異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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ゴシキ温泉郷、驚天動地編

11.素材採取と厳しい世界、気楽にいくのが最善手

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 ブラックの抱擁に二十秒耐えた偉い俺は、ブラックの頬を思いっきり引っ張って解放させた後、罪獄の原の近くにある草原に来ていた。
 火山とは言っても全ての範囲がごつごつした岩地ではなく、草原がある事もある。当然イスタ火山にもそういう場所はあるのだが、草原には大きな岩がごろごろしていて、生えている草も地上とは少し違う。
 シダ植物っぽいのが多い感じだ。

「ここには炎の曜気を栄養にして育つ植物が多い。炎の曜気は攻撃性の強い曜気でね、だから人間に害を及ぼす毒草も多いんだ。素材を採取するには結構な目利きが必要だよ」
「じゃあ、素人じゃ色々採取すんのはムリかな?」
「君が狙ってる草は大丈夫だと思う。分かり易いからね」
「それじゃ、欲張らずに分かる奴だけ探すか」

 鑑定スキルなら毒も見分けられるが、現実は面倒くさい。
 こうなると図鑑が欲しくてたまらないけど、良く考えたら持って歩くの大変だなアレ。俺の曜術は、曜気を創造出来たりイメージする通りの属性魔法を使えるだけ。だから無限収納空間なんて作れないし、自ら鑑定先生を生み出す事も出来ないんだよなあ。

 それに俺、細かい所まで教えてくれる鑑定先生を作れる脳みそ持ってないもん。イメージで魔法を使えるって結構自由度が高い気がするけど、結局使う人間の知能や知識に左右されるんだから不便さもあるよな。
 大きな術を使う前に、細かく操作できる方法も覚えないとダメかな、こりゃ。

 考えつつ、俺は岩の転がる草原を見渡しながら進む。イスタ火山のモンスターは、火口付近にいる奴以外は弱いモンスターがほとんどだ。人間を見るとすぐに逃げていくので、一般人の俺でも自由に歩き回れる。
 そこそこ強いモンスターも昔はいたらしいけど、ゴシキ温泉郷に来た冒険者達が根こそぎ狩って行ったので滅多に見かけない。世知辛い世の中だ。
 いや、出遭いたくないから良いんだけどさ。

「さーて、シャルジャンシアとお目当ての薬草はどこかな~」

 俺が探しているのは、ドラゴウムという火山地帯にだけ生える薬草。
 高山地帯の中でも「常に地面が暖かい場所」でないと生えないから、火山以外では滅多にお目にかかれない。入手するのが面倒だと言われている薬草の一種だ。

 ドラゴウムは鈴蘭のような植物で、茎から出た細い枝に青い実がなる。それが涙のようなので、別名竜の涙ともよばれている。だけど、実を食べると一週間ほどゆるくお腹を壊してしまうらしい。かなりいやな部類の毒である。

 俺が使うのは、ドラゴウムの若芽の茎部分。この茎はほんのり甘くて、食べる事も出来る美味しい食材だ。そして強精作用もあり、薬にすれば飲んですぐ効くってな効果が期待できる。俺が作った性欲増強剤は比較的効き目の軽いものだから、この効果は絶対欲しい。

 植物図鑑を見てて思ったけど、この世界の薬草は入手が難しいヤツほどガツンとした効き目が出るようだ。回復薬に必要だったバメリって花も、入手が難しいけど、あれがあるだけで治癒効果が増すらしいし。
 こういう所だけ無駄にゲームっぽい。

「うーん、結構草が生い茂ってて見つけるの難しいな」
「キュゥ~」

 岩の陰などを見てみるが、それらしいものは見つからない。
 もしかして、採取され尽くしたあとなのかな……。

「ゲームだと数分待ってりゃ生えて来るけど、リアルじゃそんな簡単に行かないし……。もっと踏み込んでみるしかないか?」
「キュキュー」
「あんまり行き過ぎると草原抜けちゃうよ」

 そうそう、面積少ないんだよなあ、イスタ火山の草原。
 でもここまで来て空振りっていうのは悔しい。見落としてるだけかもしれないし、根気よく探してみよう。ああ、俺もサーチ先生と鑑定先生が欲しい。
 
 腰を屈めてがさがさと草をかき分けてみる。
 途中、もふっとした芋虫(のようなもの)や隠れていた羊っぽいうさぎが出て来たけど、人間が怖いのかそれとも俺の後ろにいるブラックが怖いのか、すぐに逃げてしまう。羊うさぎ(ペコリアっていうらしい)はちょっと触ってみたかった。
 にしても、見えないだけで隠れてる動物って結構いるのね。

「動物がいても分からないんだから、草に隠れてドラゴウムもシャルジャンシアも見えなくなってるのかな」
「それはありそうだね。査術さじゅつで探れたら楽なんだけど……残念ながら僕の査術は【索敵特化】で物体は探れないんだよなあ……」
「えっ、査術って物にも使えるの?」

