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王都シミラル、貴族の陰謀と旅立ち編
にわか推理とバカの策 2
しおりを挟むここまでに分かった事を整理してみる。
まず、リタリアさんの体調不良は、粗悪品の回復薬のせいだった。
俺の回復薬が使われ出して三日後にはもう粗悪品が混ざりはじめ、仕舞にゃ粗悪品の薬ばかりがリタリアさんに運ばれていた。
粗悪品の薬を運んだのは、領主を除く全員。
俺の作った回復薬は、持ってきてすぐに貯蔵庫に保管されているが、その多くはいつの間にか粗悪品とすり替えられていた。
貯蔵庫は、特殊な鍵がないと入れないようになっているが、そのせいか警備が薄いので鍵を持っている人間なら誰でも入る事が出来る。
宴の前にその事件が起こったので、犯人は館内部の人間である可能性が非常に高いが、侵入者がやったという線も捨てられない。
……と、今の所こんな感じだ。
結構犯人が特定されそうな情報だけど、これだけでは誰が犯人かは解らない。
なので、今から聞き込みをするという訳だ。
「それじゃまず、メイドさん達に話を聞いてみるか」
「直接当たらないのかい」
「こういう時はまず周囲の噂から情報を集めるんだよ!」
だてにドラマは見てないぜ。
と言っても俺が見てたのはお昼とかの再放送で良く見たおっぱいめっちゃ見えてる昔の二時間サスペンスだけなんですけどね!
なんで今おっぱい禁止なんだろうね!
「ラーミンさんが事情を話して、僕達は泊り客だって言ってくれたみたいだけど……そう簡単にメイドさん達が話してくれるかな」
「それは俺に任せなさい」
人生経験の薄い高校生でも、真面目な女の人に話しかけるコツは知ってるぜ。
嘘だぜ。大人の女の人とか近所のおばちゃんくらいだったので、そういうのはやっぱりネットとか雑誌で学びましたぜ。
使えるかどうかは解らないけど、まあ、無精髭のオッサンが話しかけるよりはマシでしょう。俺それなりに若いし。
……と言う訳で、俺達は広い屋敷に散らばるメイドさんから話をゲットするための旅に出たのだが、中々これと言った話は聞けなかった。
流石美形が多いこの世界ってことで、メイドさん達はみんな可愛くて真面目だったし、俺にもフレンドリーに接してくれたけど、世間話程度でみんな重要そうな情報は持っていない。まあ「黒髪珍しいね触らせて!」とか「可愛い~」なんて言われて物凄い充実した時間でしたけど、俺の背後でブラックが人を殺しそうな目で俺を見てましたけど、まあ、それはね! 置いといて!
もうメイドさんはいないかなと屋敷を探索していると、中庭で花の手入れをしている眼鏡っ子のメイドさんが見えた。二つ結びで濃いモスグリーンの髪色……うむ、見るからにドジっ子属性っぽい。
ありとあらゆる萌え属性が俺のストライクゾーンです、などと思いながら近づくと、彼女は不思議そうに俺とブラックを見比べていた。
「あの、何か御用ですか?」
「あ、俺達ラーミンさんの紹介で今日はここに泊まる事になってて……それで、ちょっと散歩してたんです。俺はツカサ、こっちはブラックっていいます」
「あらあら! それは大変失礼いたしました。私メイドのミリーと言います」
深々とお辞儀しちゃうのがまたドジっ子属性っぽい!
あかんリアルでやられると相当に心にクるモノがありますな!
