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ゴシキ温泉郷、驚天動地編
真実の【意味】 2
しおりを挟む……意味が、解らない。
「え……あの……ブラックさんよ。俺って……どういう存在なの? 話が見えないんだけど」
「君の力は既に存在する事象を操作する事が出来ない。だが、その代わりに無限に術を発動できるはずだ。……既存の物を変化させられないのは、君自身が創造している曜気に既存の存在がうまく呼応出来ないから。曜気を取り込むことが出来ても操れなかった原因はそれだ。現に、君はこの水の曜気のない場所で水を作って見せた。それは、本来ありえない事なんだ。水の結晶でも持ってない限りね」
「でっ、でも空気の中には水分があるだろ!?」
「水分……? 良く解らないけど、この場のちっぽけな曜気じゃあんな大きな水はぶちかませないよ」
えっ。じゃあ俺、もしかしてマジで……イチから水を作ってたの?
ちょっとまって。この世界に物理法則があるのか知らないけど、俺、そういうのぶっ飛ばして色々やっちゃったワケ? 完全にチートじゃん。
チートは、そりゃ欲しかったけど……ブラックをこんなに落ち込ませるような力なんて、絶対にありがたい物だって思えない。
俺が祝福された存在だったとしたら、こいつは笑ってるはずなんだ。
じゃあ、どうしてこんな力が。
「な、なあ……あの、正直俺さ、あの森……捕食者の森から出て来たんだけど……ってまあ多分もうコレはバレてんだよな。……あのさ、俺がもしマジで黒曜の使者だったとしても、曜気の創造くらいで誰かが欲しがる存在になるとは思えないんだけど……」
俺が場所なんて関係なく無限に術を使う事が出来るとしても、そんなものは大した得にならない。兵力としては魅力的だろうけど、俺たった一人だけじゃ討てる敵は高が知れてる。だって俺、脆弱だし。
俺の考えを読んだのか、ブラックは一度俺を不安そうに見上げたが――やはり見つめるまではいかなくて、俯いてしまう。
「確かに、五種類の術を使える程度なら、兵士として優秀だと国に召集されるだけだろう。だけど【創造】となると話は別だ。……ツカサ君、この世界は今、世界に満ちる【気】を使って文明が進んでいるって話をしたよね」
「うん……」
「なにもそれは、世界に溢れている【気】に限った話じゃないんだ。曜術師の術を燃料として動く機械だってある」
「…………」
「もし、なんの消費もなく無限に膨大な術を発動する【アイテム】が見つかったら……君も、欲しいと思うだろう?」
ローコスト・ノーリスクで巨大な機械を動かせる力。
そんなものが存在するとすれば、確かに……誰だって欲しがる。
「そうか……もし、俺が今みたいにバカスカ術を出したら……」
「必ず、人は目の色を変えるよ。その人物が権力者だった場合……そして、それを複数の力ある者に知られた場合……人は、君を奪い従わせる為の戦を起こすだろう。君の意思なんて関係なく、数多の人を巻き込んで……ね……」
まさか――――
「それが……【災厄を齎す者】の…………本当の、意味?」
愕然として呟いた俺に、ブラックは痛々しげに眉を顰め、己の唇を噛んだ。
「だから、僕は今日の事を間違っていたと言ったんだ……! 君が力を開花させなかったら、君を黒曜の使者として目覚めさせることにはならなかった……っ! 僕の勝手な思いだけで、君を危険な立場に追い込んでしまったんだ!!」
涙声でそう叫んで、地面に拳を叩きつけるブラック。
何度も何度も、自分を傷つけるように拳を振り下ろす相手を見て、俺は音を立てそうになるくらい歯を喰いしばった。
何だ。なんだよソレ。
ふざけんじゃねえよ……!
「おい、こら……ッ……ふざけんじゃねえぞコラ!」
叫んだ俺の声に、ブラックが驚いたように顔を上げる。
だけど怒髪天を突いた俺はもう口が止まらなかった。
「勝手な思い込みで後悔してる? ハァ!? 別にオレお前が悪いなんて一言も言ってないじゃん! それに何だよ、自分が開花させた自分が悪いって、全部お前の手柄みたいにさ、ナニソレ、お前が試そうが試さなかろうが俺はどーせいつかはこんな能力知る事になってたわ!! なんせ簡単に出るしなこの魔法!! 結果は一緒だっつーの! バカ!」
ぽかんと口を開けるブラックに、俺はイラつき満面の顔で近づく。
間抜け顔の中年に思い切りガンつけながら、言いたい事を言いまくった。
「それをグチグチグチグチなんだよお前は大人のくせにみっともねえ、危険な立場だって? 蛮人街に居る時点で危険に曝されまくってるわ! それをお前は今更なこと言いやがって人の気も知らないで勝手に落ち込んで出て行った上に泥酔して俺に迷惑かけて……!」
「つ、つか、さく……」
「あのな、俺はお前に付きまとわれてる時点で迷惑してんの、今更なの! アンタね、解ってる? 俺アンタが何も言わないから怒ってるんだぞ!? この能力の事だって考えりゃいいじゃん、アンタ言っただろ、危ないから二つだけを学べって。そういうことだろ?! ヤバい事になる前に考えりゃいいじゃん! 俺が好きだか何だかしんねーけど、俺に迷惑かけたと思ってんなら知恵ひねり出せよ! 責任もって俺を助けろ! 勝手に落ち込むなこのスケベ馬鹿!!」
うっ、今の罵りはちょっとセンスがない。
でも怒っている俺としては、もう口が何言ってるかすら解っていないのだ。
スケベ馬鹿だって口から出まかせ。
けど、言ってる事は本音そのまんまだぞ。
だってさ、ブラックの野郎、何でこれで落ち込むのか意味が解らないんだもの。俺の身が危ないなら、前もって対策を考えればいいだけじゃん。
っていうか、正直な話、今俺の能力が判明して良かったよ。
無知のまま能力を使用しちゃってたらマジで面倒な事になってたろうしな。
もしこの能力を悪い奴に見られて、湖の馬亭の人達を人質に取られでもしたら、俺はどうしようもない。自分のせいで大事な人達が死ぬのなんて、耐えられないよ。俺はそこまで心が強くないから。
そうなったら、悪い人間に従ってしまっていただろう。
だから、ブラックが俺の能力を開花させたのは悪い事じゃない。寧ろ無知だった俺を救うことになってたんだ。
なのに、なんでコイツはネガティブな方向に物事を考えちゃうんだろう。
どうして俺に話して意見を求めてこなかったんだ。意味わかんない。ムカツク。
若い頃の人間不信が治ってないの? こいつまだ人間不信なの?