 というか、サーチ先生的な術にも種類があるのか。なにそれややこしい。

「訓練次第では可能かな。査術は通常、相手の能力を知るための術だけど……物体に特化すればその物の毒性や曜気の有無、状態が分かるようになる。物体特化の査術は一度認識してしまえば二度目は楽に対象を探せるから、素材屋だとか農家とか、ごく少数の人が使ってるよ。ただ、その場合索敵能力が物凄く鈍化するけど」
「鈍化してもいい、ありがたすぎるその能力……」

 ちょっと下位互換な気もするけど、鑑定先生がいるだけありがたいよ!
 状態が分かるってなにそれ、生産職な俺には最高の術じゃないですか。しかも査術は曜気が必要ないから堂々と使える!!
 よし、帰ったら勉強しよう。査術絶対勉強しよう。

 査術って今まで索敵の術かと思ってたから、興味なかったんだよな。
 俺ってば別に街から出る用事もなかったし。何事も調べる前に放り出しちゃだめだね、ホント。

「僕が索敵能力特化だから、ツカサ君は物体探知特化でもいいかもね。パーティーとしては役割分担があったほうがいいし」
「……あ、そっか。俺ってお前とパーティー組むことになるのか」
「何を今更」

 俺を助けろと言ったのは俺自身なので今更拒否する事は出来ないのだが、このオッサンと四六時中一緒に旅すると考えるとげんなりするな。
 普通に話す分にはいいんだけどさ。コイツの話って結構面白くて勉強になるし、そう言う時のブラックは俺も嫌いじゃないし。だけど、スケベスイッチ入っちゃうと途端にうざいからなあ……。

「護身術でも習おうかな、俺」
「え? それ誰に対しての護身?」
「薬草みつかんないなあ、ロク」
「キュゥ~」

 長引きそうな実のない話はあとにしよう。
 それからしばらくしたが、ノースキル・目測のみでの探索はこんな結果になった。

【入手物】
 ・シャルジャンシア 二枚
 ・シャルジャンシアの若芽 一個
 ・ドラゴウム 三株
 ・ドラゴウムの実 六個

 大した収穫じゃない訳だけど、シャルジャンシアに関しては気付いた事が有る。このあたりのものは赤色が薄い。つまり、ここは炎の曜気が少ない場所だったのだ。もしかしたら、そのせいで目当ての薬草が見つからなかったのかもしれない。

 ドラゴウムは変化がないようにみえるけど、シャルジャンシアがこの状態だから薬効も解らないな。数が少なくて不安だけど、後で試さなくては。
 ちなみに、ドラゴウムの実はロクが味見していたが、やっぱり毒だったようで渋そうな顔をしていた。顔をしかめるロクも可愛い。

 閑話休題。やっぱり鑑定ナシのノースキルだとこういう結果になるようだ。考えてみれば俺はまだこの世界に来て一か月も経ってないわけで、そんな駆け出し冒険者がなんでもかんでも上手くいく訳は無い。

 品質のいい薬草は先に採取されてて当然。生育も地域によって違う。この世界にはそれを知るエキスパートが既に沢山いるのだ。俺はまだツエーできる身分ではない。地道を強いられた人間なんだっ。

 何度も何度も思う事だけど、チートがないのって楽しいけど大変だ。

「あの草原よりも炎の曜気が強い場所に生えるとなると……やはり火口付近しかないかなあ。地元の人は穴場を知ってるんだろうけど、聞くのは忍びないし」
「そう言う事になるね。あの場所もわりと炎の曜気が有ったように思うんだけど……何が原因なんだろうねえ」

 ゴシキ温泉郷へと帰ってきて、酒場――竜の英雄亭で夕食取りつつ、俺達は大いに悩んでいた。
 ブラックは炎の曜術に適性があるからか、炎の曜気を認識できる。
 鍛錬すれば俺にも曜気の流れが見えるようになるらしいけど、今は置いといて。
 曰く、火山は全体的に炎の曜気がにじみ出るので、炎の曜術を学ぶものは修練の為に必ず火山に来るらしい。炎の曜気は火や火山、砂漠なんかでも多く発生するものなんだとか。

 ちなみに、曜気ってのは火や水から吸い取っても、吸い取った元の物体が消える事はなく、曜気は時間を置けば復活するらしい。……今更だけど、曜気ってマジでなんなんだろう。

 ともかく、草原に流れていた程度の曜気で駄目ならどこを探そう。
 火口は怖いからパス。どっかないかな。

「他に炎の曜気が溢れてて草が生えそうな所って……考えつく?」
「普通は洞窟とかかな……イスタ火山は洞窟はまだみつかってないけど」
「うーん……洞窟も望み薄か……」
「中程度の術を使えるくらいには炎の曜気があったから、普通は生えてないとおかしいんだけどね。多分、他の人達に狩られちゃった後だったんだろう」