「ツカサ君、ちゃんと話聞こうね……」
あ、はい。すみません。
「ええと……あの、俺達この前からラーミンさんと一緒に薬なんかの取引をさせて貰ってるんだけど……ちょっと帳簿で齟齬が出ちゃって、それを確かめるためにメイドさん達に話を聞いてるんですよ」
「あらあらぁ……それはご苦労様です……大変ですよね、帳簿って一つ間違っていたらどんどん間違いが広がっちゃいますし……」
「そうなんです! だから、訂正するために色々確認しなきゃいけなくて……」
情けない声で肩を竦めると、ミリーさんも同じように悲しそうな顔になって手をおろおろと動かす。あかんめっちゃ可愛い。俺あざとい仕草好きなんだよ。
ツンデレクールもいいけどぶりっ子も好き! みんな萌えでみんな良い!
……って駄目だ、今は萌えるな。我慢だ我慢。
「分かりました、私で良ければ何でもお話します!」
「助かります……! じゃあ、思い出してほしいんですけど……お嬢様の回復祝いの宴より前、ラーミンさんが何か持ってきた時の事って……覚えてます?」
少し悩むかと思っていたけど、ミリーさんは笑顔で頷いた。
「ええ! 私その時一階の清掃担当でしたので、よく覚えてますわ。ラーミンさん木箱を持って大変そうでしたので、お手伝いしましょうかって言ったんですけど……大丈夫だからとお一人で運ばれて。本当にお優しい方です」
「その時から、執務室の出入りって結構激しくなりましたよね」
「そう言えば……。メイド長のヴィナさんと執事のコルガン様を、やけに一階で見かける事が多くなりましたね。ラーミンさまも、領主様がお出かけになっているのに執務室によくお入りになってました」
「他に入った人は?」
「いないと思いますわ。執務室のお掃除は執事かメイド長のお仕事ですし……私は基本的に一階のお仕事をよくしているので、執務室の前の廊下を通る機会は多いのですが……一階は普段は他の者とすれ違うことすら珍しいので」
一階って人の出入りが激しいと思ってたけど、広い屋敷だとそうでもないのか。
とは言えそれはミリーさんの証言だけだし、断定できないけど……本当に人通りが少ないのなら、メイドさん達は薬を持ってきた事すら知らないんだろうな。
仮に何か持ってきたのを知っていたとしても、メイドさん達は木箱の中身を見る事が出来ないだろうし。
「ラーミンさんが木箱を持ってきてから、リタリアお嬢様の回復以外に変わった事ってありましたか?」
そう聞くと、ミリーさんは少し悩んで、数えるように指を幾つか折った。
「ええと……色々ありましたわ。
一番最初は、執事のコルガン様が『旦那様のお気に入りの皿がない』って大騒ぎして厨房で探し回った事件。これは後で見つかりました。
二度目は、メイドのビネッタ……彼女私と同室なのですけど、いつもまじめに仕事しているのに、メイド長のヴィナさんに怒られてヤケ酒して説教された件。
三度目は、そのヴィナさんがお仕事中に男の人と逢引してるって噂が立った事件ですかね……
私が気付いた事件って言いますと、この位です。といっても、みんなが知っている程度の事ですが……」
なるほど、じゃあ後でもう一度他のメイドさん達にも聞いてみるか。
あ、でも、この人しか知らない情報はあるな。
立ち去る前に、俺はもう一度ミリーさんに聞いてみた。
「あの、ビネッタさんが怒られた理由って解りますか?」
「それが……ビネッタから聞いた話ですと、掃除しに行こうと思ってたら向こうから掃除道具を持ったヴィナさんがやって来て『貴方掃除してなかったでしょ』って怒られたのですって。じゃあやるからって道具を貰おうとしたら『これは貴方の道具じゃないから』って振り切られたとか……」
よくあるよなあ。宿題やろうと思ってたのに親から「何でしてないの!?」って言われると途端にやる気がなくなる奴。
「確かに今やろうと思ってたのにってはなりますよね」