どうしようもないスケベなのに?
「でも、ツカサ君、ぼ、僕のこと……幻滅したんじゃ……」
「最初からしてるつってるだろ。今更なんだよ」
「げ、幻滅してるのにどうして……」
「アンタが居なきゃラクシズまで帰れないんだよ俺は。それに、俺はこの世界の事マジでまだわかんねーんだ。曜気の事だってちゃんと理解してないしな。だから俺は今危険と言えば危険だ。黒曜の使者として覚醒させたのが悪いと思ってるんなら、色々教えて俺を優遇しろ」
実際、俺の事を物知らずだと知っている奴がいるのはありがたい。
何かやらかしてもフォローしてくれるし、知らないモノだって今まで以上に懇切丁寧に説明してくれるだろうからな。よっしゃ鑑定いらず。
それに、スケベオヤジでもこいつは大人だ。大人は色々役に立つ。
労せずして肉の盾ゲットだぜ。
なんて外道な事を考えている俺に、ブラックは信じられないとでも言いたげな顔をしてじっと見つめてくる。水に濡れそぼった目は心なしか潤んでいて、情けない顔は今にも涙で歪みそうだ。
な、なんだよ。ちょっと言いすぎちゃったかな?
流石に焦っていると、とうとうブラックは泣き出してしまった。
「泣くなよ……大人でしょアンタ……」
「うっ……ぐ……。だ……だ、って……ツカサ君……ツカサ君……っ」
言いながら、涙をぼろぼろと流して鼻をすする中年。
あーあーもう、みっともない。
「ほら、ハンカチ。泣くなってばもう。ちょっと言い過ぎたのは、ごめん」
「だっ……い、いいの……僕が、いて……いいの……?」
泣いてる姿は、子供みたいだ。
無精髭はのびまくってるし、折角の綺麗な赤髪もボサボサだし、中年っぽいハンサムな顔も涙と鼻水で歪んでぐしゃぐしゃ。大人の威厳もクソもない。
どうしようもないくらい、ダサくて格好悪い姿。
だけど、なんだか俺はホッとしてしまっていた。
……だって、この顔はどう見たって……本物の泣き顔だし。
「嫌だったら探しに来てないだろ。アンタ本当そういうトコ疎いよな」
あんまり情けなくて、子供の相手してる気になって来たよ。もう。
ハンカチでブラックの頬を拭ってやっていると、相手は鼻をすすり、もう一度俺をじっと見つめて来た。仄かな明かりの中、菫色の綺麗な瞳は涙を含んで一層輝いている。情けない顔をしたままのブラックは、震える唇をゆっくり開いた。
「つ、つかさ、くん……」
「なに?」
「ぼ、ぼく、は……きみの、こと…………好きでいて……いいの……?」
不安で仕方ないような、弱弱しい声。
ああもう、このオッサンは。
「バカだなあ、アンタ」
自然と、笑みがこぼれた。
……ブラックに好きって言われたの、これが初めてかな。
はーあー。こんなしょうもない恰好で好きとか言っちゃうんだ、このオッサン。
ま、それもブラックらしいか。隠さずに素直に言えただけ、良しとしよう。これ以上情けない告白もないけどさ。
何だかんだ思ってしまうが、何故か嫌な気分にはならなかった。
俺、多分そこまで嫌いじゃないんだな、ブラックのこと。男に好きって言われても嬉しくないはずなのに、不思議と腹立たないし。
本当は認めたくない事だけど……今だけなら、少しだけ認めてやってもいい。
俺の事で悩んで、泣いて、苦しんでくれた。
それは嘘じゃない。ブラックは俺の事を思って、一生懸命考えてくれたんだ。
だから、もう、コイツが人間不信だろうが素性不明だろうがどうでもいいや。
解らない事は考えない。明日は明日の風が吹く。
それがきっと、この世界で気楽に生きる手段だ。
……だから。
「ブラック」
「……ぅ……ずびっ……うぅ……?」
「今日だけ、特別だかんな」
そう前置きして、俺はこの情けなくも憎めない中年を抱き締めてやった。
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