ、そうだったのか」
今更解って貰っても遅いんですけどー。
でもまあ、ラスターも必死だったんだし、そこはあえて触れないでおこう。
こういう話は落としどころが大事なんだから。
「なあ、ラスター……俺は旅がしたい。だから、側室なんて言う、四六時中家の中に籠ってる職業はごめんなんだ。……ラスターだって、家に閉じこもりたくないから、必死になって俺を捕まえようとしたんだろう? やりたい事が出来ずに家の中に押し込められるのって、とっても辛いって解るはずだ」
「…………」
「ラスター、アンタは俺の気持ちが解らないってほどには傲慢じゃない。昨日、俺が泣いたのを見て引いてくれたよな。だから俺は、お前は人の気持ちが分かる正義の人だって信じてる。……お前だってさ、本当は、こんな風に連れて来るのは駄目だって思ってたんだよな?」
俺が出来るだけ落ち着いた声を放ると、ラスターは叱られた子供のように俯きながら、軽く頷いた。
……ちょっと可愛いとか思ってしまったが、そんな場合じゃない。
解ってくれそうな相手にホッとして、俺は顔を覗き込む。
「なら、俺もお前が安心できるように協力するから。……といっても、そこまで頼りにはならないと思うけど……俺に出来る事が有るなら、ちゃんとやる。だから、お前が安心できるようになったら、俺を自由にしてくれ」
ラスターが縋るように俺の顔を見た。
綺麗な翠の瞳が揺らいでいるようで、俺は少し胸が痛くなる。
ああ、コイツってやっぱり、ブラックに似てるんだ。いつも怖さとか弱さを隠して、大人になろうとして、でもこういう時につい本心が出てしまって。
ムカつくポイントも容姿も何もかもが違うけど、でも、ブラックもラスターも何かを恐れてるのは同じなんだ。だから、偶然が重なって天の助けに思えた俺を手放したくないんだろう。何も出来ないかも知れないと思っても、俺しか縋れるものが無いんだ。
……それって、なんか可哀想だよ。
だってさ、本当ならラスターは傲慢なまま、人生薔薇色だったんだぜ。なのに、それを勝手に恨まれて殺されそうになって、怯える羽目になってんだ。
だから、縋らなくたっていい俺みたいなのに、縋らなきゃいけなくなってる。
俺がラスターだったら、悔しくて仕方ないと思う。何も解決できない自分が情けなくて、どうしようもなくて、泣くに泣けずに苦しんでしまうだろう。
でも、どうにも出来ない。
だから、俺を無理矢理連れてきてしまったんだ。
けど、こいつは悪い奴じゃない。
俺を襲おうとして躊躇ったくらいだし、本当のこいつは悪い事なんて出来ない性格なんだろう。今回の事も、ラスターは失敗だと思ってるはずだ。
……たぶん、だけど。
でもだからこそ、ラスターが一層気の毒に思えた。
傲慢で人の話聞かなくて一々台詞がムカツクけど、ほっとけない。
ブラックが助けに来てくれるまでなら……何か力になってやりたいんだ。拉致した事は許さないけど、俺もやっぱり鬼にはなりきれない人間だし。
それに、打算がない訳でもないからな。
なんてことを色々と考えている俺を、ラスターは不安そうに見ている。
相手は年上なのに、その顔はなんだか子供みたいに見えた。
……本当、アイツとよく似てるわ。
俺は苦笑して、ラスターの手の上に優しく手を添えた。
「ツカサ……」
「まず、誰が首謀者なのか突き止めようぜ。屋敷にまで手を伸ばせるっていうのなら、相当な実力者か身内のモンのはずだ」
「……そうだな、俺もそれは考えていた」
ラスターが人を信用できなくなって俺に縋ったのは、そのせいだ。
だから、首謀者を捕まえてやれば、コイツは風呂場で出会った時みたいに、天上天下唯我独尊の俺様に戻るはず。俺の手助けもいらなくなるはずだ。
「まずは一つ一つの事件を振り返って、誰がそれを簡単に出来たのか考えようぜ。その間、アンタが死なないように俺が薬作るよ。解毒薬とか回復薬とか色々とさ。ちょうど調合も色々やってみたかったしな。だから、背後はまかせとけ」
頼りないかもしれないけどさ。
そう言うと、ラスターは少し置いてから、また綺麗な顔で笑った。
「お前に愛されるものは、幸せだな」
言ってる事は良く解らんけど、元気になって納得してくれたのならそれでヨシ。
さあ、忙しくなるぞ。
ブラックとロクが助けに来てくれるまでに、やる事やらなきゃな!
→
※ま…また長くなってしまった…すみません……
シミラル編いつもより長いですがもうちょっとで終わります(´・ω・`)
早く旅に出して二人を珍道中させたひ…(´;ω;`)ウッ
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