「それもあるけれど、この屋敷では掃除道具は誰の物とかいう定めはないのです。その日のメイド長の掃除は終わっていたはずだったから、貸してくれても良かったのにって、怒られたのも有って彼女凄く荒れてて……」
「めっちゃ理不尽ですもんね」
「そうなのです。……それで、ここだけの話ですけどね? ……ヴィナさんが仕事中に男と逢引してるって噂を流したの……ビネッタなんです」
「えっ」
意趣返しって奴? 女って怖えぇ……。
「ヴィナさん、執事のコルガン様にもいつも辛辣だったし、ビネッタはコルガン様が好きだから……怒り心頭だったんですね。どうしても意趣返しがしたいって。でも、男と逢引してたのは本当みたいなんです」
「それは……どうやって知ったんです?」
「彼女が何かヘマをしないかってビネッタは後を付けていたんです。そしたら、ヴィナさんが裏口で男とお話してるのを見たって。……ヴィナさん、その時も掃除の当番だったから、もしかしたらビネッタを怒った時にも逢引してたんじゃないかって……それで男と喧嘩して自分が怒りをぶつけられたんじゃないかって彼女言ってましたわ」
まさかの弱みゲッツだ。執念の勝利だな。
でも、さっき話を聞いて回った時にはビネッタさんって人はいなかったけどな。
彼女は今日はどこにいるんだろう。
「あの、そのビネッタさんって今どこにいるんです?」
「数日前に辞めました。……というか、辞めさせられたっていうのが正しいのですけど……ヴィナさん、噂を流したのがビネッタだって気付いたみたいで……ビネッタも必死に抵抗していましたが、ヴィナさんはメイド長ですから……どうしようもありませんでした」
数日前に辞めさせられたって……とんでもない事になったな。
ちょっとした噂を流されたくらいで、メイド長が首切りしたってのか。なんだかドロドロしてきたぞ。幾ら噂を流されたからって、そこまでするのは大人げないと思うんだが……大人の世界になると色々あるのかなあ。
「ビネッタも確かに悪い所はありましたが、元々は真面目な子でしたし、とても働き者だったんです。だから私……今でもこの事に関してはヴィナさんに反感を抱いてます。他のメイド達もです」
さもありなん、ミリーさん達にとってビネッタさんは大事な仲間だったのに、一度の過ちでクビだなんて厳しすぎる。噂を流されてムカついたって気持ちは分かるけど、自分だって悪い事してるのになあ。
色々と思う事はあったが、俺はミリーさんに礼を言うともう一度他のメイドさん達に話を聞いてみることにした。
結果としてはミリーさんの話と殆ど変わりなかったんだけど、メイド長と執事の好感度が如実にはっきりしてて驚かざるを得なかった。
老年紳士のコルガンさんは、うっかり癖があってよく慌ててるけど、屋敷の人達には愛されている。領主の教育係やリタリアさんのお世話係だったから、信頼も厚いんだそうな。ただし、執事としての影響力はまるでなく、今だってどこで何をしているか解らないらしい。いないと思ったらいて、いつの間にかリタリアさんの部屋で彼女と話をしているそうだ。
仕事をしているのかどうかは不明過ぎて、能力的にかなり怪しい人って扱い。
領主様が一目置いているのだから、有能な人だとは思うけど……ってのがメイドさん達の評価だった。ビネッタさん、飄々としたおじいさんが好きだったんですね。凄いシブい趣味だね……。いや、そこはいい。
対して、メイド長のヴィナさんは好き嫌いがはっきり分かれる人だった。
真面目で厳しいけど仕事は完璧だし、メイド達の能力はちゃんと評価してる。五年ほど前に別の貴族の屋敷からやってきた人だけど、元々一般人だったからか威張り散らす事もなく、いわゆるデキるキャリアウーマンだったらしい。
けどその一方、メイド長という権力を強く行使し、執事やリタリアさん、時には領主にすら意見する事も有った。大抵は合理的な話なので聞き入れられていたけど、我を通すヴィナさんの行動は、ずっとこの屋敷で働いていたメイド達には不評だったようだ。
