異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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ゴシキ温泉郷、驚天動地編

5.俺はとてつもない能力者だったようです 1

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 対策しようのない憂鬱な事は、メシを食ってさっさと忘れるに限る。
 いつもの大味で量の多い異世界メシをかきこんだ俺は、ロクを部屋で寝かせてブラックと一緒に練習場へと足を運ぶことにした。やることないしな。

 紫狼の宿には曜術師の為の練習場があって、沢山の初心者がそこで鍛錬を積んでいる。ゲームの世界では練習場なんて初期の初期にしか出てこないけど、この世界ではそうも行かない。
 ゴシキ温泉郷みたいな特殊な場所でもなけりゃ、思いっきり練習できる場所なんてそうそう見つからないのだ。
 にしても、俺ってばホイホイ乗せられちゃってなんだかなあ。

「あのさー、そりゃ俺木の曜術師とかって言われてたけど、自分にどんな力があるとか別にどうでもいいんだけど」
「どうでもって……いいかいツカサ君、もしキミが曜術師だったら、キミの生活は今から劇的に変わる事になるんだよ」
「……どゆこと?」
「つまり……」

 ブラックの説明は、こうだ。
 もし曜術師の素質があれば、認定試験に受かる事で自分の籍を【曜術師】として登録できる。つまり、出自や身分は関係なく、誰もが無条件で曜術師として籍を貰えるのだ。だから、能力が高ければ王族の側仕えにだってなれる可能性が有る。
 普通、奴隷や籍のない人間が籍を貰う為には、身分の高い人に頼んで手続きをしなくてはならない。そんな人と知り合う機会もない蛮人街の人間にとって、これが一番簡単な身の証を立てる方法になるという訳だ。
 それに、ファンタジーではお馴染みのギルドにも登録できるようになるとか。

「ギルドに登録すれば色んな場所に行けるし、何より図書館に自由に入れる。お金だって、本一冊ラクに買えるくらいはたまるよ」

 確かに、今の俺にとっては魅力的な未来だ。
 でも、こんな美味しい話をべらべら喋るのって……あやしい。

「オッサン、何で俺を曜術師にしたいのか正直に言え」
「えー。だって曜術師になればギルドに登録できるし、そしたら僕が君を身請けして逃亡……いや、一緒に旅ができて、そしたら楽しいなあって思って」
「オイコラ!! 逃亡って!」
 
 やっぱりロクなこと考えてなかった!!

「つか俺、何度も言ってるけど普通に薬作っただけだしね!? 今のところ不思議な力なんてこれっぽっちも感じてないし!」
「それは君が自分の事を知らないだけだよ。誰だってやってみなけりゃ自分の限界は解らない。現にキミは気を集められただろう? 仮に君が曜術師じゃなかったとしても、何らかの能力は秘めてるはずだ。だから、僕はそれを知りたいんだよ」
「なんらかって……なんの?」

 曜術師じゃなかったとしても、俺には何かの力があるのだろうか。
 もしかして、実は俺にもチート能力が備わってるのかも。
 それはちょっと気になる。
 恐る恐る聞いてみると、ブラックは肩を竦めた。

「さてね。それは調べてみなきゃ判らない。まあなんにせよ……」
「なんにせよ?」
「僕とツカサ君はいずれ二人っきりで旅に出ごふっ!!」

 ブラックの頬に俺の拳っぽいものがぶつかったが、多分気のせいだろう。

「う~ん、俺にも力があるかも知れないのはちょっと嬉しいけど、今のまんまじゃちょっとなあ」
「げほっ……な、なにが問題なの」
「だって、仮に俺がそんな御大層な身分になったら、余計に湖の馬亭に迷惑かからねえ? 今だって俺、娼姫の仕事とか止めて貰ってるし、雑用係もこんな髪してるからロクに手伝えてないし……その上誰かに俺が職持ちってバレたら、余計面倒な事になりそうでさ」
「ツカサ君……」

 常々考えていたけど、俺はやっぱり湖の馬亭に迷惑をかけてると思う。
 回復薬のことや、娼姫の仕事をストップして貰ってることで、色々と弊害が出始めているからな。
 大人しく娼姫の仕事をしていれば、珍しいってだけで騒がれはしなかっただろうけど……正直な話、俺は体を売る商売なんてしたくない。

 でも女将さんはそれに不満を言わず、俺のしたいようにさせてくれている。
 本当なら、俺にばんばん客を取らせて金を稼ぎたいだろうに。
 奴隷ってのは、本来はそうやって扱われる存在なのに。
 でも、女将さんもベイリーも決して俺の嫌がる事はしない。

 だから、俺は女将さんには感謝してるし、申し訳なさも感じていた。だって、金で買われた奴隷に自由を保障するなんて、普通はありえないだろう?
 俺みたいな異世界人ならば、それをやったら奴隷に崇められるってテンプレ展開になるけど、そうじゃないし。立場逆だし。俺が女将さんに恩感じちゃってるし。
 それに、娼姫のお姉さま達だって良くしてくれるんだ。
 とにかく、優しい場所なんだよ。俺がいた世界以上に。

 あの湖の馬亭は、俺にとってはもう故郷に等しい大切な場所になっていた。
 大切だから、これ以上迷惑をかける事はしたくないんだ。

「なあオッサン、俺……回復薬で恩返せてると思う?」
「……うーん。第三者的な視点で言えば…………恩返しだのなんだのって言う前に、キミは危険……って感じかな。色んな意味で」
「……正直、謎の人影も俺のせいだと思う?」
「え、自分のせいじゃないと思ってたの?」

 言い方むかつくけど、ですよね~。
 でもはっきり言われると返って気持ちがいい。

「お前に掘られた事は今でもムカツクけど、女将さんを恨んじゃいない。……だから正直、曜術師の才能があるにしろないにしろ、俺、どうしたらいいのか分かんねぇんだ。……どうするのが、一番いい事なのかな」
「さてね……。だけど、一つ言える事が有る」
「……なに?」
「あまり考えすぎるのもいけないってことだ。気楽にやろう、ツカサ君。大丈夫さ、どんな事になったって、誰も君を責めはしない」
「…………」

 なんだろう。なんか、ちょっとだけ……つらい。
 別にブラックは悪い事なんて言ってないし、俺を励ましてくれている。だけど、笑顔でそう言われると、何故か泣きそうになってしまった。
 悲しいとかじゃなくて、もっと別の気持ちだ。だけど、なんだか解らない。
 ただ、優しく笑いかけてるブラックは、嫌じゃなかった。
 ああこいつ、本当に、ずるい。

「じゃあ、まずはやってみよう! さあ、ここが練習場だよ」

 両開きの扉を開け放たれて、中へと案内される。
 そこは、俺の世界のある場所にとても似ていた。

「えー……と……バッティングセンター?」

 板で仕切られたボックスの中に、それぞれ人が入っていてなにやら一生懸命頑張っている。ポワっと手の内で赤色の光を作ってる人や、ボックスの奥の壁に向かって光の弾を射出してる人など、やってることは様々だ。
 うーん、俺、普通に弓道場みたいな所を想像してたんだけどなあ。

「空いてる所に入ろう」
「お、おう」

 でもこうなったらしゃーない。いっちょ気楽に素質を確かめてみるか。





 
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