 つまりは出遅れたってことか。
 まあ俺以外にも薬草が欲しいって奴はいるもんな。一般人には薬を作れなくたって、木の曜術師に売るためなら薬草を持っていくだろう。
 薬になってるか素材そのままかの違いだな。

「しっかし、すぐ生えるからいいけど……根こそぎ刈られると環境破壊って感じでいい気はしないなあ」
「環境破壊か……そうだね。パシビーも昔はそこらじゅうに生えていたけど、今は殆ど見かけなくなった。後先構わず採取することが、過去の豊かさを殺しているのだとしたら……しかし、ツカサ君はそのトシでよくそんな難しい事考えるね」
「ばーちゃんが言ってたのを覚えてるだけだって」
「そうか……。君のお婆さんは凄い人だったんだねえ。いつか会ってみたいよ」

 そうだろうそうだろう。俺の婆ちゃんは世界一だ。
 他人から見ればそうでないかもしれないけど、俺は婆ちゃんに色んな事を教えて貰ったから、今も婆ちゃんが好きだし尊敬してる。

 環境破壊のことも、婆ちゃんは丁寧に教えてくれた。
 自然の物はそう易々と復活しない。だから、何事も節度が大事だと。
 婆ちゃんは、「来年もその場所で山菜を取りたいのなら、十のうち五までを取りなさい。残さず取ってしまえば、その場所にはもう二度と山菜は生えてこないんだよ」っていつも言っていた。俺も守れてる訳じゃないけど、過ぎたるは及ばざるがごとしってヤツだ。

 ていうか大体、この世界でそんなにナマモノを入手しても、保存の効く道具袋とか転移魔法が存在しないんだから、結局腐るだけなんじゃなかろうか。
 魚が生臭いってそう言う事では。
 でも、そしたら大量採取は出来ないよな。
 ぐう……俺も魔道具が作れる能力欲しいな……。

「せめて薬草を新鮮なまま保存できる袋とかないかなあ……」

 しかしそれは望んでも手に入らない。ああ、俺もチートが欲しかった。

「なんだい兄さん、お悩みかい? 鮮度がどうとかって」

 ブラックが注文したエールを運んで来たお姉さんが気楽に笑う。
 ああっ、おっぱい! 凄くせくしーなドレスから溢れんばかりの胸の谷間が眩しいですっ。やべめっちゃ元気出て来た。

「え、えへへ、いやー、薬草とかを新鮮なまま保存できる道具があったらいいなって話をしてまして……」
「ツカサ君鼻の下伸びてるよ……」

 なんか中年がおどろおどろしい目で睨んでるけど無視。
 でれでれと頭を掻きながらお姉さんの胸と綺麗なお顔を一心に見ていると、相手はきょとんとして、それから何かを思い出すように空に目線を彷徨わせた。

「新鮮……そういえば、プレイン共和国から来ていたオジサマが、そんなような物を持ってた気がするわね」
「えっ、マジっすか!?」
「なんでも【永遠の氷河】の氷を内包したとか言う水筒っぽい金属缶で、砂漠でも氷は解けず、エールも冷たく冷えるのだとか……私は冷たいエールなんて飲んだ事ないけど、暑い日には良さそうよねえ……」

 冷たいエール。つまり、その缶って冷蔵庫ってこと!?
 ちょっとまって、それはどう考えても欲しい! 欲しいんですけど!

「それって、どこで手に入ります?!」
「えっ、えっと……オジサマはプレイン共和国の金の曜術師から買ったって言ってたけど……とても高そうだったわよ?」
「ど、どのくらい?」
「確か……お家が一軒買えるって言ってたかしらね」

 家、一軒?
 つまり、払うお金は金貨の上の白金貨レベルってことですよね……?

「えらく高価だね」
「なんだっけ、その【永遠の氷河】って辿り着くのも大変なんですよね? だからかしら。それに、金の曜術師の作る曜具って高いから……」

 そ……そうですよね……。そんな便利道具とかってやっぱお高いですよね。
 機械産業とかないこの世界だったら、全部手作業だろうし……。
 い、いや欲しい。でも欲しいぞ。

「永遠の氷河のカンカン……絶対手に入れてやる……!!」
「目標も決まった事だし、ますます冒険者として力が入るね!」

 オッサンが何か言ってるのは癪だけど、まったくもってその通り。
 旅をする、ギルドに入るっていっても、やっぱり生きていくには目標が必要だ。のんびり旅をするのも好きだが、俺が今一番楽しいのは薬の調合。そして、この世界の知らない事をたくさん知る事だ。

 ラクシズに帰った時にどうなるかはまだ分からないけど、なるようになる。
 そうじゃなきゃこんな世界なんてやってられるかってんだい。

 いつかはこのクソ不味いエールも改良してやるんだからな。
 そう思いつつ、俺は半分以上も残っている自分のエールを飲み干した。








 
※今回も長くなってしまった…申し訳ない(´・ω・`)
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