ビネッタさんが復讐を考えたのは、積もり積もった物のせいでもあるのかも。
「一通り話を聞いてみたけど……どう思う?」
廊下を歩きながら、ブラックが俺に聞いてくる。
なんだかまだモヤモヤとしててハッキリは断言できないんだが、俺は話を聞いてみて何となく誰が薬を入れ替えたのかの見当がついていた。
ただ、確証はないし、殆ど消去法みたいなものだから……偉ぶれる結論でも無いんだけどさ。しっかし、これは話していいものかどうか。
予想が外れてたらすっげー恥ずかしいんだけど。
でも言わなきゃしょうがないか。
一息ついて、俺は自分の推測をブラックに語った。
「うん……あり得ない話じゃないね。というか、それが出来る人は、今の所その人しかいないだろう」
「証拠、探しに行ってくれるか?」
俺はリタリアさんが心配だし、出来るだけそばにいてやりたい。彼女が飲む薬を見分けてくれってラーミンさんから頼まれてるしな。
だけど、あの人が悪い事をしているなら、早く証拠を捕まえて解決しなきゃいけない。その為には、ブラックに一度一般街に降りてもらう必要があった。
頼み事は癪だけど、この場合は仕方ない。
立ち止まってブラックを見上げると、相手は片眉を上げて肩を竦めた。
「仕方ないね。乗りかかった船だし……なにより……」
「なにより?」
「これが終わらないと、ツカサ君と一緒に旅が出来ないから」
だあー。またコイツはこんな事を言う。
「アンタそれしかない訳? もうちょっとこう、リタリアさんが心配とか……」
「元々関係のないことだから、別にどうとは思わないね。でも、ツカサ君が困ってるから、僕はツカサ君の為に協力するのさ」
「な……なにそれ」
「君を手に入れて、ずっと一緒にいられるなら……ツカサ君の望みは、何でも叶えてあげるってこと」
そんな背筋の寒くなる台詞を言いながら、ブラックは俺の頬にキスをした。
あっ、こ、こいつドサクサに紛れて……!
「ばっ、お、おまっ」
「おお、ツカサ君たら顔真っ赤。もしかして、ちょっとは僕に絆されてきた?」
「はぁああ!? バカなの!? ふ、不意打ちのキスだったからびっくりしただけだし! ふざけんなし!!」
誰の顔が赤くなってるってんだよ! 俺は怒ってるんだ、だから顔がカッカしてるだけであって、赤くなってる訳じゃないんだよ!
大体キスすんなって言ったのになんでコイツしてくるんだ。いや今は言ってないけど、でも俺は嫌だって前に言ったのに聞きゃしないんだからこのオッサンは!!
ていうか、俺が怒ってるのにまたニヤニヤしてる! コイツマジでうざい!
「へぇ~、ツカサ君の世界では口付けってキスって言うんだ。覚えておくね」
「バーカー! さっさと行けこのスケベオヤジーッ!!」
腕をぶんまわして殴ろうとするが、やっぱり軽く避けられて俺の手は空を切る。
体勢を立て直した時にはもうブラックは消えた後で、俺はむなしく空振りした拳を強く握りしめるしかなかった。くそう、本当あのオッサン最近調子乗ってる。
だれが顔真っ赤だ。お前のせいだよ。
お前が不意打ちするから、俺は怒ってるのに。
「なんで、そういうコトを我慢できずにしちゃうワケ?」
何だか手の甲が寒くて、俺は握りしめた拳を片手で包んだ。
……そうだよ。俺だって、こうして手とか重ねるくらいなら怒らないのに。
ああいう風に大人らしい事をしてくれたら、俺だって……手ェ繋ぐくらいなら、やってもいいかなって思ったりしてやるのに。嫌だって言わずに済むのに。
幾ら俺がえっちいの好きでも、あんな風に露骨にキスされたり迫られたら困るだけなんだよ。俺、そういうの何も知らないんだし。女の子で妄想してたデートだってキスだって、結局した事なくて、全部アンタに奪われてんのに。
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